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許せないことってありますよね
41.始動
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右手に持っていた凍花を離し空中で蒸発させつつ右足を踏み出して足裏から前方の地面に向かって魔力を流す。
「ユイそっちに行ったぞ!」
黒と紫の毒々しいまだら模様がストラに追い込まれてこちらに向かってきたと思ったら、わたしに気付いてすぐに大口を開けて襲いかかってくる。追われてたのに追ったつもりに思考がなっちゃったのですかね。
逃げてる間は地面を這っていたはずなのに襲ってくるときは何故か飛び跳ねて真っ直ぐこちらに向かってくるその細い身体を狙って魔法を放つ。素早いだけで単純な動きをするから倒すの楽ですねっ。
「『螺旋岩』!」
某忍者漫画と同じ読みではあるけれどあれとは全くの別物の魔法で、岩のように硬めてドリル状にした土の塊が下から回転しながら生えてきて細い身体に見事に突き刺さる。タイミングもバッチリで顔のちょっと下の、人でいうと胸あたりを貫いた。一瞬で絶命したのか刺さったままにくたりと垂れ下がる様を眺めると追いついたストラがその様子をみて指をさしながら叫ぶ。
「あぁぁっ! お前そんなもんで串刺しにしたら高級素材の毒袋がっ……あぁぁ……ちょうど刺さって穴空いてるぅぅ……」
「あっ……ドンマイ……!」
刺さった岩を汚すようにドロドロと伝い流れ、垂れ下がる身体の端からはポタポタと滴り落ちる紫と黒の液体。紫は血、黒は毒。それらが混ざり合うように流れ出している岩の目の前で打ちひしがれるストラとその様子を見て慰めようと巻き付いていたストラの首から少し離れてペロペロ必死に頬を舐める睡蓮。
最近の彼らはわたしをほっぽってのイチャラブ度合いがすごい。今も目の前でいちゃいちゃしだしてますけど、睡蓮はわたしの使役獣なはずなのにっ……! これが一緒にいる時間の差なのかっ……くっ……。
「そんな毒々しい場所でイチャコラしないでくださいよね! 全く……。」
ストラから数歩離れたところには体内に入れば確実にタダでは済まないであろう毒々しい水たまりが広がっている。ため息をついて睡蓮を撫でながら立ち上がると気を取り直したのか岩に刺さったその蛇を眺めながら口を開く。
「毒々しい場所にしたのはお前なんだけどなぁ……はぁ……。
こいつなぁ……見かけたときから思ってはいたんだ。俺の見間違えじゃなければ、この猛毒を持ってますと言わんばかりの色合いをしたこの小さな蛇は『エクリプス』とかいう名前なんじゃないのかなぁと思うんだが、どうだろうか。」
さっきまで高級毒袋がー! って言ってたのに今さらですね。紫の血をした『毒袋』のある蛇はエクリプスだけですからね。
「わたしも実物見るのは初めてですけど、多分そうじゃないかなぁと思うんですよねぇ~。血も紫だし。
素早い動きと秀逸な隠蔽能力で『草むらの暗殺者』なんて厨二くっさい名前がつけられてるエクリプスさんなんじゃないですかねぇ。初手さえ避けちゃえば大したことなかったですね。」
「出た、チュウニ。二つ名がついてると全部チュウニなのか?
いやまぁな、たしかにそんなに大変じゃなかったけど普通の冒険者は大したことなくないんだけどな? 俺の記憶違いじゃなければエクリプスってランクA+だからな。
それにしてもなぁ……この山B+ってギルドマスターから聞いたし、俺もそう認識していたんだけどなぁ。
確か普通だと生息してる魔物はグリン、ベベベア、ビッグベア、サルファーフロッグ……あとは蛇は蛇でもこんな凶悪な毒蛇ではなくサベージスネークくらいだったよなぁ……」
グリンがCランクの鳥、ベベベアもCランクで赤ちゃんサイズの熊。可愛いけど一人前冒険者にならないと狩れないくらいには凶悪な熊さんです。ちなみに赤ちゃんサイズとはいっても人ではなく熊の赤ちゃんサイズなので普通にデカイです。
ビッグベアは名前そのまんまでおっきい熊さん、サルファーフロッグは口から石の塊を吐いてくる皮膚が石のように硬いガッチゴチの蛙。
サベージスネークは獰猛だけど毒はない蛇で、このへんはみんなBランクの魔物です。
「どういうことなんですかねぇ?
