86 / 241
ダンジョン部の姫
第86話 3階のショップへ
しおりを挟む
「美沙でいいぞ。私のことは美沙と呼んでくれていい」
すっかりくつろいだ姿勢になっている美沙さんは私に言った。
「美沙……さん」
さすがに呼び捨てはまずいと思い、さん付けで呼ぶ。そして、彼女の装備に目を向ける。
「その鎧、いいですね」
美沙さんが着ているのは真っ白な鎧だ。
「お、これか? 3階のショップで1億8千万DPで買った。いいだろ?」
「え!? 1億8千万DP!? そんなにするんですか!?」
美沙さんによると、名称は白薔薇の鎧。薔薇の花びらや葉をイメージした装飾が施されている。女性らしい気品が感じられるだけでなく、高い防御力も兼ね備えているそうだ。
それにしても、1億8千万DPとは……
とてもじゃないけれど手が出ない。
「お前なら買えるんじゃないか? ダンジョンで結構稼いだんだろ?」
「私は一ヶ月に使えるDPを5万DPに制限されていて……お兄ちゃんに……」
「一ヶ月に5万DP!? アハハハ! 中学生かよ!」
「中学生です……」
美沙さんは笑いながら格闘技場を降り、そのまま背を向けた状態で片手を上げた。
別れの挨拶を私に告げて去っていく。
「じゃあ、ダンジョンでな。また会おう。まあ上層で私と遭遇することはないと思うけどよ」
「はい、またダンジョンで」
私はその背中に軽くお辞儀をした。
美沙さんと別れたあとは3階のショップへと向かった。
ここには訓練場以上にたくさんの人がいた。
スーパーマーケットのようにたくさんの棚が並べられており、実体化された装備やアイテムが展示されている。
剣や槍や斧などの武器はもちろん、鎧や盾、小手やブーツなどの防具がある。
その他には各種ポーション類、食料品や日用雑貨、キャンプ用品まで揃っている。
使い道がわからない水晶玉やクリスタルなんかもあった。魔法が込められていたり、特殊な効果が発動したりするようだ。
これらを中央カウンターへ持っていくとダンジョンデバイスにデータとして格納することができる。支払いはすべてダンジョンポイントで行う。
さて、私は何日ダンジョンへこもるのか? と考えたところ、平日は日帰りしか選択肢がない。今日は土曜日だからダンジョンでキャンプを張ってもいいのだけれど、1人でのキャンプは危険がある。寝ている間にモンスターに襲われる可能性があるからだ。
それに、お兄ちゃんからダンジョン配信は1日3時間に制限されている。だから、ダンジョンに泊まる意味はない。
一番の理由は予算だ。1ヶ月で5万DPという金額はキャンプの準備をするには足らなすぎる。道具を揃えることができない。
学校もあるし前回のダンジョンでは授業を休んだので、学校の先生からは注意を受けた。それもあって、なるべく泊まりは控えることにする。平日に来るときは放課後になる。
まるで部活みたいだな、と思った。
毎日通うのならば、ダンジョン部? 私の中学校にはダンジョン部はない。高校ならば、そんな部活があると聞いたことがある。
さて、何を買おうかな、と店内をブラブラと歩く。
食料はたんまりと持っていた。それと、1本で1万DPを超える高級回復ポーション、治癒ポーションもたくさんある。
少しだが、腕の欠損を修復できるほどのポーションも所持している。これは相場で数百万DPはするだろう。
しかし、上層で使うのであれば安いポーションでいい。
高いポーションを使うのはもったいないので、100DP程度の最安ポーションを何本か買っておくことにした。
あとは武器を買う。安い短剣でいい。
少し損傷はあるが、中古で手頃なゴブリンソードがあった。名称は少し気になるが、5000DPと値段はお得だ。
ここで全部の予算を使うわけにはいかない。
合計で6000DPになるので、今月の予算は残り44000DPだ。
少し離れたところから男性の声が聞こえてきた。
「あ、あ、あ、あの……女子……。初心者っぽいでありますよ……」
声のしたほうを見ると、仲間も合わせて5人がいた。すべて男性だ。高校生くらいだろうか?
