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付き添いという名の
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まだ校門だというのにすっかり疲労困憊です。たらたらと歩くユリウスの後ろをさらにずるずるとした足取りで歩いて、公平とギルベルトが消えた中庭向かう。すると、もはや予想通りというべきかなんといいますか、キャーッ! なんて黄色い悲鳴が私の耳をつんざきます。
全くもって期待を裏切りませんね!
足を踏み入れた中庭では予想通りの光景が広がっていました。
「ちょ、ちょっと漆間! こちらは誰、誰なの……!?」
「はぁ!? なんだよお前らこえーよ!」
「ねぇねぇ、この人、どちら様!?」
「あんたの友達?」
興奮抑えきれずといった女子に囲まれ、詰め寄られる公平が目に入る。なかなかテンパっているようだけど、甘いな公平。こんなのまだまだ序の口ですことよ。あんたの目の前の肉食獣はまだ牙すら見せていませんわよ。
うう……気は進まないけど、その牙を剥かせるわけにはいきません。
みんなごめんよ。君らが瞳にハートを浮かべて見つめているそのイケメンは、不本意ながら私の義弟になる予定なのですよ。友は大事だけれど、妹の幸せには代えられまい。
意を決して私は彼らに近付き、声をかける。
「みんな終業式ぶり!」
「あっ、綾乃!」
「やだ久しぶりー……って、あんたすごいの連れてるわね」
そこにいたのは、クラスのバレー部三人組でした。公平の両肩を掴み詰め寄り顔のめぐと、その両脇をきーちゃんとハナが固めている。
私が声をかけて早々、彼女らの視線は横のユリウスに注がれた。さすがにこの瞬間だけは、目の前のイケメンという獲物の存在は吹っ飛んだらしい。
うん、確かに『すごい』よね。まさにその通りだと私も思います。
「なんだかマンガに出てきそーう。可愛いー!」
ミーハー気味のハナが物珍しそうに身を乗り出せば、ジロジロと注がれる視線に、少年の空気が不快そうに歪むのがわかった。
「この子も外人さん?」
「やだ! こっちもいい感じだけどチッ、年下かぁっ!」
ハナだけでなく、きーちゃんに加えてついさっきまで公平の肩をミシミシいわせていためぐまで、ずずいっとにじり寄ってきたものだから、ユリウスのまとう雰囲気がより一層どす黒さを増します。わぁ、魔王っぽーい。なんて思ってる場合ではない。
「ユリ──っ」
「おい、それ以上寄るな。格式劣る分際でこの俺に気安く話しかけるとは、この命知らずが。今すぐその身体に終焉という絶望を刻んでやろうか!」
ほら出てしまった!
しかもいつも以上に絶好調。滑らかにすごい台詞が溢れ出てます!
口を塞ごうとしたけど間に合わなかった私の手が宙をさまよう横で、なにやらハナが全身をぶるりと震わせました。
「……厨二病きたあぁーっ! 可愛いぃー!」
彼女は唐突に叫び、拳を握る。
確かに! 将来大人になって思い出したら黒歴史確実なこの言動。出会ってからこれまでの少年の言葉が次々と脳内をよぎっていく。これぞ噂の厨二病。
おおっ! と内心しっくりきたぞと思ったけれど、でも、私はハナのように素直に可愛いと全力では喜べなかった。
取り囲む彼女たちを前に、少年からは明らかな怒りと拒絶が見て取れたから。
ユリウスから立ち上る不快オーラがとんでもないことになっているので、ひとまず私の後ろに下げます。
「この子はユリウスっていうの。そっちの金髪はギルベルト。今ちょっとうちに居候してるんだよね」
「え、綾乃の家に……っ!?」
「うそー! なっなら──」
紹介して! という下心が間違いなくギラリと覗いた。当の騎士様は「一体どうした」と言わんばかりにぽかんとしているけれど。ああ、言いたくないわあ。きっと大喜びしちゃうんだろうな……なんか癪に障るな……と、少し捻くれたことを思ってしまったのは見逃してほしい。でも言うしかない。
「そしてギルベルトは沙代の彼氏です。彼らは結婚を前提にお付き合い中です」
「え……」
若干の棒読みになりながらも告げれば、呆けた声の直後「ええーっ!」という三人分の悲鳴と「アヤノ、俺を認めて……っ!」っつー感極まった声と「良かったなーギルベルト」なんて呑気な公平の声が同時に上がった。
