132 / 221
新しいダンジョン
第132話 出口が見つかる
しおりを挟む
「唯一の? 何……?」
しばらく待って、やっとタブレットからの返答があった。
『――今、この地球にある9つのダンジョンはウィルスに侵されている。9つというのは今現在の数字で、これから増えていくことになる。第10番目のダンジョンであるこの長瀞ダンジョンは、世界で唯一ウィルスに侵されていないダンジョンだ』
「コンピューターウィルスということ?」
パソコンが感染するとかいう、あのウィルスのことだろうか?
『――まさにそのとおりだ。〝A〟がモンスターを合成し、キメラを生み出したことは覚えているだろうか?』
「もちろん、覚えているよ。ミリアにひどいことを言ったし。あの〝A〟っていったい誰だったんだろう? 通信をハッキングしていたようだったし……」
『――あれは誰でもない。ウィルスが作り出した人格だ』
「もしかして、人工知能?」
『――ただの人工知能ではない。悪意を持った存在だ。ウィルスと〝A〟の目的は不明だが、人類を脅かす存在であることは間違いない』
「まさかだけど、世界を救えるのが私で、そのためにこのダンジョンが生まれた。なんて、言わないよね?」
『――ふ……。お兄ちゃんにデバイスの制限をされている我が主には、少し荷が重いな』
タブさんの口調は私をからかうようだった。まるで友だちに冗談を言われたみたいだ。
「まあ、でも、すぐに脅威が迫るとかではないんだよね? まずは今の状況をなんとかしないと」
『――そのとおりだ。我が主よ。ここは主のダンジョンだ。主の意のまま、思いのままだ。主こそがこのダンジョンの支配者だ』
「なんだか、悪役みたいに聞こえるのは気のせい?」
『――そのような使い方も可能だ。主を仇なす者を、このダンジョンに閉じ込めることもできる』
「怖いよ。どうでもいいけれど、ここが私のダンジョンなら、出ることも可能なの?」
『――主は覚えているか? 奥多摩ダンジョンの地下220階で『偽装扉』を倒したことを』
「もちろんだよ。『階層主その2』だったよね? 扉の中は亜空間につながっていて、そこに吸い込まれてしまったら大変なことになる」
『――ここは主のダンジョンだ。主が命令をすれば、扉の先は地上へとつなげることもできる。ほら、後ろだ。後ろにその『偽装扉』があるぞ』
私が振り向くと、そこには緑の扉があった。
喜びながら、ダンジョンタブレットに顔を近づけた。
「これで地上に帰れるね! みんなを連れてこよう!」
『――ああ。あれが出口だ。だが、このダンジョンの入口は存在しない。ここは主だけが入ることができ、主が許可をしたものだけが入ることを許される』
「へー、そうなんだ」
私は、ふと、あることが気になった。
「あのさ。もしかして、あの宝箱もあったりするの?」
『――宝箱? なんのことだ?』
タブさんが疑問形で繰り返した。なんとなくタブさんはわかっていて面白がっているような感じもした。AIなのに人間くさい反応をする。
私は低く暗い声で応えた。
「ミミックだよ……」
ミミック……。人喰い宝箱のことだ。
私はあのときのことを思い出す。頭から食われ、逆さまの状態に持ち上げられた。ギガント重装鎧を着ていたから噛み殺されなかったものの、なんとか立ち上がり、ミミックを被った状態でダンジョンを歩いた。
なぜかあの時の動画はネットで拡散されている。おそらく、というか、間違いなく、ユカリスさんが面白がって撮影したのだ。
『――ふふ。主に噛みつくようなことはないから、安心しろ』
「ああ、どこかにあるんだね……あの箱……」
ここは私のダンジョンだから、私の配下ということになるのだろうか?
なら、かわいいペットのようなもの?
いや、とてもそうは思えないな。
ミミックのことはとりあえず放っておくことにする。
誰も入れないダンジョンなら、誰かが食べられてしまうなんてこともないだろう。
私はタブさんに頼んでこの階層のモンスターの湧出を止めてもらった。この階層はモンスターハウスになっていて、次々に亡霊が出現していたが、タブさんを通してすべての亡霊は停止した。
まるで時が止まったかのように、枯れ木の亡霊たちが立っている。薄暗い中に、黒い色をした亡霊が無数にいる。その光景は火事で焼け焦げてしまった林だ。
瑞稀社長とSPの男性、ミリア、そしてグレゴリーたちの特殊部隊と合流し、扉をくぐってダンジョンの外へと出た。
しばらく待って、やっとタブレットからの返答があった。
『――今、この地球にある9つのダンジョンはウィルスに侵されている。9つというのは今現在の数字で、これから増えていくことになる。第10番目のダンジョンであるこの長瀞ダンジョンは、世界で唯一ウィルスに侵されていないダンジョンだ』
「コンピューターウィルスということ?」
パソコンが感染するとかいう、あのウィルスのことだろうか?
