転生したってわたしはわたし

なの

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許せないことってありますよね

40.願掛けピパピパ

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「……ところですごい聞き覚えあるんだけどフウロってなんでしたっけ?」

「あぁ、フウロは花の名前だな。満開の時に手折って染料にすると綺麗な薄紫の色が出る高級染料の元。満開から外れるほど色が悪いらしいな。」

 あぁなるほど……前にサラおねーさまが欲しがってた染料の元だから聞いたことある名前なんだ。
 取ってきて! って言われたんだけどフウロの生産地があまり公になってなくて一部の商人が秘匿してたからその時は詳しいこと知らなかったんですよね。
 その後調べて原材料がフウロっていうお花ってことだけ突き止めて忘れてました。
 思いの外ストラが情報を持ってることに驚いてます。

「ほー。ストラてめぇ随分詳しいんだな。流石リシュール騎士爵ってところか。
 あぁ、そういやリシュールの領地にある洋服屋が珍しいデザインとかで人気店なんだっけか。
 お前らのローブも珍しいしそこのか。」

「あぁ、生まれ変わり館アオイのローブだ。お嬢様と当主様の奥様がメインで作っているんだけど、俺もユイも私服から何まで全部そこのを着ている。
 なんか広告塔になって広めてこいってことらしいな。
 代わりに代金は払っていないし、何かするわけでもなく着ているだけだから特に問題はない。何か聞かれたら答えるくらいか。だからむしろいい事しかないって感じだ。」

「なるほどなァ……てめェ見た目だけは極上だかんなァ……。ランクも上がって強くなったし素性が知れないが化け物染みた謎の姫さんと行動してたりするしでいろんな意味で有名だから広告塔にはいいかもしんねェなァ。

 なァ? 妹って言ってやがるがハイエル家には息子1人しかいねェよなァ?
 なァなァ姫さん? そのフードをちょこーっとめくってみやしねぇか? ちょこーっとだけだからよォ」

 先っちょだけだからみたいな言い方しないでください。化け物とか超失礼だし。
 以前からフードの中が気になるのか、それとも予想はしているけど確信が欲しくて覗きたいのか知らないですが、このギルマスはしょっちゅうフードの中を見たがります。
 王都にきて1年くらいしたときには我慢できなくなったのか、大人気なく『勝負して俺が勝ったらフードの中を見せろ』とか言われたので勝負して勝ったので丁重にお断りしました。流石元Sランクなだけあって途中からちょっと楽しくなってきちゃって、最終的に気づいたら転がってるギルマスの顔面踏んでたんですよね。ナニソレコワイ、ドウシテコウナッタ?

 しかも結構ガチで襲ってきてたギルマスを返り討ちにしてしまった結果……ギルドマスターの口利きによる特例措置としてDランクから一気にAランクに上がっちゃいました。
 本当はSランクにしたかったそうなんですが流石にギルマス権限として特例措置適用出来るのはAまでだそうです。

 そのときギッタンギッタンに叩きのめしたはずなんですけど未だに懲りずに中を見たがるんですよね。
 実はセクハラなのではないだろうかとか、踏まれたいのかなとかも最近思ってたり。さすがにそんな事ないだろうと思ってはいても信じきれなくて疑いの眼差しを込めてしまって対応が塩になっちゃう。

「何回でも言いますが嫌です。リシュール領でも声かけられまくったりでウザかったんですよ。世の中ロリコンがどんだけ溢れてるんだよって感じですよ、もう。」

「まぁその顔じゃあなぁ……。
 ファンなんかも大量にいるみたいだからな。
 鞭でしばかれながら蔑んだ目で罵倒されたい、って言ってるやつとかも聞いたことあるぞ。」

「ふっは、変態ホイホイかよ!
 ァん? ていうか姫さん鞭なんか使ってたか? そんなん見たことねェしオオカマ? だか使ってたよな? あの凶悪な氷結魔法の武器。
 あれ見て何を思ったか一時期魔法で武器作って使うやつ増えてたんだよなァ。強度足りなくて訓練段階でみんなやめてたけどなァ。くくっ……普通できねェっつーのなァ。」

「えっ……。なにそれ罵倒されたいとか気持ち悪いっ! Mじゃんっ!

 って魔法の武器とかも初耳なんですけど……。鞭は一時期使ってたことがあった、程度で今はないですね。」

「えむってなんだ? 姫さんたまに何言ってんのかわかんねェよ。」

 驚いて思わずMとか言っちゃいました。本当に踏まれたい人いるんですか、ガチでいるの、そんな人……きしょい!