Bランクは見かけますけどCランクの魔物なんてほとんどいないです。
でもそんな情報が事前になかったってことは壊滅したパーティーがいた時には違和感はなく普通の山だった、とか?」
今のところベベベアは一匹目撃しましたけどグリンなんて一匹も見ていないのですよね。
ちょっと高めの食用肉にもなるくらいには美味しい鳥なのでこの山でも割と狩られる側なのかなーとは思いますけど、それにしても少ない。
繁殖力が強いので生息地には多くいるはずなんですけど……。
「まぁ、ついでに調査も軽くしていきましょーかー。
どっちにしろアースワイバーンも普段はいないわけだし、てことはやっぱり何かしらあるってことで。」
この依頼って採取依頼に包まれた討伐依頼、にさらに包まれた調査依頼だと思うんですよねぇ。
あれですか、コンビニで買ったばかりの袋から出した包み(採取依頼)を開けるとでてきた肉まん(討伐依頼)に噛り付いたら実はあんまん(調査依頼)でした、みたいな。うん、分かりづらいですね。あんまん食べたい。粒あんが好き。
毒袋以外の素材は小さすぎて特に値段のつかないエクリプスはドリルを解除したらその土の中に半分以上埋まったので放置していく。
毒袋を回収できてたら結構高く売れたんですけどね。
穴開けるからぁー。誰だろうね、まったくぅ。
21時くらいに王都を出発したんですけど予定時刻よりも1時間ほど早い4時くらいに麓についたので山に入る前に2人とも仮眠をとったんですよね。『隠蔽』で気配を絶って、『認識齟齬』をかけて『存在希薄』でさらに存在感を無くした後に『遮断結界』をかけて木の陰で毛布をかけて寝ました。結界が外との干渉を絶ってくれるので寒くなく快適……とはいっても地面は硬いんですけどね。
でもストラが木に寄っかかってその足の間にわたしが入り込んで寝たのでぬくぬくだし背中は痛くならなかったです。
明るくなりだした6時半すぎくらいに動き出して現在7時ちょいすぎ……山に入ってからは30分くらいってところ。
草刈り鎌サイズにした凍花を振り回して周囲の草を刈りながらぶらぶらと歩く。
そういえば夜狩とは言ったけれど山に入ったの明るくなってからってなるとほんとに夜狩っていうのかな……? いやまあいいんだけど……。
「ミオリシナ山て休火山なんだよね?」
「そうだな。最後に噴火したのは何百年も前だったからいつだか細かいことは忘れたが。」
ミオリシナ山は休火山で山頂がぺっこり凹んでる形をした山だったようで、FUJIYAMAの雪に覆われた部分がちょん切れたような形をしていました。『oh、綺麗に山形なのに雪部分がないyo!』って謎のテンションに脳内がなりましたYO。おっと名残が。
「実は活火山になっててそれのせいで魔物の生態系に影響がでた……とかだったりして~。」
「うわ、それ笑えねぇな……」
活火山はどれくらいで噴火するのか分からないですけど、ここにいる間に噴火したら笑える。いや、多分実際噴火したら引きつりますけど。
話しながらも進んでいくと、出てくるのはサルファーフロッグやサベージスネーク、そして途中の池のような水場にはフローラがいたりしました。
睡蓮の名付けのときに話題になった食人花ですね。綺麗な花でしたよ。トゲトゲの歯がついた口が開かなければ、ですけど。なにあれ凶悪すぎますよ……。
「せぇーいや! 『囚われの姫君』あいや私めにおまかせくださいませ! 今すぐ貴女を縛り付ける俗世の柵から救い出してみせますとも! 『首刈之風』!」
「『暴風』「姫ー! 安らかにお眠りくださいー!」……『鎌鼬』」
「『磔聖女』助命嘆願でござるっ、しかしこの世は無情也ー! 『一刀両断』! ファイヤあああー!」
「『暴風』……あっやべ、スマン一匹そっちいった!」
「まかせておくんなせぇ旦那ぁっ! 『貴方のためならエーンヤッコラァ』!」
「……」
何故か大量発生しているエクリプス。毒袋を潰してしまわないように首チョンパしたりして切断系で討伐していってます。
ちなみにファイヤーはただの掛け声です。ほんとにファイヤーしたらストラに怒られますからね……。さっき毒袋ごと灰にしちゃってゲンコツくらいました……漫画みたいなタンコブできたらどうするのさっ
「……終わった、か……。」
「いい汗かきましたっ! ふぅっ。ってあれ? そんなに疲れました?」
なんでそんな複雑な顔してるんですかね。
