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新しいダンジョン
第112話 目標を決める
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霧島夫婦と話しているうちに、私の漠然としていた悩みが具体的な形を持ち始めた。
夫婦とはこのあと少し話し、連絡先を交換したあとで別れた。
2人が見えなくなるまで私は手を振っていたが、霧島夫婦は心配そうに何度か振り返っていた。長い通路の先で夫婦は角を曲がり、姿が見えなくなった。
私は夫婦との会話を思い出す。
高い目標を持つといいと言われた……。
ぱっと頭に思い浮かんだのはお兄ちゃんのことだ。
私の持つこのダンジョンデバイスはお兄ちゃんから制限をかけられている。
お父さんもお母さんもダンジョンには無頓着だし、ワールドランク2位のお兄ちゃんが保護者顔で私のデバイスに見守り機能を設定するのも当然のことだろう。私もそれを当然のことのように受け入れていた。
もちろん私の知識と実力では仕方ないし、今はそれでいいと思う。
けれど、私ももう中学2年生だ。
大人ではないかも知れないけれど、子供扱いもされたくはない。
ハンターとしても成長して、一人前として認めてもらいたい。
ダンジョンの地下13階層。
レッサーウルフの死体のそばに座り込んで考え込む。
「高い目標か……」
独り言のように呟いた。
夫婦との会話を聞いていた視聴者たちは、自由にコメントを書き込んでいた。
■みんなでハルナっちの目標を考えよう
■ダンジョン一のお笑い芸人を目指す
■ハルナっちなら、本気でダンジョンアイドル目指せるよ
■いや、やはり強さを極めるべきでしょう。ジャパンランキングを上げていこうよ。
■220階層を踏破したネームバリューは大きい。それを利用するのは?
■テレビ出演して、ダンジョン解説者を目指すとか
■ぶっちゃけ、これまで獲得したアイテムを全部売れば金持ちになれるのでは?
■お金目的でダンジョンに籠もる人もいるね。10億円貯めてハンター引退を目指す?
「高い目標……高い目標……高い目標……」
私は念仏のように同じ言葉を繰り返していた。
■ハルナっちが真剣に考えている
■雨が降るんじゃないのか?
■いまだかつて、ダンジョンに雨が降ったことはない
■ハルナっちなら、ダンジョンに雨を降らせることもできるのか?
■知恵熱で水蒸気を発生させ、雨雲を呼び起こし……
■ハルナっちは頭がいいから、知恵熱なんて出ないよ。たぶん
視聴者たちは私のことをからかうが、コメントの内容が頭に入ってこない。
私はお兄ちゃんのことで頭がいっぱいになっていた。
今はお兄ちゃんに見守り機能を設定されてしまっている。
これがすべての元凶だ。
やはり目標が必要だ。
「高い目標――。うん、決めた。お兄ちゃんにこのデバイスの制限を解除してもらう」
■……
■……
■……
「あれ? コメント欄が……」
まるで視聴者の思考が止まってしまったかのように、コメント欄も静かになった。
少し待つと、以前と同様にコメントが流れ出す。
■それって、高い目標なの?
■まあ、ハルナっちにとっては高いのかな?
■うーん、俺たちにはわからないことだけれど、ハルナっちにとってはそうなんだろうね……
視聴者は戸惑っていたが、デバイスの見守り機能を解除してもらうことが直接の目標ではなかった。
私が決めた高い目標――。
それは、お兄ちゃんが持つ神王装備を超える装備を手に入れることだった。
仮にお兄ちゃんよりも強くなろうと思ったとして、神王装備もなく、お兄ちゃんから50階層以下へ降りることを禁止されている今の状況では到底不可能だ。
例えばワールドランク2位のお兄ちゃんを超え、1位のミランダさんを超えるとなると、途方もない経験値を獲得する必要がある。
私が220階層まで到達して、かなりの経験値を得たが、それでもレベルは71までしか上がらなかった。ミランダさんのようなレベル87に到達するのはどうしても時間がかかる。
一番重要なのは、装備だと思った。
私がレベル71になることができたのは、お兄ちゃんの神王装備を持ち出したからだ。それと、無謀とも思える212~220階層での戦いによるもの。
まずはお兄ちゃんにデバイスの制限を解除してもらうこと。
そして、次に……
神王装備を超える装備を手に入れる……
もしかしたら、とてつもなく高い目標を設定してしまったかも知れない。
それにしても、お兄ちゃんはいったいどうやって神王装備を手に入れたのだろうか?
