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ダンジョンからの脱出
第51話 ミリアと遭遇
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ダンジョンには知性が高いモンスターと知性が低いモンスターがいる。
私たちが今追っているのは知性が高いモンスターだ。おそらく、人間と同様に意思疎通を図ることができる。
知性が高いだけあって、モンスターとは追いかけっこになっていた。
もりもりさんが一生懸命に魔法を使ってくれている。洞窟の穴をほったり、壁を作ったり。
「もう少し近づけば、アップグレードされたデバイス解析を使って、モンスターの詳細がわかります」
向こうはこの階層の住人だ。当然、道もよく知っており、地理を知り尽くしたアドバンテージでうまく逃げていた。
けれど、少しずつ追い詰めていく。
じわりじわりと距離を詰め、やっとデバイスに詳細が表示できるだけの距離になった。
――――――――――――――――
名称:サキュバス・クイーン
固有名:ミリア
推定レベル172
知能:かなり高い
攻撃力:皆無
特殊能力 完全魅了(ただし男性にのみ効果がある)
ドロップアイテム 媚薬ポーション・上級回復ポーション・レベルアップシード・覚醒の種・魅惑の下着・帰還石・知力の実・他
討伐履歴・なし
――――――――――――――――
「もりもりさん、サキュバスってどんなモンスターでしたっけ?」
「男性を誘惑する能力を持っているのだと思います」
「攻撃力はまったくないようですね」
「私たちに攻撃ができないので、逃げ回っているのですね」
サキュバス・クイーン。いったいどんなモンスターだろうか?
アップグレードされたダンジョンデバイスは解析の信用度も上がっている。
倒すだけなら、私たちだけでたやすく葬れるのだろう。
「うまいこと、追い詰めることができたようです」
もりもりさんは見事にサキュバスを追い詰めていた。
こちらは地形の操作ができるが、向こうはできない。逃げ回っていたサキュバスを袋小路に追い込んだ。
「油断しないように」
もりもりさんに言われ、私は無言で頷く。
「春菜さん。剣を構えてください」
鞘から神王の長剣を抜き、まっすぐに構える。目の前の壁はもりもりさんが魔法で作り出したものだ。魔法を解除することで消すことができる。
「いきますよ……」
壁が消える。
目の前には、ぺたんと座り込んだ女の子。
特別な姿をしていると思いこんでいたが、そこにいたのはいたって普通の人間の姿だった。
座り方も、女の子ずわりと言われる膝とおしりを地面についた座り方。足先が開いて、脚の全体がアルファベットのダブリューの形をしている。
そんな座り方ではすぐに立ち上がれないし、こちらに攻撃もできない。
半べそをかきながら、私ともりもりさんを見上げてきた。
「お、お願い……。殺さないで……」
手を祈るように胸の前で組んでいた。
上目遣いでこちらを見てくる。
年齢は不詳。服装はフリルの付いたピンクのワンピース。
女の子といった表現が正しいのかどうか。
髪の色も服もピンク。
まるでアニメを実写にしたかのような丸顔でかわいらしい。
その可愛らしい顔からは、ポロポロと大粒の涙が落ちていた。
私よりもやや上の年齢で、もりもりさんよりは下といった印象。
なによりも、その声に特徴がある。
舌っ足らずで、甘えたような高めの声。
「ミリア。ここで死んじゃうのかな? 殺されちゃうのかな?」
ダンジョンデバイスの解析には「固有名:ミリア」とあった。
ミリアは彼女の名前ということなのだろう。
「その剣で、ぐさっと、されて。ミリア。刺されちゃうんだよね?」
首をコテンと傾け、それでも悲しそうな顔で涙は溢れる。
「きっと、痛いよね? ミリア、まだ死にたくないけど、でも、絶対無理だよね? 殺されちゃうよね? だって、ずっと私を追いかけてきたもんね?」
なんというか、剣を向けている私には罪悪感にも似た感情が湧いてくる。
少し後ろで撮影をしているもりもりさんにも、困惑の表情が見て取れた。
「どうしましょう、もりもりさん……」
「どうしましょうね……」
「ミリア、たぶん死んじゃう。とても強そうだし、その剣はすごく切れそうだし。痛いの嫌だし、死にたくないけれど、ミリアの運命はここまで。王子様も助けに来てくれそうにないし、ミリア、絶体絶命」
ミリアは顔を上げ、せつなそうな表情を浮かべる。
視聴者にも映像が送られているその顔は、端正に整っており、頬はやや膨らみ、目も大きくて丸い。かわいらしさが強調されている分、こちらの同情心を強く煽ってくる。
「ねえ、そこの金色の装備のお姉さん。全身が金色で、長い剣を持ったお姉さん」
「……わたし?」
「うん。そう。ミリアはもう助からないの? どうやっても無理なの? やっぱりその剣で刺されちゃうの? やさしそうなお姉さんだけど、やっぱりミリアのことを殺しちゃうの? その剣で、ぐさっと刺しちゃうの?」
命乞いをしているようで、どこか甘い声を出すミリア。アニメの声優を思わせるその舌っ足らずな口調に視聴者は反応する。
■ミリアたん……
■ああー、俺のミリアたんがーーー
■なんとか助かる方法はないのか?
