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13 つまり尊さに包まれて意識を手放した

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 元々、エルダが希望していたのは研究課だった。
 学生時代はとにかく魔法陣研究に没頭していたし、学業の成績はトップを維持して卒業した。

 元々、クラウスが希望していたのは実戦部隊のはずだった。
 学生時代はとにかく実戦魔術に打ち込んでいたし、実技の成績は学園を去るまでトップを維持していた。

 だから、この魔物の群れの中に単身突っ込んで来たうえに一帯を氷漬けにしたとしても、クラウスならばなにも不思議ではないのだ。

 現にエルダ目がけて飛びかかろうとしていたおびただしい数の魔物たちが、次々と氷像となり積み重なっていく。
 持ち直したエルダが再び火球をまとうと、二人を取り囲むように周囲に猛烈な吹雪が吹き荒れた。

 その荒れ狂う冷気に晒された魔物が次から次に凍りつき、しかも吹雪が次第に範囲を広げていくものだから氷像の数は瞬く間に増えていく。

 となれば、これほど火球を当てやすい的もないだろう。
 凍った魔物を片っ端から灰にしていくエルダの横で、クラウスがさらに魔術の範囲を広げていく。

 とにかく操る魔力の量が凄まじい。圧倒される。
 これだけの規模の魔術をエルダとクラウスにかすることなく、数多の魔物だけに狂いなく満遍なく当てていく。物量・質ともに実戦部隊でも最高峰の技量だ。

 エルダも少しでも援護しようと残りの魔力を振りしぼって応戦したのだが、それもついに尽きてしまった。
 最後の火球を放ったと同時に眩暈で足元がもつれる。

 それでもクラウスの膨大な魔力量でこの場を踏ん張っているが、このままではさすがのクラウスも魔力が尽きるのではと心配になった。が、それよりも。

(これでどうして研究課に行ったんだよ……)

 実戦部隊に入れば即戦力間違いなしだろうに。

 膝をついて見上げれば、そこには空気中に舞う氷の粒の輝きも反射されて、白衣を翻して魔術を放つクラウスの横顔がやけに輝いて見える。
 眼鏡の奥では、黒色の瞳が鋭い眼差しで魔物を睨みつけていた。
 
 これは、思わずほうっと見惚れ胸の鼓動が高鳴ったのも致し方がない。

「あー……クラウスが恰好良すぎてしんどい」

 魔力切れで朦朧とした中、そんなことを考えていたらクラウスが振り向いた。その顔はひどく驚いたように見えたので、もしかしたら口に出ていたのかもしれない。
 だが、もう構っている余裕もない。

「……来てくれてありがとう」

 エルダは満たされた気持ちで意識を手放した。最後に素晴らしいものを見られた我が人生に悔いなし。……いや、ある。悔いはあるが、それが相殺されるほど良いものを目に焼き付けることができた。

 遠のく意識の中、とてつもなく大きな魔術が爆発したような強い魔力を感じた気がしたが――それがなんだったのか、エルダが見ることは叶わなかった。


 学生時代、実はこっそり実践魔術の訓練を覗き見に行ったことがある。

 図書館で待っているときに、ふと思い立ったにすぎないのだが、結果として改めて天才という存在を目の当たりにしたのだ。

 精密な魔力操作によって寸分の狂いなく的を打ち抜いていく姿と、他を圧倒する溢れんばかりにうねる膨大な魔力はエルダを釘付けにした。
 訓練場全体がクラウスの放った氷魔術で凍り付いた光景は壮観であった。

 姿形も好みど真ん中だが、魔術師としてもクラウスはエルダの心を打ち抜いた。
 興奮が止まらなかった。
 クラウスの魔術をもっと知りたい。叶うならば研究させてほしい。高鳴る鼓動が抑えられない。

 このときからクラウスはエルダの中で誰よりも勝る最高最強の魔術師だ。
 完全無欠な至高の存在であった。
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