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泥にまみれた戦い
第30話 泥の海
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階段を降り、217層へ足を踏み入れる。
216層とは一転、広い世界が広がっていた。
まわりは薄暗く、天井は土でできている。そして、足元は一面が泥の海だった。
そこへ足を踏み出す。
足が沈み込む。
ずぶっ。
脛まで泥の中に潜った。
「ひいっ。足が沈みますぅ! 泥だらけですぅ!」
最初に踏み込んだ右足のあとに、続けて左足も泥の中へ。
そのあと右足をぐいっと持ち上げるが、まるで田植え前の田んぼを歩いているように足が取られる。
「歩きにくいですぅぅ!」
ぐいっ、ずぶっ、ぐいっ、ずぶっ、を繰り返すしかなく、ゆっくりとしか前へ進めない。
黄金の神王装備だが、脛から下は泥だらけになっていた。
■ぽんた:こんなん見たことねえぞ
■アクゾー:フェイクじゃないよな……
■ぽんた:稲でも植えたら育ちそうだ
■アクゾー:泥しか見えねえな……転ぶなよ……
「なんですかあ。これはぁ。どこまでも、どこまでも、泥の海が続いておりますー。しかも、歩きにくくて、なかなか進めませんー」
実況配信をしながら、私は歩いていく。
■ぽんた:気をつけていけよお
■アクゾー:この子、考えなしに行くところあるよなぁ
■ぽんた:お嬢ちゃん、無謀だからなあ
「そんなことありませんよお。私だって、慎重に行動します。今だって、モンスターがいないか、周囲を気にしながら歩いていますし。ちゃんと警戒してますよぉー」
このエリアはとんでもなく広い。
地平線が見えるんじゃないかってくらいに、ずっと泥の海が続いている。
振り返ると、そこにあるのは小さな島で、私が降りてきた階段がある。階段は螺旋状になっていて、積まれた石で囲いが作られている。筒状になっており、上の階層まで伸びていた。
小さな島の上に長い筒がある状態だ。天井は土でできている。天井の高さはおよそ3mくらい。
まずは降りてきた場所をぐるっと一周するべきだったかもしれないが、もう歩いてきてしまっていた。
私はライブ配信の視聴者に向けて語りかける。
「みなさん、ここはとっても広いようです。もしかしたら、216階層のように無限に広がる空間かもしれません。注意して進みたいと思います」
■ぽんた:まあ、あれだよな、これ
■アクゾー:そうだな、あれだな
■ぽんた:ほんま、お嬢ちゃんは何も知らんと
■アクゾー:どう考えても行動がおかしいよな
「え、ぽんたさん、アクゾーさん。私、何か間違っていますか?」
■ぽんた:間違っとるというか、あれやな
■アクゾー:そうだな。初めてくる場所なんやし
■ぽんた:最初にマッピングアプリのチェックとデバイス解析せなあかんよ。216層でもそうやったが
■アクゾー:まあ、教えないほうが面白いということもあるんやけど
確かに二人の言う通りだったかもしれない。216階層に降りた時もその時点でデバイスを確認していれば、すぐにリビングデッドの存在に気がつくことができたのだ。
私はマッピングアプリを開いてみる。
モンスターがいる場合、その位置にドットが表示される。
私でも簡単に倒せる場合は青、同じくらいの強さなら黄色、強敵なら赤、とても倒せそうにない相手は紫だ。
マッピングアプリは画面全部が茶色のように見えた。泥の色とは違って、どちらかというと橙に近い色をしている。降りた階段のある場所は丸い島になっていた。それだけだった。
「モンスターはいないようです。あと、どこまでもやっぱり泥が広がっているだけのようです」
■ぽんた:ああ、そう見るのね
■アクゾー:まあ、初心者だから仕方ないか
■ぽんた:教えとく?
■アクゾー:まあ、この階層で死んじゃいそうだし、俺たちの再生回数に貢献してもらえばいいんじゃ?
■ぽんた:そうすっか、じゃあお嬢ちゃん南無阿弥陀仏。おつ、楽しい配信ありがとなぁ
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。どういうことなんですか? ちゃんと説明してくださいよ」
ぽんたさんとアクゾーさんはこれ以上教えてくれなかったが、いつも助けてくれるもりもりさんからのコメントが入った。
■もりもり:春菜さん! 足元! 足元!
言われて、私は周囲を見回す。
脛から下は泥の海。
特になにも変化はない。
ところが持ち上げようとした足が上がらない。右足も左足も、泥の中に埋もれて引き上げることができなかった。
「足が! 足が上がりません!」
■もりもり:無理やりでもいいです! 足を引き抜いて! 階段まで戻って!!
そうは言っても懸命に引き抜こうとしているのだ。なんだ? どうして足が上がらないんだ?
私は神王装備のスキル。神王のブーツの力を発動させる。
『巨人の脚力!』
ものすごく強い力で足を持ち上げているはずだった。
ゆっくり、非常にゆっくりと右足が上がってくる。なんとか泥の上まで足を持ち上げると……。
■もりもり:足が掴まれています!
私の足首が、泥だらけの手で握られていた。
「ひええええ。何かに足首をつかまれておりますうぅ……」
おかしい。モンスターはいなかったはず。
いったいどういうことだ?
■ぽんた:あれやな。マッピングアプリって、スクショ撮れるん
■アクゾー:写真ってことな
■ぽんた:ほら、2枚写真撮ったで。黄色いドットの写真と赤いドットの写真
■アクゾー:一面が橙色に見えたのは、黄と赤が、ちゃかちゃか切り替わってたってこと
■ぽんた:モンスターが自分の強さを変えたんや
■アクゾー:人間様をだます知恵があるってことだな
「こ、これ!? モンスター!?」
■ぽんた:もう左足もつかまれているよなあ
■アクゾー:自分からモンスターの中に入っちゃっているんだものなあ
■ぽんた:両足掴まれてるわ。このまま泥の中に引きずり込まれて終わりだなあ
■アクゾー:ウンコの海じゃなかっただけ、幸いだな
■ぽんた:そんな死に方、嫌や。おいらでも、勘弁
ウンコの海……
嫌なことを想像させる。
そんなことよりもこの状況だ。
なんとかして最初の場所まで戻らなくてはならない。
200mほどは歩いて来てしまった。その距離が途方もなく遠く感じる。
216層とは一転、広い世界が広がっていた。
まわりは薄暗く、天井は土でできている。そして、足元は一面が泥の海だった。
そこへ足を踏み出す。
足が沈み込む。
ずぶっ。
脛まで泥の中に潜った。
「ひいっ。足が沈みますぅ! 泥だらけですぅ!」
最初に踏み込んだ右足のあとに、続けて左足も泥の中へ。
そのあと右足をぐいっと持ち上げるが、まるで田植え前の田んぼを歩いているように足が取られる。
「歩きにくいですぅぅ!」
ぐいっ、ずぶっ、ぐいっ、ずぶっ、を繰り返すしかなく、ゆっくりとしか前へ進めない。
黄金の神王装備だが、脛から下は泥だらけになっていた。
■ぽんた:こんなん見たことねえぞ
■アクゾー:フェイクじゃないよな……
■ぽんた:稲でも植えたら育ちそうだ
■アクゾー:泥しか見えねえな……転ぶなよ……
「なんですかあ。これはぁ。どこまでも、どこまでも、泥の海が続いておりますー。しかも、歩きにくくて、なかなか進めませんー」
実況配信をしながら、私は歩いていく。
■ぽんた:気をつけていけよお
■アクゾー:この子、考えなしに行くところあるよなぁ
■ぽんた:お嬢ちゃん、無謀だからなあ
「そんなことありませんよお。私だって、慎重に行動します。今だって、モンスターがいないか、周囲を気にしながら歩いていますし。ちゃんと警戒してますよぉー」
このエリアはとんでもなく広い。
地平線が見えるんじゃないかってくらいに、ずっと泥の海が続いている。
振り返ると、そこにあるのは小さな島で、私が降りてきた階段がある。階段は螺旋状になっていて、積まれた石で囲いが作られている。筒状になっており、上の階層まで伸びていた。
小さな島の上に長い筒がある状態だ。天井は土でできている。天井の高さはおよそ3mくらい。
まずは降りてきた場所をぐるっと一周するべきだったかもしれないが、もう歩いてきてしまっていた。
私はライブ配信の視聴者に向けて語りかける。
「みなさん、ここはとっても広いようです。もしかしたら、216階層のように無限に広がる空間かもしれません。注意して進みたいと思います」
■ぽんた:まあ、あれだよな、これ
■アクゾー:そうだな、あれだな
■ぽんた:ほんま、お嬢ちゃんは何も知らんと
■アクゾー:どう考えても行動がおかしいよな
「え、ぽんたさん、アクゾーさん。私、何か間違っていますか?」
■ぽんた:間違っとるというか、あれやな
■アクゾー:そうだな。初めてくる場所なんやし
■ぽんた:最初にマッピングアプリのチェックとデバイス解析せなあかんよ。216層でもそうやったが
■アクゾー:まあ、教えないほうが面白いということもあるんやけど
確かに二人の言う通りだったかもしれない。216階層に降りた時もその時点でデバイスを確認していれば、すぐにリビングデッドの存在に気がつくことができたのだ。
私はマッピングアプリを開いてみる。
モンスターがいる場合、その位置にドットが表示される。
私でも簡単に倒せる場合は青、同じくらいの強さなら黄色、強敵なら赤、とても倒せそうにない相手は紫だ。
マッピングアプリは画面全部が茶色のように見えた。泥の色とは違って、どちらかというと橙に近い色をしている。降りた階段のある場所は丸い島になっていた。それだけだった。
「モンスターはいないようです。あと、どこまでもやっぱり泥が広がっているだけのようです」
■ぽんた:ああ、そう見るのね
■アクゾー:まあ、初心者だから仕方ないか
■ぽんた:教えとく?
■アクゾー:まあ、この階層で死んじゃいそうだし、俺たちの再生回数に貢献してもらえばいいんじゃ?
■ぽんた:そうすっか、じゃあお嬢ちゃん南無阿弥陀仏。おつ、楽しい配信ありがとなぁ
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。どういうことなんですか? ちゃんと説明してくださいよ」
ぽんたさんとアクゾーさんはこれ以上教えてくれなかったが、いつも助けてくれるもりもりさんからのコメントが入った。
■もりもり:春菜さん! 足元! 足元!
言われて、私は周囲を見回す。
脛から下は泥の海。
特になにも変化はない。
ところが持ち上げようとした足が上がらない。右足も左足も、泥の中に埋もれて引き上げることができなかった。
「足が! 足が上がりません!」
■もりもり:無理やりでもいいです! 足を引き抜いて! 階段まで戻って!!
そうは言っても懸命に引き抜こうとしているのだ。なんだ? どうして足が上がらないんだ?
私は神王装備のスキル。神王のブーツの力を発動させる。
『巨人の脚力!』
ものすごく強い力で足を持ち上げているはずだった。
ゆっくり、非常にゆっくりと右足が上がってくる。なんとか泥の上まで足を持ち上げると……。
■もりもり:足が掴まれています!
私の足首が、泥だらけの手で握られていた。
「ひええええ。何かに足首をつかまれておりますうぅ……」
おかしい。モンスターはいなかったはず。
いったいどういうことだ?
■ぽんた:あれやな。マッピングアプリって、スクショ撮れるん
■アクゾー:写真ってことな
■ぽんた:ほら、2枚写真撮ったで。黄色いドットの写真と赤いドットの写真
■アクゾー:一面が橙色に見えたのは、黄と赤が、ちゃかちゃか切り替わってたってこと
■ぽんた:モンスターが自分の強さを変えたんや
■アクゾー:人間様をだます知恵があるってことだな
「こ、これ!? モンスター!?」
■ぽんた:もう左足もつかまれているよなあ
■アクゾー:自分からモンスターの中に入っちゃっているんだものなあ
■ぽんた:両足掴まれてるわ。このまま泥の中に引きずり込まれて終わりだなあ
■アクゾー:ウンコの海じゃなかっただけ、幸いだな
■ぽんた:そんな死に方、嫌や。おいらでも、勘弁
ウンコの海……
嫌なことを想像させる。
そんなことよりもこの状況だ。
なんとかして最初の場所まで戻らなくてはならない。
200mほどは歩いて来てしまった。その距離が途方もなく遠く感じる。
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