■こんな……こんな美少女が可憐に散ってしまうとは……
■そんなことがあっていいのか? いや、よくないはずだ!
■ああー。美少女は、はかなく散る運命にあるのか? 否! そんなことはない!
■大丈夫。ミリアたん。今俺が助けに行くから。218階層でもどこでも助けに行くから
■俺たちが行くまで待っててくれ。いや、間に合うはずないか! どうしたらいいんだ?
■ミリアたんを救う方法はないのか?
■みんな、全力で考えろ。なにかあるはずだ! ミリアたんを救う方法が!
■しかし、神王の長剣はミリアたんの喉元につきつけられている
■俺が218階層に助けに行くには時間がかかりすぎる
■今まさにミリアたんの命が奪われようとしている
■どうすれば……。どうすればミリアたんを救うことができるのだ……
■絶対に無理だ……。
■ミリアたんが殺されてしまう。
■剣で喉を切り裂かれ、心臓を突かれ、腹を割かれるだろう
■臓物が引きずり出され、ずたずたに切り裂かれてしまうのだ
■なんと残酷な……
■ああ、ミリアたん……
■もう救うことはできないのか……
■俺達には何もできない……
■無力な自分を呪うしかない
■俺に力がないばかりに、俺に能力がないばかりに……
■ああ、目の前で、ミリアたんがむざむざと殺されてしまうのを見ているしかできないとは
■ミリアたんは貴重なアイテムを持っている。きっとミリアたんの命よりもアイテムを優先してしまうのだろう
■ミリアたんが助かることはないのだ……
■さようなら、ミリアたん。君のことは絶対に忘れないよ……
■ありがとう。俺達に愛をくれてありがとう。
「なんだか、私たちが悪役っぽい?」
「さすが、サキュバスです……」
私たちが今追っているのは知性が高いモンスターだ。おそらく、人間と同様に意思疎通を図ることができる。
知性が高いだけあって、モンスターとは追いかけっこになっていた。
もりもりさんが一生懸命に魔法を使ってくれている。洞窟の穴をほったり、壁を作ったり。
「もう少し近づけば、アップグレードされたデバイス解析を使って、モンスターの詳細がわかります」
向こうはこの階層の住人だ。当然、道もよく知っており、地理を知り尽くしたアドバンテージでうまく逃げていた。
けれど、少しずつ追い詰めていく。
じわりじわりと距離を詰め、やっとデバイスに詳細が表示できるだけの距離になった。
――――――――――――――――
名称:サキュバス・クイーン
固有名:ミリア
推定レベル172
知能:かなり高い
攻撃力:皆無
特殊能力 完全魅了(ただし男性にのみ効果がある)
ドロップアイテム 媚薬ポーション・上級回復ポーション・レベルアップシード・覚醒の種・魅惑の下着・帰還石・知力の実・他
討伐履歴・なし
――――――――――――――――
「もりもりさん、サキュバスってどんなモンスターでしたっけ?」
「男性を誘惑する能力を持っているのだと思います」
「攻撃力はまったくないようですね」
「私たちに攻撃ができないので、逃げ回っているのですね」
サキュバス・クイーン。いったいどんなモンスターだろうか?
