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こんな驚きいりません
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見上げれば、破裂したのはマルゴさんの結界でした。窓をハンマーで殴ったかのように、結界に空いた穴の周囲には数多のひび割れが走る。これはもう持ちそうにない。
現にその穴の下で、魔術師の彼女は膝を着いていました。
「マルゴさんっ!」
「魔族をぶっ飛ばすと言ったのにごめんなさいね、この体たらく……っ! これはもう一本追加ですわ」
「えっ、あの怖い即効性!? 本当にその薬大丈夫なんですよね!?」
マルゴさんがごそごそと、あの試験管型の瓶を取り出す。よくよく見ると、中の液体はなんだか禍々しい紫色をしています。とてもまずそう。
これ、本当に大丈夫なんですよね!? 落ち込むことなどないというのに。マルゴさんは大活躍ですよ!
「──っ、アヤノ屈め!」
人の心配をしていたら、頭をぐいっと強く押さえつけられました。叫んだギルベルトが私たちの前に立つ。屈んだまま見上げれば、その背中の向こうには、結界の穴から迫り来る鋭い岩の先端が見えた。
「待っ、ちょ、危ない──!」
「うらあああぁぁっ! しゃあぁっ!」
「……えええええっ!?」
私の制止もなんのその。ギルベルトは向かってくる岩の横っ面を殴り飛ばしました。そして決まるガッツポーズ。喉をかっぴらいた激しい咆哮に血管が浮き出ています。
ちょっと一瞬何が起きたのか理解できなかったけれど、逸れて地面に突き刺さった岩を見て我に返りました。
こんなことされたら「ええー」しか声が出ませんよ。この人はことごとく私の抱く騎士像を破壊してくださる。
続けて追撃してきた岩も同じ要領でガンガン殴り飛ばしていきます。
けれど彼が岩を殴りつけるたび、赤い飛沫が飛んでいることに気が付いた。
「手が──っ!」
ずっと拳で交戦していた彼の手は、すでに血が滲んでいる。そりゃそうですよね、素手で岩を殴りつけているんだもの。
それに気が付いて思わず飛び出そうとした瞬間、ぐいっとマルゴさんに腕を取られた。
「マルゴさん!?」
「……そうよ、何か足りないと思っていましたのよ。何かが足りないと……!」
マルゴさんは私の腕を掴んだまま、なにやらワナワナと呟く。ちょっと怖い。くわっと見開かれた視線の先には、ギルベルトの色々な意味で頼もしい背中。
そんな中──
「聖剣はどこにやりましたのよこのド腐れ野郎はああぁぁっ!」
しかし何度聞いてもこの丁寧な口調と萌え声から飛び出る『ド腐れ野郎』発言は、なかなかのインパクトですよね。ついにギルベルトまでその称号を賜った。
なんて、それどころじゃない。またも出てきたファンタジー用語に私はそろそろいっぱいいっぱいです。
マルゴさんの叫びに一瞬動きを止めたギルベルトは、チラリと沙代とアイコンタクトを交わす。けれど、彼らはお互いに首を捻りました。ああ、これは傍目から見ていても交わされた言葉が聞こえてきそうですね。「そういえばどこやった?」ってか。
口を開いたのは沙代でした。
「危ないからって押入れに突っ込まなかったっけ?」
仁王像の拳を木刀で叩き落としながら叫ばれた言葉に、この青年が初めて我が家に訪れた際の出で立ちが思い起こされます。
確か青色のコスプレみたいな軍衣を着ていて、横に置かれたずっしりとしたいかにもな剣が、どう見てもこれは本物だぞ。と──
「まさかのあれが聖剣だったの!?」
そんなに凄いアイテムとは思えない扱いだったけど!? 確かにあのあとどうしたっけ!?
