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ダンジョン部の姫
第99話 オーガ戦が始まる
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現在は電波障害により、ダンジョンデバイスのマッピングアプリが機能していない。私たちは耳を頼りに、オーガを探すことになる。
巨体のオーガは洞窟内を無理矢理に通っているようだ。あちこちで壁が崩れていた。
岩のかけらが地面にたくさん転がっており、走っている私たちは足をすくわれないように気をつけなければならない。
「音が大きい。近くにいるはずだ。いきなり戦闘に巻き込まれないように注意しよう」
走りながら言う部長の言葉に、私を含めた5人が頷く。
曲がり角を左に折れた先、開けたエリアに出た。
壮絶な光景だった。混戦になっている。
体育館よりも少し狭いくらいのこの場所は天井がとても高かった。
中央にいるのはおそらくオーガ。
深緑の肌に、筋肉質の肉体。大木を思わせる太い棍棒を振り回している。
モンスターはオーガだけではなかった。
おそらく集まってしまったのだろう。かなりの数のコボルドがいる。10体? いやそれ以上だ。
戦っているハンターは6人。連携の取り方からして、3人ずつの別パーティだと思われた。
ハンターたちは盾や魔法による防壁で守りながら戦っていた。敵の多さに、防戦一方といった様子だった。
「僕たちも加勢します!」
部長は叫びながら突入する。私たちも遅れずについていく。
「助かる! コボルドをなんとかしてくれ! 対応しきれない!」
私が想定していたのはオーガ単体との戦闘だった。
ダンジョン部の部員と他のハンターたちのパーティで挑むことを考えていた。
ここにたくさんのコボルドまでが集まっていたのは想定外だった。
「よし、弓でこちらに引き付けるんだ。コボルドを彼らから引き剥がそう」
部長が盾を構え、その両脇にいる葛城さんと椎名さんが弓を打つ。
3体のコボルドがこちらに向かってきた。
「任せるでござる。コボルドなんて敵ではないであるよ」
石田さんと九条さんが剣で斬りかかる。コボルドの持つ棍棒はそれほど太くはないが、剣で受けるわけにはいかない。2人は身を翻しながら、華麗に避けていた。
私はといえば、刀身がなくなったゴブリンソードの柄を握っているだけだ。
これでいったい何ができようか。
投げてぶつける?
ろくな武器を持たないレベル71の私が、一番の役立たずだった。
「私は何を……しようか……」
武器がないために、私はおたおたとしてしまう。
「姫は待機していてくだされ。守りきれないのでござるからして」
石田さんはコボルドとの交戦中だ。1対1の戦いに持ち込んでいるが、簡単に倒せる相手ではない。
棍棒によるダメージを受けるわけにはいかない。避けつつ斬りつけているので、なかなか致命傷を与えられずにいる。
他の2人も同様だった。
部長と九条さんが1対1でコボルドと戦っている。
葛城さんと椎名さんは弓で援護をしようとしているが、接近戦になっているためにその機会を伺っていることしかできない。
「コボルド3体が……本当にぎりぎりだな……」
部長はコボルドの棍棒を盾で受け、剣で対抗しながらやっとのように口を開いていた。
「コボルドでこれでござる。これがオーガともなれば……。どうやって戦うのでござるか……?」
石田さんもまだ苦戦していた。
何もできない私は本当にもどかしかった。
武器さえあれば……
私だって……
「うりゃああああ!」
九条さんの水平斬りがコボルドの腹を切り裂いた。
コボルドは血を流しながら、仰向けに後ろへと倒れていく。
「1匹倒したぞ! そっちに加勢する!」
「頼むでござる」
これでコボルド2体を3人の前衛で相手することになった。
私は倒れて絶命したコボルドを見る。
その手には武器の棍棒が握られている。
「よし! 私も参戦します!」
叫びながら、コボルドが握っていた棍棒を拾い上げる。
「姫! 助かりまする!」
エリアの中央では、先にいたハンターたちとオーガとの戦闘が行われていた。
地面からは岩が伸びている。オーガの持つ巨大な棍棒はその岩に当たるとたくさんの石礫をまきちらす。
私たちの方へもいくつかの石が飛んできていた。
「危ない!」
ハンターの1人が叫んだ。
