お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~勝手に持ち出した装備は84億円でした。レベル1なのに迷宮の最下層で動画をバズらせます~

高瀬ユキカズ

文字の大きさ
上 下
99 / 241
ダンジョン部の姫

第99話 オーガ戦が始まる

しおりを挟む
  現在は電波障害により、ダンジョンデバイスのマッピングアプリが機能していない。私たちは耳を頼りに、オーガを探すことになる。
 
 巨体のオーガは洞窟内を無理矢理に通っているようだ。あちこちで壁が崩れていた。

 岩のかけらが地面にたくさん転がっており、走っている私たちは足をすくわれないように気をつけなければならない。

「音が大きい。近くにいるはずだ。いきなり戦闘に巻き込まれないように注意しよう」

 走りながら言う部長の言葉に、私を含めた5人が頷く。

 曲がり角を左に折れた先、開けたエリアに出た。

 壮絶な光景だった。混戦になっている。
 体育館よりも少し狭いくらいのこの場所は天井がとても高かった。

 中央にいるのはおそらくオーガ。
 深緑の肌に、筋肉質の肉体。大木を思わせる太い棍棒を振り回している。

 モンスターはオーガだけではなかった。
 おそらく集まってしまったのだろう。かなりの数のコボルドがいる。10体? いやそれ以上だ。

 戦っているハンターは6人。連携の取り方からして、3人ずつの別パーティだと思われた。

 ハンターたちは盾や魔法による防壁で守りながら戦っていた。敵の多さに、防戦一方といった様子だった。

「僕たちも加勢します!」

 部長は叫びながら突入する。私たちも遅れずについていく。

「助かる! コボルドをなんとかしてくれ! 対応しきれない!」

 私が想定していたのはオーガ単体との戦闘だった。
 ダンジョン部の部員と他のハンターたちのパーティで挑むことを考えていた。

 ここにたくさんのコボルドまでが集まっていたのは想定外だった。

「よし、弓でこちらに引き付けるんだ。コボルドを彼らから引き剥がそう」

 部長が盾を構え、その両脇にいる葛城さんと椎名さんが弓を打つ。
 3体のコボルドがこちらに向かってきた。

「任せるでござる。コボルドなんて敵ではないであるよ」

 石田さんと九条さんが剣で斬りかかる。コボルドの持つ棍棒はそれほど太くはないが、剣で受けるわけにはいかない。2人は身を翻しながら、華麗に避けていた。

 私はといえば、刀身がなくなったゴブリンソードの柄を握っているだけだ。
 これでいったい何ができようか。
 投げてぶつける?
 ろくな武器を持たないレベル71の私が、一番の役立たずだった。

「私は何を……しようか……」

 武器がないために、私はおたおたとしてしまう。

「姫は待機していてくだされ。守りきれないのでござるからして」

 石田さんはコボルドとの交戦中だ。1対1の戦いに持ち込んでいるが、簡単に倒せる相手ではない。
 棍棒によるダメージを受けるわけにはいかない。避けつつ斬りつけているので、なかなか致命傷を与えられずにいる。

 他の2人も同様だった。
 部長と九条さんが1対1でコボルドと戦っている。

 葛城さんと椎名さんは弓で援護をしようとしているが、接近戦になっているためにその機会を伺っていることしかできない。

「コボルド3体が……本当にぎりぎりだな……」

 部長はコボルドの棍棒を盾で受け、剣で対抗しながらやっとのように口を開いていた。

「コボルドでこれでござる。これがオーガともなれば……。どうやって戦うのでござるか……?」

 石田さんもまだ苦戦していた。

 何もできない私は本当にもどかしかった。
 武器さえあれば……
 私だって……

「うりゃああああ!」

 九条さんの水平斬りがコボルドの腹を切り裂いた。
 コボルドは血を流しながら、仰向けに後ろへと倒れていく。

「1匹倒したぞ! そっちに加勢する!」
「頼むでござる」

 これでコボルド2体を3人の前衛で相手することになった。

 私は倒れて絶命したコボルドを見る。
 その手には武器の棍棒が握られている。

「よし! 私も参戦します!」

 叫びながら、コボルドが握っていた棍棒を拾い上げる。

「姫! 助かりまする!」

 エリアの中央では、先にいたハンターたちとオーガとの戦闘が行われていた。

 地面からは岩が伸びている。オーガの持つ巨大な棍棒はその岩に当たるとたくさんの石礫をまきちらす。

 私たちの方へもいくつかの石が飛んできていた。

「危ない!」

 ハンターの1人が叫んだ。

 こちらに向かってかなり大きな岩が飛んでくる。

 私は棍棒を手にし、駆ける。
 身体を半身にし、部長の真横で止まる。左足を一歩、大きく踏み出し、棍棒を振りかぶる。
 野球のバットを振る要領で大きく引いて、ぶうーんと振る。
 私の正面、おヘソの前あたりで岩は棍棒にクリーンヒット。そのままの勢いで振り抜いた。

 ガッキーンといい音を立て、岩は砕けながら飛んでいく。
 斜め上方。30度くらいの角度。
 場外ホームランを意識してふっとばした岩はいくつかの破片を撒き散らしながら、一直線に飛んでいく。

 たまたまこちらに顔を向けたオーガ。
 3mにも迫る巨体。

 その額にがっこーんと岩がぶち当たる。
 鋭い眼光がこちらを刺す。

 私は完全にオーガのターゲットとなった。

 天井まで届くかと思うほどに目を吊り上げ、オーガは口元を大きく歪ませている。
 ずしん、と地響きを立てながら、こちらに一歩を踏み出す。

『――ガアアアアアッッッ!!』

 咆哮を洞窟中に響かせながら、オーガはこちらに向かってきた。
 大きく腕を振り上げ、巨大な棍棒が持ち上がる。

「散れ! 散るんだ!」

 部長は叫び、ダンジョン部の部員たちは飛び退くように私から離れる。

 オーガの棍棒が迫ってくる。ターゲットとしている私に向かって、一直線に振り下ろされる。
 私も逃げてしまいたかったが、これは好機だった。
 
 ぎりぎりのぎりぎりまで棍棒を引きつけ、衝突する寸前に回避する。
 激しい音を立て、地面に叩きつけられた棍棒はたくさんの石を撒き散らした。

 私はその飛んだ石を、また野球のノックの要領で打った。
 今回オーガに向かった石はとても小さかったが、見事に額にヒット。

 オーガはピクピクと頬を引きつらせ、怒りをマックスにしていた。

「姫! 危ないでござる! 逃げてくだされ!」

 石田さんが少し離れた場所で叫んでいた。

「私がオーガを引きつけておくので、みんなでコボルドを倒してください!」

 弱いモンスターを先に倒しておくことはセオリーだ。相手の総力を減らすことになるからだ。

 先にこの場所にいたハンターたちはそのことがわかっているようだった。
 私の言葉に従い、オーガからコボルドへとターゲットを変更していた。

 ところがダンジョン部の部員は違った。

「春菜さんを守らなきゃ!」
「姫を守るでござる」
「姫!」
「姫を!」
「姫ぇ!」

 全員が私の前に集結し、囲むように弧を描いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

処理中です...