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第13話 エミリスさんのおごりで食べたバーグは絶品だった
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食堂はほぼ満席の状態だった。わずかに空いていた席に三人は座る。
「お嬢ちゃん、名前はなんというのだ?」
席に着くなり、エミリスさんがフィーネに尋ねる。
「フィーネだよ」
「フィーネか、自己紹介が遅れたな。私はエミリス。エミリス・ガーラットだ。王国騎士団第八部隊の副部隊長をしている」
「副部隊長さんがこんなところに来ていていいんですか?」
俺はエミリスさんに問いかける。
「かまわんさ、副部隊長は三人いるからな。交代で休めるよ」
そこへ店員が注文を取りにやってきた。水を三人分テーブルに置く。エミリスさんがメニューを見て注文する。
「バーグとパンを三人分頼む」
メニューを見てみたがバーグだけで一人前35ギルもする。パンは2ギルなのでバーグは高級品なのかもしれない。
しばらく雑談をしていると店員が料理を運んできた。
「ほら、料理が来たぞ。これがバーグだ。ちょっと値段が高いが、高いだけあってうまいぞ。この料理は『聖女ミミ様』が考案されたそうだ」
バーグは肉料理だ。丸い鉄板の上に重量感のある丸い肉がのっている。肉の厚みもかなりある。鉄板は熱してあるようで、上に乗った肉がじゅうじゅうと音を出しながら湯気を立て、食欲をそそる肉の香りが鼻孔をくすぐる。
「少年はバーグを食べたことがないと言ったな。従来は肉料理といったら、そのままただ焼くだけが常識だった。焼いた肉に、せいぜい塩で味付けする程度。まあ調理すると言っても、小さく切った肉を串に刺して焼くとかな。工夫するとしたらその程度だった。それを聖女ミミ様はな、驚くなよ、なんと、肉を小さく小さくミンチ状にしたのだ。そしてミンチ状の肉をまるめて焼いた。これにより、とろけるような柔らかさが実現された。本来、肉というものは固く、噛みちぎるものだった。こんな柔らかい状態で肉を食すなど、我々の常識には全く無かった。しかも柔らかいだけではない」
エミリスさんは饒舌にしゃべりながらバーグにナイフを差し込み、手前に引く。バーグから肉汁が溢れだす。
「ほら見ろ、この滴るような汁を。バーグの内側にこの汁が封じ込められている。だから柔らかさだけではなく、芳醇で濃厚な味わいがある。聖女ミミ様の発想は本当に素晴らしい。こんな素晴らしい料理を考案されるなんて、聖女ミミ様はどんなお方だろうか。前から一度お会いしたいと思っていたのだ」
エミリスさんはバーグを切り分け、フォークで刺して口へと運ぶ。それを真似するように不器用にフォークとナイフを使いながら、フィーネもバーグを食べる。
なるほど、これがバーグ……。ひと目でわかりました。わかりましたとも。
はい、俺が元いた世界ではこれを「ハンバーグ」と言います。確かに美味しいですよね、ハンバーグ。上にチーズを乗せたりしたら、これまた絶品ですよ。
「驚くなよ、聖女ミミ様の発想はこれだけに留まらない。なんと! このバーグをどうしたと思う? こうやって食べられるようにしたんだよ」
そういってエミリスさんは横のパンに手を伸ばし、ナイフでパンを割ってあいだにバーグを挟みこんだ。
「ほら、ほら、すごいじゃないか。こうやってパンにバーグを挟んだのだ。こうするとナイフとフォークを使わずにバーグを食すことができる。手で食べることができるのだ。パンとバーグを同時に味わう。こんなことは誰も思いつかなかった。まったく、聖女様のひらめき、発想、感性は本当に素晴らしい。もしかしたら女神様の化身ではないか……」
エミリスさんはそれを口に運びながら、うっとりとした目で感慨深そうにひとくちひとくちを噛み締めている。
俺はそれを冷めた目で見ていた。
はい、はい、「ハンバーガー」ね。そんなの俺でも思いつくって。ハンバーグといっしょにトマトやレタスでもいっしょに入れてやろうか。エミリスさんおったまげるぞ。
横ではフィーネが「本当だ、パンに挟むと、おいひぃ、おいひぃ。マヒロもやってみなよ」とハンバーガーをほおばっている。
「少年よ、聖女様は挟むものはバーグだけじゃなく、パンとパンの間にいっしょに菜っ葉やトマの実のスライスも入れたりされている。これがまた絶品なのだ。本当に驚くべき発想だよ」
まるで俺の心を読んだかのように、そんなのはすでにこの世界にあるとエミリスさんは教えてくれた。
レタスやトマトをいっしょに挟んだハンバーガーも、すでに聖女様がやってるのね……。
メニューを良く見たら「チーズ・バーグ」なる項目もあるし。ちなみにメニューには日本語とこの世界の言葉の両方で書かれている。
「ああ、楽しみだ。明日、聖女様にお会いできる。いったいどんなお方なのだろう……。少年もぜひ聖女様に会っておくと良い。なかなかこんな機会はないぞ」
まあ、この店のハンバーグ、確かに美味しかったよ。
それに自分の金じゃなく、おごりだからなお美味しい。