こちらに向かってかなり大きな岩が飛んでくる。
私は棍棒を手にし、駆ける。
身体を半身にし、部長の真横で止まる。左足を一歩、大きく踏み出し、棍棒を振りかぶる。
野球のバットを振る要領で大きく引いて、ぶうーんと振る。
私の正面、おヘソの前あたりで岩は棍棒にクリーンヒット。そのままの勢いで振り抜いた。
ガッキーンといい音を立て、岩は砕けながら飛んでいく。
斜め上方。30度くらいの角度。
場外ホームランを意識してふっとばした岩はいくつかの破片を撒き散らしながら、一直線に飛んでいく。
たまたまこちらに顔を向けたオーガ。
3mにも迫る巨体。
その額にがっこーんと岩がぶち当たる。
鋭い眼光がこちらを刺す。
私は完全にオーガのターゲットとなった。
天井まで届くかと思うほどに目を吊り上げ、オーガは口元を大きく歪ませている。
ずしん、と地響きを立てながら、こちらに一歩を踏み出す。
『――ガアアアアアッッッ!!』
咆哮を洞窟中に響かせながら、オーガはこちらに向かってきた。
大きく腕を振り上げ、巨大な棍棒が持ち上がる。
「散れ! 散るんだ!」
部長は叫び、ダンジョン部の部員たちは飛び退くように私から離れる。
オーガの棍棒が迫ってくる。ターゲットとしている私に向かって、一直線に振り下ろされる。
私も逃げてしまいたかったが、これは好機だった。
ぎりぎりのぎりぎりまで棍棒を引きつけ、衝突する寸前に回避する。
激しい音を立て、地面に叩きつけられた棍棒はたくさんの石を撒き散らした。
私はその飛んだ石を、また野球のノックの要領で打った。
今回オーガに向かった石はとても小さかったが、見事に額にヒット。
オーガはピクピクと頬を引きつらせ、怒りをマックスにしていた。
「姫! 危ないでござる! 逃げてくだされ!」
石田さんが少し離れた場所で叫んでいた。
「私がオーガを引きつけておくので、みんなでコボルドを倒してください!」
弱いモンスターを先に倒しておくことはセオリーだ。相手の総力を減らすことになるからだ。
先にこの場所にいたハンターたちはそのことがわかっているようだった。
私の言葉に従い、オーガからコボルドへとターゲットを変更していた。
ところがダンジョン部の部員は違った。
「春菜さんを守らなきゃ!」
「姫を守るでござる」
「姫!」
「姫を!」
「姫ぇ!」
全員が私の前に集結し、囲むように弧を描いた。
巨体のオーガは洞窟内を無理矢理に通っているようだ。あちこちで壁が崩れていた。
岩のかけらが地面にたくさん転がっており、走っている私たちは足をすくわれないように気をつけなければならない。
「音が大きい。近くにいるはずだ。いきなり戦闘に巻き込まれないように注意しよう」
走りながら言う部長の言葉に、私を含めた5人が頷く。
曲がり角を左に折れた先、開けたエリアに出た。
壮絶な光景だった。混戦になっている。
体育館よりも少し狭いくらいのこの場所は天井がとても高かった。
中央にいるのはおそらくオーガ。
深緑の肌に、筋肉質の肉体。大木を思わせる太い棍棒を振り回している。
モンスターはオーガだけではなかった。
おそらく集まってしまったのだろう。かなりの数のコボルドがいる。10体? いやそれ以上だ。
戦っているハンターは6人。連携の取り方からして、3人ずつの別パーティだと思われた。
ハンターたちは盾や魔法による防壁で守りながら戦っていた。敵の多さに、防戦一方といった様子だった。
「僕たちも加勢します!」
部長は叫びながら突入する。私たちも遅れずについていく。
「助かる! コボルドをなんとかしてくれ! 対応しきれない!」
私が想定していたのはオーガ単体との戦闘だった。
ダンジョン部の部員と他のハンターたちのパーティで挑むことを考えていた。
ここにたくさんのコボルドまでが集まっていたのは想定外だった。
「よし、弓でこちらに引き付けるんだ。コボルドを彼らから引き剥がそう」
部長が盾を構え、その両脇にいる葛城さんと椎名さんが弓を打つ。
3体のコボルドがこちらに向かってきた。
「任せるでござる。コボルドなんて敵ではないであるよ」
石田さんと九条さんが剣で斬りかかる。コボルドの持つ棍棒はそれほど太くはないが、剣で受けるわけにはいかない。2人は身を翻しながら、華麗に避けていた。
私はといえば、刀身がなくなったゴブリンソードの柄を握っているだけだ。
これでいったい何ができようか。
投げてぶつける?