「さ、沙代ちゃんの彼氏なの……?」
「そうです。ちなみに我が家の父親公認です」
「くっそおおぉっ! 沙代ちゃんかああぁっ!」
「勝てないわ……物理的に」
「ああんもう、羨ましい!」
三人娘が各々荒ぶる。これでなんとかギルベルトを眼中から外してくれますかね。……ふう、沙代、お姉ちゃんはやったよ。肉食獣の牙を剥かれる前に叩き折ってやったよ。
ここまで釘を刺しておけば、この子たちは人の彼氏を掻っ攫うような小悪魔ではないので大丈夫でしょう。どこか清々しい気持ちで私は額の汗を拭った。
──と、おっと忘れてはいけない。
沙代のところへ行くんだと話しながら進むみんなと、ちょっと距離を置いてからユリウスの横に並ぶ。
「あの、ごめんねユリウス」
「はあ?」
こそっと謝ったら、案の定ですが苛立った声を返されました。
「あんなに人に囲まれて、いい気分ではなかったでしょう?」
──それなのにお前たち人間は──っ。
うるストのベンチで垣間見えた彼の怒りが思い出される。ここ最近仲良くなったつもりでいたけれど、そうやって浮かれていたところに、まざまざと深い溝を見せつけられた気分だった。
すると、不機嫌をまとっていたユリウスに、初めて戸惑いの色が浮かぶ。
「……別に、お前が気にすることではないだろう」
「でももうちょっと気遣うべきだった」
少しへこんでいたら、ユリウスはなにか言いたげだったけれど……その口からは大きなため息がこぼれた。
「お前、変な奴だな」
「え、ユリウスには言われたくないんだけど」
「どういう意味だそれは」
呆れるような言葉とは裏腹、少年の口元はふっと笑うように弧を描いて少しホッとしました。
すると、ちょうど前を行くめぐが大仰に両手を広げる。
「はあーあー、でも良かったじゃん浦都家。これでレジェンド先輩がいい嫁つかまえればもう安泰じゃーん」
「そうだよねー。綾乃には公平がいるしねー」
「先輩がまさか県外に進学するとは抜かったわ」
続いてハナときーちゃんまで愚痴をこぼす。
しかし待て。あれ、幻聴? なんだか目玉飛び出しそうな言葉が聞こえましたよ。
「ちょっとなに、なんの話? なに言っちゃってんの?」
「浦都家は安心ねって話よ」
「違うそのあと!」
「綾乃には公平がいるしー」
「そうそれ!」
「付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってないよ!?」
ただのご近所さんだよ!? 知らない間に公平と交際説が流れていたの!? とんだ誤報じゃないですか。なのに慌てふためく私とは対照的に、公平は呑気に笑っている。爆笑している。
「公平も否定して!」
「いやー、今んとこ俺はあの親父さんに勝てる気しないからなー」
「それってあの『儂より弱い男にくれてやるつもりは~』とかいうあれ!?」
「おう、それ。俺小一のときにいきなり言われたわー、それ」
「あんの父は本当に……っ」
「道場通ってた奴らは最低一回は言われてんじゃね?」
「ひいぃ……」
そんなに前からあんな訳わからんことを言っていたとは。もう悲鳴しか出ない。頭を抱える私をよそにめぐまで笑う。
「イチャつかないでよー」
「イチャついてないよおぉー!」
「そうか。ではコーヘイは私の兄になる男ということだな!」
「ははははっ! そうだな! そんときゃよろしく頼むわギルベルト!」
「そんなときは来ないから!」
とか言っていたら、中庭の向こうからまたも女子生徒がやってきて、またも黄色い声が上がり、これは沙代の彼氏なのだと釘を刺す。
これを三回繰り返したらようやくグラウンドに出ました。その向こうには体育館。
公平とは、グラウンドに出たところで別れたけれど……すっかり大所帯となってしまった一団はこのまま体育館まで付いてくる勢いです。
沙代の彼氏だから。と言ったところで、見目麗しいギルベルトを中心に私たちはすっかり花の女子高生に囲まれてしまいました。数で押し切られては、私にはもはや手も足も出ません。無力です。
とはいっても、無遠慮に引っ付いてくるとかではなく、あくまでも遠巻きになんですけどね。なんだかアイドルがロケに来たみたい。
そして、横のユリウスといえば──いつの間にかご機嫌ななめどころか最低値をぶち抜けてましたよ。
あれれ? さっき一回ちょっと浮上してなかったっけ? なにがお気に召さなかったの?
