47 / 59
第47話 地下室へ
しおりを挟む
エラント皇帝が去った応接間。沈黙がその場を支配していた。
最初に沈黙を破る口火を切ったのは、フィーネだった。
「お父様は口にしたことは必ず実行します」
皇帝はガリュウとの戦いが不利だと判断した時点で、全員を石で固めると言った。多数のスキルを所有するガリュウは生き残ってしまうかもしれないが、それ以外の者は確実に死ぬだろう。
地下へと足を踏み入れた時点で逃げ場がないということだ。
奴を倒せる確証がない限りは行くべきではない。だから俺は言った。
「俺が一人で行くよ」
たぶんガリュウを倒すことなんてできない。ならせめて俺くらいはミミカといっしょにガリュウを巻き込んで死んでやろうと思った。
「ラミイ、悪いんだけど墓地の地下で拾った【ワイヤードプラント】のスキル玉を貸してもらえるかな」
あのスキル玉はガリュウの足止めに使える。地下を石で埋め尽くすまでの時間稼ぎに利用できるだろう。
「マヒロのアホ。このスキル玉は私のや。絶対に貸さへん」
ラミイは俺の目をじっと見つめてくる。私も行く、と言外に告げている。
「マヒロ、私も行きたいけど、お父様は行かせてくれないはず……」
フィーネが言う。地下への入り口は厳重に固められているだろうと。ドリルもカルニバスもどうやっても地下へは行けないはずだと。
「ゾゾゲ死んじゃうんだー。じゃあもうペットにできないね。ちょっと悲しい」
耳をまったく動かさずに言うドリルはいつもと違う視線を俺に向けた。遊び相手がいなくなってしまうことを嘆く子供の目ではなく、俺の運命を見据えている大人の目だ。
「ドーテーよ。そなたが望むなら、今この場でそなたの初めてを食してもよいぞ」
軽口を叩くカルニバスは、いつもならここで舌なめずりの一つもあっただろう。だが、本気で俺が望むならそれを叶えそうなくらいの落ち着いた口調だった。
結局のところ選択肢はそう無いのだ。誰もミミカのところへ行かないか、俺かラミイのどちらかが行くか、あるいは二人共が行くか。
そして俺もラミイも決断する選択肢は一つしか持ち得なかった。
「マヒロ、行こか」
明るく微笑みラミイが俺の手を取った。
「ああ、行こうか」
俺はその手を握り返す。一瞬だけミミカの顔が浮かんで心がちくりとした。しかし俺はそれを振り払い、ラミイの手を強く握り返した。
六人は無言のまま地下室への入口へ向かう。
案の定、地下へと降りる入り口には複数の兵士がいた。もちろんすべてがゴブリンだ。そこには急ごしらえであろう扉があった。後付ながら扉は分厚く、堅牢に作られていた。この奥に地下へと降りる階段があるのだという。
兵士は槍を手にしたまま「転生人のみ降りることを許可する」と冷たい声で言い放った。
「マヒロ、帰ってきてね」
フィーネは俺に抱きついてきた。俺はその頭を撫でながら「ちゃんと帰ってくるよ」と言った。
「なんだゾゾゲ、かえってくるんだ。死なないんだ。じゃあかえったら遊ぼうね」
「そうだ、私とも楽しいことをしようじゃないか。待っているぞ」
ドリルの耳は皇帝との謁見からずっとぴくりとも動かなかったが、今はぴこぴこ動いている。カルニバスもいつもの軽口に戻っていた。
ゴブリンの兵士が地下へと続く扉の鍵を外す。金属がきしむ嫌な音を立てながら、重い扉を開けていく。呑み込まれそうな暗闇がそこにはあった。なぜだか光が差し込まないその階段はほんの数段先までしか見通せない。まるで何年も封鎖されていたかのように、閉じ込められていた湿気を含む空気が溢れ、カビ臭い匂いが鼻をつく。地下の奥深くから瘴気が上ってくるように感じ、同時に嫌な気配を運んでくる。
「じゃあ、行ってくる」
そう言って、俺とラミイは地下への階段へ踏み出した。石に囲まれた狭い空間は冷気でひんやりとしている。背後で再び重苦しく金属がきしむ音がして扉が閉められた。階段は完全な暗闇に包まれた。
最初に沈黙を破る口火を切ったのは、フィーネだった。
「お父様は口にしたことは必ず実行します」
皇帝はガリュウとの戦いが不利だと判断した時点で、全員を石で固めると言った。多数のスキルを所有するガリュウは生き残ってしまうかもしれないが、それ以外の者は確実に死ぬだろう。
地下へと足を踏み入れた時点で逃げ場がないということだ。
奴を倒せる確証がない限りは行くべきではない。だから俺は言った。
「俺が一人で行くよ」
たぶんガリュウを倒すことなんてできない。ならせめて俺くらいはミミカといっしょにガリュウを巻き込んで死んでやろうと思った。
「ラミイ、悪いんだけど墓地の地下で拾った【ワイヤードプラント】のスキル玉を貸してもらえるかな」