ろくな武器を持たないレベル71の私が、一番の役立たずだった。
「私は何を……しようか……」
武器がないために、私はおたおたとしてしまう。
「姫は待機していてくだされ。守りきれないのでござるからして」
石田さんはコボルドとの交戦中だ。1対1の戦いに持ち込んでいるが、簡単に倒せる相手ではない。
棍棒によるダメージを受けるわけにはいかない。避けつつ斬りつけているので、なかなか致命傷を与えられずにいる。
他の2人も同様だった。
部長と九条さんが1対1でコボルドと戦っている。
葛城さんと椎名さんは弓で援護をしようとしているが、接近戦になっているためにその機会を伺っていることしかできない。
「コボルド3体が……本当にぎりぎりだな……」
部長はコボルドの棍棒を盾で受け、剣で対抗しながらやっとのように口を開いていた。
「コボルドでこれでござる。これがオーガともなれば……。どうやって戦うのでござるか……?」
石田さんもまだ苦戦していた。
何もできない私は本当にもどかしかった。
武器さえあれば……
私だって……
「うりゃああああ!」
九条さんの水平斬りがコボルドの腹を切り裂いた。
コボルドは血を流しながら、仰向けに後ろへと倒れていく。
「1匹倒したぞ! そっちに加勢する!」
「頼むでござる」
これでコボルド2体を3人の前衛で相手することになった。
私は倒れて絶命したコボルドを見る。
その手には武器の棍棒が握られている。
「よし! 私も参戦します!」
叫びながら、コボルドが握っていた棍棒を拾い上げる。
「姫! 助かりまする!」
エリアの中央では、先にいたハンターたちとオーガとの戦闘が行われていた。
地面からは岩が伸びている。オーガの持つ巨大な棍棒はその岩に当たるとたくさんの石礫をまきちらす。
私たちの方へもいくつかの石が飛んできていた。
「危ない!」
ハンターの1人が叫んだ。
こちらに向かってかなり大きな岩が飛んでくる。
私は棍棒を手にし、駆ける。
身体を半身にし、部長の真横で止まる。左足を一歩、大きく踏み出し、棍棒を振りかぶる。
野球のバットを振る要領で大きく引いて、ぶうーんと振る。
私の正面、おヘソの前あたりで岩は棍棒にクリーンヒット。そのままの勢いで振り抜いた。
ガッキーンといい音を立て、岩は砕けながら飛んでいく。
斜め上方。30度くらいの角度。
場外ホームランを意識してふっとばした岩はいくつかの破片を撒き散らしながら、一直線に飛んでいく。
たまたまこちらに顔を向けたオーガ。
3mにも迫る巨体。
その額にがっこーんと岩がぶち当たる。
鋭い眼光がこちらを刺す。
私は完全にオーガのターゲットとなった。
天井まで届くかと思うほどに目を吊り上げ、オーガは口元を大きく歪ませている。
ずしん、と地響きを立てながら、こちらに一歩を踏み出す。
『――ガアアアアアッッッ!!』
咆哮を洞窟中に響かせながら、オーガはこちらに向かってきた。
大きく腕を振り上げ、巨大な棍棒が持ち上がる。
「散れ! 散るんだ!」
部長は叫び、ダンジョン部の部員たちは飛び退くように私から離れる。
オーガの棍棒が迫ってくる。ターゲットとしている私に向かって、一直線に振り下ろされる。
私も逃げてしまいたかったが、これは好機だった。
ぎりぎりのぎりぎりまで棍棒を引きつけ、衝突する寸前に回避する。
激しい音を立て、地面に叩きつけられた棍棒はたくさんの石を撒き散らした。
私はその飛んだ石を、また野球のノックの要領で打った。
今回オーガに向かった石はとても小さかったが、見事に額にヒット。
オーガはピクピクと頬を引きつらせ、怒りをマックスにしていた。
「姫! 危ないでござる! 逃げてくだされ!」
石田さんが少し離れた場所で叫んでいた。
「私がオーガを引きつけておくので、みんなでコボルドを倒してください!」
弱いモンスターを先に倒しておくことはセオリーだ。相手の総力を減らすことになるからだ。
先にこの場所にいたハンターたちはそのことがわかっているようだった。
私の言葉に従い、オーガからコボルドへとターゲットを変更していた。
ところがダンジョン部の部員は違った。
「春菜さんを守らなきゃ!」
「姫を守るでござる」
「姫!」
「姫を!」
「姫ぇ!」
全員が私の前に集結し、囲むように弧を描いた。
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