アップグレードされたダンジョンデバイスは解析の信用度も上がっている。
倒すだけなら、私たちだけでたやすく葬れるのだろう。
「うまいこと、追い詰めることができたようです」
もりもりさんは見事にサキュバスを追い詰めていた。
こちらは地形の操作ができるが、向こうはできない。逃げ回っていたサキュバスを袋小路に追い込んだ。
「油断しないように」
もりもりさんに言われ、私は無言で頷く。
「春菜さん。剣を構えてください」
鞘から神王の長剣を抜き、まっすぐに構える。目の前の壁はもりもりさんが魔法で作り出したものだ。魔法を解除することで消すことができる。
「いきますよ……」
壁が消える。
目の前には、ぺたんと座り込んだ女の子。
特別な姿をしていると思いこんでいたが、そこにいたのはいたって普通の人間の姿だった。
座り方も、女の子ずわりと言われる膝とおしりを地面についた座り方。足先が開いて、脚の全体がアルファベットのダブリューの形をしている。
そんな座り方ではすぐに立ち上がれないし、こちらに攻撃もできない。
半べそをかきながら、私ともりもりさんを見上げてきた。
「お、お願い……。殺さないで……」
手を祈るように胸の前で組んでいた。
上目遣いでこちらを見てくる。
年齢は不詳。服装はフリルの付いたピンクのワンピース。
女の子といった表現が正しいのかどうか。
髪の色も服もピンク。
まるでアニメを実写にしたかのような丸顔でかわいらしい。
その可愛らしい顔からは、ポロポロと大粒の涙が落ちていた。
私よりもやや上の年齢で、もりもりさんよりは下といった印象。
なによりも、その声に特徴がある。
舌っ足らずで、甘えたような高めの声。
「ミリア。ここで死んじゃうのかな? 殺されちゃうのかな?」
ダンジョンデバイスの解析には「固有名:ミリア」とあった。
ミリアは彼女の名前ということなのだろう。
「その剣で、ぐさっと、されて。ミリア。刺されちゃうんだよね?」
首をコテンと傾け、それでも悲しそうな顔で涙は溢れる。
「きっと、痛いよね? ミリア、まだ死にたくないけど、でも、絶対無理だよね? 殺されちゃうよね? だって、ずっと私を追いかけてきたもんね?」
なんというか、剣を向けている私には罪悪感にも似た感情が湧いてくる。
少し後ろで撮影をしているもりもりさんにも、困惑の表情が見て取れた。
「どうしましょう、もりもりさん……」
「どうしましょうね……」
「ミリア、たぶん死んじゃう。とても強そうだし、その剣はすごく切れそうだし。痛いの嫌だし、死にたくないけれど、ミリアの運命はここまで。王子様も助けに来てくれそうにないし、ミリア、絶体絶命」
ミリアは顔を上げ、せつなそうな表情を浮かべる。
視聴者にも映像が送られているその顔は、端正に整っており、頬はやや膨らみ、目も大きくて丸い。かわいらしさが強調されている分、こちらの同情心を強く煽ってくる。
「ねえ、そこの金色の装備のお姉さん。全身が金色で、長い剣を持ったお姉さん」
「……わたし?」
「うん。そう。ミリアはもう助からないの? どうやっても無理なの? やっぱりその剣で刺されちゃうの? やさしそうなお姉さんだけど、やっぱりミリアのことを殺しちゃうの? その剣で、ぐさっと刺しちゃうの?」
命乞いをしているようで、どこか甘い声を出すミリア。アニメの声優を思わせるその舌っ足らずな口調に視聴者は反応する。
■ミリアたん……
■ああー、俺のミリアたんがーーー
■なんとか助かる方法はないのか?
■こんな……こんな美少女が可憐に散ってしまうとは……
■そんなことがあっていいのか? いや、よくないはずだ!
■ああー。美少女は、はかなく散る運命にあるのか? 否! そんなことはない!
■大丈夫。ミリアたん。今俺が助けに行くから。218階層でもどこでも助けに行くから
■俺たちが行くまで待っててくれ。いや、間に合うはずないか! どうしたらいいんだ?
■ミリアたんを救う方法はないのか?
■みんな、全力で考えろ。なにかあるはずだ! ミリアたんを救う方法が!
■しかし、神王の長剣はミリアたんの喉元につきつけられている
■俺が218階層に助けに行くには時間がかかりすぎる
■今まさにミリアたんの命が奪われようとしている
■どうすれば……。どうすればミリアたんを救うことができるのだ……
■絶対に無理だ……。
■ミリアたんが殺されてしまう。
■剣で喉を切り裂かれ、心臓を突かれ、腹を割かれるだろう
■臓物が引きずり出され、ずたずたに切り裂かれてしまうのだ
■なんと残酷な……
■ああ、ミリアたん……
■もう救うことはできないのか……
■俺達には何もできない……
■無力な自分を呪うしかない
■俺に力がないばかりに、俺に能力がないばかりに……
■ああ、目の前で、ミリアたんがむざむざと殺されてしまうのを見ているしかできないとは
■ミリアたんは貴重なアイテムを持っている。きっとミリアたんの命よりもアイテムを優先してしまうのだろう
■ミリアたんが助かることはないのだ……
■さようなら、ミリアたん。君のことは絶対に忘れないよ……
■ありがとう。俺達に愛をくれてありがとう。
「なんだか、私たちが悪役っぽい?」
「さすが、サキュバスです……」
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