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case 2 スパイダーフラワー討伐 ログブック 記入者 マジックアーチャー ソラ 中編 ②
しおりを挟むアサシンプリンスは俺とは別の3人を目で確認するといつもより柔らかい笑みを浮かべて俺の肩を叩いた。
「来ていたのか」
「ああ、お前とは別件で来ていたんだ」
きょろきょろとアサシンプリンスは周りを気にしながら話しかけてくる。
誰かを探しているのかわからないが、クエストの関係者だとすると深く突っ込まない方がいいな。
そんな時、カレンがおずおずとアサシンプリンスにしゃべりかけた。
「あの、怪我してるみたいですが大丈夫ですか?」
「大丈夫。人を運ぶときに付いただけだから平気だ」
アサシンプリンスの姿をよく見てみると至る所に血を拭った跡がある。
自分の体を気にしないところはアサシンプリンスらしいが、気になる。
「おい、この町で何があった?」
「それは……待て、場所を変えよう。受付嬢、奥の部屋を借りるぞ」
「はい」
こっちにこいとアサシンプリンスが先に歩き、すぐに止まった。
「どうした?」
「いや、すまん。先に聞いておくべきことを忘れていた。その子たちは?」
警戒するようにアサシンプリンスは3人を見つめ、威圧的に問うてきた。
まるで怪物に囲まれたかのように震えだす3人より前に出て、紹介する。
「【エンジェルクラウン】の冒険者だ。同じクエストを受けている」
「そうか。なら、一緒に来てほしい。スパイダーフラワー討伐も関係があることだ」
ふと、言葉から威圧感が感じられなくなる。
アサシンプリンスは言葉に重さを乗せることができる。それは精神的攻撃と同じだということを何度も酒の席で言っているがまだわかっていないのか?
俺は3人の頭を撫でてやり、ついてくるように促した。
アサシンプリンスに案内された部屋は6人掛けの円卓のテーブルで椅子と机の上にお湯の入った陶器が置かれている。
「飲み物は何がいい?」
部屋の片隅にハーブを取りに行ったアサシンプリンスが緊張感をなくそうと気遣うが……。
「み、水で」
「僕も……」
「私もそれで……」
これが普通の反応だろう。
初対面であれだけ威圧感を出せば、怯えるのは当然だ。
ここは俺が真摯な対応をしてやる。
「水はキャンセルだ。4人ともハチミツとプチプチ水(すい)を混ぜたものを頼む」
「「「プチプチ?」」」
「了解した」
バタンッとハーブの入った戸棚を閉め、ハチミツの入った容器を手に取り、席に着く。
俺はお湯の入った陶器に手を当て、中に風の魔力を流し込みお湯の中に小さな泡があふれ出す。プチプチ水の完成だ。
「マジックアーチャー。カップの準備ができた」
「わかった。こっちも終わっている」
アサシンプリンスは俺からプチプチ水を受け取り、カップに注いでいく。
カップの中にはすでにハチミツが入れられており、泡立ちながらプチプチ水に溶け込んでいく。
人数分淹れ終えると木の棒でかき混ぜて俺の大好物、ハニープチプチ水の完成だ。それぞれの前にアサシンプリンスがカップを置く。
金色に輝く水の表面には、見事なまでの泡がびっしりと敷き詰められ、迸る湯気と共に奏でるプチプチと弾ける音が耳に心地いい。同時にハチミツの甘い香りが鼻をくすぐり、よだれがあふれ出してくる。
3人はこれをどう飲んでいいのかわからずに、だが興味深そうにカップをじっと見つめている。
「もらうぞ」
俺はカップを持ち手ですくい上げ、ハニープチプチ水を口に運ぶ。
まずは熱。沸騰した水の熱さがプチプチと口の中で弾けて舌を喜ばせてくれる。甘くそれでいてどろりとしないハチミツの味を堪能し、とろりと喉の奥へと流し込み一息をつく。
「うまい。やっぱりこれだな」
一口味わった後、机の上にカップを戻した。
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