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新しいダンジョン

第131話 石の箱を叩き斬る

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 ミスリルの大剣ブロードソードはガキンッと音を立てて弾かれる。火花も散った。

 もう一度同じことを繰り返す。だが、岩が斬れない。
 扉と思われる面の横には縦に筋が入っている。その筋に向かって正確に大剣を振り下ろしているつもりだが、ほんのわずかにズレているようだ。

 私はダンジョンタブレットを地面において、両手で大剣を握る。

 ガキンッ、ガキンッ、と何度も岩に叩きつけた。

『――あるじよ。下に置いたら誰かに踏まれてしまうではないか』

 タブさんがAIらしくない不満を漏らす。
 私は岩に大剣を叩きつけるので忙しい。

「大丈夫だよ。私しかいないし。誰にも踏まれないよ」

『――あるじよ。あるじよ。こっちを見てくれ』

「なあに? 忙しいのだけれど」

 タブさんに話しかけられるが、私は懸命に剣を振ろす。

『――朗報だ。タブレットを確認してくれ』

「朗報? なにが?」

『――魔法を獲得した。やせ細った亡霊を倒しまくったお陰だな』

「え、ほんとに?」

 私の手は止まった。

『――これを見よ』

 私はタブレットを覗き込む。

 そこにあった『魔法を会得しました』の表示。
 ボタンを押して詳細を確認する。

――――――――――――――――――――――
メタル属性:ミスリルカッター
ミスリルの刃が飛び、相手にダメージを与える
備考:命中精度が高い
――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――
メタル属性:金属変形メタル・トランスフォーメーション
金属を思ったとおりに加工することができる
備考:使用者のレベルによって加工できる金属の種類が増える
――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――
メタル属性:金属身体メタリック・ボディ
体の一部を金属化することができる
備考:破壊されるまで持続する
――――――――――――――――――――――

 私はミスリルカッター、金属変形メタル・トランスフォーメーション金属身体メタリック・ボディの3つの魔法が使えるようになった。

■おお、世界初のメタル属性
■一気に3つも魔法を獲得したのか
■これでハルナっちも一人前

「よし!」

 私はガッツポーズをして岩の前に立つ。
 目の前に向けて、右腕を突き出す。

「ミスリルカッター!!」

 叫びながら右手を開くと、円盤状になった金属の刃が出現し、回転しながら前方に飛んだ。

 だが、カッキーーーーーン! と甲高い音を立てて石に弾かれた。
 私は手で額をぬぐう。
 
「ふう」

 駄目だった。
 石の箱には傷ひとつついていなかった。

■まったく斬れないね
■威力の問題?
■正確に当たっていない?
■命中精度が高いとあるから、当たっているはず
■じゃあ、やっぱり強さか

「どうしましょうね?」

 私は少し考え込む。やはりミスリルの大剣ブロードソードで斬るのが最善だと思われた。

『――あるじよ。金属変形メタル・トランスフォーメーションと組み合わせるのだ』

 タブさんの一言で、ひらめきが降りてきた。
 私はまず、ミスリルカッターを使う。

「ミスリルカッター!」
「ミスリルカッター!」

 両手を使ってミスリルの刃を2つ生み出す。

 発想を変えて、ミスリルカッターを飛ばすのではなく、ただ扉の隙間に置いただけだ。ただし、2つのカッターはくさびのようにV字型にした。

金属変形メタル・トランスフォーメーション!」

 次の魔法でカッターをその場に固定する。これで剣を誘導するための道ができた。

「おりゃあああああ!」

 雄叫びとともに、私はミスリルの大剣ブロードソードを思いっきり振り下ろした。V字型のくさびに導かれ、大剣は吸い込まれるように隙間に入った。

 石の箱の側面、縦一直線に亀裂が入る。その亀裂から光が漏れ、一本の線となった。

『――開くぞ。パンドラの箱だ。あるじよ』

 斬られた扉は3センチほどの厚さの石だ。私の身長は優に超えている。ゆっくりと傾き、巨大な石版は倒れていく。

 ずどーん、と大きな音を立て、扉となっていた石が倒れた。

 それと同時に、マッピングアプリの探査領域が100%になった。

「なに……これ?」

 箱状になった石の中にあったもの。それは小さな光の粒が縦と横に垂直に飛び交っている。光の粒は黄色や赤や青色をしており、人工的に作られた道を通っているように、正確な軌道を描いていた。
 石の箱は長方形で縦に長い。光の粒の集まりは一定の厚みを持った板状になっていて、それが縦に何枚も収められている。

■パソコン?
■サーバーかな?
■こんなの見たこともないけれど
■ラックの中に複数のブレードサーバーが収められているんだね

『――これがダンジョン・コンピューターだ』

 タブさんが言った。私はラックを覗き込む。収められた板はブレードと呼ぶそうだ。ブレードは光の粒だけで構成されている。縦と横に正確に90度の軌道で光は動いていた。それは人工的に作られた宇宙の星だった。

「これはいったい何なの? 何をしているの?」

『――ここでダンジョンが作られている』

「作られている? このダンジョンが?」

 私はラックから顔を上げ、周囲を見た。この景色をこのダンジョン・コンピューターが作っているというのか。

『――すべてのダンジョンは、ダンジョン・コンピューターが生み出している。このダンジョンも例外ではない。すべてのダンジョンに、それぞれ異なるダンジョン・コンピューターが存在する』

「どうしてタブさんがそんなことを知っているの?」

『――知っていて当然だ。我はプリミティブ・デバイスから生み出されている。プリミティブ・デバイスはダンジョン内で生み出された、いわば、ダンジョン・コンピューターの子どものようなものだ』

「なるほど、じゃあ、タブさんはダンジョン・コンピューターの孫か」

『――孫か。面白いな、我があるじよ。じゃあ、我は祖先と会話を試みてみよう。ラックの中のブレードとブレードの間に我を差し込んでくれまいか?』

 私はタブさんを地面から拾い上げ、言われたとおりに差し込んだ。
 タブさんは高速で情報を処理しているのか、熱を帯び始める。画面はとても明るく発光していた。

『――ダンジョンの成り立ち……なぜダンジョンが生まれたのか……そして、今、何が起こっているのか……生まれたばかりの、この長瀞ダンジョン。このダンジョンが世界で唯一……唯一の……』

 タブさんの言葉が止まった。
 次の言葉を待っているが、タブさんは何も言わない。
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