「こちらの世界では真剣を持って歩くなとサヨが言ったからな! 確かに押入れの奥に突っ込んだままだな!」
ガッ、ゴッ、と拳を振り回して襲い来る岩の群れを殴りながら、ギルベルトが叫びます。
このまさかの展開にマルゴさんが今度こそぶっ倒れる。まるでマンガのようにフラーッと手を額に当てて倒れる。
「ええ!? また!?」
慌てて後ろから支えると、覚えのある重みに足を踏ん張ります。私はすっかりマルゴさん専用のスタンドと化している。
「あなたは騎士団最高の剣をなんだと思っていますのかしら、もおおぉぉっ!」
「俺の騎士道はサヨに捧げたああぁぁっ!」
「こんのクソ馬鹿クズの狂戦士がああぁぁっ!」
陰ながらマルゴさんを支える私を他所に、頭を掻きむしりながら絶叫する異世界一の魔術師様と拳で敵に向かって行く異世界一の騎士様が何とも低レベルな舌戦を繰り広げます。
最初から気付いてはいましたけど、この二人相性悪いですよね。
──でも、ここでひとつの思いがふっと湧く。
「その聖剣? が、必要なんですか!?」
支えながら声を張り上げると、マルゴさんが先ほどのようにドンと腕を組み大きく頷いたのが振動で伝わってきます。
「わたくしがこの状態ですもの。サヨが使っていた宝剣はもう国に返還してしまいましたし、残るはあのクソ馬鹿騎士野郎の聖剣ですわ!」
おお、なんだか沙代も凄い剣を使っていたみたいですね。なんて、感心している場合ではないみたいです。
「聖剣……」
周りを見渡せば、私とマルゴさんを庇いながら拳を振り回すギルベルトに、仁王像の一体を一人でなんとか捌く沙代。もう一体を二人がかりで抑えている兄と公平。
経験者の沙代と、初心者のくせに化け物じみてる兄のサポートに公平がついてるからなんとかなってるって状況でしょうか。
どう見てもこちらに余裕はないのに、奥のベーシスト(仮)さんは相変わらず余裕すら感じられる笑みです。ここぞとばかりに結界に空いた大穴から私たちを潰そうと襲い来る。
ギュッと拳を握って、私は決意を固めた。これしかない。
「私が、家から聖剣取ってきます……っ!」
湧いた思いを口にしたら、大きく瞳を見開いたマルゴさんと目が合いました。
「は!? アヤノ何を言っているの!?」
「今行けるのはどう見ても私だけだと思います!」
反対される前に言い募る。わかってます。きっと私まで馬鹿なことを言い出したと思っているのでしょう。
けれど、これなら私も役に立てる。
焦りにも似た思いで、マルゴさんを真っ直ぐと見返した。むしろこれくらいしか役に立てない。ノコノコ着いてきて、何の役にも立っていないのは私だけなのだから。
「大丈夫です! 走ってすぐに戻ってきますから」
私の言葉を受けて、逡巡するように瞳を揺らしたマルゴさんが、意を決したように眉毛をくいっと引き上げた。
そして例の紫色をした色々とやばそうな薬を一気に呷る。ゴクリと細い首が大きく上下してから「かぁーっ!」と気合の入った声が聞こえました。
「わかりましたわ! わたくしにもひとつ考えがありますの」
安定の即効性をみせた薬のおかげでしょうか。マルゴさんは支えている私の上から勢いよく半身を起こします。
「考え、ですか?」
「ええ。それが上手くいきましたら、すぐにあのクソ騎士もアヤノの方に向かわせますわ」
「それは……いやいや大丈夫ですよ!」
誰も空いていないからこそ私が行くのに、ギルベルトにまで来てもらったらこちらの人手が足りなくなってしまう。
そんな私の葛藤を知ってか知らずか、マルゴさんは呆れたような視線を目の前で暴れるギルベルトに向けつつ「気にすんな」とばかりにシッシッと手を振った。
「何を言いますの! 元はと言えばあの騎士の聖剣ですのよ!? 本人が行かなくてどうする! むしろアヤノに行かせるなんてあのクソ騎士は何様のつもりかしら! ねえ!?」
復活したマルゴさんはここぞとばかりに言いたい放題です。ついにギルベルトはクソ騎士呼ばわりで確定のようです。
しかし私に「ねえ!?」と聞かれても頷けないですよぉマルゴさぁん!
