最下位の最上者

竹中雅

文字の大きさ
上 下
30 / 43
第四章

期限

しおりを挟む
今日が最後の学校生活になろうとしている。
結局俺は証拠を探し巡ったが、何一つ得るものはなかった。
件の熱りは冷めておらず、何かと厳重に目が入っており、金庫がある部屋には、まず入れない。
「ごめんね。方法見つからなかった...」
「そんな落ちこむな。ありがとう」
藤桜も人と話すのが苦手な中、何人に聞いてくれたそうだ。
知っていたのは二人の時に会った三人の女子だけ。
偶然桑原たちが鍵を盗んでいる姿を見かけることなんて無い。
やはり俺の仕業だと決め付けている生徒がほとんどだ。
靄がかかった心情の中、ホームルームが終わると先生に声をかけられる。
今日処分が決まることについては、全員少なくともクラス中には知れ渡っており目線が降り注いでいる。
周知の事実を改めて言い渡されるのも苦痛の中、大勢の前で宣告されるのは奈落へ突き落とされる感覚。
「まず樫谷晃、藍水玲奈、藤桜翡翠だが...」
俺たちに気を使う素振りもなく足を止める前から無感情に先生の口が動き出す。
わずかな可能性を込め、処分されないことを願う。
「君たちに処分はなし」
その言葉はすぐ耳に入り込んできたはずなのに、何分も溜められたかの如く長く感じられた。
「へ?本当に?」
三人とも何が起こったか呆然としていたが、すぐに正気を戻すと、
「やったー!」
「そりゃそうだろ。俺たち何もしてないんだから」
「...」
「今回は異例の出来事だからね。これで連帯責任というのもおかしいと会議で決まった。そして...」
ファイルを閉じると、俺を見据え微かに笑いかけた。
「問題は...君だな。結果は..退学だ」
どういった意味の笑みなのかはわからない。
厄介者が消えてくれるという安心感だろうか。
「問題を二つ起こしたわけだ。残念だが」
横で藍水と樫谷は表情を隠さず、嬉しさを満面に表していた。それは俺に対してか自分のことかはわからない。
俺も嬉しかった。
これで四人が仲良く退学なんぞなれば、恨みに殺されかねなかった。
「良かった。これ以上お前に巻き込まれなくて済む」
「一時はどうなるかと思ったよ~。残念だったね、拓真君」
嬉々として話す二人の様子に、何か他に感じる訳でもなく、ただ茫然と立ち竦んでいるだけだった。
わかっていたことではあるが、事実と向き合うと心が荒んでしまう。
「...」
藤桜は黙っていた。微動だにせず、拘束されたように。
入学当初から俺に好印象を持つものは少ない。いや印象なんてものも持っていないだろう。
殆どが関わったこともないのだ。そんな無関係な人間を重大な不正がかけられても庇護してくれるものもいない。
全てがお人好しではないわけだ。
「残念だね~。折角仲良くなれると思っていたのに」
後ろから声が掛かる。すぐ後ろに居たらしい。
桑原だ。憐憫や悲哀の目ではなく、せせら笑いを存分に浮かべた顔。
「桑原...」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。 ほんのりと百合の香るお話です。 ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。 イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。 ★Kindle情報★ 1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H ★第1話『アイス』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE ★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI ★Chit-Chat!1★ https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34

【完結】ホウケンオプティミズム

高城蓉理
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞ありがとうございました】 天沢桃佳は不純な動機で知的財産権管理技能士を目指す法学部の2年生。桃佳は日々一人で黙々と勉強をしていたのだが、ある日学内で【ホウケン、部員募集】のビラを手にする。 【ホウケン】を法曹研究会と拡大解釈した桃佳は、ホウケン顧問の大森先生に入部を直談判。しかし大森先生が桃佳を連れて行った部室は、まさかのホウケン違いの【放送研究会】だった!! 全国大会で上位入賞を果たしたら、大森先生と知財法のマンツーマン授業というエサに釣られ、桃佳はことの成り行きで放研へ入部することに。 果たして桃佳は12月の本選に進むことは叶うのか?桃佳の努力の日々が始まる! 【主な登場人物】 天沢 桃佳(19) 知的財産権の大森先生に淡い恋心を寄せている、S大学法学部の2年生。 不純な理由ではあるが、本気で将来は知的財産管理技能士を目指している。 法曹研究会と間違えて、放送研究会の門を叩いてしまった。全国放送コンテストに朗読部門でエントリーすることになる。 大森先生 S大法学部専任講師で放研OBで顧問 専門は知的財産法全般、著作権法、意匠法 桃佳を唆した張本人。 高輪先輩(20) S大学理工学部の3年生 映像制作の腕はプロ並み。 蒲田 有紗(18) S大理工学部の1年生 将来の夢はアナウンサーでダンス部と掛け持ちしている。 田町先輩(20)  S大学法学部の3年生 桃佳にノートを借りるフル単と縁のない男。実は高校時代にアナウンスコンテストを総ナメにしていた。 ※イラスト いーりす様@studio_iris ※改題し小説家になろうにも投稿しています

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

微睡みの狭間に

幽零
青春
私立高校3年生の間泥(マドロ)君はいつも頬杖をついて眠たそうにしています。そんな彼と隣の席の覚芽(サメ)さんは間泥君が気になる様子。そんな彼らの日々を垣間見る短編小説です。 イラスト アイコンメーカー 様

カノジョのいる俺に小悪魔で金髪ギャルの後輩が迫ってくる

中山道れおん
青春
鎌ヶ谷右京(かまがや うきょう)は高校一年生のときに人生で初めてのカノジョができた。 恋人である市川栞梨(いちかわ しおり)と少しずつ関係を深めていき、幸せな日々を送る右京。 しかし高校二年生に進級すると、中学生のときの後輩である野田良子(のだ りょうこ)と再会したことがきっかけとなり、右京の幸せな日々は歪に形を変えていくのであった。 主人公もヒロインもそれぞれ一途な想いを持っている。 だけど、なぜか不純愛の世界へと導かれていく。 果たして、それぞれの一途な想いはどこへ向かっていくのか。 この物語は一途な想いを持つ者たちによる不純愛ラブコメである!

約束へと続くストローク

葛城騰成
青春
 競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。  凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。  時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。  長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。  絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。 ※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。

処理中です...