『――まさにそのとおりだ。〝A〟がモンスターを合成し、キメラを生み出したことは覚えているだろうか?』
「もちろん、覚えているよ。ミリアにひどいことを言ったし。あの〝A〟っていったい誰だったんだろう? 通信をハッキングしていたようだったし……」
『――あれは誰でもない。ウィルスが作り出した人格だ』
「もしかして、人工知能?」
『――ただの人工知能ではない。悪意を持った存在だ。ウィルスと〝A〟の目的は不明だが、人類を脅かす存在であることは間違いない』
「まさかだけど、世界を救えるのが私で、そのためにこのダンジョンが生まれた。なんて、言わないよね?」
『――ふ……。お兄ちゃんにデバイスの制限をされている我が主には、少し荷が重いな』
タブさんの口調は私をからかうようだった。まるで友だちに冗談を言われたみたいだ。
「まあ、でも、すぐに脅威が迫るとかではないんだよね? まずは今の状況をなんとかしないと」
『――そのとおりだ。我が主よ。ここは主のダンジョンだ。主の意のまま、思いのままだ。主こそがこのダンジョンの支配者だ』
「なんだか、悪役みたいに聞こえるのは気のせい?」
『――そのような使い方も可能だ。主を仇なす者を、このダンジョンに閉じ込めることもできる』
「怖いよ。どうでもいいけれど、ここが私のダンジョンなら、出ることも可能なの?」
『――主は覚えているか? 奥多摩ダンジョンの地下220階で『偽装扉』を倒したことを』
「もちろんだよ。『階層主その2』だったよね? 扉の中は亜空間につながっていて、そこに吸い込まれてしまったら大変なことになる」
『――ここは主のダンジョンだ。主が命令をすれば、扉の先は地上へとつなげることもできる。ほら、後ろだ。後ろにその『偽装扉』があるぞ』
私が振り向くと、そこには緑の扉があった。
喜びながら、ダンジョンタブレットに顔を近づけた。
「これで地上に帰れるね! みんなを連れてこよう!」
『――ああ。あれが出口だ。だが、このダンジョンの入口は存在しない。ここは主だけが入ることができ、主が許可をしたものだけが入ることを許される』
「へー、そうなんだ」
私は、ふと、あることが気になった。
「あのさ。もしかして、あの宝箱もあったりするの?」
『――宝箱? なんのことだ?』
タブさんが疑問形で繰り返した。なんとなくタブさんはわかっていて面白がっているような感じもした。AIなのに人間くさい反応をする。
私は低く暗い声で応えた。
「ミミックだよ……」
ミミック……。人喰い宝箱のことだ。
私はあのときのことを思い出す。頭から食われ、逆さまの状態に持ち上げられた。ギガント重装鎧を着ていたから噛み殺されなかったものの、なんとか立ち上がり、ミミックを被った状態でダンジョンを歩いた。
なぜかあの時の動画はネットで拡散されている。おそらく、というか、間違いなく、ユカリスさんが面白がって撮影したのだ。
『――ふふ。主に噛みつくようなことはないから、安心しろ』
「ああ、どこかにあるんだね……あの箱……」
ここは私のダンジョンだから、私の配下ということになるのだろうか?
なら、かわいいペットのようなもの?
いや、とてもそうは思えないな。
ミミックのことはとりあえず放っておくことにする。
誰も入れないダンジョンなら、誰かが食べられてしまうなんてこともないだろう。
私はタブさんに頼んでこの階層のモンスターの湧出を止めてもらった。この階層はモンスターハウスになっていて、次々に亡霊が出現していたが、タブさんを通してすべての亡霊は停止した。
まるで時が止まったかのように、枯れ木の亡霊たちが立っている。薄暗い中に、黒い色をした亡霊が無数にいる。その光景は火事で焼け焦げてしまった林だ。
瑞稀社長とSPの男性、ミリア、そしてグレゴリーたちの特殊部隊と合流し、扉をくぐってダンジョンの外へと出た。
31
お気に入りに追加
285
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~
尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。
ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。
亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。
ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!?
そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。
さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。
コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く!
はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる