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ダンジョン部の姫

第83話 ハンターに絡まれる

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 2階へ上がる階段を登りながら、視聴者と話をする。

「あの男の持っていた剣ってすごいんですか?」

 私の質問には視聴者がコメントで応えてくれる。

■ファイアーマジック・ソードね
■それなりのレアアイテム
■フレイム属性の魔法が使えなくてもファイアーボールが撃てる
■かなりの幸運じゃないと手に入らない
■売ったら一千万円くらいになる

「やっぱり私の初級用革鎧じゃ危険なんですよね?」

■正面から受けてもまったく問題なし
■ハルナっちはパッシブスキルがあるから
■さすがレベル71だね。超感覚ハイパーセンス自動回避オートアヴォイダンス。おまけに鋼鉄の身体アイアンボディ
■まずね、相手の攻撃がスローモーションに見えるはず。避けてもいいし、被弾してもなんの損傷もない
■でも、無視するのがいいと思うよ。相手しちゃ駄目
■そうそう、こっちがいじめるみたいになっちゃう
■相手をしないのが一番
■ハルナっちは強すぎ。怪我でもさせたら大変

「そうですね。相手をしないようにします」

 配信をしながら2階へ到着すると、正面にはガラス張りの自動ドアがあった。

 中へ入るとフロア全体が訓練場になっているようで、かなりの広さがある。大勢のハンターがいて、正面には案山子かかしを思わせる人形がある。ハンターは人形を攻撃しており、その上にはデジタルの数値が表示されていた。どうやら与えたダメージが数値で示されるようだ。

 人形は10体ほどあった。そのほかに格闘技を行うような4つの区画があり、それぞれハンター同士が戦っている。模擬戦を行っていると思われた。

 さきほどの女性ハンターが私のほうへと近づいてきた。私の顔を見て、驚きながら声を上げる。

「どうして来るんですか!? まだあなたのレベルでは来る必要なんてないんですよ! またあのハンターに絡まれたりでもしたら……」

 まわりをキョロキョロ見回しながら、女性ハンターは動揺している。

「大丈夫です。ご心配なく。相手にならないそうなので」

「いや、それは当然、相手にならないでしょう。レベルアップしたといっても、あなたはまだレベル3なのですから。もしかしてレベル4になられたのですか?」

 女性ハンターの質問に、私は正直にそのままを伝える。

「いえ、71です」

 女性ハンターは少し無言になる。

「……」

 私の言葉が聞こえていなかったのか、聞き返してきた。

「えっと、経験値が71……ですか?」

「レベルです。ジャパンランキングにも登録してもらいました」

 ぽかんとした顔をした後、少しの間をあけて女性ハンターは大きな声を出した。

「そんなわけないじゃないですか!? 嘘をつかれているんですよ! からかわれているんですよ!」

「まあ、あんな男は相手しません。大丈夫ですよ」

 その時、背後から声がかかった。

「誰を相手しないだって?」

 のそりと近づいてきたのが1階で絡んできた小太りのハンターだった。
 仲間らしき2人のハンターもいっしょにいる。

「俺さまの許可なく配信をするなって言ったよな? 配信を続けてるってことは俺さまの魔法剣の練習台にでもなりにきたのか?」

 ぐへへへ、と気持ちの悪い声で男は笑う。
 私は彼を無視して配信を続ける。

「ちゃんとAIで自動的にモザイクが入るように設定しています。あなたの顔は配信画面に映りません。あと、練習台にはなりません。視聴者のコメントによると、強すぎて相手にならないそうです。……あ、私がです。強いのは」

 男は真顔になり、直後に笑い出す。

「ぎゃはは。なに言ってんだこの小娘は。もしかして、レベルが5くらいに一気にアップでもしたんかい? そんで調子に乗ってやがんだな?」

「いえ、レベルは71です」

「は?」

「71です」

「ええと……、経験値が71?」

 女性ハンターと同じ答えが返ってきた。

「いえ、レベルです」

「何言ってんだ、このクソガキ。俺は嘘を吐くやつが一番大きれえなんだ」

「本当ですって。ダンジョン配信を見ていただければわかります。私の基本ステータスは開示されているので」

「俺が配信なんて見るわきゃねえだろ。きれえなんだ、ダンジョン配信は」

「じゃあ、これ。視聴者のコメントです」

 私はデバイス画面を男に見せた。

「ほら、みんなが言っています。相手をしちゃ駄目だって。私が強すぎて、あなたに怪我をさせてしまうかもしれないそうです。それと、その大事そうに持っている魔法剣。もしかしたら、壊しちゃうかもしれないですし」

 男は口を大きく歪めながら応える。

「おいおい、ふざけんじゃねえ。からかわれた発言を真に受けたんかい。もうこのアホは1撃受けなきゃわかんねえみてえだな」

 そして男は周りに聞こえるように声のトーンをあげた。

「おい、みんな! 聞いてくれ! 今から俺さまの魔法剣、ファイアーマジック・ソードのお披露目会をやるぞ! ダミーモンスターじゃつまらねえと思ってたんだ。お嬢ちゃんが練習台になってくれるってよお! このレベル71のお嬢ちゃんがよおお!」

 周囲のハンターがこちらを注目するが、私は冷静に否定する。

「やりませんけれど」

「ほお? 逃げるんかい? レベル71なんだろ? どうせ経験値かなんかと勘違いしてるんだろうがなぁ」

「やりませんって。万が一、魔法剣を壊してしまったら弁償なんてできませんし」

「弁償なんてしなくていい。その代わり、くそ生意気なお前の鎧をぶっこわしてやんぜ。お兄ちゃんの鎧とやらをな。俺のファイアーボールでよ! レベル71なら受けられんだろ? ああん?」

 この鎧は借り物なので壊されると困る。
 でも、視聴者は大丈夫だと言っていた。
 1発くらいは受けても……と思ったところに、先程の女性ハンターが割って入ってきた。

「絶対駄目です! やめてください!」

「じゃあ、女。お前が代わりに受けろよ」

「わ、わかりました……。私が……」

 慌てて、私は二人の間に飛び込む。

「ちょ、ちょっと待って!! まあ……。じゃあ……。1発ファイアーボールとやらを受けるだけなら……」

 女性ハンターは目を見開きながら、私をかばおうとする。
 
「駄目です! 何言っているんですか!? ファイアーボールを1発って、下手したら大怪我しますよ!」

 ところが、小太りの男は女性ハンターの肩を押しのけた。

「よし、やるって言ったな! 言質げんちを取ったぞ! みんな、聞いたな! 多少の怪我なら、俺さまの回復ポーションがある。問題ねえだろ!」

 周囲からは「やめとけよ」「いじめだろうが」などの声が上がっていた。
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