お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~レベル1なのに迷宮の最下層へ。勝手に持ち出した装備は84億円!? 最強装備の初心者が動画をバズらせる~

高瀬ユキカズ

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ハロー、アメリカ

第155話 長瀞駅で電車を待つ

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 駅のベンチに座って、ミリアと抱き合っていた。毛布になりそうなものを適当に実体化させて、二人で被っていた。
 配信はそのままライブで続けていたが、日本時間は午前3時だったので、視聴者はとても少なかった。

 私もミリアも、半分眠っていたので、ただでさえ少ない視聴者は適当にお互い雑談をしていた。

■さすがのハルナっちでも時差には勝てない
■ロサンゼルスでしっかり寝たはずなのに、こっちに来たらいきなり夜中だからな。感覚がついていかないのだろう
■代わり映えのない映像
■ずっとハルナっちとミリアたんの寝顔が続く配信だね
■息の音しかしない
■寝息のASMR
■夜中の3時を過ぎたのに、意外と人がいるな
■いや、少ないでしょ
■コメントしてる人は5、6人じゃない?

 コメントは断続的に流れ、時々、画面に変化がなくなる。私は寝ているのか起きているのか、自分でもよくわからないまま、画面を見たり目をつぶったりしていた。
 これが時差ボケというやつなのだろうか。十分に寝ていたはずだから眠気があるわけではない。でも、長瀞駅はあまりに静かで、薄暗い明かりは眠気を誘ってくる。
 画面を見たり、見なかったりして、時間はとてもゆっくり経過しているようだった。
 たまに、ぽつぽつとコメントが入る。
 誰かが話し出すと、それをきっかけにして会話が始まっていた。

■しかし、毎回なにかやらかすよな
■今回はなにかやらかしたっけ?
■生き埋めにされそうにはなったけれど、ハルナっちがやらかしたわけではない
■ミリアたんがダンジョンに入って、宝箱を閉めて終わり
■まあ、ダンジョンを召喚して一瞬で日本に帰ってきたことが一番の驚き
■流れてきたコンクリートも、どこでもドアで解決したしな
■どこでもドアじゃねえし。ハルナっちはドラえもんじゃねえし
■それにしても、あの亜空間ドアは怖えな
■怖いなんてもんじゃない。恐ろしい兵器だ
■セルゲイを亜空間に飛ばせばよかったのに
■ハルナっちを怒らせると、あのドアで亜空間に飛ばされる
■絶対に怒らせないようにしよう
■怖……

 しばらくコメントもなくなり、夜も更けていく。コメントはタブレットが音声に変換してくれている。
 私は目をつぶって、たまに流れる音声だけを聞いていた。

■それにしても、エリとミリアのあいだには何かあったのか?
■最初はなんだか、仲が悪かったよな?
■仲が悪いというより、ミリアたんのほうがエリを良く思っていなかった感じ?
■エリのほうではミリアたんと仲良くしたい感じだったよ
■呼び捨て?
■呼び捨てじゃ駄目?
■まあ、どっちでもいい
■でもさ、終わったらなんだか2人が仲良くなっていたよな
■エリってさ、学校の先生っぽい
■いいね、金髪でショートヘア。あんな美人の先生がほしかった
■アメリカ人?
■日系って言っていたけれど。髪は金髪に染めているって。
■なんかさ。ミリアたんは反抗的だったのが、最後は素直になっていたよな
■先生を見直した生徒、みたいな?
■2人だけに通じるものがあったよな?
■あったかも
■愛が芽生えた?
■そういうのとは違う
■師弟愛?
■うーん……。どうなんだろ?
■それにしてもさ、今回、帰りの飛行機にファーストクラスを用意してくれていたんだよな
■そうだね
■でも、ハルナっちはダンジョンの召喚で帰ってしまった
■ミリアたんが飛行機苦手っぽいからね
■ハルナっちは?
■ミリアたんを気遣ったんじゃない? たぶん……
■ファーストクラスって高いよな
■10万円くらい?
■桁が違う
■1万円?
■そんなわけない
■ファーストクラスで帰ってくればよかったのに
■優雅だよな。乗ってみたい
■そうだよな、オレンジジュースも飲み放題だろうし
■ミリアたんも、ファーストクラスなら揺れも少ないだろうし、大丈夫だったんじゃない?
■揺れは同じだろ
■そうなの?
■違うだろ。だって、ファーストクラスだぞ
■どっちだ?
■どっちでもいい

 私は半分眠りながら、視聴者たちのコメントを聞いていた。
 寝ぼけていて、時々夢も見ていた。
 
 ダンジョン内にたくさんの白い兎が並んでいる。兎は一列になって、道を作っていた。丸まって背中で道を作っている。
 その背中を私が歩いていく。まるで因幡の白うさぎだ。

 真っ白い道を、私は歩いていく。
 兎の背は毛が深く、足場が悪いので歩きにくい。
 でも、私のために道を作ってくれているのだ。ありがたく、感謝して渡っていく。

 この兎は私が召喚したモンスターだった。
 なんという名前だっけ? そうだ、鈍足の兎スロー・ラビットだ。兎なのに2足歩行で歩くため、動きがとても遅い。
 倒してしまうのがかわいそうになってしまうほどの動きの遅さで、兎のフォルムがまた可愛らしいから、倒すのは躊躇してしまう。

 そういえば、なにかを忘れているような気がするな……。
 夢の中でぼんやりと考えていた。

 兎の背を私は歩いていく。ごめんね、重くない? そう聞きながら、道の先には瑞稀ちゃんや大和総理が待っていて、手招きをしてくれている。

 あ……
 思い出した。

 鈍足の兎スロー・ラビットをアメリカのダンジョンに置いてきてしまった。
 召喚を解除していなかったのだ。

 まあ、余計なことをすることはないだろうし、私のMPが切れれば勝手に解除はされるから問題にはならないだろう。

 夢から覚めた時、始発の電車が入ってきた。
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