「すまない! 私も必ずすぐに向かう!」
「あ、聞こえてたんですね! ってかクソ騎士は受け入れちゃうの!?」
この呼び名に対して言うことはないの!? さして気にする様子のないギルベルトに私はびっくりです。
と、なにはともあれのんびりしている暇はなさそうですね。
復活したマルゴさんは大穴の空いてしまった結界を一度消し去ると、瞬く間に新しく結界を張り巡らせて襲い来る岩々を防いでくれました。それを見るなり、ギルベルトが拳を下ろして大きく肩を上下させる。膝に手をついて腰を折る様に、私とマルゴさんを拳ひとつで庇ってくれていた負担の重さが窺えて申し訳なくなる。
「絶対にその聖剣を取ってくるから!」
「綾乃ー、気を付けろよー」
例の魔球をガンガン打ち鳴らす公平からも声援を受けた。あちらはあちらで中々の混戦模様。
けれど、近距離が得意な兄と、バットとボールで中距離を担う公平のコンビは案外バランスが取れているようで、いい具合に相手のゴーレムを翻弄しているようです。
「俺の妹たちに怪我をさせたら許さないんで」
そして兄が、低く真面目なトーンで追加要素。
決して声を張り上げたわけではないのに、やけに通るのはこれいかに。しかも目は本気ですねお兄様。
「最優先は綾乃と沙代だから。それ以外は二の次だから」
「いや、お兄──」
「任せろ兄上殿!」
「当然ですわ! ギルベルト、アヤノに万が一があったら承知しませんわよ!」
「なんだか色々とおかしい!」
もはや兄に対しては、いまだ彼氏という存在がいない私でも、これが彼氏となったらやばいのがわかる。ダメンズっていうか、今日はお兄ちゃんのやばい要素が次から次に湧き出てきて妹は大変混乱しております。
そんな兄から妹の盾になれ発言をされているに等しいギルベルトとマルゴさんが、それに気付いていないどころか受け入れているのもやばい。引いてしまいそうなくらい、やばいのオンパレードです。
というかマルゴさん、好きな相手に微塵も心配されてないのはいいのですか!? むしろ兄に同調して過剰に私を心配してくれるのは嬉しいけど、いかんせん困惑が大きい。本当に、私はなぜこの短時間でこんなにも懐かれてしまっているのか!
口に出したら小言が止まらなくなってしまいそうなので、今はひとまず呑み込みます。これはダメだ。落ち着いたら話し合いが必要ですね。
そのためにも、ここで立ち止まってお説教をしている場合ではない。したいけれど!
「みんなも気を付けて!」
言うなり私は鳥居をくぐり、夜の田んぼ道に飛び出しました。
現にその穴の下で、魔術師の彼女は膝を着いていました。
「マルゴさんっ!」
「魔族をぶっ飛ばすと言ったのにごめんなさいね、この体たらく……っ! これはもう一本追加ですわ」
「えっ、あの怖い即効性!? 本当にその薬大丈夫なんですよね!?」
マルゴさんがごそごそと、あの試験管型の瓶を取り出す。よくよく見ると、中の液体はなんだか禍々しい紫色をしています。とてもまずそう。
これ、本当に大丈夫なんですよね!? 落ち込むことなどないというのに。マルゴさんは大活躍ですよ!
「──っ、アヤノ屈め!」
人の心配をしていたら、頭をぐいっと強く押さえつけられました。叫んだギルベルトが私たちの前に立つ。屈んだまま見上げれば、その背中の向こうには、結界の穴から迫り来る鋭い岩の先端が見えた。
「待っ、ちょ、危ない──!」
「うらあああぁぁっ! しゃあぁっ!」
「……えええええっ!?」
私の制止もなんのその。ギルベルトは向かってくる岩の横っ面を殴り飛ばしました。そして決まるガッツポーズ。喉をかっぴらいた激しい咆哮に血管が浮き出ています。
ちょっと一瞬何が起きたのか理解できなかったけれど、逸れて地面に突き刺さった岩を見て我に返りました。
こんなことされたら「ええー」しか声が出ませんよ。この人はことごとく私の抱く騎士像を破壊してくださる。
続けて追撃してきた岩も同じ要領でガンガン殴り飛ばしていきます。
けれど彼が岩を殴りつけるたび、赤い飛沫が飛んでいることに気が付いた。
「手が──っ!」