あのスキル玉はガリュウの足止めに使える。地下を石で埋め尽くすまでの時間稼ぎに利用できるだろう。
「マヒロのアホ。このスキル玉は私のや。絶対に貸さへん」
ラミイは俺の目をじっと見つめてくる。私も行く、と言外に告げている。
「マヒロ、私も行きたいけど、お父様は行かせてくれないはず……」
フィーネが言う。地下への入り口は厳重に固められているだろうと。ドリルもカルニバスもどうやっても地下へは行けないはずだと。
「ゾゾゲ死んじゃうんだー。じゃあもうペットにできないね。ちょっと悲しい」
耳をまったく動かさずに言うドリルはいつもと違う視線を俺に向けた。遊び相手がいなくなってしまうことを嘆く子供の目ではなく、俺の運命を見据えている大人の目だ。
「ドーテーよ。そなたが望むなら、今この場でそなたの初めてを食してもよいぞ」
軽口を叩くカルニバスは、いつもならここで舌なめずりの一つもあっただろう。だが、本気で俺が望むならそれを叶えそうなくらいの落ち着いた口調だった。
結局のところ選択肢はそう無いのだ。誰もミミカのところへ行かないか、俺かラミイのどちらかが行くか、あるいは二人共が行くか。
そして俺もラミイも決断する選択肢は一つしか持ち得なかった。
「マヒロ、行こか」
明るく微笑みラミイが俺の手を取った。
「ああ、行こうか」
俺はその手を握り返す。一瞬だけミミカの顔が浮かんで心がちくりとした。しかし俺はそれを振り払い、ラミイの手を強く握り返した。
六人は無言のまま地下室への入口へ向かう。
案の定、地下へと降りる入り口には複数の兵士がいた。もちろんすべてがゴブリンだ。そこには急ごしらえであろう扉があった。後付ながら扉は分厚く、堅牢に作られていた。この奥に地下へと降りる階段があるのだという。
兵士は槍を手にしたまま「転生人のみ降りることを許可する」と冷たい声で言い放った。
「マヒロ、帰ってきてね」
フィーネは俺に抱きついてきた。俺はその頭を撫でながら「ちゃんと帰ってくるよ」と言った。
「なんだゾゾゲ、かえってくるんだ。死なないんだ。じゃあかえったら遊ぼうね」
「そうだ、私とも楽しいことをしようじゃないか。待っているぞ」
ドリルの耳は皇帝との謁見からずっとぴくりとも動かなかったが、今はぴこぴこ動いている。カルニバスもいつもの軽口に戻っていた。
ゴブリンの兵士が地下へと続く扉の鍵を外す。金属がきしむ嫌な音を立てながら、重い扉を開けていく。呑み込まれそうな暗闇がそこにはあった。なぜだか光が差し込まないその階段はほんの数段先までしか見通せない。まるで何年も封鎖されていたかのように、閉じ込められていた湿気を含む空気が溢れ、カビ臭い匂いが鼻をつく。地下の奥深くから瘴気が上ってくるように感じ、同時に嫌な気配を運んでくる。
「じゃあ、行ってくる」
そう言って、俺とラミイは地下への階段へ踏み出した。石に囲まれた狭い空間は冷気でひんやりとしている。背後で再び重苦しく金属がきしむ音がして扉が閉められた。階段は完全な暗闇に包まれた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜
サカキ カリイ
ファンタジー
「なんだ!あの農具は!槍のつもりか?」「あいつの頭見ろよ!鍋を被ってるやつもいるぞ!」ギャハハと指さして笑い転げる正規軍の面々。
魔王と魔獣討伐の為、軍をあげた帝国。
討伐の為に徴兵をかけたのだが、数合わせの事情で無経験かつ寄せ集め、どう見ても不要である部隊を作った。
魔獣を倒しながら敵の現れる発生地点を目指す本隊。
だが、なぜか、全く役に立たないと思われていた部隊が、背後に隠されていた陰謀を暴く一端となってしまう…!
〜以下、第二章の説明〜
魔道士の術式により、異世界への裂け目が大きくなってしまい、
ついに哨戒機などという謎の乗り物まで、この世界へあらわれてしまう…!
一方で主人公は、渦周辺の平野を、異世界との裂け目を閉じる呪物、巫女のネックレスを探して彷徨う羽目となる。
そしてあらわれ来る亡霊達と、戦うこととなるのだった…
以前こちらで途中まで公開していたものの、再アップとなります。
他サイトでも公開しております。旧タイトル「茫漠と彷徨えるなにか」。
「離れ小島の二人の巫女」の登場人物が出てきますが、読まれなくても大丈夫です。
ちなみに巫女のネックレスを持って登場した魔道士は、離れ小島に出てくる男とは別人です。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる