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ハロー、アメリカ

第156話 朝ご飯を食べます

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 ベッドの中でまどろむ。始発で帰ってきて、そのままミリアと一緒に同じベッドで寝ていた。

 一階から、お兄ちゃんの声が聞こえてきた。朝食の準備ができたから降りてこいと呼んでいる。
 ミリアの体が温かくて、布団から出たくない。つれて帰ってきたミリアのことは家族に話していないので、説明する必要があった。

 今日は何曜日だったっけ?
 ダンジョンハンターとはいえ、学校をサボっていたら留年してしまうかもしれない。行ける時に行っておくべきなのだが、なんとなく面倒に感じていた。
 休んでしまおうか、どうしようか?

 布団の中でまごまごしていたら、また一階のお兄ちゃんから声が聞こえてきた。
 仕方なく布団から出て、お兄ちゃんに向かって返事をする。「すぐに降りる」と、大きな声を出したが、ミリアは目を覚まさなかった。
 気持ちよさそうに寝ているのを邪魔するのも悪いので、私は一人で下へ降りることにした。

「お兄ちゃん、おはよう」

 時刻は8時30分。
 ロサンゼルスと合わせて何時間寝たのかはわからないが、寝すぎていることは確かだった。

「父さんと母さんはもう仕事に行ったぞ。早く飯食って学校へ行け」

 テーブルの上にはごはんと味噌汁、ベーコンエッグとサラダが用意されていた。両親は早くに家を出ているはずなので、お兄ちゃんが用意したものだ。

 私はパジャマ姿のまま、食卓につく。

「今日は休む予定だったんだけどな。こんなに早く日本に帰ってくる予定じゃないから、担任には休むって言ってある」

「何を言っているんだ。行ける時に行っておけ。動画配信しているんだから、帰ってきたのは知られているぞ」

「あー、そうだった……」

 私は額に手を当てて、天井を仰ぐ。飛行機で帰ってきたら、10時間以上はかかる。それを一瞬で帰国したのだ。
 担任が見ていたかどうかはわからないが、クラスの誰かは見ていたかもしれない。アーカイブや切り抜き動画で見た人もいるはずだ。

「これ持ってけ」

 私が朝ご飯を食べていると、お兄ちゃんが一房のバナナを出してきた。

「え? なんで、バナナ?」

 朝ご飯に食べろということではないらしい。一本ならまだしも、十二、三本はありそうだ。持ってみるとずしりと重い。

「お前も食べていいぞ。お昼に」

「え? お前も?って? お兄ちゃん、わけがわからないのだけれど」

 私は首を傾げながら、ご飯を咀嚼する。

「ダンジョン管理協会からの情報によると、お菓子かバナナしか食べないということだからな。給食を食べるかわからないだろ、ミリアは」

 お兄ちゃんは親指を立てて、くいっと上を指す。二階を指しているのだ。

「あ……」

 ミリアを連れてきてしまったことはお兄ちゃんにバレていた。このバナナは二階で寝ているミリアのためのものだ。

「ちょっと待って。ミリアもいっしょに学校へ連れて行けってこと?」

「朝早くにバイク便が来て、あれを置いてった」

 お兄ちゃんが顎で指し示す先に目をやる。
 壁のハンガーに掛けられていたのは、私のものとは違う制服だ。

「ミリアをしばらく監視した結果、一般人に危害を加える可能性は低いと判断したそうだ。代わりに、社会常識の欠如が問題だということになって、教育を受けさせるそうだ。それとともに、人間社会で生活できるかどうかの検証もしたいのだと」

「モンスターと人間の共生ってこと?」

「ああ、そうだな」

「なんで、お兄ちゃんがそんなことを?」

「俺だってワールドランカーなんだ。この程度の仕事は頼まれるさ」

「まあ……。ミリアといっしょに学校に行くのはかまわないけれど……」

 私はあのことを思い出して、お兄ちゃんに提案をした。

「じゃあ、私のデバイスの制限を解除して! 見守り機能を!」

 ミリアの世話をしろと言われているようなものなのだ。このくらいの見返りは当然だろう。

 お兄ちゃんは少し考え込んで、軽く頷いた。

「まあ、そうだな。解除してやるか」

「やったあ!」

 思わず両手を大きく上げて喜んだ。
 そんな私をがっかりさせる言葉がお兄ちゃんから出てくる。

「50階層以下への立ち入り制限は解除する。けれど、ダンジョンポイントの使用制限は5万DPのままだ」

「ええ!?」

「5万あれば十分だろ? 中学生の小遣いとしては多いくらいだ」

「ちょ、ちょっと待ってよ……。ほら、5万DPじゃミリアを守りきれないかもしれないし、ミリアの防具とかも買ってあげられないし」

「それは大丈夫。ミリアのデバイスは制限しないから」

「ノォーッーーアァッ!」

 Noと言いたかったのだが、変な声になってしまった。
 私のデバイスはすでに残金が3万DPを切っていた。
 しかし……

 私はすぐに気がついた。

 お兄ちゃん……
 馬鹿め……
 ミリアのデバイスに制限をかけていないということは、ミリアに頼んでダンジョンポイントを使ってもらえばいいということ。

 ふふふ……

 誰しも盲点はある。
 システムには常に穴があるということよ。
 これでダンジョンポイントは使い放題だ。

 私は泣く振りをして、食卓に顔を突っ伏した。
 悲しむ様子を演じながら、心の中ではほくそ笑んでいた。
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