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ダンジョン部の姫

第101話 オーガ戦の終焉

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「あたいが保険をかけておいてよかったねえ」
「まさか、1人も殺さずにやられるとはな」
 
 全身を漆黒の鎧で包んだ2人組が入ってきた。顔は兜で隠されている。
 口調から1人は女性であると思われた。

 オーガがゆっくりと立ち上がる。
 肌はどす黒く変色しており、腕はだらんと垂れ下がっている。 

「このはオーガゾンビ。このオーガゾンビちゃんは、あたいの下僕だよ。なんでも言う事を聞いてくれちゃうかわいい

「おい、遊んでいる暇はない。警備隊が来る前にさっさとやるぞ」

「この階層にいるハンターたちじゃあ。相手にならないよねえ。今から地獄を演出するから覚悟をしてねえ。ここは血の海になるからさあ」

 女の言葉に、私たち14人は一斉に彼らを囲んだ。

 包囲したのはオーガゾンビと黒尽くめの男女。
 その女が片手を上げた。

 緩慢な動きをしていたオーガゾンビは急に機敏に動き出した。
 巨体とはとても思えない速さで腕と脚を振るう。

 石や岩が暴れまくるように飛ぶ。私たちを含め、周囲のハンターたちを襲った。オーガゾンビの直撃こそ受けていないが、ハンターの何人かが岩に被弾してしまった。うめき声を上げながら、崩れ落ちる。

「くそ、回復しながら戦え!」
「ポーションだ。ポーションを」
「治癒ポーションはもうない!」
「誰か、ポーションを!」

 顔や胸や腹に傷を負ったハンターがいた。血を流してうずくまる者もいる。
 幸いなことに、ダンジョン部の部員に被害者はいない。

「まずいことに……」
「大変でござる」

 私たちに睨みを効かせながら、黒い鎧の女性が苛立つように言葉を吐いた。

「てめーら、みんな殺すから。大赤字なんだよ、くそ野郎が。ゾンビ化クリスタルはめったに手に入らねえんだ。ああ、いらつく。あたいにレアアイテムを使わせやがって」

 この黒い鎧の男女がオーガを放った首謀者に違いなかった。
 私はオーガゾンビを無視して、女のところへと一気に距離を詰める。

 時間をかけるつもりはなかった。短時間でかたをつける。
 オーガゾンビを倒す必要はない。司令塔を倒せばそれで済む話だ。

「それって、ゾンビ化クリスタル?」 

 私は女の前で訊ねる。少しいじわるっぽい表情を意識して作る。
 わざと、ニヤリと笑みを作った。

「なんだ、てめえは?」

 質問には応えず、デバイスを操作する。

「あ、これですか? これのこと?」

 20個ほどのクリスタルを実体化して両手に持つ。持ちきれずにいくつかは落ちてしまった。

「な!? どうしてお前がそれを!?」

「ここには20個しかありませんが。218階層あたりで、いくらでも手に入りましたよ」

「2、20個だと!? それに、218階層!? バカ言ってんじゃ……」

 デバイスを操作し、クリスタルを発動させる。ゾンビ化クリスタルは光の粒子となって、煌めきながら霧散する。

 死んでいたコボルドたちが立ち上がる。

 コボルド・ゾンビの誕生だ。
 20体のゾンビが生まれていた。

「コ、コ、コボルド・ゾンビなんざ敵じゃねえわあ!」

 女は叫びながらオーガゾンビを操る。
 オーガゾンビが棍棒をふるい、コボルド・ゾンビを叩き潰していく。コボルド・ゾンビはたいした強さではなかったが、それは問題ではなかった。
 攻撃対象がハンターに向かなければそれでよかった。

 倒しても、倒しても、立ち上がるコボルド・ゾンビ。
 私は指先だけの操作で、対応をしていた。 

「ふ、ふざけんじゃねえ! 貴様なんて、ぶち殺す!」
「お前から先に殺してやる!」

 黒い鎧の男女は私を直接攻撃することにしたようだ。剣を抜いて襲ってきた。

「もう遅いと思いますよ」

 のんびり言いながら、私は部屋の入口に視線を向ける。

 そこからドローンが飛んでくる。

天橋立あまのはしだてユカリスが来たのじゃあ」

 飛んできたのは5機のドローン。続けてやってきたユカリスさん。ちっちゃくて可愛い、マスコットのような存在。

「筑紫春菜ぁ~。捕まえるのじゃあ。殺すなよお。生け捕りにするんじゃぞ」

「わかりました!」

 持っていた棍棒の中ほどを素早く握り直し、男女の腹へ1撃ずつ叩き込んだ。
 2人とも口から汚物を撒き散らしながら、腹を押さえて倒れ込む。
 司令塔が沈黙したオーガゾンビも動きを止めた。

「たった、2撃!」

 どこかのハンターが叫んでいた。

「よくやったのじゃあ。こいつらはPKの常連。やっと尻尾をつかんだぞお。死刑は確定なのじゃあ」

 遅れてやってきたのは、警備隊。大きな音を立て、続々とやってきた。
 大勢が一気にこの部屋になだれ込んできて、黒尽くめの男女を捕らえた。
 黒い兜を引き剥がし、素顔があらわになる。
 2人も悔しそうにうなだれていた。

 周囲には怪我人がいた。何人かは横になっている。

「おい、こっちに怪我人がいる! 誰か! 助けてくれ!」
「こっちもだ! こっちも重症だ!」
「いや、こっちのほうが……」

 私たち以外には8人のハンターがいた。そのうち5人が怪我をしていた。

「どうしましょう、神域治癒ゴッズ級ヒーリングポーションはあと3本しかありません……」

 私は深紅に染まるポーションを3本実体化する。

「――ぶほっ!」

 石田さんが噴き出す。

「あ、あれが……さ、三本もあるのでござるか……」

超級治癒スーパー・ヒーリングポーションも15本しかありません」

 ガチャガチャと音を立てて実体化した赤いポーション。その数は15本。

「それ、1本で100万DPはするやつ……」

 部長はおでこを手で押さえ、まるでめまいでもしているかのようにふらついていた。

「大丈夫じゃあ。全部こっちで面倒をみるのじゃあ」

 ユカリスさんは、のんびりとした口調で言った。
 怪我をしていたハンターたちは警備隊が対応していた。中級治癒ポーションを使っていたようだ。

 どうやらみんな、それほど致命的な怪我ではなかったらしい。

 首謀者の男女は警備隊が連れていき、すでにこの部屋にはいなかった。
 私たちが談笑していると、通路で助けた2人のハンターが近寄ってきた。

「あ、あの……」

「ああ、先ほどのハンターの方ですね。お怪我が治ったようでよかったです」

 私は2人に顔を向ける。

「本当にありがとうございました」

 男性のほうが深く頭を下げた。

「恋人の命を助けていただきました。本当に、本当に、深くお礼を申し上げます。あなたがいなかったら、彼女は……恵美はいまごろこの場にいませんでした」

「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらよいのか」

 女性も男性と同じように頭を下げた。

「それで、お礼は改めてさせていただきたいと思いますが、せめてポーション代だけでも……」

 
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