しかも、【神王の兜】【神王の鎧】【神王の小手】【神王のブーツ】【神王の盾】【神王のネックレス】【神王の長剣】のフルセットだ。
超レアクラスのアイテムを7点セットで所持していた。
すべてを自分で手に入れたとは限らないし、一部を購入したのかもしれない。
もしくは仲間と一緒にパーティで行動して手に入れたのかも知れない。
私はお兄ちゃんが神王装備を手に入れた経緯を何も知らなかった。
そういえば、私のことを助けに来てくれたもりもりさん。もりもりさんはお兄ちゃんと親しそうだったし、神王装備のことも知っている様子だった。
ダンジョンから脱出したときのことを思い出す。
そうだ。
220階層から脱出する時、最後はもりもりさんが神王装備を身に着けていた。
なんとなく気になっていたが、初めて使うとは思えないほど馴染んでいたし、すぐに使いこなしていた気もした。
もりもりさんは、きっと神王装備について何かを知っているはずだ。
「もりもりさんに相談してみようかな……」
お兄ちゃんのことと、神王装備のこと。
相談するには、もりもりさん以外にはいなかった。
私はさっそく、もりもりさんに連絡することにした。
夫婦とはこのあと少し話し、連絡先を交換したあとで別れた。
2人が見えなくなるまで私は手を振っていたが、霧島夫婦は心配そうに何度か振り返っていた。長い通路の先で夫婦は角を曲がり、姿が見えなくなった。
私は夫婦との会話を思い出す。
高い目標を持つといいと言われた……。
ぱっと頭に思い浮かんだのはお兄ちゃんのことだ。
私の持つこのダンジョンデバイスはお兄ちゃんから制限をかけられている。
お父さんもお母さんもダンジョンには無頓着だし、ワールドランク2位のお兄ちゃんが保護者顔で私のデバイスに見守り機能を設定するのも当然のことだろう。私もそれを当然のことのように受け入れていた。
もちろん私の知識と実力では仕方ないし、今はそれでいいと思う。
けれど、私ももう中学2年生だ。
大人ではないかも知れないけれど、子供扱いもされたくはない。
ハンターとしても成長して、一人前として認めてもらいたい。
ダンジョンの地下13階層。
レッサーウルフの死体のそばに座り込んで考え込む。
「高い目標か……」
独り言のように呟いた。
夫婦との会話を聞いていた視聴者たちは、自由にコメントを書き込んでいた。
■みんなでハルナっちの目標を考えよう
■ダンジョン一のお笑い芸人を目指す
■ハルナっちなら、本気でダンジョンアイドル目指せるよ
■いや、やはり強さを極めるべきでしょう。ジャパンランキングを上げていこうよ。
■220階層を踏破したネームバリューは大きい。それを利用するのは?
■テレビ出演して、ダンジョン解説者を目指すとか
■ぶっちゃけ、これまで獲得したアイテムを全部売れば金持ちになれるのでは?
■お金目的でダンジョンに籠もる人もいるね。10億円貯めてハンター引退を目指す?
「高い目標……高い目標……高い目標……」
私は念仏のように同じ言葉を繰り返していた。
■ハルナっちが真剣に考えている
■雨が降るんじゃないのか?
■いまだかつて、ダンジョンに雨が降ったことはない
■ハルナっちなら、ダンジョンに雨を降らせることもできるのか?
■知恵熱で水蒸気を発生させ、雨雲を呼び起こし……
■ハルナっちは頭がいいから、知恵熱なんて出ないよ。たぶん
視聴者たちは私のことをからかうが、コメントの内容が頭に入ってこない。
私はお兄ちゃんのことで頭がいっぱいになっていた。
今はお兄ちゃんに見守り機能を設定されてしまっている。
これがすべての元凶だ。
やはり目標が必要だ。
「高い目標――。うん、決めた。お兄ちゃんにこのデバイスの制限を解除してもらう」
■……
■……
■……
「あれ? コメント欄が……」
まるで視聴者の思考が止まってしまったかのように、コメント欄も静かになった。
少し待つと、以前と同様にコメントが流れ出す。
■それって、高い目標なの?
■まあ、ハルナっちにとっては高いのかな?
■うーん、俺たちにはわからないことだけれど、ハルナっちにとってはそうなんだろうね……
視聴者は戸惑っていたが、デバイスの見守り機能を解除してもらうことが直接の目標ではなかった。
私が決めた高い目標――。
それは、お兄ちゃんが持つ神王装備を超える装備を手に入れることだった。
仮にお兄ちゃんよりも強くなろうと思ったとして、神王装備もなく、お兄ちゃんから50階層以下へ降りることを禁止されている今の状況では到底不可能だ。
例えばワールドランク2位のお兄ちゃんを超え、1位のミランダさんを超えるとなると、途方もない経験値を獲得する必要がある。
私が220階層まで到達して、かなりの経験値を得たが、それでもレベルは71までしか上がらなかった。ミランダさんのようなレベル87に到達するのはどうしても時間がかかる。
一番重要なのは、装備だと思った。
私がレベル71になることができたのは、お兄ちゃんの神王装備を持ち出したからだ。それと、無謀とも思える212~220階層での戦いによるもの。
まずはお兄ちゃんにデバイスの制限を解除してもらうこと。
そして、次に……
神王装備を超える装備を手に入れる……
もしかしたら、とてつもなく高い目標を設定してしまったかも知れない。
それにしても、お兄ちゃんはいったいどうやって神王装備を手に入れたのだろうか?
しかも、【神王の兜】【神王の鎧】【神王の小手】【神王のブーツ】【神王の盾】【神王のネックレス】【神王の長剣】のフルセットだ。
超レアクラスのアイテムを7点セットで所持していた。
すべてを自分で手に入れたとは限らないし、一部を購入したのかもしれない。
もしくは仲間と一緒にパーティで行動して手に入れたのかも知れない。
私はお兄ちゃんが神王装備を手に入れた経緯を何も知らなかった。
そういえば、私のことを助けに来てくれたもりもりさん。もりもりさんはお兄ちゃんと親しそうだったし、神王装備のことも知っている様子だった。
ダンジョンから脱出したときのことを思い出す。
そうだ。
220階層から脱出する時、最後はもりもりさんが神王装備を身に着けていた。
なんとなく気になっていたが、初めて使うとは思えないほど馴染んでいたし、すぐに使いこなしていた気もした。
もりもりさんは、きっと神王装備について何かを知っているはずだ。
「もりもりさんに相談してみようかな……」
お兄ちゃんのことと、神王装備のこと。
相談するには、もりもりさん以外にはいなかった。
私はさっそく、もりもりさんに連絡することにした。
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