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11 村は困っていたようです
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翌朝。
ラウラはやはりゲオルクに担がれて街道を進んでいた。
「うう……恥ずかしい、穴に埋まってしまいたいわ……!」
昨夜の痴態を思い出すたびにグスグスメソメソと喚かずにはいられない。
あのままスヤァ……と眠りに落ちてしまったが、朝起きて夜の出来事が蘇った瞬間、今日も目覚めの悲鳴をあげてしまった。
連日悲鳴ばかりあげ続けて、ラウラの喉もいい加減心配である。
「だから、そう思うならやらなければよかっただろうが」
「そういうもっともな意見は求めてないのよおぉっ!」
「だったら黙ってろというのに」
「うわああああん!」
切羽詰まっていたとはいえ、自分がしたことを振り返ると悶えずにはいられないのだが、朝から延々とこの調子なのでいい加減ゲオルクにもうんざりされている。申し訳ない。
「ゲオルクもごめんなさいね」
「はぁ!? なにがだ」
突然の殊勝な態度のせいか、訝しむような声をあげられた。
「私のせいでとんだ三重縛りを課してしまったわ」
さすがにひどい契約だと思う。
改めて謝れば、呆れたように息を吐く振動が伝わってきた。
「なんだ、そんなことか。それはあの肉団子がやったことでラウラのせいではないだろう」
「でも私が奴隷なんて購入してしまったから……」
「本気で言っているのか? あんな檻の中にいるより数段マシだ」
言われて、初対面のゲオルクから漂っていた猛獣のごとき気迫を思い出して身震いした。
確かにあのときよりは今の方が見ていて楽しそうではある。
「……そうね。私に買われてよかったわよね」
「はっはっは! 言うようになったじゃないか!」
言うようになったというか、ゲオルクに対して細かいことを気にするだけ無駄と開き直ったというか。
「また大変なことになったら、私頑張るわ」
「期待はしてないから、ほどほどにな」
流すような物言いは少し不満ではあったが、そんなことを言い合いながら進んでいたらようやく村が見えてきた。
*****
村の前でゲオルクに下ろされ、改めて見れば――なんだか活気がないように見えるのは気のせいだろうか。
村には民家が何軒かと、小さいが道具屋などの店も見える。規模のわりに栄えているのは、古いながらも街道沿いにあるからだろう。
だが、行き交う人々は全員がため息でも吐きそうなほど浮かない顔だ。
「こういうものなのかしら……いえ、そんなはずはないわよね?」
「言われてみれば少しばかり暗い気もするな。腹でも痛いんじゃないか?」
「……本気で言ってる?」
適当すぎるが本気で言いそうなゲオルクの言葉に呆れながら、二人は近くに座り込んでいる狩り道具と思われる弓矢を携えた青年に声をかけてみる。
すると、項垂れていた彼は村の外からやって来た二人を見るなり、縋るような切羽詰まった瞳を向けたきた。
「あ、あんたら、もしかして役人に言われて来てくれたのか!?」
叫ぶようなその言葉に、他の村人も一斉にこちらを振り返る。
「……役人?」
きょとんとするラウラとゲオルクをよそに、なぜだか周囲にわらわらと村人が集まってきた。
「ああ、よかった」
「これで助かったわ」
「早くなんとかしてくれ!」
矢継ぎ早にやたらと縋られるが、当然なんの心当たりもない。
ぽかんとする二人に、周囲も次第に困惑の表情を浮かべる。
「……役人に言われて来てくれたんじゃないのか?」
「騎士か魔術師じゃ……」
ゲオルクとラウラを順に見て、そんなことを言う。
確かに大剣を担いだゲオルクと、ローブを羽織ったラウラはそのように見えなくもない。
「ごめんなさい。なんの話だかさっぱりわからないわ」
「そんな……!」
正直に言えば、全員が落胆したように揃って肩を落とした。
そんな中で最初の青年が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、悪い。勘違いしたのはこっちだ……」
そのなんとも悲壮な姿を前にしては、聞かずにはいられない。
「あのー……一体どうされたのですか?」
ラウラのひと言をきっかけに始まった井戸端会議によると、どうやら森に魔獣が住み着き狩りへも採集にも行けずに困っているらしい。
「このままでは生活にも支障が出る。だから近くの街まで行って役人に何度となくなんとかしてくれと伝えているのだが、なぜか動いてくれないんだ」
青年が言う通り魔獣被害は通常騎士団が動き、厄介な種であれば魔術師団も援護に出る。
なのに動いてくれないとは酷い話だ。
「まあ、なぜかしら。放置してはみなさん困ってしまうでしょうに」
「そうなんです」
弓を携え、すっかり眉を八の字にした彼はやはり狩人らしい。狩りができなければ暮らしていけない。
隣の年配女性は腹立たしいとばかりに目尻を吊り上げる。
「忙しいとかなんとか言ってまともに取り合っちゃくれないよ。なにがそんなに忙しいんだか」
「そうですよね。どうして早く対応してくれないのかしら」
女性と一緒に腹を立てるラウラの横で、それまで黙って聞くだけであったゲオルクがようやく口を開く。
「なあ、ひとまずその魔獣の特徴を教えてくれないか!?」
