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新しいダンジョン
第113話 もりもりさんと待ち合わせ
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喫茶店でもりもりさんと待ち合わせをする。
ここはチェーン店だし、いつもなら緊張するような店ではない。
友だちと一緒に入る時はなんとも思わないこの喫茶店も、1人で席に座っているといつもと違う店に変わる。
背伸びして頼んだアールグレイも、一口すすっただけで冷めてしまっていた。
私は待ち合わせの時間より早く来すぎていた。
もりもりさんがやってきたのは待ち合わせの10分前だった。
「もりもりさん、こっちです!!」
入口にその姿が見えたのと同時に、私は身を乗り出して手を振ってしまった。
いつもと違う緊張感が、私に大きな声を出させていた。
「え、あの……」
店内の注目は声を出した私よりも、もりもりさんに集まる。
少しきょろきょろと恥ずかしそうに周りを見回し、もりもりさんはすぐに私のことを見つけて小走りに走ってきた。
「春菜さん……おひさしぶりです……」
ダンジョンを脱出してから数日が経過しただけだが、まるで長い間あっていなかったように感じてしまう。
「おひさしぶりです。もりもりさん。今日は呼び出してしまってすみません。なんか、お互いダンジョンの外で会うのは初めてなので、変な感じですね」
年上との待ち合わせに、無意識に早口になってしまった。
私は今日は制服ではなく、ジーンズにTシャツのラフな格好だ。
もりもりさんもパンツスタイルだが、髪をアップにまとめ、半袖の白いブラウスを着ている。
私とは違って、大人のセンスを感じるもりもりさんだ。
髪は染めているのではなく地の色が金髪で、彫りの深い顔立ちはモデルやハリウッド女優を思わせる。
スタイルもよく、際立つ美貌のもりもりさんは店内でも目立つ存在だった。
「あー恥ずかしかった。春菜さん、大きな声を出すんですもの」
「ごめんなさい。もりもりさんの顔を見たら、つい、嬉しくなって」
「え? 本当ですか!?」
もりもりさんは機嫌良さそうに、華やかな笑顔を私に向ける。
私の言葉には、驚きながらも極端なほど喜んでいた。
「当たり前じゃないですか。私のことを危険を顧みずに助けに来てくれたんです。どんなに感謝しても足りません。それに……」
「それに……?」
もりもりさんは満面の笑みを浮かべながら、可愛らしく首を軽く傾けた。
椅子を引き、腰を掛けようとしている。
「もりもりさんだけです。打倒お兄ちゃんに協力してくれるのは」
「だ……打倒……?」
ぴたり、と手を止め動作を停止したが、そのまま何事もなかったかのように椅子に座った。
「お兄ちゃんを結婚させるわけにはいかないんですよ」
「……え。………………え? ええ!?」
椅子に座ったもりもりさんは、体をのけぞらせていた。
今度はこの世の終わりといった表情に変わっている。
今日はよく表情を変える人だなと思った。
少し怯えるように、もりもりさんは声を絞り出す。
「そういえば、春菜さん……。何かお話があるとかメールにありましたね……。やっぱり結婚について反対だということなのですか」
「結婚? 反対?」
私はもりもりさんの言葉の意味がわからず、首を傾げる。
「あれ? 違うのですか?」
もりもりさんは真顔に戻り、目をぱちぱちと瞬かせる。
私は昨日決めた目標について語り始める。
「お話したかったのは、今後のことです。私、目標を決めたんですよ。お兄ちゃんを超えるんです。でも、そのためにはお兄ちゃんの神王装備よりもっと強い装備を手に入れようと思いました。そしてその前に、なんとしてもお兄ちゃんにデバイスの見守り機能を解除してもらわないといけません」
「それが、結婚とどう関係が?」
「おかしいでしょうか? 保護者のような振る舞いをさせてしまっているこんな状態で、お兄ちゃんに結婚してもらうわけにはいかないという意味です」
「あ、そういうことですか。てっきり結婚に反対されているのかと」
もりもりさんは、どうやら勘違いしていたようだ。
私の「結婚させるわけにはいかない」という言葉の意味は、お兄ちゃんに保護者代わりをさせたままで結婚させてはいけないという意味だ。私は自立する必要がある。私のことなんて気にせずに結婚してもらいたいからだ。
「今すぐお兄ちゃんを超えるなんてことは無理ですけれど、せめて見守り機能くらいは解除して、一人前として認めてもらいたんです。それで、もりもりさんに協力してもらいたい、と、そういう相談がしたかったのです」
「わかりました。そういうことなら、ぜひ、よろこんで」
もりもりさんは軽く息を吐き、ほっと胸を撫で下ろした。
「よかった。結婚に反対ということじゃないんですね?」
心から安心した顔をするもりもりさんだが、私は語気を強めながら言う。
「賛成はしていませんよ?」
私は少し口を尖らせていて、真顔にもなっていたと思う。
「…………え?」
もりもりさんは少しだけ怯えた顔をしていた。
「だって、まだ相手の女性を紹介してもらっていませんし、ネットではミランダ・モリスというわけのわからない女が相手だと噂をされていますけれど、どこのどんな女なのか、まったく知らないのです。噂では、野蛮だとか、120キロを超える巨漢だとか、ガサツだとか、戦闘狂だとか言われていますけれど」
「ちょ、ちょっと待ってください。全部、でたらめですよ!」
もりもりさんは身を乗り出して、懸命に否定する。
「まあ、お兄ちゃんにふさわしい女かどうか、妹の目から見定めてやろうと思っています。気に食わなければ、私のゴブリンソードで叩き切ってやります」
私は両手で剣を振り下ろすような仕草をする。
もりもりさんは、目を大きく開いて口を歪めながら声を漏らした。