「なぁ?」
「なんですか?」
「さっきの茶番みたいなデタラメな魔法たちはなんだ……」
「えー? いやあ、蛇って攻撃の種類そんなないしすばしっこいだけだから飽きてきちゃって……。作業ゲーになってたから……戦闘に花を作戦?」
「やってることがデタラメすぎる……なんでこんなふざけた奴がこんな強いんだよ……。」
いやん、そんな疲れたような顔しないでくださいなってへっ。
『囚われの姫君』で塔のようなものを作って最上階に作った檻にエクリプスを閉じ込めて首を狙った鎌鼬のような風の刃でスパーン。
『磔聖女』でジャンヌダルクをイメージして十字に磔にしたエクリプスをやっぱり首チョンパ。個人的にはジャンヌダルクって好きなので助けてあげたいけど実際磔にしたのはエクリプスなので勿論助けませんとも。
『貴方のためならエンヤコラ』は土の斧が出現して襲ってきたエクリプスを上からスパーンってしました。
エンヤコラァっていうと木とかを切ってるイメージがあって斧が出現って感じですね。
ストラは淡々と風で巻き上げて鎌鼬してた横で寸劇。まぁそりゃ気になりますよねー。反省? しませんとも!
ため息をつきながらエクリプスの毒袋を回収しているので手伝ってるんだけど、これまた多いですね……。
「1.2.3……うわ、毒袋全部で23個とかある。」
集めた素材は収納に入れるので全部わたしが回収してますけど、本来はいないはずの魔物の素材がこんなに集まるって異常事態ですよね、ほんとに。
誰かがここに連れてきたんじゃないかってほど。
……ほんとに誰かが連れてきた、とか?
えー、活火山になったんじゃないかとか、誰かが連れてきたんじゃないかとか……フラグたてすぎー! 全部へし折れてほしい……。
「ん……23か、多いな……何が起こったんだろうなぁ……。それにしても……アースワイバーンもまだ出てきてないが、さっきから出てきてるのが爬虫類ばかりなんだよな……。元から住み着いていたサルファーフロッグやサベージスネークが出てきてるのにベア類が全く出てこない。麓の方では少しいたが……食用になりそうな肉類がいないんだよな……肉類はアースワイバーンの餌になったのか……?」
「そいえばいないですね。アースワイバーンって爬虫類は食べないんですかね? いやまぁ……エクリプスは毒物危険だし、サルファーフロッグは硬いし、サベージスネークくらいしか食べられなそうですけど。」
熊さんとか鳥さんは確かにすでに餌になってそうな気もします。
餌になってそうだけど、全然ここまで出てこないとほんとにワイバーンはいるのかなーとかも疑問に思っちゃうんだよなー。
「まぁ山頂行ってみればなんかしら分かるかもですし、とりあえず行ってから考えるってことで。」
「そうだな、考えても分かんないしな。」
「しかしここで問題が。」
「なんだ?」
「お腹が空きました。」
「キュー……」
ストラの肩に乗ってた睡蓮のお腹とわたしのお腹が同時にグーっと鳴ったので苦笑したストラの提案によらこの辺で朝ごはんにすることになりました。だってもう9時になるところだもの、お腹すいたものー。
今日の朝ごはんは途中で見つけたキノコ数種類が入ったスープと麓で狩ったベベベアの串焼き、あとは家から持ってきたパンです。
睡蓮はストラの代わりに肩で結界を張り続けていたのでびろーんっと伸びたスライム形態で串焼きに噛り付いてモキュモキュしてます。
なにやら戦闘中のストラにくっ付いてるとくるくると舞うように戦ってるから酔うらしくていっつもふにゃふにゃになってるんですよね。最初よりはマシになったみたいだけど。
狐形態だと落落下の危険があるみたいで、スライムに戻って首にしがみついてるんだけど……ストラの髪の毛と同じく光加減でキラキラしてるのでストラの首から上のキラキラっぷりがヤバい。
ふと思ったけど万が一にもストラが首チョンパされたら睡蓮も同時に胴体まっぷたつなんだよね、なにその死ぬ時も一緒に、みたいなの。
仲間外れ感半端ないですけど。
串肉をあーんと大きく頬張ったタイミングで睡蓮とストラの探知範囲に何かの気配を感じたらしく同時にバッと立ち上がりストラは双剣を手にして睡蓮は結界を張る。
1人気配察知範囲が狭いわたしだけ出遅れで口をモギュモギュしながら結界を張る。
ベベベアの肉、そんなに柔らかくないからすぐに飲み込めないんですよねっ!
