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01 一番強いものを希望します!
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薄暗い裏路地特有のかび臭い湿った空気がツンと鼻をつく。
陰鬱な雰囲気が漂う中、ひっそりとたたずむ店の前にはローブをまとった人影があった。
その人物は、意を決したように乾いた唇をキュッと引き結ぶと深くフードをかぶり直す。
看板もなく窓さえ塞がれた店は、暗がりの中に埋まるようにして街並みに紛れながらも静かに異様な雰囲気を放っていた。
それはやはり、取り扱っているものがものだからだろうか。
薄汚れた白壁の建物を見上げたフードの人影は、震える手を隠すように強く拳を握って、店の入口をくぐった。
*****
立て付けの悪い扉は、悲鳴のような音を立てて軋んだ。足を踏み入れた店内は薄暗い。
天井からぶら下がる照明はひとつ。店内を照らす灯りは頼りなかった。
そのわずかな灯りの中で舞う埃が、やけにキラキラと輝いて見える。
店内にポツンと置かれたカウンターに視線を向ければ、そこに座るのは小柄で小太りな初老の店主だった。一見すると肉団子でも座っているかのようである。
ぶ厚い瞼の奥から、鋭い眼光が客を睨みつけた。
怯みそうになる身体を悟られまいと、背筋を伸ばして口を開く。
「強い奴隷が欲しいの」
つまりここは、そういう店である。
開口一番告げた言葉に、店主は声色で客が女性であると気が付いたのだろう。ふんっと鼻を鳴らした。
「嬢ちゃんよぉ。欲しがるのは構わんがね、まずは先立つものがないと話にならんぞ」
ニタリと口元を歪めて、親指と人差し指で輪を作ってみせる。出すものを出せと促す店主の言葉に、カウンターの前に立った女性はフードの中から小さな袋を取り出した。
それを木製のカウンターに投れば、ゴトンと石でも落ちたかのような音が響く。
「――っ、なんと……っ」
「これで足りるかしら?」
緩んだ袋の結び目からキラリと光る宝石いくつかと、大きくて透き通るような紫色の魔石が覗く。これはこの日に備えて貯えていた一部。
価値は出した本人がよく理解している。これで足りないとは言わせない。
「宝石もいいものだが、この大きさの魔石は貴重だぞ……!」
案の定、店主はゴクリと二重顎に埋まった喉を上下させて、目の色を変えた。隠し切れない下卑た笑みに頬が緩んでいる。
この隙を逃してはならぬと女性はカウンターに身を乗り出した。
「一番強い奴隷を買いたいの。急いでいるのよ」
「希望するのは強さだけかい?」
「ええ! とにかく強ければいいわ」
この言葉に嘘はない。大至急強い奴隷を買いたい。
そんな切実な思いが伝わったのか、急に揉み手になった店主の瞳がキラリと光ったような気がした。
「確かにねぇ。この辺は魔獣も多い。嬢ちゃんのような娘が出歩くには、そりゃあ強い奴隷が必要だろうさ。そうだろう、そうだろう」
ケヒケヒとおかしな声で笑いながら立ち上がると、店主はずんぐりむっくりした身体を揺らしながら「ついてきな」と奥に続く扉を指した。
陰鬱な雰囲気が漂う中、ひっそりとたたずむ店の前にはローブをまとった人影があった。
その人物は、意を決したように乾いた唇をキュッと引き結ぶと深くフードをかぶり直す。
看板もなく窓さえ塞がれた店は、暗がりの中に埋まるようにして街並みに紛れながらも静かに異様な雰囲気を放っていた。
それはやはり、取り扱っているものがものだからだろうか。
薄汚れた白壁の建物を見上げたフードの人影は、震える手を隠すように強く拳を握って、店の入口をくぐった。
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立て付けの悪い扉は、悲鳴のような音を立てて軋んだ。足を踏み入れた店内は薄暗い。
天井からぶら下がる照明はひとつ。店内を照らす灯りは頼りなかった。
そのわずかな灯りの中で舞う埃が、やけにキラキラと輝いて見える。
店内にポツンと置かれたカウンターに視線を向ければ、そこに座るのは小柄で小太りな初老の店主だった。一見すると肉団子でも座っているかのようである。
ぶ厚い瞼の奥から、鋭い眼光が客を睨みつけた。
怯みそうになる身体を悟られまいと、背筋を伸ばして口を開く。
「強い奴隷が欲しいの」
つまりここは、そういう店である。
開口一番告げた言葉に、店主は声色で客が女性であると気が付いたのだろう。ふんっと鼻を鳴らした。
「嬢ちゃんよぉ。欲しがるのは構わんがね、まずは先立つものがないと話にならんぞ」
ニタリと口元を歪めて、親指と人差し指で輪を作ってみせる。出すものを出せと促す店主の言葉に、カウンターの前に立った女性はフードの中から小さな袋を取り出した。
それを木製のカウンターに投れば、ゴトンと石でも落ちたかのような音が響く。
「――っ、なんと……っ」
「これで足りるかしら?」
緩んだ袋の結び目からキラリと光る宝石いくつかと、大きくて透き通るような紫色の魔石が覗く。これはこの日に備えて貯えていた一部。
価値は出した本人がよく理解している。これで足りないとは言わせない。
「宝石もいいものだが、この大きさの魔石は貴重だぞ……!」
案の定、店主はゴクリと二重顎に埋まった喉を上下させて、目の色を変えた。隠し切れない下卑た笑みに頬が緩んでいる。
この隙を逃してはならぬと女性はカウンターに身を乗り出した。
「一番強い奴隷を買いたいの。急いでいるのよ」
「希望するのは強さだけかい?」
「ええ! とにかく強ければいいわ」
この言葉に嘘はない。大至急強い奴隷を買いたい。
そんな切実な思いが伝わったのか、急に揉み手になった店主の瞳がキラリと光ったような気がした。
「確かにねぇ。この辺は魔獣も多い。嬢ちゃんのような娘が出歩くには、そりゃあ強い奴隷が必要だろうさ。そうだろう、そうだろう」
ケヒケヒとおかしな声で笑いながら立ち上がると、店主はずんぐりむっくりした身体を揺らしながら「ついてきな」と奥に続く扉を指した。
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