狂信者がリーダーのこのパーティーはもう駄目だろう。

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case 2 スパイダーフラワー討伐 ログブック 記入者 マジックアーチャー ソラ 前編 ③

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「っ! あなたは」
「下がりなさい! 危ないわよ!!」
 頭上からリョウと名乗る弓使いの仲間たちが現れた。リョウの傍で武器を取り出してこちらをけん制している。
 俺は弓を取り出して、地面に一本の線を引いた。
「ここから先に出るな」
「は、はい」
「死ぬわよ……あんた」
 相手の実力はまあまあと言ったところか。冒険者のランクで言うと同じぐらいかもしれない。  
 弓の構えを解かず、確実に俺の頭をつぶそうと目をそらさない。その上で、仲間への指示をし、俺が一瞬目を離した隙に裏切っている。
(待てよ……そういえば!!)
 俺は目を凝らし、相手の後ろ。馬車の方を見た。
 もしも、外にいた冒険者も弓使いの仲間ならば馬車主と老夫婦が危ない。
 その勘は当たっていたらしく、馬車から外へ連れ出して老夫婦を今にも殺そうとしているのが見える。
「ば、ばあさんに傷はつけさせんぞ!!」
 おじいさんが婆さんの前に出て、手を広げて庇っている。
 今にも襲い掛かりそうな敵2人に対し、風の魔法を唱えるかと判断しそうになる。
「「っ!!」」
 反応したのは俺とリョウ……ブラックウルフだけだった。
 深く、どこまでも落ちていくかのような呪いにも似た恐怖を感じ取り、後ろの3人を守るため魔法の結界を張り矢を構える。
 リョウはそこまで気づいていないのか後ろを振り返るもすぐに視線をこっちに戻した。
 ブラックウルフは逃げ出し、姿を消す。
 他の連中は俺の動きに警戒するかブラックウルフの行動に驚いているが、今注目するところはそこではない。
 しびれを切らした敵2人がおじいさんを切りつけようと刃を振りかぶった。
「じいさん!!」
「「死ねぇ!!」」
 おばあさんの悲痛な叫び声が聞こえ、ゲス野郎2人の掛け声と共に2本の刃が空を切る音が聞こえた。
 俺は弓を構えるのをやめて成り行きを見守った。あの老夫婦は助かる。
 なぜなら……。
「うるさいんだよ!!」
 完全に怒っている狂信者が2本の刃を素手で受け止めていた。
 瞬く間に2人を倒し、リョウ達の元へと蹴り飛ばした。
「おい……なんだよ。あれ」
 リョウはようやく狂信者に気付き、警戒をするが……。
「マジックアーチャー!! 後は任せたぞ!!」、
 悲鳴にも似た激励が聞こえる。
 老夫婦を守ろうと立ってリョウ達を睨みつけているが、あれはもう駄目だ。狂信者はもう一歩も動く力が残っていない。
 それなのに、放つ気概だけは十分すぎる。
 こっちも負けていられないな。
「マジックアーチャー? まさか、お前Bランク冒険者か」
「…………」
 おっと、どうやら俺のことを知っているらしい。ここで、そうだと答えるのも情報を与えてしまうためここは黙る。
 俺の名を聞いたことがあるのか敵に動揺が走り、子分を思わしき男がリョウに話しかけた。
「お頭。どうしますか?」
「計画に変更はない。俺たちはやるしかないんだ」
 やるしかない? 言い方が気になるな。
(誰かに脅されているように聞こえてくるんだが……)
 そんな考えをしていると敵は剣や槍などの近接武器を捨てて手頃な石を掴んだり、弓を構えたりしている。
「どうした? アーチャー相手にこの距離で勝てるのか?」
 普通は俺が弓を構えているのなら盾を前にしたりして近接戦を挑んだ方が料率は高いはずなんだが……。
「挑発のつもりか? 残念だったな。こちらは数で勝っているんだ。遠距離からじっくりとなぶり殺しにしてやるよ!!」
 ああ、なるほど。確かにこっち側は崖だから勢い余って上から攻撃してくるとそのまま谷底に行く可能性があるのか。俺自身、その危険性を身をもって知ったから理由がよくわかる。
 逃げ道を塞ぎ、遠距離で安全に攻撃する。仲間の狂信者、バーサーカーローグ、アサシンプリンスが相手だったらその作戦は完璧だった。守る相手がいると防戦一方になってしまうからな。
 俺はマジックアーチャー。この手の戦いに離れている。
 
 さて、相手をしてやるか。

 視界いっぱいに矢や石などの投擲物が向かってくる。
 魔法の結界を張っているから別に無視をしてもいいんだが、さっきの狂信者を見ると手は抜けない。
「舞え……風の狼!!」
「アオオオォォォン!!」
 縦横無尽に空を舞う風の狼がすべての投擲物を弾き飛ばし、俺の足元で甘えてくる。
「ちっ、やはりBランクは強いな」
「そこまでわかっているなら大人しく投降しろ。悪いようにはしない」
「……そんな話。信じられるか!!」
 更なる矢を構えようとリョウは背負っている矢筒から取り出そうとするが、遅い。
 俺も魔法の矢を構えるが、相手に背を向けて聞こえるように言葉を発した。
「頭上注意だ。気を付けろ」
「あっ、何を……なに!?」
 ちょうど、弾き飛ばした投擲物がリョウ達の真上から降り注ぐ。
 これでもうあっちは終わりにしていい。それよりも、もう一つ。忘れてはいけない相手を倒さなくてはならない。
 山のふもとまで降りたのか陰に紛れているブラックウルフの足音だけを聞き出す。
「あ、ありがとうございます。あの……」
「黙ってろ。気が散る」
「えっ」
 距離はおそよ200、300。障害物は多数。姿は見えない足音と気配のみだ。
 走りつかれたのか。ゆっくりゆっくりと狂信者の気配を感じない場所まで逃げ込んだみたいだが……。
「そこは俺の射程距離内だ」
 弦から手を離し、魔法の矢が放たれる。
 蛇のように木々などの障害物をよけながら、ブラックウルフの胴体を貫き……効果が発揮する。
 その魔法に込めた属性。光を発し、ブラックウルフの気配が消える。
「よし、これで完了っと。怪我の治療をするか」
「……あ、はい。わかりました」
 治療道具は確か馬車に積んであったなとついでにリョウ達も一緒に治療するかと馬車を見ると……。
「はっ?」
 そこには大勢のゴブリンが狂信者を持ち上げられていた。
 老夫婦は馬車の近くで怯えて無事だ。それはよかった。
 だけど、俺は知っている。こういう場合、狂信者のやつは……。
「たす……けて」
「「「「「「ゴブーー!!」」」」」」
「狂信者ぁぁぁぁ!!!」
 こうして狂信者は、王都に着く前にゴブリンに連れ去らわれていった。
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