魔王様は難しいわあ……。
全くもって期待を裏切りませんね!
足を踏み入れた中庭では予想通りの光景が広がっていました。
「ちょ、ちょっと漆間! こちらは誰、誰なの……!?」
「はぁ!? なんだよお前らこえーよ!」
「ねぇねぇ、この人、どちら様!?」
「あんたの友達?」
興奮抑えきれずといった女子に囲まれ、詰め寄られる公平が目に入る。なかなかテンパっているようだけど、甘いな公平。こんなのまだまだ序の口ですことよ。あんたの目の前の肉食獣はまだ牙すら見せていませんわよ。
うう……気は進まないけど、その牙を剥かせるわけにはいきません。
みんなごめんよ。君らが瞳にハートを浮かべて見つめているそのイケメンは、不本意ながら私の義弟になる予定なのですよ。友は大事だけれど、妹の幸せには代えられまい。
意を決して私は彼らに近付き、声をかける。
「みんな終業式ぶり!」
「あっ、綾乃!」
「やだ久しぶりー……って、あんたすごいの連れてるわね」
そこにいたのは、クラスのバレー部三人組でした。公平の両肩を掴み詰め寄り顔のめぐと、その両脇をきーちゃんとハナが固めている。
私が声をかけて早々、彼女らの視線は横のユリウスに注がれた。さすがにこの瞬間だけは、目の前のイケメンという獲物の存在は吹っ飛んだらしい。
うん、確かに『すごい』よね。まさにその通りだと私も思います。
「なんだかマンガに出てきそーう。可愛いー!」
ミーハー気味のハナが物珍しそうに身を乗り出せば、ジロジロと注がれる視線に、少年の空気が不快そうに歪むのがわかった。
「この子も外人さん?」
「やだ! こっちもいい感じだけどチッ、年下かぁっ!」
ハナだけでなく、きーちゃんに加えてついさっきまで公平の肩をミシミシいわせていためぐまで、ずずいっとにじり寄ってきたものだから、ユリウスのまとう雰囲気がより一層どす黒さを増します。わぁ、魔王っぽーい。なんて思ってる場合ではない。
「ユリ──っ」
「おい、それ以上寄るな。格式劣る分際でこの俺に気安く話しかけるとは、この命知らずが。今すぐその身体に終焉という絶望を刻んでやろうか!」
ほら出てしまった!
しかもいつも以上に絶好調。滑らかにすごい台詞が溢れ出てます!
口を塞ごうとしたけど間に合わなかった私の手が宙をさまよう横で、なにやらハナが全身をぶるりと震わせました。
「……厨二病きたあぁーっ! 可愛いぃー!」
彼女は唐突に叫び、拳を握る。
確かに! 将来大人になって思い出したら黒歴史確実なこの言動。出会ってからこれまでの少年の言葉が次々と脳内をよぎっていく。これぞ噂の厨二病。
おおっ! と内心しっくりきたぞと思ったけれど、でも、私はハナのように素直に可愛いと全力では喜べなかった。
取り囲む彼女たちを前に、少年からは明らかな怒りと拒絶が見て取れたから。
ユリウスから立ち上る不快オーラがとんでもないことになっているので、ひとまず私の後ろに下げます。
「この子はユリウスっていうの。そっちの金髪はギルベルト。今ちょっとうちに居候してるんだよね」
「え、綾乃の家に……っ!?」
「うそー! なっなら──」
紹介して! という下心が間違いなくギラリと覗いた。当の騎士様は「一体どうした」と言わんばかりにぽかんとしているけれど。ああ、言いたくないわあ。きっと大喜びしちゃうんだろうな……なんか癪に障るな……と、少し捻くれたことを思ってしまったのは見逃してほしい。でも言うしかない。
「そしてギルベルトは沙代の彼氏です。彼らは結婚を前提にお付き合い中です」
「え……」
若干の棒読みになりながらも告げれば、呆けた声の直後「ええーっ!」という三人分の悲鳴と「アヤノ、俺を認めて……っ!」っつー感極まった声と「良かったなーギルベルト」なんて呑気な公平の声が同時に上がった。
「さ、沙代ちゃんの彼氏なの……?」
「そうです。ちなみに我が家の父親公認です」
「くっそおおぉっ! 沙代ちゃんかああぁっ!」
「勝てないわ……物理的に」
「ああんもう、羨ましい!」
三人娘が各々荒ぶる。これでなんとかギルベルトを眼中から外してくれますかね。……ふう、沙代、お姉ちゃんはやったよ。肉食獣の牙を剥かれる前に叩き折ってやったよ。
