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ハロー、アメリカ
第157話 転校生と、新しい担任と
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ミリアの制服はあらかじめ用意されていたのであろう。サイズがぴったりだった。おそらくはだいぶ前からミリアを学校へ通わせる計画があったはずだ。
日本政府やダンジョン管理協会が裏で動いていると思われた。あとで瑞稀ちゃんや大和君(日本の総理大臣)に確認を取る必要がある。
そしてこれは日本だけの問題ではない。モンスターがダンジョンの外に出て、人間と共生をする――それは他国にとっても関心が高いことだ。場合によってはアメリカが干渉してくることも考えられる。
もしかしたら、私の知らないところでは、すでに日本とアメリカが手を組んでおり、裏で動いていたということもあるかもしれない。
◆ ◆ ◆
登校してすぐにミリアといっしょに職員室へ向かった。驚かれることもなく、すぐに対応してくれた。無表情で淡々と対応されたところから、すでに学校側には話が通っていたのだと思われる。担任の先生は、ミリアを転校生として紹介するからとだけ告げて、私のことは追い払うように職員室から出した。
事務的で冷静すぎる対応に後味の悪さを感じながら、私は2年1組の教室へ向かった。
教室に入ると、すでにクラスメイトのほとんどが登校していて、いつも以上にざわついていた。
席につき、隣の席の春日井君と話し出すと、湊ちゃんが私の席までやってきた。
春日井君との会話が始まると、だいたい湊ちゃんはやってくる。だから、私は湊ちゃんが春日井君のことを好きなのではないかと睨んでいる。ただ、実際のところはわからない。直接聞いてみる機会がまだないからだ。
春日井《かすがい》君は剣道部の副部長をしていて、それなりに強いらしい。顔もそこそこいいから、女子には持てる方だと思う。湊ちゃんが好きになってもおかしくないと思っている。
周りでは男子生徒たちが会話をしていた。
「なんだか、新しい転校生がくるんだって」
「女の子みたいだよ」
「おー、やったぜ」
「可愛いかな?」
「目撃情報によると、すげー可愛いんだと。学校で一、二を争うんじゃないかって」
「まじか!?」
転校生のことは、噂が広まっているようだった。
どうやらミリアはこのクラスに編入するらしい。
私が心配していたのはミリアのサキュバスとしての能力だ。サキュバスは男性を惑わす淫魔のモンスターだ。魅了のスキルを使うことで男性を意のままに操ることができてしまう。
ただ、ミリアに関しては素のままで男性を魅了するところがある。スキルなんか使わなくても男子が夢中になるのではないかという心配があった。だから、このクラスに編入するのは監視がしやすいということで都合が良かった。
このクラスにミリアが来るというのなら、担任の先生も職員室に行った時に説明してくれればいいのに。歯切れも悪く、そっけなく追い返されてしまっていた。
先生はなんだか機嫌が悪かったようにも思うし、ミリアの編入をよく思っていないのだろうかと考えたが、そうではなかった。
ミリア以上の出来事があった。担任の変更だ。
つまり、先生は担任を降ろされてしまったということだ。
だから機嫌があまり良くなかったのだ。
ガラッと音を立てて、入り口の扉が開かれた。
入ってきたのはいつもの担任ではなく、金色の短い髪をした女性だった。濃紺のスーツに、とても大きな胸が目を引く。グラビアモデルにでもなれそうなスタイルをしていた。
一瞬、誰だかわからなかったが、すぐにその顔には見覚えがあることに気がついた。
「え!? なんで!?」
思わず声を出してしまった。
迷彩服を着ていたときは胸周りを絞っていたのだろう。今は豊満なバストが男子生徒の目を釘付けにしていた。
「このクラスの新しい担任を任されることになりました。スメラギです」
カッ、カッ、といい音を立てながら、チョークを走らせて名前を書く。
女性はカタカナで名前を書いた。
【エリ・スメラギ】
「今日からみなさんの担任となります。エリ・スメラギと申します。よろしくお願いします」
そこに立っていたのはアメリカ軍のパイロットをしていたエリさんだった。
どうしてエリさんがここに……。
半分パニックになりかけている私だったが、エリさんは入り口に向かって声をかけた。
「では、転校生を紹介します」
制服姿のミリアが教室に入ってくる。
「ミリア・S・クイーンさんです。アメリカからの転校生です。今日からみなさんといっしょにこのクラスで学ぶことになります。よろしくおねがいします」
エリさんの言葉に続けて、ミリアがぺこりとお辞儀をした。ミリアの髪はアニメのキャラクターのようなピンク色だ。ピンクの髪がふわりと揺れた。
「ミリアさんは日本語が少しおかしいところがありますが、みなさん親切に対応してあげてくださいね。では、ミリアさん。挨拶をお願いします」
ミリアが明るい表情でしゃべりだす。まるでアニメ声優がしゃべるように、可愛い声色だ。
「ミリアなのです。よろしくなのです。ミリア、学校には初めて来ました。右も左もわかりませんが、給食というものがあるそうで、楽しみなのです。そして、お姉様と同じ学校に通えて嬉しいのです。ミリアはここで生徒というものになるのです。先生がエリで嬉しいのです」
教室が少しざわつく。姉がいるの? 姉妹? と声が聞こえてくる。先生のことを呼び捨て? 元々知り合いなの? 先生のことをエリって呼んだよね? 学校が初めて? ちょっと変わった子?
