お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~勝手に持ち出した装備は84億円でした。レベル1なのに迷宮の最下層で動画をバズらせます~

高瀬ユキカズ

文字の大きさ
上 下
55 / 245
ダンジョンからの脱出

第55話 モンスターを倒す

しおりを挟む
 私は配信をしている向こう側の視聴者たちに話しかける。

「みなさん、この壁の向こう側に無敵の兎ヴォーパル・バニーがいます。モンスターはマッピングアプリ上で紫色の表示でした。私たちでは倒すことが困難な敵です。苦戦が予想されます」

 もりもりさんは少し後方で撮影をしている。両手を開けるためにデバイスは肩の上に装着していた。すぐ横にはミリアがもりもりさんに張り付いている。

「魔法を解除して壁を消します。準備してください」

「はい、いつでもかまいません」

 私はごくりとつばを飲み込む。剣を握る手には少し汗をかいている。この場には緊張感が生まれていた。

「では、いきますよ。無敵の兎ヴォーパル・バニーはかなりの強敵だと思います。初手で不意をつくことができるかどうかが、勝敗を決めるはずです。今回の戦闘だけでなく、1回1回の戦闘が薄氷を渡るようなぎりぎりの攻防になるはずです」
 
「小さなミスも許されませんね」

「私も可能な限り援護しますが、装備がないため直接戦闘ができません」

「ところで、もりもりさん」

「はい」

「ミリアにしがみつかれていますね……」

 半分無視をしながら進んできたが、ミリアはあいかわらず、ずっと涙目のままだった。

「あのね、ミリアね。役に立つよ……」

 もりもりさんにしがみついているから逆に足を引っ張ってしまいそうだが。

「じゃあ、ミリアもいっしょに戦ってくれるの?」

 私が聞くと、ミリアは突然嬉しそうな声を出して走り出し、私よりも前に出てしまった。

「いいの!? 戦う! 戦うよ! ミリアは戦うんだよ!」

 もりもりさんはすでに魔法の解除を始めてしまっていた。私と土壁の間にミリアは飛び込み、壁が消えると同時、ミリアと無敵の兎ヴォーパル・バニーは鉢合わせする。

「ギー!?」
「!?」

「ミリア、危ない!」

 私は叫んでミリアの前に割って入ろうとした。
 ところが、ミリアと無敵の兎ヴォーパル・バニーの激しい攻防がすぐに始まった。

 ミリアは攻撃能力こそ皆無だが、動きは素早かった。一方の兎も地上の動物とは比べ物にならないほどの速さ。両者の動きを目で追うことすらできない。

 兎はミリアに噛みつき、ひっかく。後ろ足で蹴り上げては、天井に飛び、横の壁を蹴る。狭い洞窟を縦横無尽に飛び回った。

 ミリアの方でも全く引けを取らない。同じように、壁を蹴り、真横に飛翔するかのように飛んでいる。

 狭い洞窟内で、壁に反射しながら2つの物体が高速で飛び回っているようにしか見えなかった。

 私ともりもりさんでは、苦戦どころか勝負にすらならなかったかもしれない。

 兎は長い前歯と爪が武器だ。ミリアの顔や腕や脚に傷を負わせる。しかし、ミリアは武器を持っていない。殴ったり蹴ったりしているが、ダメージを与えるほどではない。ミリアに勝ち目はないように思えた。

 けれど、兎はレベル151、ミリアはレベル173。
 この差は大きかったようだ。

 両者の動きが突然止まる。

 ミリアは兎の長い耳の根本を掴んでいた。そのまま持ち上げる。
 兎は短い手足をばたばたさせている。耳を掴まれた状態ではミリアを攻撃することはできない。

 顔を傷だらけにし、ミリアはこちらに笑顔を向けた。

「捕まえたー」

「すごいね、ミリア……」

「褒めて、褒めて。もっと、褒めてー」

「じゃあ、そのまま持ってて!」

 私は長剣を横薙ぎに一閃。
 ミリアは私の振るった剣がすれすれを通ったはずなのに、身じろぎ一つしない。

 兎の腹を斬ったつもりなのに、硬い毛に遮られてほんのわずか1%程度のHPを減らしただけだ。

「私も支援します!」

 もりもりさんが土魔法で支援してくれる。
――土の刃アース・カッター
――土の槍アース・ランス

 剣と魔法の攻撃が兎を襲う。

「ギイイィ! ギギイ、イイィ!!」

 無抵抗の無敵の兎ヴォーパル・バニーを二人で攻撃し、やっとのことでHPを0%にする。

 ミリアがいたからこそ、倒すことができた。
 やはり、強いのだ。ミリアは。

 顔も腕も、傷だらけ。
 ダンジョンデバイスを見ても、それでもミリアのHPは100%のままだった。

「ありがとう、ミリア」
「ミリアさんがいなかったら、どうなっていたか」

 私ともりもりさんはミリアにお礼を言う。

 ミリアは「えへへへ」と得意そうに笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

処理中です...