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ハロー、アメリカ
第141話 ダンジョン入り口での調査
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グレゴリーさんが小さな機械を手に取った。デジタルで数値が表示されており、機械から伸びるケーブルの先はプローブになっている。放射線量を測定するために特別に制作したガイガーカウンターだそうだ。
「この石壁で囲まれた階段のエリア、ここは別空間につながっていると思われる。向こう側は500シーベルトを軽く超えてくるが、我々のいるこちら側にはまったく放射線の影響がない」
プローブを向こう側に差し込むと数値は500前後を示したが、引き抜くと0になった。
「空気の振動もここを境界線として伝わらない。だから、こちら側の声も向こう側には聞こえない。ここはいわば、別世界に繋がる境界と言ってもいいのかもしれない」
エリさんがグレゴリーさんに尋ねる。
「でも、向こう側の階段は見えています。光の電磁波は届いているということでしょうか?」
グレゴリーさんは首を振って否定する。
「そうではない。この境界線で電磁波も遮断される。向こう側が見えているのは、映像が空中に投影されているようなものだ。どのような技術でこれを可能にしているのは判明していないが、液晶パネルのように映像を写していると思われる」
「では、こちら側で紙に文字を書いて、鏡で反射させながらダンジョン内へ指令を伝えるというのは可能だということですね」
「そうだな。通常、ダンジョン内部への通信は、入り口付近に光通信の機器を設置している。光通信だけがダンジョン内部と通信できる手段だ」
日本のダンジョンの場合、入り口で別世界につながっていることをまったく意識していなかった。これは入り口に通信機器が置かれているためだ。入り口前後の音声は互いに光通信で送られ、スピーカーで再生される。音が伝わっていないことを意識することはなかった。同様に、Wifiなどの通信も入り口で経由されている。
「今回は放射線の影響で、あらゆる機器が使用不可能だ。紙に書いて伝えるという原始的な方法を取らざるを得ない」
グレゴリーさんの言葉に、ミリアは自信満々といった感じに胸を張った。
「ミリア、文字が読めるよ。ひらがなが得意。数字も0と6と8と9はばっちりわかる」
ミリアの発言にはグレゴリーさんが苦笑する。
「なかなかに苦戦しそうだな」
グレゴリーさんはすぐに真顔に戻り、説明を再開する。
「このダンジョンはしばらく降りた先が地下の第1階層となっている。階段が長いので注意してくれ。そして、調査段階で実験用マウスやモルモットを投入している。いくつか死体が転がっているはずだ。また、残念ながら2名の隊員の犠牲も出ている」
私は驚いて聞き返す。
「2人の死体があるってこと?」
「ああ。放射線は目に見えないからな。おそらくは状況を軽視したのであろう。被害者が出てしまった」
「ミリアちゃんは大丈夫かしら?」
エリさんが心配そうに呟いた。
ダンジョンシミュレーターにより、ミリアの安全は確認している。しかし、シミュレーターのことを説明するわけにもいかないし、私の直感で大丈夫だと伝えても納得はしてもらえないはずだ。
私としても、別の手段でミリアの安全を確認しておきたかった。
「私がモンスターを召喚します。そのモンスターで安全を確かめてみましょう」
「そんなことができるのか!?」
声を上げたグレゴリーさんだけでなく、エリさん、セルゲイも驚くような顔をする。
おそらくは世界でもモンスターを召喚できるのは私だけなのだ。
すでに、フレイムドラゴン・ロードも召喚し、ダンジョンすら召喚している。このスキルは見せてしまっているので、いまさら隠すこともないだろう。
むしろ、普通のモンスターを普通に召喚することが初めてだった。
私はダンジョンタブレットを操作する。
「鈍足の兎、『スロー・ラビット』、【召喚】」
微細な三角形が虹色に輝きながら現れ、兎の足を生み出す。そこから上に向かって、体、頭、耳を構成していく。ゲームキャラクターのポリゴンのように、三角形が集合してモンスターの姿を作り上げた。
現れたのは、後ろ足で立っている兎だ。前足は持ち上げていて、兎なのに二足歩行だ。
鈍足の兎はダンジョンの上層で遭遇するあまり強くないモンスターだ。
出現したモンスターに、セルゲイは警戒するような態勢を取る。だが、襲ってこないことがわかると、すぐに動きを止めていた。
「倒したことのあるモンスターを呼び出して使役することができます。モンスターの知力が低い場合、操るのが難しいようです。こちらの命令を理解してくれるといいのですが……」
鈍足の兎は首の上だけを動かし、キョロキョロと周りを見回していた。
「ほら、入り口にお入り。中に入ってHPが減るかどうか、私に見せて」
私は鈍足の兎の背中に手を添え、前に進むよう促す。鈍足の兎はペタペタと足音を立てて、二足歩行で歩く。
兎だけれど、二足歩行の鈍足の兎は動きが遅い。
ゆっくりとダンジョンの入り口に近づき、足を踏み入れた。
「ダンジョンタブレットで鈍足の兎のステータスを見ることができます。今のところ、HPは100%のままで変わりません」
鈍足の兎はペタ、ペタ、と一歩ずつ階段を降りていく。非常に歩みが遅い。
「変わりませんね。鈍足の兎にダメージを受ける気配はありません。ミリアも同様にダメージを受けない可能性が高いと思います」
「大丈夫です、お姉様。ミリア、がんばります」
ミリアは両手をグーに握り、ガッツポーズに近い姿勢を取る。