半分戸惑いも混ざり、みんなのざわめきは落ち着く気配がない。
「えーと。説明しますね」
エリさんが声を出すと、生徒たちは少し大人しくなった。
「お姉様というのは、筑紫春菜さんの親戚ということで、お姉さんのように慕っているという意味です。日本の学校は初めてですので、当たり前のことを知らないこともあると思います。アメリカではミリアさんと交流がありましたので、私とミリアさんは初対面ではありません」
エリさんはあれを交流と言ってしまうのか……。
しかし、これでアメリカ政府もこの件に関わっていることはほぼ間違いない。
もしかしたら、ミリアの監視役として日本に寄越したのだろうか?
それにしても、こんな無茶が通るなんて、サキュバスの能力を使ったとしか思えない。
エリさんは昨日までアメリカ軍のパイロットをしていた。
それがいきなり千の宮中学校2年1組の担任?
まさか、エリさんは人間じゃなくてミリアのようなサキュバスだったり?
政府関係者や学校関係者をコントロールして、無理やり担任になった?
それならこんな無茶にも説明がつくけれど。
はは。
まさか。
ははは。
ありえないよね、そんなこと。
日本政府やダンジョン管理協会が裏で動いていると思われた。あとで瑞稀ちゃんや大和君(日本の総理大臣)に確認を取る必要がある。
そしてこれは日本だけの問題ではない。モンスターがダンジョンの外に出て、人間と共生をする――それは他国にとっても関心が高いことだ。場合によってはアメリカが干渉してくることも考えられる。
もしかしたら、私の知らないところでは、すでに日本とアメリカが手を組んでおり、裏で動いていたということもあるかもしれない。
◆ ◆ ◆
登校してすぐにミリアといっしょに職員室へ向かった。驚かれることもなく、すぐに対応してくれた。無表情で淡々と対応されたところから、すでに学校側には話が通っていたのだと思われる。担任の先生は、ミリアを転校生として紹介するからとだけ告げて、私のことは追い払うように職員室から出した。
事務的で冷静すぎる対応に後味の悪さを感じながら、私は2年1組の教室へ向かった。
教室に入ると、すでにクラスメイトのほとんどが登校していて、いつも以上にざわついていた。
席につき、隣の席の春日井君と話し出すと、湊ちゃんが私の席までやってきた。
春日井君との会話が始まると、だいたい湊ちゃんはやってくる。だから、私は湊ちゃんが春日井君のことを好きなのではないかと睨んでいる。ただ、実際のところはわからない。直接聞いてみる機会がまだないからだ。
春日井《かすがい》君は剣道部の副部長をしていて、それなりに強いらしい。顔もそこそこいいから、女子には持てる方だと思う。湊ちゃんが好きになってもおかしくないと思っている。
周りでは男子生徒たちが会話をしていた。
「なんだか、新しい転校生がくるんだって」
「女の子みたいだよ」
「おー、やったぜ」
「可愛いかな?」
「目撃情報によると、すげー可愛いんだと。学校で一、二を争うんじゃないかって」
「まじか!?」
転校生のことは、噂が広まっているようだった。
どうやらミリアはこのクラスに編入するらしい。
私が心配していたのはミリアのサキュバスとしての能力だ。サキュバスは男性を惑わす淫魔のモンスターだ。魅了のスキルを使うことで男性を意のままに操ることができてしまう。
ただ、ミリアに関しては素のままで男性を魅了するところがある。スキルなんか使わなくても男子が夢中になるのではないかという心配があった。だから、このクラスに編入するのは監視がしやすいということで都合が良かった。
このクラスにミリアが来るというのなら、担任の先生も職員室に行った時に説明してくれればいいのに。歯切れも悪く、そっけなく追い返されてしまっていた。
