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新しいダンジョン

第127話 特殊部隊と合流する

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 倒しても、倒しても、やせ細った亡霊は出現してくる。360度、全方位から襲われるのはたまらない。少しでも安全な合流ポイントを決める必要があった。

 大岩で囲まれていて、モンスターが襲ってくる方向が制限される場所を探した。そこを待ち合わせ場所に指定する。

 ほどなくして12人の軍人が現れた。迷彩服を着て、ライフル銃を肩に背負っている。ハンドガンやマシンガンを持っている者もいた。怪我人もいるようだ。怪我をしている2人は別の軍人に肩を抱きかかえられていた。

 迷彩服の柄が異なっているので、6人ずつの2チームのようだ。アメリカとロシアということだろう。

 1人の軍人が前に出て、片手を上げた。

「グレゴリー・オロゴンだ。このチームのリーダーを任されている」

 握手の手を差し出してきたので、私はその手を取った。ごつごつして固く、がっしりとした手だった。肌が黒いのでアフリカ系だろうか。年齢は30歳前後に見えた。腕や足はかなり太かった。鍛え抜かれた肉体であることは間違いない。

 次にグレゴリーは瑞稀社長と握手した。

「よく私たちと共闘する気になったわね。やけに決断が早かったようだけれど」

 ここまで落ち着いていた瑞稀社長だったが、彼らを警戒している様子だった。

「出口も見つからない。亡霊は次々に襲ってくる。2人の怪我人が出てしまった。全滅するのは火を見るよりも明らかだった。これしか選択はなかったのだ」

 英語でしゃべるグレゴリーの言葉はダンジョンデバイスが翻訳している。ダンジョンデバイスを使っているということはグレゴリーもハンターなのだろう。

「すぐにあなたがたを信用できるものではない、ということはわかるわよね」

 社長は低い声で強い口調だった。グレゴリーは頷く。

「私は全権を委任されている。この状況は我々にとって作戦の失敗を意味する。いわば、君たちの捕虜となったと考えてもらいたい。君たちの知りたい情報は話そう」

「本当かしら。話せないこともあるでしょう?」

「信用してもらえないのも当然だろう。だが、事態は君たちが考えているよりもかなり悪い状況かもしれない。我々にとっては最悪のケースなのだ。だからこそ、こうして君たちの前に姿を見せた」

 その時、銃声が響く。
 ここは大岩で囲まれてはいるが、当然、亡霊はやってくる。軍人の一人がハンドガンで亡霊の頭を撃った。

「あまり悠長にしていられないわね。とりあえず、少しでも安全を確保しましょう」

「我々で防衛網を作る。おそらく話を聞きたいのだろう? 安全を確保して話をしよう。我々は情報を提供する。見返りとして、このダンジョンから帰して欲しい。どうだろうか?」

「まあ、それは春菜ちゃん次第ね。あなたたちは見返りを要求できるような立場じゃないかもしれないわ」

 瑞稀社長は私たちの優位性を意識して会話をしているようだ。世界的企業の社長だけあって、肝が座っているし、交渉も得意なのだろう。

 私は手に持っていたダンジョンタブレットに顔を向ける。

「ここは私が作り出したダンジョンです。今はまだ出る方法がわかっていませんが」

 ダンジョンタブレットに向けて話しかける。

「タブレットさん、私ならみんなをダンジョンから出せるよね?」

『――もちろんだ。我があるじだけがそれを可能にする。ここはあるじが頂点に君臨すべき場所なのだ。ダンジョンがそれを理解すれば、あるじはこのダンジョンにおいて、絶対的な存在となるであろう』

 グレゴリーの仲間が3人ずつ、合計6人が2方向を守ることになった。今はまだ銃弾が残っているようだが、弾がなくなる前に今後の方針を決めなければいけない。

「ところで、そちらに回復士ヒーラーはいるだろうか?」

 グレゴリーが私たちを見る。私は魔法を使えないし、瑞稀社長とSPはダンジョンハンターですらない。

「ポーションならありますが」

 私が応えると、

「すでに2人が負傷し、戦闘できる状態にはない。治癒ポーションは我々も持っているが、回復に時間がかかる。どうやらここはモンスターハウスのようだ。出現するモンスターの数が多すぎる。治癒魔法でないと追いつかないだろう」

 魔法は木火土金水をベースにした5つの系統があり、それぞれプランツ、フレイム、アース、アクア。そしてメタルだ。

 回復魔法や治癒魔法はアクア属性がもっとも得意としている。次にプランツ属性だ。フレイム属性は攻撃に特化した属性であり、アースは攻撃と防御の万能系になる。

「そちらにも回復士ヒーラーがいないということですよね? ハンターは何人いるのですか?」

 私がグレゴリーに訊ねたが、どうもこの質問はよくなかったようだ。瑞稀社長がグレゴリーに気づかれないように、私の足に触れて合図を送ってきた。
 おそらく「そちらは全員がハンターですね?」のように訊ねるべきだったのだ。
 瑞稀社長とSPの男性はハンターではない。こちらの情報を相手に教える必要はないのだ。

「我々は全員がダンジョンハンターだ。もちろん、日本の事務局には所属していない。それぞれ自国の――アメリカとロシアの非公式な事務局に所属している」

「やはり、アメリカとロシアにもダンジョンがあるのね?」

 瑞稀社長は呆れたように言った。

「ああ」

「そんなにあっさり話していいの? 国家レベルの機密でしょう?」

「話すべきだと思ったので伝えた。実は我々の状況は逼迫している。我々の目的を伝えていなかったな。今回、ミリアを確保し、ロシアに輸送する手はずになっていた。どうしてもミリアが必要だったのだ」

「ミリアを誘拐しようとしていたのね? 私たちを殺してでも」

「それだけ状況は切迫しているのだ。もう、決して君たちに危害は加えないと約束しよう。それが条件だったはずだ。条件は必ず守る」

 信用して欲しいといった様子でグレゴリーが深く頭を下げた。

「そんなことよりも、国を揺るがすほどの、なにかが起こっている? それはロシア国内で? それともダンジョンで?」

 瑞稀社長の目つきが鋭くなった。
 私でもわかるほどに、グレゴリーの困惑が見て取れた。
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