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23 由々しき事態である

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 以降は順調な旅路といえた。
 徒歩と乗合馬車を使って進むこと数週間。

 魔獣と遭遇してはゲオルクが切り伏せ、ときに素材を剥ぎ取り肉を捌いて焼いて食う。
 たまに小さな村があればその素材を売り、ついでに買い出しをする。
 行く道に池や川があれば考える間もなく放り投げられる。これはもう慣れた。

 基本は野営だが、ゲオルクの圧倒的な生活力のおかげで不自由することはなかった。
 予想以上に快適な旅路と言える。

 そして、ラウラにとってはとても楽しい旅路であった。
 開き直ってみれば、今まで貴族、婚約者、家族……いかに自分が多くのことに縛られて小さくなっていたかと思い知ることができたのだ。
 それらを脱ぎ捨ててみれば、世界はなんと自由で輝いていることか。

 とはいえ。
 一度、寝て起きたら家からの刺客と思われる追手をゲオルクが縛り上げていたときには、さすがに起き抜けとは思えぬ悲鳴がでたが。
 だがラウラの悲鳴はもはやいつものこととして流されてしまった。

 このように、覚悟していた以上に順調である。
 だが、魔獣にも遭遇せず刺客にも襲われない平穏な日が多ければ多いほど、別の問題が浮上した。



「あっ、あっ、ああっ! ああああん!」

 剥き出しの岩がゴロゴロと点在する山間の岩場の影。
 夜闇の中に淫らな嬌声と、肌と肌がぶつかり合う音が響いた。

 ラウラは上半身を岩の上に投げ出して、胸を揉みしだかれながら後ろから突かれていた。

 熱いゲオルクの陰茎が激しく抽送し、何度も内側を擦りあげられる。
 腰を打ち付けられるたびにばちゅばちゅとした粘着質な水音が響き、どんなに必死に口を手で押えても、隙間からよがり鳴く声が溢れてしまう。

「あ、ああっ! やっ! あんっ! ひあああああっ」

 最奥を突き上げられると同時に、服の中で蠢く手に胸の頂を強く摘ままれた。突き抜けるような刺激で身体が弓なりに反る。

「いやぁっ! それ、やめ――っ、待っ、そんなに突かれたらっ、あっ! あああああっ!」

 ギリギリまで引き抜かれてから、一気に突かれる。何度も何度もその勢いのまま奥を抉るように擦られると、ラウラの身体はあっという間に絶頂まで押し上げられてしまう。

 意識が飛びそうなほどの快感の波に、身体中が痙攣した。
 後ろのゲオルクからも熱い吐息が洩れ聞こえる。

「やばっ、締めるな――って、もう出る……!」
「うん……! うん出してぇっ!」
「――っ、だから煽んな!」

 だから煽っていない。
 内心で反論した直後、中で暴れていた肉棒が弾けたのを感じた。
 ぐりぐりと奥まで擦りつけるように精を出しながら、ゲオルクがラウラのダークブラウンの髪をサラリと撫でてくる。

「あ――っ」

 首筋をかすめる指先で余計に感じてしまった。

 ラウラの肩でパツンと切りそろえられた髪。
 本来は腰まで長く伸ばしていたのだが、家を飛び出す際に自分でばっさりと切ってしまった。
 単純に邪魔であろうし、今思えば決別の意味もあったと思う。

 その髪を、ゲオルクは最近やたらと行為中に弄ぶ。
 家を出て以来、手入れもなにもしていないのに「こんなに手触りのいい髪はみたことがない」だそうだ。

 言われて悪い気はしないが、それが向かい合わせでゲオルクに跨ったまま突き上げられている最中でなければ、もっと素直に喜べたと思う。
 おかげで髪を弄られることと快感がセットのようになった気がする。
 どう考えてもいらない性癖を開発された。
 
 そんなことを考えながら、ラウラは満足感とともにくったりと全身を弛緩させて崩れ落ちたのだった。


 浮上してしまった別の問題。
 つまりこの性奴隷契約である。

 順調になにごともなく旅が進めば、その夜には必ずゲオルクが発情する。
 そしてそれは、主人であるラウラが満足しなければおさまることがない。

 結果として、この数週間の旅路でラウラは何度となくゲオルクと身体を重ねた。
 しかもそのすべてが野外である。
 初体験が青姦だったどころか、今のところ青姦しか経験がない。初々しかった初体験が今や遥か昔のことのようだ。

 由々しき事態である。

「この状況に違和感がなくなってきた自分に驚きだわ……」

 今夜もラウラが絶頂を迎え満たされたところで、恐ろしいほどバキバキにそそり立っていたゲオルクの肉棒があっという間に通常形態へ戻った。
 余韻でいまだに身体を震わせているラウラとは反対に、すっかりいつも通りの様子で後始末をするゲオルクにされるがままとなる。

 事後は動けないラウラに代わって、いつも身体を拭き衣服を整えてくれるのはありがたいが……主人と奴隷のはずなのに主人であるラウラの負担が圧倒的に大きい気がするのは気のせいだろうか。
 ならば放っておけとゲオルクは言うが、そうはいかないだろう。横でハアハア発情されて寝られるわけがない。
 それに、現状なおも由々しき事態へ片足を突っ込んでいる。

「今日は夕方近くに魔獣との戦闘があったはずなのに、なぜ性奴隷の縛りが発動したんだ?」

 首を傾げるゲオルクの横で、ローブを深く被って縮こまるラウラはギクリとした。
 そうなのだ。
 今日の午後は立て続けに魔獣と遭遇してしまった。
 ゲオルクはそれらをバッサバッサと切り伏せ、いつものように解体し「今夜は肉だ!」と喜んでいた。なのに先ほどの破廉恥極まりない事態である。

「……戦闘から時間が空いて、落ち着いたからじゃないかしら?」
「そうなのか? なら護衛としての契約が発動したからといって安心できるわけでもないのか……」

 性奴隷の契約が強力だなぁ。などとゲオルクは難しい顔をしているが、横のラウラは冷や汗が止まらなかった。
 本当はわかっているのだ。
 今夜の性奴隷契約が発動してしまった原因を。

 単純である。
 ラウラがムラムラしてしまったからだ。

(だからって、そんなこと絶対に言えないわああぁぁ――っ!)

 今日は魔獣との戦闘が続き、就寝の準備をしながら今夜は何事もなく寝られそう。と思った瞬間だった。
 なんだか物足りない……とわずかなさびしさで落胆すると同時に、むずむずっと疼く身体の最奥。ここ最近の乱れた夜をふと思い出してしまったのだ。

 そこから突然ゲオルクが呻きだしての、あれだ。
 今夜は『毎晩激しい性的興奮を起こす』縛りではなく『主人の性欲にも奴隷の身体は常に連動する』縛りが発動したのである。

(私……もしかして阿婆擦れだったのかしら……)

 一人落ち込むラウラとは反対に、縛りから解放されたゲオルクは晴れやかな顔で横になる。

「まあ、明日にはようやくウルベスクに着けそうだし、あとはゆっくり寝るか!」
「そうね……」

 言われて、改めて夜の空気を吸いこめばわずかに潮の香りが混じっている。
 港街ウルベスクはもうすぐそこだった。
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