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ハロー、アメリカ
第152話 兎の股をくぐるミリア
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ミリアは今にも死にかけていた。ゾンビからの攻撃を受け続けている。着ているワンピースは破れ、血まみれになっていた。
「ミリアは本当はお馬鹿だったのです。そんなことは自分でもわかっていたのです。でも、知的でかっこいいお姉様のようになりたかったのです……。もっと、お勉強をしておけばよかったのです……」
完全に諦めてしまったミリアを奮い立たせようと、エリは声を張り上げた。
「まだ間に合う!」
モンスターの塊の中には兎の列ができていた。
エリが先頭の兎にタブレットを渡した。兎は前屈して股の下に通し、後ろの兎へと渡していく。兎たちは次々に連携してタブレットをつなげていった。
「ミリアちゃん、受け取って!」
タブレットがミリアの手元に届き、AIが語りかける。
『ミリア姉、画面の指示のままタップするだけだ。鉄の鎖を実体化してくれ』
弱々しい手つきで、ミリアはタブレットを操作する。
鉄の鎖がその場に実体化された。
『鎖の端をタブレットと同じように、鈍足の兎に渡すんだ。股を通してエリへと送ってくれる』
ミリアはなんとか鎖の先を兎に渡す。兎は受け取ると同時に、股の下に通した。
連携して、次々に鎖が伸びていく。
鎖はすぐにエリの手元までやってきた。
『よし、それを一気に引っ張ってくれ!! ミリア姉、鎖を離すなよ!!』
ミリアは言われるがまま、朦朧としながらも鎖を握る。なるべく手から離れないように巻き付けた。
「ミリアちゃん!」
エリは懸命に鎖を引く。兎たちの股の間をミリアがやってくる。タブレットを抱きかかえており、今にも死にかけていた。
「エリ……さん……」
呼び捨てではなく、初めて「さん」づけて呼んでいた。
鎖に引かれ、ミリアはモンスターの大群から抜け出すことができた。
エリはミリアを抱きとめ、急いでポーションを実体化させる。ミリアはほとんど意識がないまま、手を動かしていた。
実体化されたポーションをミリアに飲ませる。
回復ポーションにより、ミリアの意識が少し戻った。
抱き合う2人。
だが、大量のモンスターはその場に残っている。この量のモンスターに囲まれてしまったら身動きが取れない。ミリアと一緒にエリまで動きが取れなくなってしまったら、それこそ終わりだ。
エリはミリアの手を引いて立たせ、走り出す。
「ダンジョンを出よう。絶対に大丈夫だからね……」
「はい……」
ミリアは弱々しく返す。
懸命に走ってモンスターから逃げきり、入り口の宝箱のところまで戻ってきた。
だが、エリは立ちすくむ。
「嘘……」
エリの足は止まっていた。顔を上げて前方を見たミリアにもその姿が目に入る。
そこにいたのは別のゾンビ。
放射線の犠牲者は2人いた。もう1人の隊員もゾンビ化してしまっていた。
「最悪だ……。もう1人のゾンビがここにいるなんて……」
エリは来た道を戻ろうとした。
けれど、ミリアは気丈にも前に進み出た。
「あのゾンビは、ター君とミリアで押さえつける」
「無理よ。やめましょう」
「大丈夫なのです。ミリアは頭脳を手に入れました。ミリアの欠点は克服されたのです」
ゾンビに立ち向かおうとしたミリアだったが、タブレットは止めてきた。
『いや、ミリア姉。やめたほうがいいかな。ここは春菜の姉御にまかせよう』
「お姉様?」
ミリアがタブレットの声を繰り返した時、懐かしい春菜の声が聞こえてきた。
「おまたせ~」
階段に目を向けると、春菜とグレゴリーがいっしょに降りてくる。ミスリルの大剣を振りあげて、ゾンビに向かっていった。そのまま「やあ!」と声を放ち、切り捨てた。
「ごめん、遅くなった。ちょっと手間取っちゃってさ」
ゾンビは真後ろに倒れていく。壁を背に崩れ落ち、そのまま動くことはなかった。
「ありがとう、ミリア。エリさん。宝箱の蓋を閉めてくれて」
ミリアの服はぼろぼろだった。フリルの付いたピンクのワンピースは見る影もない。
「で……、どうしてミリアの服がそんなことに!? いったい何があったの!?」
春菜が訊ねると、エリが応えた。
「説明すると長くなるのですが……。春菜ちゃんたちも、遅かったですね……」
エリがダンジョンに突き落とされてから20分ほどが経過していた。壊れた通信機器などを設置し直すにしても、もう少し早く来てもよさそうだった。
「私たちも説明すると長くなるんだけど……。生き埋めにされそうになって……」
「生き埋め!?」
エリが驚いた顔をする。
「ところで、あの大量のモンスターは?」
春菜が通路の先に視線を向けると、丁字路になった道の左右は両方ともモンスターで塞がっていた。道の先はまったく見えない。
「えっと……。ごめんなさい……。集まっちゃいまして……」
のんびり話をする余裕もなく、集めてしまったモンスターを何とかすることが先だった。
エリが申し訳無さそうに、春菜とグレゴリーに頼んだ。
「とりあえず、あのモンスターたちを倒していただいて、それからお話しましょうか……」
「そうですね……」
春菜が大剣を握り直すと、グレゴリーも剣を手に取った。
