お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~勝手に持ち出した装備は84億円でした。レベル1なのに迷宮の最下層で動画をバズらせます~

高瀬ユキカズ

文字の大きさ
上 下
132 / 245
新しいダンジョン

第132話 出口が見つかる

しおりを挟む
「唯一の? 何……?」

 しばらく待って、やっとタブレットからの返答があった。

『――今、この地球にある9つのダンジョンはウィルスに侵されている。9つというのは今現在の数字で、これから増えていくことになる。第10番目のダンジョンであるこの長瀞ダンジョンは、世界で唯一ウィルスに侵されていないダンジョンだ』

「コンピューターウィルスということ?」

 パソコンが感染するとかいう、あのウィルスのことだろうか?

『――まさにそのとおりだ。〝A〟がモンスターを合成し、キメラを生み出したことは覚えているだろうか?』

「もちろん、覚えているよ。ミリアにひどいことを言ったし。あの〝A〟っていったい誰だったんだろう? 通信をハッキングしていたようだったし……」

『――あれは誰でもない。ウィルスが作り出した人格だ』

「もしかして、人工知能AI?」

『――ただの人工知能AIではない。悪意を持った存在だ。ウィルスと〝A〟の目的は不明だが、人類を脅かす存在であることは間違いない』

「まさかだけど、世界を救えるのが私で、そのためにこのダンジョンが生まれた。なんて、言わないよね?」

『――ふ……。お兄ちゃんにデバイスの制限をされている我があるじには、少し荷が重いな』

 タブさんの口調は私をからかうようだった。まるで友だちに冗談を言われたみたいだ。

「まあ、でも、すぐに脅威が迫るとかではないんだよね? まずは今の状況をなんとかしないと」

『――そのとおりだ。我があるじよ。ここはあるじのダンジョンだ。あるじの意のまま、思いのままだ。あるじこそがこのダンジョンの支配者だ』

「なんだか、悪役あくやくみたいに聞こえるのは気のせい?」

『――そのような使い方も可能だ。あるじあだなす者を、このダンジョンに閉じ込めることもできる』

「怖いよ。どうでもいいけれど、ここが私のダンジョンなら、出ることも可能なの?」

『――あるじは覚えているか? 奥多摩ダンジョンの地下220階で『偽装扉ダミー・ドア』を倒したことを』

「もちろんだよ。『階層主その2』だったよね? 扉の中は亜空間につながっていて、そこに吸い込まれてしまったら大変なことになる」

『――ここはあるじのダンジョンだ。あるじが命令をすれば、扉の先は地上へとつなげることもできる。ほら、後ろだ。後ろにその『偽装扉ダミー・ドア』があるぞ』

 私が振り向くと、そこには緑の扉があった。
 喜びながら、ダンジョンタブレットに顔を近づけた。

「これで地上に帰れるね! みんなを連れてこよう!」

『――ああ。あれが出口だ。だが、このダンジョンの入口は存在しない。ここはあるじだけが入ることができ、あるじが許可をしたものだけが入ることを許される』

「へー、そうなんだ」

 私は、ふと、あることが気になった。

「あのさ。もしかして、あの宝箱もあったりするの?」

『――宝箱? なんのことだ?』

 タブさんが疑問形で繰り返した。なんとなくタブさんはわかっていて面白がっているような感じもした。AIなのに人間くさい反応をする。

 私は低く暗い声で応えた。

「ミミックだよ……」

 ミミック……。人喰い宝箱のことだ。

 私はあのときのことを思い出す。頭から食われ、逆さまの状態に持ち上げられた。ギガント重装鎧を着ていたから噛み殺されなかったものの、なんとか立ち上がり、ミミックを被った状態でダンジョンを歩いた。

 なぜかあの時の動画はネットで拡散されている。おそらく、というか、間違いなく、ユカリスさんが面白がって撮影したのだ。

『――ふふ。あるじに噛みつくようなことはないから、安心しろ』

「ああ、どこかにあるんだね……あの箱……」

 ここは私のダンジョンだから、私の配下ということになるのだろうか?
 なら、かわいいペットのようなもの?

 いや、とてもそうは思えないな。
 ミミックのことはとりあえず放っておくことにする。
 誰も入れないダンジョンなら、誰かが食べられてしまうなんてこともないだろう。

 私はタブさんに頼んでこの階層のモンスターの湧出を止めてもらった。この階層はモンスターハウスになっていて、次々に亡霊が出現していたが、タブさんを通してすべての亡霊は停止した。

 まるで時が止まったかのように、枯れ木の亡霊たちが立っている。薄暗い中に、黒い色をした亡霊が無数にいる。その光景は火事で焼け焦げてしまった林だ。

 瑞稀社長とSPの男性、ミリア、そしてグレゴリーたちの特殊部隊と合流し、扉をくぐってダンジョンの外へと出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...