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ダンジョンからの脱出
第58話 ミリアのダンジョン配信
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ミリアはダンジョンデバイスを物欲しそうに眺めていた。
――それがあると人気になれるんだ。
――完全魅了なんて使わなくても、みんなに好きになってもらえる。
――ミリアもダンジョンデバイス、ほしいな……
こんな発言をミリアはしていたが、私ももりもりさんも特に気には留めていなかった。それよりも、218階層の戦いは連日にわたり、とても疲れていた。
相変わらず元気なのはミリアだけで、寝る時間になると私は完全に熟睡していた。ミリアも寝るようだが、私たちよりも睡眠時間は短い。昨日はずっと起きていたようで、ダンジョンデバイスを通して視聴者たちとずっとおしゃべりをしていた。
私はそのおしゃべりを聞きながら寝落ちしていた。ダンジョンは洞窟なので時間がわからない。
デバイスのタイマーを目覚まし時計にセットしていたのだが。
「春菜さん、春菜さん。起きてください」
起こされたのはもりもりさんに揺さぶられたからだ。
私は少し寝ぼけながら「ふわー」っと大きく欠伸をした。
いつものタイマーとは違って、もりもりさんに起こされる。
「ミリアがいなくなりました」
「え!? は?」
「これを見てください」
見せてきたのはもりもりさんのデバイスだ。そこにはダンジョン配信の映像が映っている。
「春菜さんのチャンネルでミリアがダンジョン配信を行っているようです」
「へー、なんか盛り上がってるし。人気だね」
「でも、視聴者に対して完全魅了のスキルを使われてしまうと大変なことになります」
「大丈夫だと思うけれど」
私は呑気に応える。
「ミリアは私たちからはだいぶ離れてしまっているんです」
「本当ですね。かなりダンジョンの奥の方へ行っちゃってますね。でも、周囲にモンスターはいないですし、視聴者のリクエストで歌を歌ったりしていますし。なんだか、ミリア。アイドルになれそうですね」
「いいんですかね? これで」
「念の為、もりもりさんのデバイスから遠隔ロックができるようにしておきましょうか」
「そうですね、念の為……」
ダンジョンデバイスは遠隔ロックやデータの消去もできる。これはデバイスを失くしたり奪われたときのためだ。そのためにはネットに接続できる環境が必要だ。
リビングデッドに奪われた時はなにもできなかったが、今はもりもりさんのデバイスがある。
おそらくミリアは徹夜で配信をして、そのまま視聴者にそそのかされて出かけてしまったのだろう。
ミリアの居場所はもりもりさんのマッピングアプリで把握できている。青いドットの表示がミリアの場所だ。
今いる場所からは少し離れてしまっているが、ミリアはそこからは動いていない。それに配信の様子はもりもりさんのデバイスで動画を見ることができているから問題はなさそうだった。
ミリアはモンスターと戦うわけでもなく、視聴者たちとおしゃべりをしたり、質問に答えたり、流行の歌を教えてもらってそれをミリアが歌うなどしているようだ。
ミリアの舌足らずな声で歌う歌は上手くはないのにどこか惹かれてしまう可愛らしい声で、視聴者からも人気だった。
「ミリアは才能があるかも。私よりも人気者になれそう。でも、デバイスをあげるわけにはいかないしなあ」
「もうすぐこの階層の攻略も終わりますし、そうしたらお別れですね」
「ミリアに会えなくなるのはちょっと寂しいかな」
私ともりもりさんは食事をし、それからゆっくりとミリアのところへ行くつもりだった。ミリアのダンジョン配信はそのまま流しっぱなしになっていたが、見ている配信に違和感を抱いたのが出発しようと準備を始めた頃だった。
「春菜さん、私たちが見ているこれ。ライブ映像ではありません」
「本当ですね。これはアーカイブです」
アーカイブとはサーバーに保存された過去の映像のことだ。最初にミリアがいなくなったことに気がついた時に開いたのはライブ映像だった。
そこから、ダンジョンデバイスを持ち出したところを確認するために、巻き戻してそのまま見続けてしまったために、ライブ映像とのずれがあった。