ずっと拳で交戦していた彼の手は、すでに血が滲んでいる。そりゃそうですよね、素手で岩を殴りつけているんだもの。
それに気が付いて思わず飛び出そうとした瞬間、ぐいっとマルゴさんに腕を取られた。
「マルゴさん!?」
「……そうよ、何か足りないと思っていましたのよ。何かが足りないと……!」
マルゴさんは私の腕を掴んだまま、なにやらワナワナと呟く。ちょっと怖い。くわっと見開かれた視線の先には、ギルベルトの色々な意味で頼もしい背中。
そんな中──
「聖剣はどこにやりましたのよこのド腐れ野郎はああぁぁっ!」
しかし何度聞いてもこの丁寧な口調と萌え声から飛び出る『ド腐れ野郎』発言は、なかなかのインパクトですよね。ついにギルベルトまでその称号を賜った。
なんて、それどころじゃない。またも出てきたファンタジー用語に私はそろそろいっぱいいっぱいです。
マルゴさんの叫びに一瞬動きを止めたギルベルトは、チラリと沙代とアイコンタクトを交わす。けれど、彼らはお互いに首を捻りました。ああ、これは傍目から見ていても交わされた言葉が聞こえてきそうですね。「そういえばどこやった?」ってか。
口を開いたのは沙代でした。
「危ないからって押入れに突っ込まなかったっけ?」
仁王像の拳を木刀で叩き落としながら叫ばれた言葉に、この青年が初めて我が家に訪れた際の出で立ちが思い起こされます。
確か青色のコスプレみたいな軍衣を着ていて、横に置かれたずっしりとしたいかにもな剣が、どう見てもこれは本物だぞ。と──
「まさかのあれが聖剣だったの!?」
そんなに凄いアイテムとは思えない扱いだったけど!? 確かにあのあとどうしたっけ!?
「こちらの世界では真剣を持って歩くなとサヨが言ったからな! 確かに押入れの奥に突っ込んだままだな!」
ガッ、ゴッ、と拳を振り回して襲い来る岩の群れを殴りながら、ギルベルトが叫びます。
このまさかの展開にマルゴさんが今度こそぶっ倒れる。まるでマンガのようにフラーッと手を額に当てて倒れる。
「ええ!? また!?」
慌てて後ろから支えると、覚えのある重みに足を踏ん張ります。私はすっかりマルゴさん専用のスタンドと化している。
「あなたは騎士団最高の剣をなんだと思っていますのかしら、もおおぉぉっ!」
「俺の騎士道はサヨに捧げたああぁぁっ!」
「こんのクソ馬鹿クズの狂戦士がああぁぁっ!」
陰ながらマルゴさんを支える私を他所に、頭を掻きむしりながら絶叫する異世界一の魔術師様と拳で敵に向かって行く異世界一の騎士様が何とも低レベルな舌戦を繰り広げます。
最初から気付いてはいましたけど、この二人相性悪いですよね。
──でも、ここでひとつの思いがふっと湧く。
「その聖剣? が、必要なんですか!?」
支えながら声を張り上げると、マルゴさんが先ほどのようにドンと腕を組み大きく頷いたのが振動で伝わってきます。
「わたくしがこの状態ですもの。サヨが使っていた宝剣はもう国に返還してしまいましたし、残るはあのクソ馬鹿騎士野郎の聖剣ですわ!」
おお、なんだか沙代も凄い剣を使っていたみたいですね。なんて、感心している場合ではないみたいです。
「聖剣……」
周りを見渡せば、私とマルゴさんを庇いながら拳を振り回すギルベルトに、仁王像の一体を一人でなんとか捌く沙代。もう一体を二人がかりで抑えている兄と公平。
経験者の沙代と、初心者のくせに化け物じみてる兄のサポートに公平がついてるからなんとかなってるって状況でしょうか。
どう見てもこちらに余裕はないのに、奥のベーシスト(仮)さんは相変わらず余裕すら感じられる笑みです。ここぞとばかりに結界に空いた大穴から私たちを潰そうと襲い来る。
ギュッと拳を握って、私は決意を固めた。これしかない。
「私が、家から聖剣取ってきます……っ!」
湧いた思いを口にしたら、大きく瞳を見開いたマルゴさんと目が合いました。
「は!? アヤノ何を言っているの!?」
「今行けるのはどう見ても私だけだと思います!」
反対される前に言い募る。わかってます。きっと私まで馬鹿なことを言い出したと思っているのでしょう。
けれど、これなら私も役に立てる。
