お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~勝手に持ち出した装備は84億円でした。レベル1なのに迷宮の最下層で動画をバズらせます~

高瀬ユキカズ

文字の大きさ
上 下
152 / 241
ハロー、アメリカ

第152話 兎の股をくぐるミリア

しおりを挟む
 ミリアは今にも死にかけていた。ゾンビからの攻撃を受け続けている。着ているワンピースは破れ、血まみれになっていた。

「ミリアは本当はお馬鹿だったのです。そんなことは自分でもわかっていたのです。でも、知的でかっこいいお姉様のようになりたかったのです……。もっと、お勉強をしておけばよかったのです……」

 完全に諦めてしまったミリアを奮い立たせようと、エリは声を張り上げた。

「まだ間に合う!」

 モンスターの塊の中には兎の列ができていた。
 エリが先頭の兎にタブレットを渡した。兎は前屈して股の下に通し、後ろの兎へと渡していく。兎たちは次々に連携してタブレットをつなげていった。

「ミリアちゃん、受け取って!」

 タブレットがミリアの手元に届き、AIが語りかける。

『ミリアねえ、画面の指示のままタップするだけだ。鉄の鎖を実体化してくれ』

 弱々しい手つきで、ミリアはタブレットを操作する。
 鉄の鎖がその場に実体化された。

『鎖の端をタブレットと同じように、鈍足の兎スロー・ラビットに渡すんだ。股を通してエリへと送ってくれる』

 ミリアはなんとか鎖の先を兎に渡す。兎は受け取ると同時に、股の下に通した。
連携して、次々に鎖が伸びていく。
 鎖はすぐにエリの手元までやってきた。

『よし、それを一気に引っ張ってくれ!! ミリア姉、鎖を離すなよ!!』

 ミリアは言われるがまま、朦朧としながらも鎖を握る。なるべく手から離れないように巻き付けた。

「ミリアちゃん!」

 エリは懸命に鎖を引く。兎たちの股の間をミリアがやってくる。タブレットを抱きかかえており、今にも死にかけていた。

「エリ……さん……」

 呼び捨てではなく、初めて「さん」づけて呼んでいた。

 鎖に引かれ、ミリアはモンスターの大群から抜け出すことができた。
 エリはミリアを抱きとめ、急いでポーションを実体化させる。ミリアはほとんど意識がないまま、手を動かしていた。

 実体化されたポーションをミリアに飲ませる。
 回復ポーションにより、ミリアの意識が少し戻った。

 抱き合う2人。

 だが、大量のモンスターはその場に残っている。この量のモンスターに囲まれてしまったら身動きが取れない。ミリアと一緒にエリまで動きが取れなくなってしまったら、それこそ終わりだ。

 エリはミリアの手を引いて立たせ、走り出す。

「ダンジョンを出よう。絶対に大丈夫だからね……」

「はい……」

 ミリアは弱々しく返す。

 懸命に走ってモンスターから逃げきり、入り口の宝箱のところまで戻ってきた。
 だが、エリは立ちすくむ。

「嘘……」

 エリの足は止まっていた。顔を上げて前方を見たミリアにもその姿が目に入る。

 そこにいたのは別のゾンビ。
 放射線の犠牲者は2人いた。もう1人の隊員もゾンビ化してしまっていた。

「最悪だ……。もう1人のゾンビがここにいるなんて……」

 エリは来た道を戻ろうとした。
 けれど、ミリアは気丈にも前に進み出た。

「あのゾンビは、ター君とミリアで押さえつける」

「無理よ。やめましょう」

「大丈夫なのです。ミリアは頭脳を手に入れました。ミリアの欠点は克服されたのです」

 ゾンビに立ち向かおうとしたミリアだったが、タブレットは止めてきた。

『いや、ミリア姉。やめたほうがいいかな。ここは春菜の姉御にまかせよう』

「お姉様?」

 ミリアがタブレットの声を繰り返した時、懐かしい春菜の声が聞こえてきた。

「おまたせ~」

 階段に目を向けると、春菜とグレゴリーがいっしょに降りてくる。ミスリルの大剣を振りあげて、ゾンビに向かっていった。そのまま「やあ!」と声を放ち、切り捨てた。

「ごめん、遅くなった。ちょっと手間取っちゃってさ」

 ゾンビは真後ろに倒れていく。壁を背に崩れ落ち、そのまま動くことはなかった。

「ありがとう、ミリア。エリさん。宝箱の蓋を閉めてくれて」

 ミリアの服はぼろぼろだった。フリルの付いたピンクのワンピースは見る影もない。

「で……、どうしてミリアの服がそんなことに!? いったい何があったの!?」

 春菜が訊ねると、エリが応えた。

「説明すると長くなるのですが……。春菜ちゃんたちも、遅かったですね……」

 エリがダンジョンに突き落とされてから20分ほどが経過していた。壊れた通信機器などを設置し直すにしても、もう少し早く来てもよさそうだった。

「私たちも説明すると長くなるんだけど……。生き埋めにされそうになって……」

「生き埋め!?」

 エリが驚いた顔をする。

「ところで、あの大量のモンスターは?」

 春菜が通路の先に視線を向けると、丁字路になった道の左右は両方ともモンスターで塞がっていた。道の先はまったく見えない。

「えっと……。ごめんなさい……。集まっちゃいまして……」

 のんびり話をする余裕もなく、集めてしまったモンスターを何とかすることが先だった。
 エリが申し訳無さそうに、春菜とグレゴリーに頼んだ。

「とりあえず、あのモンスターたちを倒していただいて、それからお話しましょうか……」

「そうですね……」

 春菜が大剣を握り直すと、グレゴリーも剣を手に取った。

「仕方ねえな……。さっさと倒して、それからゆっくり話すか」

 春菜は一方のモンスターに向かって駆け出し、グレゴリーは反対側のモンスターへと向かっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

処理中です...