先生はなんだか機嫌が悪かったようにも思うし、ミリアの編入をよく思っていないのだろうかと考えたが、そうではなかった。
ミリア以上の出来事があった。担任の変更だ。
つまり、先生は担任を降ろされてしまったということだ。
だから機嫌があまり良くなかったのだ。
ガラッと音を立てて、入り口の扉が開かれた。
入ってきたのはいつもの担任ではなく、金色の短い髪をした女性だった。濃紺のスーツに、とても大きな胸が目を引く。グラビアモデルにでもなれそうなスタイルをしていた。
一瞬、誰だかわからなかったが、すぐにその顔には見覚えがあることに気がついた。
「え!? なんで!?」
思わず声を出してしまった。
迷彩服を着ていたときは胸周りを絞っていたのだろう。今は豊満なバストが男子生徒の目を釘付けにしていた。
「このクラスの新しい担任を任されることになりました。スメラギです」
カッ、カッ、といい音を立てながら、チョークを走らせて名前を書く。
女性はカタカナで名前を書いた。
【エリ・スメラギ】
「今日からみなさんの担任となります。エリ・スメラギと申します。よろしくお願いします」
そこに立っていたのはアメリカ軍のパイロットをしていたエリさんだった。
どうしてエリさんがここに……。
半分パニックになりかけている私だったが、エリさんは入り口に向かって声をかけた。
「では、転校生を紹介します」
制服姿のミリアが教室に入ってくる。
「ミリア・S・クイーンさんです。アメリカからの転校生です。今日からみなさんといっしょにこのクラスで学ぶことになります。よろしくおねがいします」
エリさんの言葉に続けて、ミリアがぺこりとお辞儀をした。ミリアの髪はアニメのキャラクターのようなピンク色だ。ピンクの髪がふわりと揺れた。
「ミリアさんは日本語が少しおかしいところがありますが、みなさん親切に対応してあげてくださいね。では、ミリアさん。挨拶をお願いします」
ミリアが明るい表情でしゃべりだす。まるでアニメ声優がしゃべるように、可愛い声色だ。
「ミリアなのです。よろしくなのです。ミリア、学校には初めて来ました。右も左もわかりませんが、給食というものがあるそうで、楽しみなのです。そして、お姉様と同じ学校に通えて嬉しいのです。ミリアはここで生徒というものになるのです。先生がエリで嬉しいのです」
教室が少しざわつく。姉がいるの? 姉妹? と声が聞こえてくる。先生のことを呼び捨て? 元々知り合いなの? 先生のことをエリって呼んだよね? 学校が初めて? ちょっと変わった子?
半分戸惑いも混ざり、みんなのざわめきは落ち着く気配がない。
「えーと。説明しますね」
エリさんが声を出すと、生徒たちは少し大人しくなった。
「お姉様というのは、筑紫春菜さんの親戚ということで、お姉さんのように慕っているという意味です。日本の学校は初めてですので、当たり前のことを知らないこともあると思います。アメリカではミリアさんと交流がありましたので、私とミリアさんは初対面ではありません」
エリさんはあれを交流と言ってしまうのか……。
しかし、これでアメリカ政府もこの件に関わっていることはほぼ間違いない。
もしかしたら、ミリアの監視役として日本に寄越したのだろうか?
それにしても、こんな無茶が通るなんて、サキュバスの能力を使ったとしか思えない。
エリさんは昨日までアメリカ軍のパイロットをしていた。
それがいきなり千の宮中学校2年1組の担任?
まさか、エリさんは人間じゃなくてミリアのようなサキュバスだったり?
政府関係者や学校関係者をコントロールして、無理やり担任になった?
それならこんな無茶にも説明がつくけれど。
はは。
まさか。
ははは。
ありえないよね、そんなこと。
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