 一時期マニアック武器旋風が自分の中で吹き荒れていて、氷鎌ではなく薔薇鞭使ってた時があるんですよね……。色んなものを生み出しては変えてってしてました。
 ちなみに鞭の他には、土魔法を固めて石で作った『鯨包丁』(以前ネットで見かけてカッコよかったので参考にしてみた。ちなみにそれは観賞用で100万円でした。目ん玉飛び出るかと。)
 これまた石で作った『(ゴルフの)ドライバー』、凍花みたいに氷で作った『水鉄砲』(水圧がオモチャですまない凶悪品で、水が当たったところから爆散して周りが大惨事になったのですぐやめました。血肉が大惨事に……。)、氷で作った『クナイ』(大量に作って投げたり斬りつけたりした)等々……。
 あ、あとは自分でやって爆笑してたんですけど、氷で自転車作ってそれで鈍器のように振り回してました。はい、某ヤクザのあのゲームですね。好きでした。
 これはこの世界の人には伝わらない面白さ。

 3ヶ月くらいで飽きちゃってやめて凍花に戻したときはストラに「やっと飽きたのか……」と疲れたようにため息を吐かれてしまいました。
 どれもこれも使ってる時顔ひきつってましたからね。
 鞭のときと自転車のときが本当疲れた顔してましたね。どっちもわたしが超笑ってたからでしょうか。

 鞭でしばかれたいとかさ……もちろん薔薇鞭ローズウィップってやつだったからトゲトゲめっちゃついてたんだけど……それでしばかれたいのかぁ……うわぁ……ドン引きなんですが……。

「もう鞭使わない……」

 あの時使ってる中で二番目に気に入ってたからいっぱい使ってたんだけどドM信者コワイ。
 あ、ちなみに一番は言わずもがな自転車です。使い勝手は抜群に悪かったので一回でやめましたが楽しさは抜群でした。

「あぁ、そうしてくれ……。あの鞭たまに俺にも当たってすげー痛かったんだよ……。」

 ドンマイですね。悪気はないので許してねっ

「あーあ、今日もまた見せてもらえねェのかーチッ……。」

「今日も、じゃなくて明日も、いつまでも見せませんけどね。」






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「なんであの人あんなにしつこいんですかね?」

「確認したいんじゃねぇか? 噂の狐姫の中身の美人度合いと、侯爵令嬢かどうかを。」

 結局あの採取依頼とは名ばかりの危険依頼を受け、ため息をつきながらギルドを後にして歩いている。
 頑なに取らずにフードを被るようになったのには一応理由があって、以前たまたま顔見知りだった侯爵家のボンボンに見つかってしまい、それ以降私兵で問題ないような状況でも護衛依頼を必ず馬鹿みたいな金額で指名されるようになってしまったうえに、その度に口説かれたりしてウザかったのでそれ以降顔を隠すようになった。
 例によって例の如く真っ黒貴族だったのでラルフお兄様監修で貴族令嬢として潰しました。なのてここ数年平和です。

 他にも「貴族令嬢が冒険者なんて下等なことしてていいのか? バレたくなかったらいうことを聞け」的なことを言って脅してくる輩や、ランクが上がってるのも護衛の功績とでも思ったのか見た目判断で弱いと思ったのか知らないですが拉致ろうとするようなやつも出てきたりして本当にウザかったんですよね。

「やっぱりバレてますかね?」

 だからこそ冒険者として外に出たら人のいるところでは必ずフードを被ろうと決めました。
 でも見た目可愛く無くなるのは嫌なので狐の耳をつけて刺繍も入れたって感じです。

「まぁバレてるだろうと思うけどなぁ。」

 色は本当は睡蓮と同じプラチナカラーにしたかったんですけど……流石に目立ちすぎるなと思ったのでやめて、上が薄くて下が濃い緑のグラデーションにしました。
 グラデーションが綺麗に入ってるのがすごく好きで、このローブ作るために超実験繰り返しまくって作りましたよ。
 今では『生まれ変わり館』の人気商品はグラデーションの子達です。ちょっと染めるのが大変なのでお高めですがオススメです。

「まぁ……あの人なら信用は出来るし悪いことにはならないだろうことは分かってるので見せてもいいんですけどね。
 もう今更見せますよーなんて言えないですよね。ここまできたら意地でも見せないです。」