「来るぞ……」
なんかの気配は確かに感じるけど……もぐもぐ……体長は3メートルくらい……かな?
もぐもぐもぐ……ガサガサっと風が木々を揺すってる音がどんどん近付いてきて上空の少し開けたところに姿を現したのは一体の……もぐ……
「アースワイバーン!」
焦げ茶色した3メートルほどのワイバーンがこちらを見て鼻をヒクヒクさせているのが見える。
あ、ストラに喋りかけたいけど肉がっ……。
「むぎゅ……ごくん。アースワイバーンは複数って報告でしたよね? 範囲に他のワイバーンのような魔物は?」
「いや、俺の範囲内にはいないな……こいつだけだ。」
軍隊のように群れてるっていうアースワイバーンがなんで一体だけ……ってなんか火元に刺さった串肉見てない……? もしかして匂いにつられた?
余ってる串肉を一本掴んで右に左に移動すると鼻をヒクヒクさせながら視線が追いかけてきます。まじだ。まさかの食いしん坊アースワイバーン。
「これは……匂いにつられてこいつだけ抜け出してきたのか……?」
「なんか、そうっぽいですね……。アホの子みたいだけど……バラけて来てくれるならこっちはありがたいです、ねっ!
『拘束蔓薔薇』『氷柱留め』!」
握ってる串ごとアースワイバーンの少し下あたりに思い切り投げつけると思った通りに串肉目掛けて無警戒に下に降りて来たのでアースワイバーンを地面に縫い付けるように薔薇の蔓を生やして地面に落とす。更に氷柱を何本も出して羽根を地面に縫い付けて動けないようにする。
「フギャーーーー! グァー! ギャギャー!」
ジタバタと吼えるように叫びながら暴れるけれど全長の半分以上を占める羽根を氷柱で縫い付けられてる上に棘の生えた薔薇の蔓が胴体も羽根も押さえつけているから動くことも出来ず身動ぐ程度。
そこに追い討ちをかけるように走って近付いたストラが両手に持った双剣を両手で合わせ持ってジャンプする。
喉目掛けて体重と重力をかけたその一撃は身動き出来ないアースワイバーンには避けることも出来ず肉にたやすく食い込んでいき、左右に開かれた双剣により首と胴体が離れ青色の血飛沫を撒き散らしていく。
避けてはいたけれど間近すぎて避けきれなかったのか身体に血飛沫を浴びたストラの服はまだらに青に染まり、プラチナ色の髪の毛からは滴り落ちる青色が壮絶に色っぽかった。
煩わしそうに顔についた血を乱暴に拭う様は綺麗系のかっこよさをしてるストラの見た目を野性味のあるイケメンに見せるほどで、動悸が激しく脈を打つ。
……えっ、いきなりどうした? ストラがイケメンなのは前からじゃん……?