焦りにも似た思いで、マルゴさんを真っ直ぐと見返した。むしろこれくらいしか役に立てない。ノコノコ着いてきて、何の役にも立っていないのは私だけなのだから。
「大丈夫です! 走ってすぐに戻ってきますから」
私の言葉を受けて、逡巡するように瞳を揺らしたマルゴさんが、意を決したように眉毛をくいっと引き上げた。
そして例の紫色をした色々とやばそうな薬を一気に呷る。ゴクリと細い首が大きく上下してから「かぁーっ!」と気合の入った声が聞こえました。
「わかりましたわ! わたくしにもひとつ考えがありますの」
安定の即効性をみせた薬のおかげでしょうか。マルゴさんは支えている私の上から勢いよく半身を起こします。
「考え、ですか?」
「ええ。それが上手くいきましたら、すぐにあのクソ騎士もアヤノの方に向かわせますわ」
「それは……いやいや大丈夫ですよ!」
誰も空いていないからこそ私が行くのに、ギルベルトにまで来てもらったらこちらの人手が足りなくなってしまう。
そんな私の葛藤を知ってか知らずか、マルゴさんは呆れたような視線を目の前で暴れるギルベルトに向けつつ「気にすんな」とばかりにシッシッと手を振った。
「何を言いますの! 元はと言えばあの騎士の聖剣ですのよ!? 本人が行かなくてどうする! むしろアヤノに行かせるなんてあのクソ騎士は何様のつもりかしら! ねえ!?」
復活したマルゴさんはここぞとばかりに言いたい放題です。ついにギルベルトはクソ騎士呼ばわりで確定のようです。
しかし私に「ねえ!?」と聞かれても頷けないですよぉマルゴさぁん!
「すまない! 私も必ずすぐに向かう!」
「あ、聞こえてたんですね! ってかクソ騎士は受け入れちゃうの!?」
この呼び名に対して言うことはないの!? さして気にする様子のないギルベルトに私はびっくりです。
と、なにはともあれのんびりしている暇はなさそうですね。
復活したマルゴさんは大穴の空いてしまった結界を一度消し去ると、瞬く間に新しく結界を張り巡らせて襲い来る岩々を防いでくれました。それを見るなり、ギルベルトが拳を下ろして大きく肩を上下させる。膝に手をついて腰を折る様に、私とマルゴさんを拳ひとつで庇ってくれていた負担の重さが窺えて申し訳なくなる。
「絶対にその聖剣を取ってくるから!」
「綾乃ー、気を付けろよー」
例の魔球をガンガン打ち鳴らす公平からも声援を受けた。あちらはあちらで中々の混戦模様。
けれど、近距離が得意な兄と、バットとボールで中距離を担う公平のコンビは案外バランスが取れているようで、いい具合に相手のゴーレムを翻弄しているようです。
「俺の妹たちに怪我をさせたら許さないんで」
そして兄が、低く真面目なトーンで追加要素。
決して声を張り上げたわけではないのに、やけに通るのはこれいかに。しかも目は本気ですねお兄様。
「最優先は綾乃と沙代だから。それ以外は二の次だから」
「いや、お兄──」
「任せろ兄上殿!」
「当然ですわ! ギルベルト、アヤノに万が一があったら承知しませんわよ!」
「なんだか色々とおかしい!」
もはや兄に対しては、いまだ彼氏という存在がいない私でも、これが彼氏となったらやばいのがわかる。ダメンズっていうか、今日はお兄ちゃんのやばい要素が次から次に湧き出てきて妹は大変混乱しております。
そんな兄から妹の盾になれ発言をされているに等しいギルベルトとマルゴさんが、それに気付いていないどころか受け入れているのもやばい。引いてしまいそうなくらい、やばいのオンパレードです。
というかマルゴさん、好きな相手に微塵も心配されてないのはいいのですか!? むしろ兄に同調して過剰に私を心配してくれるのは嬉しいけど、いかんせん困惑が大きい。本当に、私はなぜこの短時間でこんなにも懐かれてしまっているのか!
口に出したら小言が止まらなくなってしまいそうなので、今はひとまず呑み込みます。これはダメだ。落ち着いたら話し合いが必要ですね。
そのためにも、ここで立ち止まってお説教をしている場合ではない。したいけれど!
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