こっそりと話をしているつもりのようだが、私は耳がいいのでしっかりと聞こえてしまう。
「あ、あまり……。DPを持っていないのであるようでござります」
「こ、ここは……。我々が、かっこいいところを見せ」
「つまり、そういうことでございますか? どういうことでござる?」
「我々が、おごるのでござろう」
「いいところを見せるのでありまする」
5人でこそこそと何かを話した後、一人の男性が前へと押し出された。
「部長!」
「部長!!」
「部長どの!」
ぐいと押され、一人の男性ハンターが前に出て、私のほうへと近寄ってきた。
「ね、ね、ねえ。そこの君」
どうやら緊張しているようだ。話し方がぎこちない。年齢は私よりも少し上だろうか。17歳か18歳くらい?
真面目そうな顔立ちでメガネを掛けている。
少なくとも上級者ではないようで、装備品は高そうには見えない。
「もしかしたら、ダンジョンに潜るのは初めてなのかな?」
微妙に視線が私の目とは離れ、少し宙をさまよっている。
「2回目です」
私が答えると、
「そ、そうなんだ。ダンジョンは危ないところだからね。気をつけるんだよ。それじゃ」
それだけ言って、他の4人のところへ戻っていった。
「さすが、部長!」
「かっこよかったであります!」
「すばらしく女性慣れしております!」
「部長は姉がいるのでござります。当然です! 女性に免疫があるのです」
「我々とは違いますな!」
私に話しかけてきた男性を囲んで、やいやいと言っている。
「ダンジョンに誘うのであります!」
「いっしょにダンジョンへ!」
「部長ならできます。やれるのです」
「女の子といっしょにダンジョンで行くのであります!」
「ダンジョン部初の女性同伴であります!」
そして話しかけてきた男性の背中を4人は押す。
「部長!」
「部長!!」
「部長どの!」
「部長だけが頼りでござる!」
私には聞こえていないつもりなのだろうが、しっかりと聞こえてきた。
こちらにやって来るのは、どうやらダンジョン部の部長のようだ。
本当にあるんだ。ダンジョン部。
「しょうがねえ。俺がやるしかないな」
髪をかきあげるダンジョン部の部長。
私との距離がある時は、太くてたくましい声だ。
私のところへ向かいながら、独り言のように会話の練習をしていた。
――よ、よ、よ、良かったら……僕がポーションを買いましょうか……?
なぜか距離が近くなるほど、声に力が抜けていく。
話しているのが丸聞こえだから、どう反応したらいいのか困るんだよ……。
私はよもや聞こえていないふりを演じて、明後日の方向へと顔を向けていた。
すっかりくつろいだ姿勢になっている美沙さんは私に言った。
「美沙……さん」
さすがに呼び捨てはまずいと思い、さん付けで呼ぶ。そして、彼女の装備に目を向ける。
「その鎧、いいですね」
美沙さんが着ているのは真っ白な鎧だ。
「お、これか? 3階のショップで1億8千万DPで買った。いいだろ?」
「え!? 1億8千万DP!? そんなにするんですか!?」
美沙さんによると、名称は白薔薇の鎧。薔薇の花びらや葉をイメージした装飾が施されている。女性らしい気品が感じられるだけでなく、高い防御力も兼ね備えているそうだ。
それにしても、1億8千万DPとは……
とてもじゃないけれど手が出ない。
「お前なら買えるんじゃないか? ダンジョンで結構稼いだんだろ?」
「私は一ヶ月に使えるDPを5万DPに制限されていて……お兄ちゃんに……」
「一ヶ月に5万DP!? アハハハ! 中学生かよ!」
「中学生です……」
美沙さんは笑いながら格闘技場を降り、そのまま背を向けた状態で片手を上げた。
別れの挨拶を私に告げて去っていく。
「じゃあ、ダンジョンでな。また会おう。まあ上層で私と遭遇することはないと思うけどよ」
「はい、またダンジョンで」
私はその背中に軽くお辞儀をした。
美沙さんと別れたあとは3階のショップへと向かった。
ここには訓練場以上にたくさんの人がいた。
スーパーマーケットのようにたくさんの棚が並べられており、実体化された装備やアイテムが展示されている。
剣や槍や斧などの武器はもちろん、鎧や盾、小手やブーツなどの防具がある。
その他には各種ポーション類、食料品や日用雑貨、キャンプ用品まで揃っている。
使い道がわからない水晶玉やクリスタルなんかもあった。魔法が込められていたり、特殊な効果が発動したりするようだ。
これらを中央カウンターへ持っていくとダンジョンデバイスにデータとして格納することができる。支払いはすべてダンジョンポイントで行う。