でも聖女ミミってさあ、転生人なんじゃないのか? なんかそんな気がしてきた。だが、このときはまだ確信がなかった。そして、明日の聖女との邂逅、それにより俺の疑問は確信に変わることになる。
「お嬢ちゃん、名前はなんというのだ?」
席に着くなり、エミリスさんがフィーネに尋ねる。
「フィーネだよ」
「フィーネか、自己紹介が遅れたな。私はエミリス。エミリス・ガーラットだ。王国騎士団第八部隊の副部隊長をしている」
「副部隊長さんがこんなところに来ていていいんですか?」
俺はエミリスさんに問いかける。
「かまわんさ、副部隊長は三人いるからな。交代で休めるよ」
そこへ店員が注文を取りにやってきた。水を三人分テーブルに置く。エミリスさんがメニューを見て注文する。
「バーグとパンを三人分頼む」
メニューを見てみたがバーグだけで一人前35ギルもする。パンは2ギルなのでバーグは高級品なのかもしれない。
しばらく雑談をしていると店員が料理を運んできた。
「ほら、料理が来たぞ。これがバーグだ。ちょっと値段が高いが、高いだけあってうまいぞ。この料理は『聖女ミミ様』が考案されたそうだ」
バーグは肉料理だ。丸い鉄板の上に重量感のある丸い肉がのっている。肉の厚みもかなりある。鉄板は熱してあるようで、上に乗った肉がじゅうじゅうと音を出しながら湯気を立て、食欲をそそる肉の香りが鼻孔をくすぐる。
「少年はバーグを食べたことがないと言ったな。従来は肉料理といったら、そのままただ焼くだけが常識だった。焼いた肉に、せいぜい塩で味付けする程度。まあ調理すると言っても、小さく切った肉を串に刺して焼くとかな。工夫するとしたらその程度だった。それを聖女ミミ様はな、驚くなよ、なんと、肉を小さく小さくミンチ状にしたのだ。そしてミンチ状の肉をまるめて焼いた。これにより、とろけるような柔らかさが実現された。本来、肉というものは固く、噛みちぎるものだった。こんな柔らかい状態で肉を食すなど、我々の常識には全く無かった。しかも柔らかいだけではない」
エミリスさんは饒舌にしゃべりながらバーグにナイフを差し込み、手前に引く。バーグから肉汁が溢れだす。
「ほら見ろ、この滴るような汁を。バーグの内側にこの汁が封じ込められている。だから柔らかさだけではなく、芳醇で濃厚な味わいがある。聖女ミミ様の発想は本当に素晴らしい。こんな素晴らしい料理を考案されるなんて、聖女ミミ様はどんなお方だろうか。前から一度お会いしたいと思っていたのだ」
エミリスさんはバーグを切り分け、フォークで刺して口へと運ぶ。それを真似するように不器用にフォークとナイフを使いながら、フィーネもバーグを食べる。
なるほど、これがバーグ……。ひと目でわかりました。わかりましたとも。
はい、俺が元いた世界ではこれを「ハンバーグ」と言います。確かに美味しいですよね、ハンバーグ。上にチーズを乗せたりしたら、これまた絶品ですよ。
「驚くなよ、聖女ミミ様の発想はこれだけに留まらない。なんと! このバーグをどうしたと思う? こうやって食べられるようにしたんだよ」
そういってエミリスさんは横のパンに手を伸ばし、ナイフでパンを割ってあいだにバーグを挟みこんだ。
「ほら、ほら、すごいじゃないか。こうやってパンにバーグを挟んだのだ。こうするとナイフとフォークを使わずにバーグを食すことができる。手で食べることができるのだ。パンとバーグを同時に味わう。こんなことは誰も思いつかなかった。まったく、聖女様のひらめき、発想、感性は本当に素晴らしい。もしかしたら女神様の化身ではないか……」
エミリスさんはそれを口に運びながら、うっとりとした目で感慨深そうにひとくちひとくちを噛み締めている。
俺はそれを冷めた目で見ていた。
はい、はい、「ハンバーガー」ね。そんなの俺でも思いつくって。ハンバーグといっしょにトマトやレタスでもいっしょに入れてやろうか。エミリスさんおったまげるぞ。
横ではフィーネが「本当だ、パンに挟むと、おいひぃ、おいひぃ。マヒロもやってみなよ」とハンバーガーをほおばっている。
「少年よ、聖女様は挟むものはバーグだけじゃなく、パンとパンの間にいっしょに菜っ葉やトマの実のスライスも入れたりされている。これがまた絶品なのだ。本当に驚くべき発想だよ」
まるで俺の心を読んだかのように、そんなのはすでにこの世界にあるとエミリスさんは教えてくれた。
レタスやトマトをいっしょに挟んだハンバーガーも、すでに聖女様がやってるのね……。
メニューを良く見たら「チーズ・バーグ」なる項目もあるし。ちなみにメニューには日本語とこの世界の言葉の両方で書かれている。
「ああ、楽しみだ。明日、聖女様にお会いできる。いったいどんなお方なのだろう……。少年もぜひ聖女様に会っておくと良い。なかなかこんな機会はないぞ」
まあ、この店のハンバーグ、確かに美味しかったよ。
それに自分の金じゃなく、おごりだからなお美味しい。
でも聖女ミミってさあ、転生人なんじゃないのか? なんかそんな気がしてきた。だが、このときはまだ確信がなかった。そして、明日の聖女との邂逅、それにより俺の疑問は確信に変わることになる。
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