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ハロー、アメリカ

第159話 授業を受けます

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 朝のホームルームが終わり、エリ先生は出ていった。

 ミリアの机はもともと田中君のもので、田中君の教科書や筆記用具が詰まっていた。授業が始まると、ミリアは自分の物であるかのように教科書を取り出して開いていた。

 一方の田中君はというと、隣の席の中田君に教科書を見せてもらっていた。

 田中君が左の席で、中田君が右の席。
『田中』と『中田』という苗字は文字で書くと紛らわしい。
『たなか』『なかた』と口に出して呼ぶと間違えることはないのだが、文字にした途端に間違いが起こりやすくなる。漫画や小説では絶対に扱われないであろう、紛らわしいネーミングの二人が隣同士だった。

 このクラスのほとんどの席では、男子の隣は女子になっている。だが、田中君の隣だけ人数の関係で男子の中田君だ。

 まとめて『田中田』なんて呼ばれてしまうこともある二人だが、この『田中田』コンビは性格も似ていて相性もいい。

 今は仲良く机をぴったりとつけて、二人で一冊の教科書を見ていた。

 二人ともオタク気質なところがあり、真面目な性格で少しぽっちゃりした体型だ。内向的で、少し暗めの性格でもある。

 攻めと受けで言ったら、二人とも『受け』。SMで言ったらM。

 その『受け』同士が仲良さそうに教科書を共有している。
 受け同士のカップルも悪くないと、一部の腐女子な生徒はニタニタしながら『田中田』コンビを見ていた。

 私はBLボーイズラブとかは興味がないので、普通にどうでもいい。
 というか、片方は『攻め』であるべきだと思う。
 例えば、私の隣の席だった春日井君とか。

 剣道部の副部長をしていて、リーダーシップもある。男気があって、脱ぐと逞しい肉体をしている(見たことないけど)。

 そんな春日井君が、いかにも受けの田中君を落としに行ったりして。でも、隣の中田君がそれに嫉妬をして三角関係に……。
 男同士の危ない関係を妄想してしまう。

 そのほうがBLっぽくていいのに、とか思ったけれど、湊ちゃんの鬼のような形相が目に浮かんでしまったので、私の妄想は終わった。

 ただ、田中君に対しては、ミリアに教科書を取られてしまう形になって申し訳ないと思っていたのが、まんざらでもない二人の様子を見て罪悪感を薄めることができたからよかった。

 二人には清く美しい交際をこれからも続けてほしい。

 まあ、そんなことを考えていたら、右にいるミリアは教科書を開いた状態で顔を突っ伏して寝ていた。
 授業が理解できずに眠くなってしまったらしい。

 だらだらとヨダレを垂らしているので、教科書はすごいことになっている。濡れてしまって、ぐちょぐちょのヨレヨレだ。
 もう絶対に田中君には戻せないし、これはミリアに買い取らせるしかないな、と思って、ミリアはいったいどのくらいダンジョンポイントを持っているのだろうかと、気になった。

 ミリアが持っているタブレットには高性能のAIが搭載されている。

 AIのサポートもあって、昨日の夜にミリアはちゃっかりダンジョン配信を始めていた。さらには、ダンジョン管理協会からは生活費としてもポイントも支給されており、それなりの金額を持っているようなのだ。

 昨日始めたばかりの配信は驚異的な伸びを見せて、登録者数は二千人を超えている。一日で二千という数字を叩き出した。

 たいして面白い配信ではないはずなのに、嫉妬してしまう私がいた。しかも、ミリアはスパチャをもらうのが上手かった。貢がせる天才としか思えない。

 私も配信を始めたばかりの頃はかなりスパチャを貰った。でも、強くなるに従い、減ってきた。人気の陰りなのか、それとも稼いでいると思われているのか、あるいは貢ぐ価値がなくなったと思われてしまったのか。

 強い女より、弱い女のほうが庇護欲をかき立てる。強くなってしまった私は、もうあのころの私じゃない。自分で稼げる女にならなければならないのだ。

 いずれにせよ、どうやらミリアはダンジョンポイントを数十万ほどを所有しているらしい。
 らしいというのは、さすがに直接タブレットを見たわけではないからだ。ミリアに頼んだら見せてくれるとは思うのだけれど。

 数学の時間になると、ミリアはぱっちりと目を開け、一生懸命に授業に参加しようとしていた。最初だけ……。

「ミリアは算数が得意なのです。九九を九日で暗記したのです。たぶん、ミリアは算数の博士になれるのです」

 得意の九九を披露することなく、ミリアは寝てしまう。そのまま授業中は寝て、休み時間になると起きた。

 休み時間には、クラスのみんなが集まってきた。

 みんな、ミリアに興味があるのだ。
 ミリアに質問をし、ミリアに関する話題と、ミリアが口にした春日井君のことを話題にする。

 ……いや、春日井君のことなんてどうでもいいじゃない。
 春菜ちゃんと春日井君ってそういう関係だったの、とか、やめようよ。
 あとさ、「ミリアちゃん、春菜ちゃんと春日井君の間に座って、二人の子供みたいだよね」とか、からかってきたけど、たぶんそれ洒落にならないよ。

 気になったのは、湊ちゃんがここにやってこないことだ。
 ずっと自分の席に座ったままだった。一度もこちらに顔を向けなかった。

 そのまま給食の時間になってしまった。
 私はミリアと一緒に、湊ちゃんの元へ向かうことにした。
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