つまり今見ているこの映像は少し前のものだ。
楽しそうにおしゃべりをしたり歌を歌うミリア。
これは過去のミリアだ。
――それがあると人気になれるんだ。
――完全魅了なんて使わなくても、みんなに好きになってもらえる。
――ミリアもダンジョンデバイス、ほしいな……
こんな発言をミリアはしていたが、私ももりもりさんも特に気には留めていなかった。それよりも、218階層の戦いは連日にわたり、とても疲れていた。
相変わらず元気なのはミリアだけで、寝る時間になると私は完全に熟睡していた。ミリアも寝るようだが、私たちよりも睡眠時間は短い。昨日はずっと起きていたようで、ダンジョンデバイスを通して視聴者たちとずっとおしゃべりをしていた。
私はそのおしゃべりを聞きながら寝落ちしていた。ダンジョンは洞窟なので時間がわからない。
デバイスのタイマーを目覚まし時計にセットしていたのだが。
「春菜さん、春菜さん。起きてください」
起こされたのはもりもりさんに揺さぶられたからだ。
私は少し寝ぼけながら「ふわー」っと大きく欠伸をした。
いつものタイマーとは違って、もりもりさんに起こされる。
「ミリアがいなくなりました」
「え!? は?」
「これを見てください」
見せてきたのはもりもりさんのデバイスだ。そこにはダンジョン配信の映像が映っている。
「春菜さんのチャンネルでミリアがダンジョン配信を行っているようです」
「へー、なんか盛り上がってるし。人気だね」
「でも、視聴者に対して完全魅了のスキルを使われてしまうと大変なことになります」
「大丈夫だと思うけれど」
私は呑気に応える。
「ミリアは私たちからはだいぶ離れてしまっているんです」
「本当ですね。かなりダンジョンの奥の方へ行っちゃってますね。でも、周囲にモンスターはいないですし、視聴者のリクエストで歌を歌ったりしていますし。なんだか、ミリア。アイドルになれそうですね」
「いいんですかね? これで」
「念の為、もりもりさんのデバイスから遠隔ロックができるようにしておきましょうか」
「そうですね、念の為……」
ダンジョンデバイスは遠隔ロックやデータの消去もできる。これはデバイスを失くしたり奪われたときのためだ。そのためにはネットに接続できる環境が必要だ。
リビングデッドに奪われた時はなにもできなかったが、今はもりもりさんのデバイスがある。
おそらくミリアは徹夜で配信をして、そのまま視聴者にそそのかされて出かけてしまったのだろう。
ミリアの居場所はもりもりさんのマッピングアプリで把握できている。青いドットの表示がミリアの場所だ。
今いる場所からは少し離れてしまっているが、ミリアはそこからは動いていない。それに配信の様子はもりもりさんのデバイスで動画を見ることができているから問題はなさそうだった。
ミリアはモンスターと戦うわけでもなく、視聴者たちとおしゃべりをしたり、質問に答えたり、流行の歌を教えてもらってそれをミリアが歌うなどしているようだ。
ミリアの舌足らずな声で歌う歌は上手くはないのにどこか惹かれてしまう可愛らしい声で、視聴者からも人気だった。
「ミリアは才能があるかも。私よりも人気者になれそう。でも、デバイスをあげるわけにはいかないしなあ」
「もうすぐこの階層の攻略も終わりますし、そうしたらお別れですね」
「ミリアに会えなくなるのはちょっと寂しいかな」
私ともりもりさんは食事をし、それからゆっくりとミリアのところへ行くつもりだった。ミリアのダンジョン配信はそのまま流しっぱなしになっていたが、見ている配信に違和感を抱いたのが出発しようと準備を始めた頃だった。
「春菜さん、私たちが見ているこれ。ライブ映像ではありません」
「本当ですね。これはアーカイブです」
アーカイブとはサーバーに保存された過去の映像のことだ。最初にミリアがいなくなったことに気がついた時に開いたのはライブ映像だった。
そこから、ダンジョンデバイスを持ち出したところを確認するために、巻き戻してそのまま見続けてしまったために、ライブ映像とのずれがあった。
つまり今見ているこの映像は少し前のものだ。
楽しそうにおしゃべりをしたり歌を歌うミリア。
これは過去のミリアだ。
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