さて、私は何日ダンジョンへこもるのか? と考えたところ、平日は日帰りしか選択肢がない。今日は土曜日だからダンジョンでキャンプを張ってもいいのだけれど、1人でのキャンプは危険がある。寝ている間にモンスターに襲われる可能性があるからだ。
それに、お兄ちゃんからダンジョン配信は1日3時間に制限されている。だから、ダンジョンに泊まる意味はない。
一番の理由は予算だ。1ヶ月で5万DPという金額はキャンプの準備をするには足らなすぎる。道具を揃えることができない。
学校もあるし前回のダンジョンでは授業を休んだので、学校の先生からは注意を受けた。それもあって、なるべく泊まりは控えることにする。平日に来るときは放課後になる。
まるで部活みたいだな、と思った。
毎日通うのならば、ダンジョン部? 私の中学校にはダンジョン部はない。高校ならば、そんな部活があると聞いたことがある。
さて、何を買おうかな、と店内をブラブラと歩く。
食料はたんまりと持っていた。それと、1本で1万DPを超える高級回復ポーション、治癒ポーションもたくさんある。
少しだが、腕の欠損を修復できるほどのポーションも所持している。これは相場で数百万DPはするだろう。
しかし、上層で使うのであれば安いポーションでいい。
高いポーションを使うのはもったいないので、100DP程度の最安ポーションを何本か買っておくことにした。
あとは武器を買う。安い短剣でいい。
少し損傷はあるが、中古で手頃なゴブリンソードがあった。名称は少し気になるが、5000DPと値段はお得だ。
ここで全部の予算を使うわけにはいかない。
合計で6000DPになるので、今月の予算は残り44000DPだ。
少し離れたところから男性の声が聞こえてきた。
「あ、あ、あ、あの……女子……。初心者っぽいでありますよ……」
声のしたほうを見ると、仲間も合わせて5人がいた。すべて男性だ。高校生くらいだろうか?
こっそりと話をしているつもりのようだが、私は耳がいいのでしっかりと聞こえてしまう。
「あ、あまり……。DPを持っていないのであるようでござります」
「こ、ここは……。我々が、かっこいいところを見せ」
「つまり、そういうことでございますか? どういうことでござる?」
「我々が、おごるのでござろう」
「いいところを見せるのでありまする」
5人でこそこそと何かを話した後、一人の男性が前へと押し出された。
「部長!」
「部長!!」
「部長どの!」
ぐいと押され、一人の男性ハンターが前に出て、私のほうへと近寄ってきた。
「ね、ね、ねえ。そこの君」
どうやら緊張しているようだ。話し方がぎこちない。年齢は私よりも少し上だろうか。17歳か18歳くらい?
真面目そうな顔立ちでメガネを掛けている。
少なくとも上級者ではないようで、装備品は高そうには見えない。
「もしかしたら、ダンジョンに潜るのは初めてなのかな?」
微妙に視線が私の目とは離れ、少し宙をさまよっている。
「2回目です」
私が答えると、
「そ、そうなんだ。ダンジョンは危ないところだからね。気をつけるんだよ。それじゃ」
それだけ言って、他の4人のところへ戻っていった。
「さすが、部長!」
「かっこよかったであります!」
「すばらしく女性慣れしております!」
「部長は姉がいるのでござります。当然です! 女性に免疫があるのです」
「我々とは違いますな!」
私に話しかけてきた男性を囲んで、やいやいと言っている。
「ダンジョンに誘うのであります!」
「いっしょにダンジョンへ!」
「部長ならできます。やれるのです」
「女の子といっしょにダンジョンで行くのであります!」
「ダンジョン部初の女性同伴であります!」
そして話しかけてきた男性の背中を4人は押す。
「部長!」
「部長!!」
「部長どの!」
「部長だけが頼りでござる!」
私には聞こえていないつもりなのだろうが、しっかりと聞こえてきた。
こちらにやって来るのは、どうやらダンジョン部の部長のようだ。
本当にあるんだ。ダンジョン部。
「しょうがねえ。俺がやるしかないな」
髪をかきあげるダンジョン部の部長。
私との距離がある時は、太くてたくましい声だ。
私のところへ向かいながら、独り言のように会話の練習をしていた。
――よ、よ、よ、良かったら……僕がポーションを買いましょうか……?
なぜか距離が近くなるほど、声に力が抜けていく。
話しているのが丸聞こえだから、どう反応したらいいのか困るんだよ……。
私はよもや聞こえていないふりを演じて、明後日の方向へと顔を向けていた。
20
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる