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新しいダンジョン
第132話 出口が見つかる
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「唯一の? 何……?」
しばらく待って、やっとタブレットからの返答があった。
『――今、この地球にある9つのダンジョンはウィルスに侵されている。9つというのは今現在の数字で、これから増えていくことになる。第10番目のダンジョンであるこの長瀞ダンジョンは、世界で唯一ウィルスに侵されていないダンジョンだ』
「コンピューターウィルスということ?」
パソコンが感染するとかいう、あのウィルスのことだろうか?
『――まさにそのとおりだ。〝A〟がモンスターを合成し、キメラを生み出したことは覚えているだろうか?』
「もちろん、覚えているよ。ミリアにひどいことを言ったし。あの〝A〟っていったい誰だったんだろう? 通信をハッキングしていたようだったし……」
『――あれは誰でもない。ウィルスが作り出した人格だ』
「もしかして、人工知能?」
『――ただの人工知能ではない。悪意を持った存在だ。ウィルスと〝A〟の目的は不明だが、人類を脅かす存在であることは間違いない』
「まさかだけど、世界を救えるのが私で、そのためにこのダンジョンが生まれた。なんて、言わないよね?」
『――ふ……。お兄ちゃんにデバイスの制限をされている我が主には、少し荷が重いな』
タブさんの口調は私をからかうようだった。まるで友だちに冗談を言われたみたいだ。
「まあ、でも、すぐに脅威が迫るとかではないんだよね? まずは今の状況をなんとかしないと」
『――そのとおりだ。我が主よ。ここは主のダンジョンだ。主の意のまま、思いのままだ。主こそがこのダンジョンの支配者だ』
「なんだか、悪役みたいに聞こえるのは気のせい?」
『――そのような使い方も可能だ。主を仇なす者を、このダンジョンに閉じ込めることもできる』
「怖いよ。どうでもいいけれど、ここが私のダンジョンなら、出ることも可能なの?」
『――主は覚えているか? 奥多摩ダンジョンの地下220階で『偽装扉』を倒したことを』
「もちろんだよ。『階層主その2』だったよね? 扉の中は亜空間につながっていて、そこに吸い込まれてしまったら大変なことになる」
『――ここは主のダンジョンだ。主が命令をすれば、扉の先は地上へとつなげることもできる。ほら、後ろだ。後ろにその『偽装扉』があるぞ』
私が振り向くと、そこには緑の扉があった。
喜びながら、ダンジョンタブレットに顔を近づけた。
「これで地上に帰れるね! みんなを連れてこよう!」
『――ああ。あれが出口だ。だが、このダンジョンの入口は存在しない。ここは主だけが入ることができ、主が許可をしたものだけが入ることを許される』
「へー、そうなんだ」
私は、ふと、あることが気になった。
「あのさ。もしかして、あの宝箱もあったりするの?」
『――宝箱? なんのことだ?』
タブさんが疑問形で繰り返した。なんとなくタブさんはわかっていて面白がっているような感じもした。AIなのに人間くさい反応をする。
私は低く暗い声で応えた。
「ミミックだよ……」
ミミック……。人喰い宝箱のことだ。
私はあのときのことを思い出す。頭から食われ、逆さまの状態に持ち上げられた。ギガント重装鎧を着ていたから噛み殺されなかったものの、なんとか立ち上がり、ミミックを被った状態でダンジョンを歩いた。
なぜかあの時の動画はネットで拡散されている。おそらく、というか、間違いなく、ユカリスさんが面白がって撮影したのだ。
『――ふふ。主に噛みつくようなことはないから、安心しろ』
「ああ、どこかにあるんだね……あの箱……」
ここは私のダンジョンだから、私の配下ということになるのだろうか?
なら、かわいいペットのようなもの?
いや、とてもそうは思えないな。
ミミックのことはとりあえず放っておくことにする。
誰も入れないダンジョンなら、誰かが食べられてしまうなんてこともないだろう。
私はタブさんに頼んでこの階層のモンスターの湧出を止めてもらった。この階層はモンスターハウスになっていて、次々に亡霊が出現していたが、タブさんを通してすべての亡霊は停止した。
まるで時が止まったかのように、枯れ木の亡霊たちが立っている。薄暗い中に、黒い色をした亡霊が無数にいる。その光景は火事で焼け焦げてしまった林だ。
瑞稀社長とSPの男性、ミリア、そしてグレゴリーたちの特殊部隊と合流し、扉をくぐってダンジョンの外へと出た。
しばらく待って、やっとタブレットからの返答があった。
『――今、この地球にある9つのダンジョンはウィルスに侵されている。9つというのは今現在の数字で、これから増えていくことになる。第10番目のダンジョンであるこの長瀞ダンジョンは、世界で唯一ウィルスに侵されていないダンジョンだ』
「コンピューターウィルスということ?」
パソコンが感染するとかいう、あのウィルスのことだろうか?