「見せてやればいいのに、ともわざわざ見せなくても良いのに、とも思うよ。」

「もちろんこれ以降も見せない方向でいきますよ! ここまできたら貫き通したいっ!」

 話しながら表通りの屋台を目指して歩いていく。
 ミオリシナ山は北門から出るのが一番近いので真ん中の方に歩いていく必要がないんですけど、結構街の良い立地のところにある屋台に売ってる『ある食べ物』が欲しいのです。

「売ってますかね、ピパピパ・・・・。」

「売ってるといいなぁ。最近はピパピパを食べないと狩りにいっても調子が出ない気がするんだよなぁ。物足りないというか……。」

「うんうん、分かる。ただの前世風願掛けなだけだけど毎回やってるとやらないことに違和感感じるんですよね。って良かったあった! ピパピパの屋台!」

 中年といった感じのおじさんがやっているちょっと古びた屋台には、串に刺さって三種類に味付けされているピパピパはりんご飴のようにずらっと並んでいるけれど、見た目は雲泥の差でとても悪い。しかし味は確かだし今世の感覚でいうとそこまで悪いものでもない。なんてったってピパピパは前世ではゲテモノの類ですし。
 注文すると少し炙り直してから出してくれるのでいつも食べるときは暖かいものが出てくるのでそれもまた良いところ。
 味付けはシンプルな塩胡椒の『ノーマル』、焼き鳥のタレのような濃いめのタレの味付けの『タレ』、唐辛子をすり潰した真っ赤なものが『赤』

「おじさんこんばんは! 今日も赤一本! ストラは?」

「俺はノーマル(塩胡椒)とタレ一本ずつ。」

「へいよー。赤、ノーマル、タレ一本ずつなー。」

 言いながらまとめて2人分のお金を渡す。
 赤ピパピパが200ベルでノーマルピパピパが100ベル、タレピパピパが150ベルなので全部で450ベル。
 日本の焼き鳥と比べたら少し高いかなぁとは思うけどピパピパは丸ごとだし比べるのもどうかと思うって感じですよね。

 アイラお姉様の極悪料理とはいかないまでもそこそこ辛い赤ピパピパ。
 前にストラが頼んでみたらたまたまその時持っていたレモンジュースをがぶ飲みしてました。そんなに好きじゃないのに。
 辛すぎたようでレモンジュースが美味く感じるって言ってましたよ。

「はいよ、お待たせっ! 今日は珍しく夜に狩りに行くんか? 気をつけて行くんだよっ!
 ほら、オマケだ!」

「わーありがとうございます! いただきますっ!」

 必ず買ってるからか狩りに行く前に買ってることをもう知っているおじさん。たまにサービスしてくれるくらいには仲良くなりました。
 気前よく赤一本とノーマル一本を追加でくれたのでわたしは両手に赤一本ずつ、ストラは片手にノーマル二本、反対の手にもタレ一本を持っていて、おじさんに別れを告げ振り返ると既にむしゃむしゃと食べていて、一本目のノーマルを食べ終わるところだったようで口からピパピパの焼き色のついた緑の足がガニ股に出てました。

 この姿焼きになっているピパピパ、日本ではゲテモノとして扱われるくせに可愛くデフォルメされグッズとしても売っている、食べると鶏肉の味に近いと噂の緑のあいつなのです。
 そう、蛙。
 この世界ではピパピパというなんか可愛らしい名前ですが日本で馴染みの名前だと蛙。

『無事蛙』ということで願掛けのように必ず食べてから冒険に行くようにしているのです。これはあの事件から決めたこと。
 普段から何があるか分からないですが、冒険者の方が危険は数段上ですからね。下手な人間には負けない自信ありますし。
 願掛けなのでしっかりと決め事はしようと思って帰ってくる街……今だと王都と領地の街以外では食べないことに決めてます。
 それ以外は帰る場所じゃないですからね。道中に無事帰ってもねぇ。

 ちなみにもちろんのこと蛙とピパピパなんて前世と今世で名前がまったく違うのでこの願掛けはわたしとストラしかやってません。


 ピパピパの屋台以外に寄るところはないのて踵を返し北門を目指しながらもきゅもきゅとピパピパを2人で食べ歩く。
 チラリと横を見れば既に三本目のピパピパを食べ始めてるストラはちょうど頭にかじりついたところで、口からは手を上にあげてガニ股になったこんがり焼けた緑の身体がはみ出ていました。
 それをなんだかなぁと思いつつ2本目のピパピパの頭にかじりついてウマァとしつつ「あ、わたしも同じだわぁ」と遠い目になってしまうのは仕方ないと思います。
 だって頭噛り付きやすいんだもん。もきゅもきゅ。……辛ウマァ。





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