「ええー!?」
まるで自分が叩き切られるかのような、悲痛な表情をしていた。
ここはチェーン店だし、いつもなら緊張するような店ではない。
友だちと一緒に入る時はなんとも思わないこの喫茶店も、1人で席に座っているといつもと違う店に変わる。
背伸びして頼んだアールグレイも、一口すすっただけで冷めてしまっていた。
私は待ち合わせの時間より早く来すぎていた。
もりもりさんがやってきたのは待ち合わせの10分前だった。
「もりもりさん、こっちです!!」
入口にその姿が見えたのと同時に、私は身を乗り出して手を振ってしまった。
いつもと違う緊張感が、私に大きな声を出させていた。
「え、あの……」
店内の注目は声を出した私よりも、もりもりさんに集まる。
少しきょろきょろと恥ずかしそうに周りを見回し、もりもりさんはすぐに私のことを見つけて小走りに走ってきた。
「春菜さん……おひさしぶりです……」
ダンジョンを脱出してから数日が経過しただけだが、まるで長い間あっていなかったように感じてしまう。
「おひさしぶりです。もりもりさん。今日は呼び出してしまってすみません。なんか、お互いダンジョンの外で会うのは初めてなので、変な感じですね」
年上との待ち合わせに、無意識に早口になってしまった。
私は今日は制服ではなく、ジーンズにTシャツのラフな格好だ。
もりもりさんもパンツスタイルだが、髪をアップにまとめ、半袖の白いブラウスを着ている。
私とは違って、大人のセンスを感じるもりもりさんだ。
髪は染めているのではなく地の色が金髪で、彫りの深い顔立ちはモデルやハリウッド女優を思わせる。
スタイルもよく、際立つ美貌のもりもりさんは店内でも目立つ存在だった。
「あー恥ずかしかった。春菜さん、大きな声を出すんですもの」
「ごめんなさい。もりもりさんの顔を見たら、つい、嬉しくなって」
「え? 本当ですか!?」
もりもりさんは機嫌良さそうに、華やかな笑顔を私に向ける。
私の言葉には、驚きながらも極端なほど喜んでいた。
「当たり前じゃないですか。私のことを危険を顧みずに助けに来てくれたんです。どんなに感謝しても足りません。それに……」
「それに……?」
もりもりさんは満面の笑みを浮かべながら、可愛らしく首を軽く傾けた。
椅子を引き、腰を掛けようとしている。
「もりもりさんだけです。打倒お兄ちゃんに協力してくれるのは」
「だ……打倒……?」
ぴたり、と手を止め動作を停止したが、そのまま何事もなかったかのように椅子に座った。
「お兄ちゃんを結婚させるわけにはいかないんですよ」
「……え。………………え? ええ!?」
椅子に座ったもりもりさんは、体をのけぞらせていた。
今度はこの世の終わりといった表情に変わっている。
今日はよく表情を変える人だなと思った。
少し怯えるように、もりもりさんは声を絞り出す。
「そういえば、春菜さん……。何かお話があるとかメールにありましたね……。やっぱり結婚について反対だということなのですか」
「結婚? 反対?」
私はもりもりさんの言葉の意味がわからず、首を傾げる。
「あれ? 違うのですか?」
もりもりさんは真顔に戻り、目をぱちぱちと瞬かせる。
私は昨日決めた目標について語り始める。
「お話したかったのは、今後のことです。私、目標を決めたんですよ。お兄ちゃんを超えるんです。でも、そのためにはお兄ちゃんの神王装備よりもっと強い装備を手に入れようと思いました。そしてその前に、なんとしてもお兄ちゃんにデバイスの見守り機能を解除してもらわないといけません」
「それが、結婚とどう関係が?」
「おかしいでしょうか? 保護者のような振る舞いをさせてしまっているこんな状態で、お兄ちゃんに結婚してもらうわけにはいかないという意味です」
「あ、そういうことですか。てっきり結婚に反対されているのかと」
もりもりさんは、どうやら勘違いしていたようだ。
私の「結婚させるわけにはいかない」という言葉の意味は、お兄ちゃんに保護者代わりをさせたままで結婚させてはいけないという意味だ。私は自立する必要がある。私のことなんて気にせずに結婚してもらいたいからだ。
「今すぐお兄ちゃんを超えるなんてことは無理ですけれど、せめて見守り機能くらいは解除して、一人前として認めてもらいたんです。それで、もりもりさんに協力してもらいたい、と、そういう相談がしたかったのです」
「わかりました。そういうことなら、ぜひ、よろこんで」
もりもりさんは軽く息を吐き、ほっと胸を撫で下ろした。
「よかった。結婚に反対ということじゃないんですね?」
心から安心した顔をするもりもりさんだが、私は語気を強めながら言う。
「賛成はしていませんよ?」
私は少し口を尖らせていて、真顔にもなっていたと思う。
「…………え?」
もりもりさんは少しだけ怯えた顔をしていた。
「だって、まだ相手の女性を紹介してもらっていませんし、ネットではミランダ・モリスというわけのわからない女が相手だと噂をされていますけれど、どこのどんな女なのか、まったく知らないのです。噂では、野蛮だとか、120キロを超える巨漢だとか、ガサツだとか、戦闘狂だとか言われていますけれど」
「ちょ、ちょっと待ってください。全部、でたらめですよ!」
もりもりさんは身を乗り出して、懸命に否定する。
「まあ、お兄ちゃんにふさわしい女かどうか、妹の目から見定めてやろうと思っています。気に食わなければ、私のゴブリンソードで叩き切ってやります」
私は両手で剣を振り下ろすような仕草をする。
もりもりさんは、目を大きく開いて口を歪めながら声を漏らした。
「ええー!?」
まるで自分が叩き切られるかのような、悲痛な表情をしていた。
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