15歳になったからなんか自分の中で心境の変化でもあったとかかな……。
首を傾げつつもアースワイバーンを調べるため、ストラにかかってしまった血を洗浄するために歩み出す。固まってしまっていたわたしを不思議そうな顔をして見ているストラに近付くと更に高鳴る鼓動の意味は、今はまだ考えなくても、いいですよね。
「ユイそっちに行ったぞ!」
黒と紫の毒々しいまだら模様がストラに追い込まれてこちらに向かってきたと思ったら、わたしに気付いてすぐに大口を開けて襲いかかってくる。追われてたのに追ったつもりに思考がなっちゃったのですかね。
逃げてる間は地面を這っていたはずなのに襲ってくるときは何故か飛び跳ねて真っ直ぐこちらに向かってくるその細い身体を狙って魔法を放つ。素早いだけで単純な動きをするから倒すの楽ですねっ。
「『螺旋岩』!」
某忍者漫画と同じ読みではあるけれどあれとは全くの別物の魔法で、岩のように硬めてドリル状にした土の塊が下から回転しながら生えてきて細い身体に見事に突き刺さる。タイミングもバッチリで顔のちょっと下の、人でいうと胸あたりを貫いた。一瞬で絶命したのか刺さったままにくたりと垂れ下がる様を眺めると追いついたストラがその様子をみて指をさしながら叫ぶ。
「あぁぁっ! お前そんなもんで串刺しにしたら高級素材の毒袋がっ……あぁぁ……ちょうど刺さって穴空いてるぅぅ……」
「あっ……ドンマイ……!」
刺さった岩を汚すようにドロドロと伝い流れ、垂れ下がる身体の端からはポタポタと滴り落ちる紫と黒の液体。紫は血、黒は毒。それらが混ざり合うように流れ出している岩の目の前で打ちひしがれるストラとその様子を見て慰めようと巻き付いていたストラの首から少し離れてペロペロ必死に頬を舐める睡蓮。
最近の彼らはわたしをほっぽってのイチャラブ度合いがすごい。今も目の前でいちゃいちゃしだしてますけど、睡蓮はわたしの使役獣なはずなのにっ……! これが一緒にいる時間の差なのかっ……くっ……。
「そんな毒々しい場所でイチャコラしないでくださいよね! 全く……。」
ストラから数歩離れたところには体内に入れば確実にタダでは済まないであろう毒々しい水たまりが広がっている。ため息をついて睡蓮を撫でながら立ち上がると気を取り直したのか岩に刺さったその蛇を眺めながら口を開く。
「毒々しい場所にしたのはお前なんだけどなぁ……はぁ……。
こいつなぁ……見かけたときから思ってはいたんだ。俺の見間違えじゃなければ、この猛毒を持ってますと言わんばかりの色合いをしたこの小さな蛇は『エクリプス』とかいう名前なんじゃないのかなぁと思うんだが、どうだろうか。」
さっきまで高級毒袋がー! って言ってたのに今さらですね。紫の血をした『毒袋』のある蛇はエクリプスだけですからね。
「わたしも実物見るのは初めてですけど、多分そうじゃないかなぁと思うんですよねぇ~。血も紫だし。
素早い動きと秀逸な隠蔽能力で『草むらの暗殺者』なんて厨二くっさい名前がつけられてるエクリプスさんなんじゃないですかねぇ。初手さえ避けちゃえば大したことなかったですね。」
「出た、チュウニ。二つ名がついてると全部チュウニなのか?
いやまぁな、たしかにそんなに大変じゃなかったけど普通の冒険者は大したことなくないんだけどな? 俺の記憶違いじゃなければエクリプスってランクA+だからな。
それにしてもなぁ……この山B+ってギルドマスターから聞いたし、俺もそう認識していたんだけどなぁ。
確か普通だと生息してる魔物はグリン、ベベベア、ビッグベア、サルファーフロッグ……あとは蛇は蛇でもこんな凶悪な毒蛇ではなくサベージスネークくらいだったよなぁ……」
グリンがCランクの鳥、ベベベアもCランクで赤ちゃんサイズの熊。可愛いけど一人前冒険者にならないと狩れないくらいには凶悪な熊さんです。ちなみに赤ちゃんサイズとはいっても人ではなく熊の赤ちゃんサイズなので普通にデカイです。
ビッグベアは名前そのまんまでおっきい熊さん、サルファーフロッグは口から石の塊を吐いてくる皮膚が石のように硬いガッチゴチの蛙。
サベージスネークは獰猛だけど毒はない蛇で、このへんはみんなBランクの魔物です。
「どういうことなんですかねぇ?