『――まさにそのとおりだ。〝A〟がモンスターを合成し、キメラを生み出したことは覚えているだろうか?』
「もちろん、覚えているよ。ミリアにひどいことを言ったし。あの〝A〟っていったい誰だったんだろう? 通信をハッキングしていたようだったし……」
『――あれは誰でもない。ウィルスが作り出した人格だ』
「もしかして、人工知能?」
『――ただの人工知能ではない。悪意を持った存在だ。ウィルスと〝A〟の目的は不明だが、人類を脅かす存在であることは間違いない』
「まさかだけど、世界を救えるのが私で、そのためにこのダンジョンが生まれた。なんて、言わないよね?」
『――ふ……。お兄ちゃんにデバイスの制限をされている我が主には、少し荷が重いな』
タブさんの口調は私をからかうようだった。まるで友だちに冗談を言われたみたいだ。
「まあ、でも、すぐに脅威が迫るとかではないんだよね? まずは今の状況をなんとかしないと」
『――そのとおりだ。我が主よ。ここは主のダンジョンだ。主の意のまま、思いのままだ。主こそがこのダンジョンの支配者だ』
「なんだか、悪役みたいに聞こえるのは気のせい?」
『――そのような使い方も可能だ。主を仇なす者を、このダンジョンに閉じ込めることもできる』
「怖いよ。どうでもいいけれど、ここが私のダンジョンなら、出ることも可能なの?」
『――主は覚えているか? 奥多摩ダンジョンの地下220階で『偽装扉』を倒したことを』
「もちろんだよ。『階層主その2』だったよね? 扉の中は亜空間につながっていて、そこに吸い込まれてしまったら大変なことになる」
『――ここは主のダンジョンだ。主が命令をすれば、扉の先は地上へとつなげることもできる。ほら、後ろだ。後ろにその『偽装扉』があるぞ』
私が振り向くと、そこには緑の扉があった。
喜びながら、ダンジョンタブレットに顔を近づけた。
「これで地上に帰れるね! みんなを連れてこよう!」
『――ああ。あれが出口だ。だが、このダンジョンの入口は存在しない。ここは主だけが入ることができ、主が許可をしたものだけが入ることを許される』
「へー、そうなんだ」
私は、ふと、あることが気になった。
「あのさ。もしかして、あの宝箱もあったりするの?」
『――宝箱? なんのことだ?』
タブさんが疑問形で繰り返した。なんとなくタブさんはわかっていて面白がっているような感じもした。AIなのに人間くさい反応をする。
私は低く暗い声で応えた。
「ミミックだよ……」
ミミック……。人喰い宝箱のことだ。
私はあのときのことを思い出す。頭から食われ、逆さまの状態に持ち上げられた。ギガント重装鎧を着ていたから噛み殺されなかったものの、なんとか立ち上がり、ミミックを被った状態でダンジョンを歩いた。
なぜかあの時の動画はネットで拡散されている。おそらく、というか、間違いなく、ユカリスさんが面白がって撮影したのだ。
『――ふふ。主に噛みつくようなことはないから、安心しろ』
「ああ、どこかにあるんだね……あの箱……」
ここは私のダンジョンだから、私の配下ということになるのだろうか?
なら、かわいいペットのようなもの?
いや、とてもそうは思えないな。
ミミックのことはとりあえず放っておくことにする。
誰も入れないダンジョンなら、誰かが食べられてしまうなんてこともないだろう。
私はタブさんに頼んでこの階層のモンスターの湧出を止めてもらった。この階層はモンスターハウスになっていて、次々に亡霊が出現していたが、タブさんを通してすべての亡霊は停止した。
まるで時が止まったかのように、枯れ木の亡霊たちが立っている。薄暗い中に、黒い色をした亡霊が無数にいる。その光景は火事で焼け焦げてしまった林だ。
瑞稀社長とSPの男性、ミリア、そしてグレゴリーたちの特殊部隊と合流し、扉をくぐってダンジョンの外へと出た。
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