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12 走馬灯は好みの顔が良い

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 激突の瞬間、大地は揺れ火柱が昇る。
 エルダは森の中にその名の通り、爆心地を作ったのだ。

 森から湧き出ていた魔物の多くがあっという間に一掃された。無限にも思えた勢いが止まる。あれほどの喧騒が嘘のように、静寂が訪れた。
 砂塵が舞う爆心地の中心にはエルダ。
 炎に焼かれる魔物のなんともいえない不快な刺激臭が鼻をつく。

(ひとまず止まった。けど……)

 怒涛のように押し寄せていた魔物が静まり返り、すっかりすべてが焼き尽くされ爆心地となった外側――うっそうとした木々の隙間から逃げおおせた魔物が周囲を取り囲むように様子をうかがっている。エルダを脅威として認識してくれたらしい。

 ひとまず大群の注意を向けることには成功した。

 じりじりと空気が張りつめるこの間に、魔術師団と騎士団が態勢を立て直す気配を森の外に感じる。
 もう少しこのまま魔物を引きつけておきたいし、あと少しでも数を減らしておきたい。

 意識は周囲に向けたまま、両の手のひらに炎を浮かべる。
 素早く視線を走らせれば、この瞬間森の魔物がすべてエルダの動向を探っている気配が確認できた。

 それを認めてから、自身の周りにおびただしい数の火球を展開する。
 轟々と炎の燃える音が、やけに耳の奥に響いたし、暑い。汗が噴き出す。

 そしてこの膠着状態の中、それらを一斉に放った。

 四方八方に飛び散った火球はあちこちで魔物に直撃し、燃え移り、巨大な火だるまができた。薄暗い森の中を照らすように燃え盛る炎と飛び散る火の粉、断末魔のような咆哮、威嚇の唸り声、阿鼻叫喚ともいえるこの状況の中、怒り狂った魔物たちは次々とエルダ目掛けて襲いかかって来る。

 予想していたことではあるが、それ以上に我を忘れた獣の勢いが凄まじい。

 とぐろを巻く蛇のように炎をうねらせ防御をしながら、飛びかかってきたものは火球で撃ち落とす。エルダの魔術技術は決して低くない。むしろ、精鋭が揃う魔術師団の実戦部隊の中でも上位に位置する。

 だからこそ、学生時代の縁があるとはいえ、皇子であり隊長をも務めるライナルトとあれほど気安く接することができるのだ。
 帝国魔術師の到達点ともいえる魔術師団は、魔術学園以上に能力を重視する実力主義なのだから。

 現に魔物は次々と炎で焼かれていった。
 だが、それでも予想以上に削りきれない物量で押されては、さすがのエルダでも追い付かない。

「きっ……つ――!」

 森の中で孤立したエルダを呑みこむように群がってくる大群に、次第に追い詰められていく。

『だからって、やけくそ特攻はもうやめろ』
『別にやけくそでしてるわけではないです』

 ライナルトに言った通り、確かに命を無下にしているわけではなかった。だが、だからといって惜しんでいるわけでもない。
 そのはずだったのに。

 今この瞬間、頭に浮かんだのはあの鬼眼鏡だった。
 飛びかかって来る魔物の群れを前に、どうしたことか、走馬灯のように出会ってからこれまでのクラウスの顔が次々に脳裏を流れていく。

(どうしよう。クラウスの顔しか出てこないぞ、おいこら落ち着け私の頭!)

 自分の頭ながら呆れた。
 もう魔力もなくなる。意識が途切れかける。

 しかし醜い形相で牙を剥いて迫る魔物を前にして死を感じた瞬間、最後が好みど真ん中のクラウスの顔を思い浮かべながら、なんてのも悪くないな、ふふっ。などと悦に入っていたら――唐突にゴオッと冷気が吹き荒れた。

「……っ、え?」

 今の今まで暑くて仕方がなかったというのに、吐いた息が目の前で白く色を変えた。
 驚愕に目を剥いたエルダの前には、今まさにエルダの頭を噛みちぎろうと大口を開けていた魔物たちが氷像のようにその姿のまま凍りついている。

「エルダ!」

 鋭い声で呼ばれたかと思えば、地面からツララのような大きな氷が立て続けに現れて、凍った魔物たちを次々と串刺しにした。
 その振動で足元が大きく揺れて尻餅をつく。その間も目の前では魔物の身体が粉々に砕け散っていき、いっそ見惚れるほど美しくキラキラと周囲に舞った。

 そして、氷の舞う輝くような景色の中をクラウスが突っ込んできたのだ。
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