Bランクは見かけますけどCランクの魔物なんてほとんどいないです。
でもそんな情報が事前になかったってことは壊滅したパーティーがいた時には違和感はなく普通の山だった、とか?」
今のところベベベアは一匹目撃しましたけどグリンなんて一匹も見ていないのですよね。
ちょっと高めの食用肉にもなるくらいには美味しい鳥なのでこの山でも割と狩られる側なのかなーとは思いますけど、それにしても少ない。
繁殖力が強いので生息地には多くいるはずなんですけど……。
「まぁ、ついでに調査も軽くしていきましょーかー。
どっちにしろアースワイバーンも普段はいないわけだし、てことはやっぱり何かしらあるってことで。」
この依頼って採取依頼に包まれた討伐依頼、にさらに包まれた調査依頼だと思うんですよねぇ。
あれですか、コンビニで買ったばかりの袋から出した包み(採取依頼)を開けるとでてきた肉まん(討伐依頼)に噛り付いたら実はあんまん(調査依頼)でした、みたいな。うん、分かりづらいですね。あんまん食べたい。粒あんが好き。
毒袋以外の素材は小さすぎて特に値段のつかないエクリプスはドリルを解除したらその土の中に半分以上埋まったので放置していく。
毒袋を回収できてたら結構高く売れたんですけどね。
穴開けるからぁー。誰だろうね、まったくぅ。
21時くらいに王都を出発したんですけど予定時刻よりも1時間ほど早い4時くらいに麓についたので山に入る前に2人とも仮眠をとったんですよね。『隠蔽』で気配を絶って、『認識齟齬』をかけて『存在希薄』でさらに存在感を無くした後に『遮断結界』をかけて木の陰で毛布をかけて寝ました。結界が外との干渉を絶ってくれるので寒くなく快適……とはいっても地面は硬いんですけどね。
でもストラが木に寄っかかってその足の間にわたしが入り込んで寝たのでぬくぬくだし背中は痛くならなかったです。
明るくなりだした6時半すぎくらいに動き出して現在7時ちょいすぎ……山に入ってからは30分くらいってところ。
草刈り鎌サイズにした凍花を振り回して周囲の草を刈りながらぶらぶらと歩く。
そういえば夜狩とは言ったけれど山に入ったの明るくなってからってなるとほんとに夜狩っていうのかな……? いやまあいいんだけど……。
「ミオリシナ山て休火山なんだよね?」
「そうだな。最後に噴火したのは何百年も前だったからいつだか細かいことは忘れたが。」
ミオリシナ山は休火山で山頂がぺっこり凹んでる形をした山だったようで、FUJIYAMAの雪に覆われた部分がちょん切れたような形をしていました。『oh、綺麗に山形なのに雪部分がないyo!』って謎のテンションに脳内がなりましたYO。おっと名残が。
「実は活火山になっててそれのせいで魔物の生態系に影響がでた……とかだったりして~。」
「うわ、それ笑えねぇな……」
活火山はどれくらいで噴火するのか分からないですけど、ここにいる間に噴火したら笑える。いや、多分実際噴火したら引きつりますけど。
話しながらも進んでいくと、出てくるのはサルファーフロッグやサベージスネーク、そして途中の池のような水場にはフローラがいたりしました。
睡蓮の名付けのときに話題になった食人花ですね。綺麗な花でしたよ。トゲトゲの歯がついた口が開かなければ、ですけど。なにあれ凶悪すぎますよ……。
「せぇーいや! 『囚われの姫君』あいや私めにおまかせくださいませ! 今すぐ貴女を縛り付ける俗世の柵から救い出してみせますとも! 『首刈之風』!」
「『暴風』「姫ー! 安らかにお眠りくださいー!」……『鎌鼬』」
「『磔聖女』助命嘆願でござるっ、しかしこの世は無情也ー! 『一刀両断』! ファイヤあああー!」
「『暴風』……あっやべ、スマン一匹そっちいった!」
「まかせておくんなせぇ旦那ぁっ! 『貴方のためならエーンヤッコラァ』!」
「……」
何故か大量発生しているエクリプス。毒袋を潰してしまわないように首チョンパしたりして切断系で討伐していってます。
ちなみにファイヤーはただの掛け声です。ほんとにファイヤーしたらストラに怒られますからね……。さっき毒袋ごと灰にしちゃってゲンコツくらいました……漫画みたいなタンコブできたらどうするのさっ
「……終わった、か……。」
「いい汗かきましたっ! ふぅっ。ってあれ? そんなに疲れました?」
なんでそんな複雑な顔してるんですかね。
「なぁ?」
「なんですか?」
「さっきの茶番みたいなデタラメな魔法たちはなんだ……」
「えー? いやあ、蛇って攻撃の種類そんなないしすばしっこいだけだから飽きてきちゃって……。作業ゲーになってたから……戦闘に花を作戦?」
「やってることがデタラメすぎる……なんでこんなふざけた奴がこんな強いんだよ……。」
いやん、そんな疲れたような顔しないでくださいなってへっ。
『囚われの姫君』で塔のようなものを作って最上階に作った檻にエクリプスを閉じ込めて首を狙った鎌鼬のような風の刃でスパーン。
『磔聖女』でジャンヌダルクをイメージして十字に磔にしたエクリプスをやっぱり首チョンパ。個人的にはジャンヌダルクって好きなので助けてあげたいけど実際磔にしたのはエクリプスなので勿論助けませんとも。
『貴方のためならエンヤコラ』は土の斧が出現して襲ってきたエクリプスを上からスパーンってしました。
エンヤコラァっていうと木とかを切ってるイメージがあって斧が出現って感じですね。
ストラは淡々と風で巻き上げて鎌鼬してた横で寸劇。まぁそりゃ気になりますよねー。反省? しませんとも!
ため息をつきながらエクリプスの毒袋を回収しているので手伝ってるんだけど、これまた多いですね……。
「1.2.3……うわ、毒袋全部で23個とかある。」
集めた素材は収納に入れるので全部わたしが回収してますけど、本来はいないはずの魔物の素材がこんなに集まるって異常事態ですよね、ほんとに。
誰かがここに連れてきたんじゃないかってほど。
……ほんとに誰かが連れてきた、とか?
えー、活火山になったんじゃないかとか、誰かが連れてきたんじゃないかとか……フラグたてすぎー! 全部へし折れてほしい……。
「ん……23か、多いな……何が起こったんだろうなぁ……。それにしても……アースワイバーンもまだ出てきてないが、さっきから出てきてるのが爬虫類ばかりなんだよな……。元から住み着いていたサルファーフロッグやサベージスネークが出てきてるのにベア類が全く出てこない。麓の方では少しいたが……食用になりそうな肉類がいないんだよな……肉類はアースワイバーンの餌になったのか……?」
「そいえばいないですね。アースワイバーンって爬虫類は食べないんですかね? いやまぁ……エクリプスは毒物危険だし、サルファーフロッグは硬いし、サベージスネークくらいしか食べられなそうですけど。」
熊さんとか鳥さんは確かにすでに餌になってそうな気もします。
餌になってそうだけど、全然ここまで出てこないとほんとにワイバーンはいるのかなーとかも疑問に思っちゃうんだよなー。
「まぁ山頂行ってみればなんかしら分かるかもですし、とりあえず行ってから考えるってことで。」
「そうだな、考えても分かんないしな。」
「しかしここで問題が。」
「なんだ?」
「お腹が空きました。」
「キュー……」
ストラの肩に乗ってた睡蓮のお腹とわたしのお腹が同時にグーっと鳴ったので苦笑したストラの提案によらこの辺で朝ごはんにすることになりました。だってもう9時になるところだもの、お腹すいたものー。
今日の朝ごはんは途中で見つけたキノコ数種類が入ったスープと麓で狩ったベベベアの串焼き、あとは家から持ってきたパンです。
睡蓮はストラの代わりに肩で結界を張り続けていたのでびろーんっと伸びたスライム形態で串焼きに噛り付いてモキュモキュしてます。
なにやら戦闘中のストラにくっ付いてるとくるくると舞うように戦ってるから酔うらしくていっつもふにゃふにゃになってるんですよね。最初よりはマシになったみたいだけど。
狐形態だと落落下の危険があるみたいで、スライムに戻って首にしがみついてるんだけど……ストラの髪の毛と同じく光加減でキラキラしてるのでストラの首から上のキラキラっぷりがヤバい。
ふと思ったけど万が一にもストラが首チョンパされたら睡蓮も同時に胴体まっぷたつなんだよね、なにその死ぬ時も一緒に、みたいなの。
仲間外れ感半端ないですけど。
串肉をあーんと大きく頬張ったタイミングで睡蓮とストラの探知範囲に何かの気配を感じたらしく同時にバッと立ち上がりストラは双剣を手にして睡蓮は結界を張る。
1人気配察知範囲が狭いわたしだけ出遅れで口をモギュモギュしながら結界を張る。
ベベベアの肉、そんなに柔らかくないからすぐに飲み込めないんですよねっ!