ここまで釘を刺しておけば、この子たちは人の彼氏を掻っ攫うような小悪魔ではないので大丈夫でしょう。どこか清々しい気持ちで私は額の汗を拭った。
──と、おっと忘れてはいけない。
沙代のところへ行くんだと話しながら進むみんなと、ちょっと距離を置いてからユリウスの横に並ぶ。
「あの、ごめんねユリウス」
「はあ?」
こそっと謝ったら、案の定ですが苛立った声を返されました。
「あんなに人に囲まれて、いい気分ではなかったでしょう?」
──それなのにお前たち人間は──っ。
うるストのベンチで垣間見えた彼の怒りが思い出される。ここ最近仲良くなったつもりでいたけれど、そうやって浮かれていたところに、まざまざと深い溝を見せつけられた気分だった。
すると、不機嫌をまとっていたユリウスに、初めて戸惑いの色が浮かぶ。
「……別に、お前が気にすることではないだろう」
「でももうちょっと気遣うべきだった」
少しへこんでいたら、ユリウスはなにか言いたげだったけれど……その口からは大きなため息がこぼれた。
「お前、変な奴だな」
「え、ユリウスには言われたくないんだけど」
「どういう意味だそれは」
呆れるような言葉とは裏腹、少年の口元はふっと笑うように弧を描いて少しホッとしました。
すると、ちょうど前を行くめぐが大仰に両手を広げる。
「はあーあー、でも良かったじゃん浦都家。これでレジェンド先輩がいい嫁つかまえればもう安泰じゃーん」
「そうだよねー。綾乃には公平がいるしねー」
「先輩がまさか県外に進学するとは抜かったわ」
続いてハナときーちゃんまで愚痴をこぼす。
しかし待て。あれ、幻聴? なんだか目玉飛び出しそうな言葉が聞こえましたよ。
「ちょっとなに、なんの話? なに言っちゃってんの?」
「浦都家は安心ねって話よ」
「違うそのあと!」
「綾乃には公平がいるしー」
「そうそれ!」
「付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってないよ!?」
ただのご近所さんだよ!? 知らない間に公平と交際説が流れていたの!? とんだ誤報じゃないですか。なのに慌てふためく私とは対照的に、公平は呑気に笑っている。爆笑している。
「公平も否定して!」
「いやー、今んとこ俺はあの親父さんに勝てる気しないからなー」
「それってあの『儂より弱い男にくれてやるつもりは~』とかいうあれ!?」
「おう、それ。俺小一のときにいきなり言われたわー、それ」
「あんの父は本当に……っ」
「道場通ってた奴らは最低一回は言われてんじゃね?」
「ひいぃ……」
そんなに前からあんな訳わからんことを言っていたとは。もう悲鳴しか出ない。頭を抱える私をよそにめぐまで笑う。
「イチャつかないでよー」
「イチャついてないよおぉー!」
「そうか。ではコーヘイは私の兄になる男ということだな!」
「ははははっ! そうだな! そんときゃよろしく頼むわギルベルト!」
「そんなときは来ないから!」
とか言っていたら、中庭の向こうからまたも女子生徒がやってきて、またも黄色い声が上がり、これは沙代の彼氏なのだと釘を刺す。
これを三回繰り返したらようやくグラウンドに出ました。その向こうには体育館。
公平とは、グラウンドに出たところで別れたけれど……すっかり大所帯となってしまった一団はこのまま体育館まで付いてくる勢いです。
沙代の彼氏だから。と言ったところで、見目麗しいギルベルトを中心に私たちはすっかり花の女子高生に囲まれてしまいました。数で押し切られては、私にはもはや手も足も出ません。無力です。
とはいっても、無遠慮に引っ付いてくるとかではなく、あくまでも遠巻きになんですけどね。なんだかアイドルがロケに来たみたい。
そして、横のユリウスといえば──いつの間にかご機嫌ななめどころか最低値をぶち抜けてましたよ。
あれれ? さっき一回ちょっと浮上してなかったっけ? なにがお気に召さなかったの?
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