「仕方ねえな……。さっさと倒して、それからゆっくり話すか」
春菜は一方のモンスターに向かって駆け出し、グレゴリーは反対側のモンスターへと向かっていった。
「ミリアは本当はお馬鹿だったのです。そんなことは自分でもわかっていたのです。でも、知的でかっこいいお姉様のようになりたかったのです……。もっと、お勉強をしておけばよかったのです……」
完全に諦めてしまったミリアを奮い立たせようと、エリは声を張り上げた。
「まだ間に合う!」
モンスターの塊の中には兎の列ができていた。
エリが先頭の兎にタブレットを渡した。兎は前屈して股の下に通し、後ろの兎へと渡していく。兎たちは次々に連携してタブレットをつなげていった。
「ミリアちゃん、受け取って!」
タブレットがミリアの手元に届き、AIが語りかける。
『ミリア姉、画面の指示のままタップするだけだ。鉄の鎖を実体化してくれ』
弱々しい手つきで、ミリアはタブレットを操作する。
鉄の鎖がその場に実体化された。
『鎖の端をタブレットと同じように、鈍足の兎に渡すんだ。股を通してエリへと送ってくれる』
ミリアはなんとか鎖の先を兎に渡す。兎は受け取ると同時に、股の下に通した。
連携して、次々に鎖が伸びていく。
鎖はすぐにエリの手元までやってきた。
『よし、それを一気に引っ張ってくれ!! ミリア姉、鎖を離すなよ!!』
ミリアは言われるがまま、朦朧としながらも鎖を握る。なるべく手から離れないように巻き付けた。
「ミリアちゃん!」
エリは懸命に鎖を引く。兎たちの股の間をミリアがやってくる。タブレットを抱きかかえており、今にも死にかけていた。
「エリ……さん……」
呼び捨てではなく、初めて「さん」づけて呼んでいた。
鎖に引かれ、ミリアはモンスターの大群から抜け出すことができた。
エリはミリアを抱きとめ、急いでポーションを実体化させる。ミリアはほとんど意識がないまま、手を動かしていた。
実体化されたポーションをミリアに飲ませる。
回復ポーションにより、ミリアの意識が少し戻った。
抱き合う2人。
だが、大量のモンスターはその場に残っている。この量のモンスターに囲まれてしまったら身動きが取れない。ミリアと一緒にエリまで動きが取れなくなってしまったら、それこそ終わりだ。
エリはミリアの手を引いて立たせ、走り出す。
「ダンジョンを出よう。絶対に大丈夫だからね……」
「はい……」
ミリアは弱々しく返す。
懸命に走ってモンスターから逃げきり、入り口の宝箱のところまで戻ってきた。
だが、エリは立ちすくむ。
「嘘……」
エリの足は止まっていた。顔を上げて前方を見たミリアにもその姿が目に入る。
そこにいたのは別のゾンビ。
放射線の犠牲者は2人いた。もう1人の隊員もゾンビ化してしまっていた。
「最悪だ……。もう1人のゾンビがここにいるなんて……」
エリは来た道を戻ろうとした。
けれど、ミリアは気丈にも前に進み出た。
「あのゾンビは、ター君とミリアで押さえつける」
「無理よ。やめましょう」
「大丈夫なのです。ミリアは頭脳を手に入れました。ミリアの欠点は克服されたのです」
ゾンビに立ち向かおうとしたミリアだったが、タブレットは止めてきた。
『いや、ミリア姉。やめたほうがいいかな。ここは春菜の姉御にまかせよう』
「お姉様?」
ミリアがタブレットの声を繰り返した時、懐かしい春菜の声が聞こえてきた。
「おまたせ~」
階段に目を向けると、春菜とグレゴリーがいっしょに降りてくる。ミスリルの大剣を振りあげて、ゾンビに向かっていった。そのまま「やあ!」と声を放ち、切り捨てた。
「ごめん、遅くなった。ちょっと手間取っちゃってさ」
ゾンビは真後ろに倒れていく。壁を背に崩れ落ち、そのまま動くことはなかった。
「ありがとう、ミリア。エリさん。宝箱の蓋を閉めてくれて」
ミリアの服はぼろぼろだった。フリルの付いたピンクのワンピースは見る影もない。
「で……、どうしてミリアの服がそんなことに!? いったい何があったの!?」
春菜が訊ねると、エリが応えた。
「説明すると長くなるのですが……。春菜ちゃんたちも、遅かったですね……」
エリがダンジョンに突き落とされてから20分ほどが経過していた。壊れた通信機器などを設置し直すにしても、もう少し早く来てもよさそうだった。
「私たちも説明すると長くなるんだけど……。生き埋めにされそうになって……」
「生き埋め!?」
エリが驚いた顔をする。
「ところで、あの大量のモンスターは?」
春菜が通路の先に視線を向けると、丁字路になった道の左右は両方ともモンスターで塞がっていた。道の先はまったく見えない。
「えっと……。ごめんなさい……。集まっちゃいまして……」
のんびり話をする余裕もなく、集めてしまったモンスターを何とかすることが先だった。
エリが申し訳無さそうに、春菜とグレゴリーに頼んだ。
「とりあえず、あのモンスターたちを倒していただいて、それからお話しましょうか……」
「そうですね……」
春菜が大剣を握り直すと、グレゴリーも剣を手に取った。
「仕方ねえな……。さっさと倒して、それからゆっくり話すか」
春菜は一方のモンスターに向かって駆け出し、グレゴリーは反対側のモンスターへと向かっていった。
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