「来るぞ……」
なんかの気配は確かに感じるけど……もぐもぐ……体長は3メートルくらい……かな?
もぐもぐもぐ……ガサガサっと風が木々を揺すってる音がどんどん近付いてきて上空の少し開けたところに姿を現したのは一体の……もぐ……
「アースワイバーン!」
焦げ茶色した3メートルほどのワイバーンがこちらを見て鼻をヒクヒクさせているのが見える。
あ、ストラに喋りかけたいけど肉がっ……。
「むぎゅ……ごくん。アースワイバーンは複数って報告でしたよね? 範囲に他のワイバーンのような魔物は?」
「いや、俺の範囲内にはいないな……こいつだけだ。」
軍隊のように群れてるっていうアースワイバーンがなんで一体だけ……ってなんか火元に刺さった串肉見てない……? もしかして匂いにつられた?
余ってる串肉を一本掴んで右に左に移動すると鼻をヒクヒクさせながら視線が追いかけてきます。まじだ。まさかの食いしん坊アースワイバーン。
「これは……匂いにつられてこいつだけ抜け出してきたのか……?」
「なんか、そうっぽいですね……。アホの子みたいだけど……バラけて来てくれるならこっちはありがたいです、ねっ!
『拘束蔓薔薇』『氷柱留め』!」
握ってる串ごとアースワイバーンの少し下あたりに思い切り投げつけると思った通りに串肉目掛けて無警戒に下に降りて来たのでアースワイバーンを地面に縫い付けるように薔薇の蔓を生やして地面に落とす。更に氷柱を何本も出して羽根を地面に縫い付けて動けないようにする。
「フギャーーーー! グァー! ギャギャー!」
ジタバタと吼えるように叫びながら暴れるけれど全長の半分以上を占める羽根を氷柱で縫い付けられてる上に棘の生えた薔薇の蔓が胴体も羽根も押さえつけているから動くことも出来ず身動ぐ程度。
そこに追い討ちをかけるように走って近付いたストラが両手に持った双剣を両手で合わせ持ってジャンプする。
喉目掛けて体重と重力をかけたその一撃は身動き出来ないアースワイバーンには避けることも出来ず肉にたやすく食い込んでいき、左右に開かれた双剣により首と胴体が離れ青色の血飛沫を撒き散らしていく。
避けてはいたけれど間近すぎて避けきれなかったのか身体に血飛沫を浴びたストラの服はまだらに青に染まり、プラチナ色の髪の毛からは滴り落ちる青色が壮絶に色っぽかった。
煩わしそうに顔についた血を乱暴に拭う様は綺麗系のかっこよさをしてるストラの見た目を野性味のあるイケメンに見せるほどで、動悸が激しく脈を打つ。
……えっ、いきなりどうした? ストラがイケメンなのは前からじゃん……?
15歳になったからなんか自分の中で心境の変化でもあったとかかな……。
首を傾げつつもアースワイバーンを調べるため、ストラにかかってしまった血を洗浄するために歩み出す。固まってしまっていたわたしを不思議そうな顔をして見ているストラに近付くと更に高鳴る鼓動の意味は、今はまだ考えなくても、いいですよね。
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「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
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