次はミリアの準備だ。1人でダンジョンに入ることになる。直接のサポートを受けず、放射性物質を探し出して無効化する必要があった。
ここからはグレゴリーさんの許可を受け、ダンジョン配信を再開する。
「この石壁で囲まれた階段のエリア、ここは別空間につながっていると思われる。向こう側は500シーベルトを軽く超えてくるが、我々のいるこちら側にはまったく放射線の影響がない」
プローブを向こう側に差し込むと数値は500前後を示したが、引き抜くと0になった。
「空気の振動もここを境界線として伝わらない。だから、こちら側の声も向こう側には聞こえない。ここはいわば、別世界に繋がる境界と言ってもいいのかもしれない」
エリさんがグレゴリーさんに尋ねる。
「でも、向こう側の階段は見えています。光の電磁波は届いているということでしょうか?」
グレゴリーさんは首を振って否定する。
「そうではない。この境界線で電磁波も遮断される。向こう側が見えているのは、映像が空中に投影されているようなものだ。どのような技術でこれを可能にしているのは判明していないが、液晶パネルのように映像を写していると思われる」
「では、こちら側で紙に文字を書いて、鏡で反射させながらダンジョン内へ指令を伝えるというのは可能だということですね」
「そうだな。通常、ダンジョン内部への通信は、入り口付近に光通信の機器を設置している。光通信だけがダンジョン内部と通信できる手段だ」
日本のダンジョンの場合、入り口で別世界につながっていることをまったく意識していなかった。これは入り口に通信機器が置かれているためだ。入り口前後の音声は互いに光通信で送られ、スピーカーで再生される。音が伝わっていないことを意識することはなかった。同様に、Wifiなどの通信も入り口で経由されている。
「今回は放射線の影響で、あらゆる機器が使用不可能だ。紙に書いて伝えるという原始的な方法を取らざるを得ない」
グレゴリーさんの言葉に、ミリアは自信満々といった感じに胸を張った。
「ミリア、文字が読めるよ。ひらがなが得意。数字も0と6と8と9はばっちりわかる」
ミリアの発言にはグレゴリーさんが苦笑する。
「なかなかに苦戦しそうだな」
グレゴリーさんはすぐに真顔に戻り、説明を再開する。
「このダンジョンはしばらく降りた先が地下の第1階層となっている。階段が長いので注意してくれ。そして、調査段階で実験用マウスやモルモットを投入している。いくつか死体が転がっているはずだ。また、残念ながら2名の隊員の犠牲も出ている」
私は驚いて聞き返す。
「2人の死体があるってこと?」
「ああ。放射線は目に見えないからな。おそらくは状況を軽視したのであろう。被害者が出てしまった」
「ミリアちゃんは大丈夫かしら?」
エリさんが心配そうに呟いた。
ダンジョンシミュレーターにより、ミリアの安全は確認している。しかし、シミュレーターのことを説明するわけにもいかないし、私の直感で大丈夫だと伝えても納得はしてもらえないはずだ。
私としても、別の手段でミリアの安全を確認しておきたかった。
「私がモンスターを召喚します。そのモンスターで安全を確かめてみましょう」
「そんなことができるのか!?」
声を上げたグレゴリーさんだけでなく、エリさん、セルゲイも驚くような顔をする。
おそらくは世界でもモンスターを召喚できるのは私だけなのだ。
すでに、フレイムドラゴン・ロードも召喚し、ダンジョンすら召喚している。このスキルは見せてしまっているので、いまさら隠すこともないだろう。
むしろ、普通のモンスターを普通に召喚することが初めてだった。
私はダンジョンタブレットを操作する。
「鈍足の兎、『スロー・ラビット』、【召喚】」
微細な三角形が虹色に輝きながら現れ、兎の足を生み出す。そこから上に向かって、体、頭、耳を構成していく。ゲームキャラクターのポリゴンのように、三角形が集合してモンスターの姿を作り上げた。
現れたのは、後ろ足で立っている兎だ。前足は持ち上げていて、兎なのに二足歩行だ。
鈍足の兎はダンジョンの上層で遭遇するあまり強くないモンスターだ。
出現したモンスターに、セルゲイは警戒するような態勢を取る。だが、襲ってこないことがわかると、すぐに動きを止めていた。
「倒したことのあるモンスターを呼び出して使役することができます。モンスターの知力が低い場合、操るのが難しいようです。こちらの命令を理解してくれるといいのですが……」
鈍足の兎は首の上だけを動かし、キョロキョロと周りを見回していた。
「ほら、入り口にお入り。中に入ってHPが減るかどうか、私に見せて」
私は鈍足の兎の背中に手を添え、前に進むよう促す。鈍足の兎はペタペタと足音を立てて、二足歩行で歩く。
兎だけれど、二足歩行の鈍足の兎は動きが遅い。
ゆっくりとダンジョンの入り口に近づき、足を踏み入れた。
「ダンジョンタブレットで鈍足の兎のステータスを見ることができます。今のところ、HPは100%のままで変わりません」
鈍足の兎はペタ、ペタ、と一歩ずつ階段を降りていく。非常に歩みが遅い。
「変わりませんね。鈍足の兎にダメージを受ける気配はありません。ミリアも同様にダメージを受けない可能性が高いと思います」
「大丈夫です、お姉様。ミリア、がんばります」
ミリアは両手をグーに握り、ガッツポーズに近い姿勢を取る。
次はミリアの準備だ。1人でダンジョンに入ることになる。直接のサポートを受けず、放射性物質を探し出して無効化する必要があった。
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