村人たちとは対照的に、心躍って仕方がないような場違いな表情を浮かべながら。
ラウラはやはりゲオルクに担がれて街道を進んでいた。
「うう……恥ずかしい、穴に埋まってしまいたいわ……!」
昨夜の痴態を思い出すたびにグスグスメソメソと喚かずにはいられない。
あのままスヤァ……と眠りに落ちてしまったが、朝起きて夜の出来事が蘇った瞬間、今日も目覚めの悲鳴をあげてしまった。
連日悲鳴ばかりあげ続けて、ラウラの喉もいい加減心配である。
「だから、そう思うならやらなければよかっただろうが」
「そういうもっともな意見は求めてないのよおぉっ!」
「だったら黙ってろというのに」
「うわああああん!」
切羽詰まっていたとはいえ、自分がしたことを振り返ると悶えずにはいられないのだが、朝から延々とこの調子なのでいい加減ゲオルクにもうんざりされている。申し訳ない。
「ゲオルクもごめんなさいね」
「はぁ!? なにがだ」
突然の殊勝な態度のせいか、訝しむような声をあげられた。
「私のせいでとんだ三重縛りを課してしまったわ」
さすがにひどい契約だと思う。
改めて謝れば、呆れたように息を吐く振動が伝わってきた。
「なんだ、そんなことか。それはあの肉団子がやったことでラウラのせいではないだろう」
「でも私が奴隷なんて購入してしまったから……」
「本気で言っているのか? あんな檻の中にいるより数段マシだ」
言われて、初対面のゲオルクから漂っていた猛獣のごとき気迫を思い出して身震いした。
確かにあのときよりは今の方が見ていて楽しそうではある。
「……そうね。私に買われてよかったわよね」
「はっはっは! 言うようになったじゃないか!」
言うようになったというか、ゲオルクに対して細かいことを気にするだけ無駄と開き直ったというか。
「また大変なことになったら、私頑張るわ」
「期待はしてないから、ほどほどにな」
流すような物言いは少し不満ではあったが、そんなことを言い合いながら進んでいたらようやく村が見えてきた。
*****
村の前でゲオルクに下ろされ、改めて見れば――なんだか活気がないように見えるのは気のせいだろうか。
村には民家が何軒かと、小さいが道具屋などの店も見える。規模のわりに栄えているのは、古いながらも街道沿いにあるからだろう。
だが、行き交う人々は全員がため息でも吐きそうなほど浮かない顔だ。
「こういうものなのかしら……いえ、そんなはずはないわよね?」
「言われてみれば少しばかり暗い気もするな。腹でも痛いんじゃないか?」
「……本気で言ってる?」
適当すぎるが本気で言いそうなゲオルクの言葉に呆れながら、二人は近くに座り込んでいる狩り道具と思われる弓矢を携えた青年に声をかけてみる。
すると、項垂れていた彼は村の外からやって来た二人を見るなり、縋るような切羽詰まった瞳を向けたきた。
「あ、あんたら、もしかして役人に言われて来てくれたのか!?」
叫ぶようなその言葉に、他の村人も一斉にこちらを振り返る。
「……役人?」
きょとんとするラウラとゲオルクをよそに、なぜだか周囲にわらわらと村人が集まってきた。
「ああ、よかった」
「これで助かったわ」
「早くなんとかしてくれ!」
矢継ぎ早にやたらと縋られるが、当然なんの心当たりもない。
ぽかんとする二人に、周囲も次第に困惑の表情を浮かべる。
「……役人に言われて来てくれたんじゃないのか?」
「騎士か魔術師じゃ……」
ゲオルクとラウラを順に見て、そんなことを言う。
確かに大剣を担いだゲオルクと、ローブを羽織ったラウラはそのように見えなくもない。
「ごめんなさい。なんの話だかさっぱりわからないわ」
「そんな……!」
正直に言えば、全員が落胆したように揃って肩を落とした。
そんな中で最初の青年が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、悪い。勘違いしたのはこっちだ……」
そのなんとも悲壮な姿を前にしては、聞かずにはいられない。
「あのー……一体どうされたのですか?」
ラウラのひと言をきっかけに始まった井戸端会議によると、どうやら森に魔獣が住み着き狩りへも採集にも行けずに困っているらしい。
「このままでは生活にも支障が出る。だから近くの街まで行って役人に何度となくなんとかしてくれと伝えているのだが、なぜか動いてくれないんだ」
青年が言う通り魔獣被害は通常騎士団が動き、厄介な種であれば魔術師団も援護に出る。
なのに動いてくれないとは酷い話だ。
「まあ、なぜかしら。放置してはみなさん困ってしまうでしょうに」
「そうなんです」
弓を携え、すっかり眉を八の字にした彼はやはり狩人らしい。狩りができなければ暮らしていけない。
隣の年配女性は腹立たしいとばかりに目尻を吊り上げる。
「忙しいとかなんとか言ってまともに取り合っちゃくれないよ。なにがそんなに忙しいんだか」
「そうですよね。どうして早く対応してくれないのかしら」
女性と一緒に腹を立てるラウラの横で、それまで黙って聞くだけであったゲオルクがようやく口を開く。
「なあ、ひとまずその魔獣の特徴を教えてくれないか!?」
村人たちとは対照的に、心躍って仕方がないような場違いな表情を浮かべながら。
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