お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~レベル1なのに迷宮の最下層へ。勝手に持ち出した装備は84億円!? 最強装備の初心者が動画をバズらせる~

高瀬ユキカズ

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ハロー、アメリカ

第144話 埋まる洞窟

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 ミリアが一人でダンジョンに入ってしまい、迷子になっている頃。
 私たちはなんとかしてミリアと連絡を取る手段を考えていた。

 グレゴリーさんは私が金属変形メタル・トランスフォーメーションするための材料を集めに行っている。

 この場にいるのは、エリさんとセルゲイと私の3人だった。

 まず、エリさんからの情報提供により、ダンジョン第1階層の地図をコピーさせてもらった。ダンジョンタブレットの画面に表示する。

 まさか、ミリアが階段の場所がわからないくらいにまで奥に行っているとは思っていなかった。

 私たちは、鏡を使った連絡手段を試みることにした。

 今ここにある材料だけで、必要なものを組み立てていく。
 ダンジョン内に入ることはできないので、作業はマジックハンドを作成して行った。

 階段を降り始める場所に、下向きに鏡を設置する。

 階段は長くて完全にまっすぐではないため、1枚の鏡では不十分だった。
 数枚の鏡を設置するのにだいぶ時間がかかった。

 やっとのことで、階段を降りた先の風景が見えてきた。
 まだグレゴリーさんは戻ってこない。
 エリさんとセルゲイといっしょに鏡に映るものを確認する。

 迷彩服を着た隊員の死体が見える。
 隊員だけでなく、実験用マウスとモルモットの死骸もあった。これは放射線の影響を確認するために、アメリカ軍が投入したものだ。
 他には壊れたドローンや無線機も落ちている。

 すぐ先には宝箱がある。
 丁字路になっており、道は左右に伸びている。

 そこにはミリアの姿も、他のモンスターの姿もなかった。
 私が送り込んだ鈍足の兎スロー・ラビットも見当たらない。

 ダンジョンの外から魔法を行使することはできなかった。
 ドローンや機械類を私の魔法――金属変形メタル・トランスフォーメーション――で変形させることはできない。
 最悪の場合、金属身体メタリック・ボディで私自身の体を金属化することも考えたが、ダンジョンタブレットのAIによる予測では、金属の表面が放射線の影響を受けることがわかった。それはすなわち私自身の被爆だった。

 1歩でも入ることができれば、やれることはいくらでもある。
 だが、その1歩が、けっして踏み入れることのできない領域だった。

 セルゲイが目を凝らして、階段の降り口にある鏡を見た。

「映っている光景だが、少し見えにくいな」

 エリさんが手元のスマートフォンを操作している。スマートフォンを使って、鏡をカメラで写していた。

「画像解析を試みたらどうでしょうか」

「そうだな、拡大してみたい。ちょっとあの部分が気になる。なぜ、ここに宝箱が?」

 セルゲイが指したその場所を、エリさんが拡大表示する。画像解析により、蓋が開いた宝箱の内部も詳細に表示された。

 宝箱にはたくさんの円柱状の物体が詰められている。30本以上はありそうだった。

「はは、そういうことか」

 セルゲイのから笑いに、エリさんは渋い顔をする。

「これですね、放射性物質は」

 セルゲイとエリさんが会話を始める。

「ダンジョンのモンスターは放射線の影響を受けない。同様に、ダンジョンからもたらされるアーティファクトも放射線を完全に遮断するのだろうな」

「宝箱に入れ、放射性物質を持ち込んだのですね……」

「ミリア殿が、宝箱の蓋を閉めればあっさりと解決だな」

「しかし、そのミリアちゃんはどこへ?」

 私は2人に提案する。

「なんとかマジックハンドを延長して、宝箱の蓋を閉めましょうか」

 エリさんが応えた。

「この距離ですとかなり大変ですが、ミリアちゃんの姿が見えない以上、それが最善かもしれませんね。材料が足りないと思いますので、リーダーが戻るのを待ちましょうか」

 エリさんが私の肩に手を置き、前に出る。「あまり入り口に近づくと危ないですよ」と言って、自分はダンジョンの階段に近づいて先を覗き込んだ。

「エリさんも……」

 私は「エリさんも気をつけてください」と言いたかった。私を後ろに下がらせ、自分はダンジョンのぎりぎりまで近づいていたからだ。

 エリさんは中腰になり、こちらにお尻を向けていた。手を膝に置き、体は前に前屈している。迷彩服越しにもわかる、すらりと伸びた長い脚に、骨盤の幅が広い。
 もりもりさんに引けを取らないセクシーなお尻だった。
 
 なんて感じに、呑気なことを考えていた私は間抜けだった。

 私とエリさんのあいだにセルゲイが入る。私の視界からはエリさんの姿が見えなくなった。

 セルゲイの迷彩服は灰色だ。身長は180cmを超えるだろう。
 その先には入り口の階段を囲む石が見えている。
 あいだにいるはずのエリさん。その姿が隠れた。

「グレゴリーは待たない」

 冷たい言葉が洞窟に響いた。
 セルゲイが何をしたのか、とっさにはわからなかった。

 ダンジョン側での音はこちらには聞こえない。
 
 仮に突き落とされたとしても、叫び声をあげたとしても、階段を転げ落ちたとしても、私の耳に届くことはない。

 セルゲイの、強く押す仕草。
 舞う砂埃。
 そして、セルゲイが振り向く。
 こちらへと歩いてくる。

 そこにはエリさんの姿がない。

 エリさんがダンジョン内に突き落とされたのだ。

「悪いが、いっしょに生き埋めになってもらう」

 洞窟内に、轟音が響いてきた。
 私たちが入ってきた入り口では、天井から泥が降り注いでいる。天井の四隅からは灰色の粘体が流れ込んできた。

「なぜここが洞窟になっているのか。ダンジョンの存在を隠すだけではなく、都合が悪くなったら、コンクリートで埋めることができるからだ」

 ここには、セルゲイと2人。
 エリさんを助けたいが、救助に向かうにはセルゲイが立ちふさがっている。ダンジョンに入ったとしても、死が待っている。それに、エリさんはすでに助からない可能性が高い。
 それでも、私がダンジョンに飛び込み、私とエリさん2人の体を金属身体メタリック・ボディで金属化すれば、少しはなんとかなるのではないか?

 私の耳元にはダンジョンタブレットのAI――タブさんの声が聞こえる。

『約5分。生のコンクリートに足を取られながらも、対応ができるであろう時間だ。完全に埋まるまでは15分はかかるだろうが、5分で決着をつけねばならない。あるじよ。時間がない』

 一瞬で判断をしなければならない。焦りからか、冷や汗が出てくる。
 セルゲイはなぜこんなことをしたのか?
 いや、そんなことを考えている暇はない。
 すぐに動く必要があった。
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