狂信者がリーダーのこのパーティーはもう駄目だろう。

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case 2 スパイダーフラワー討伐

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 狂信者さんがFランクに落ちてから数日が経った。
 あれから、狂信者さんはギルドには顔を出さずにその仲間たちがクエストの掲示板を見てはすぐに還るだけだった。
 少し、心配になってきたけど、私の仕事は忙しいものになっている。
「怪物退治。終わらせたぞ!!」
「は、はい!! すぐに処理します!」
「こっちは採取クエストを終わらせた!!」
「はい! ただいま!!」
 気温が暖かくなってきたこの頃、怪物が活発に動き始めた。
 このセキツウガの町周辺も例外ではなく、町から外に出ることを通行証無しでは禁止になり、冒険者たちが今が稼ぎ時、

せわしなく動いている。
 今日は20件近くの報告を受け、そろそろお昼ご飯を食べるために休憩をしようと思った矢先、ギルドの扉がゆっくりと

開いた。
 狂信者さんだ。目立つ赤いマントですぐにわかったけど、様子がおかしい。
 右目の辺りに手を当てて、フラフラとしながら受付までやってくる。
「はぁ、こんにちは」
 あまりの元気のなさに私は気になったことを聞いた。
「……えっと、狂信者さんですか?」
「ああ、そうだが?」
「げ、元気がないですがどうかしたんですか?」
「どうかした?」
 その言葉には少し苛立ちを含まれていた気がして、私は数日前のことを思い出す。
 SランクからFランクまで冒険者のランクが下がって精神的にきつい人がいるはずがない。
 私は自分で言った発言を恥じて頭を下げた。
「すみません! 配慮に欠けて」
「ちょっと頭痛がひどくてな……酒は飲んでいないはずなんだけど定期的に痛くなるんだ」
 …………あれ?
「あの、SランクからFランクに下がったからしんどいのでは?」
「あ~それもあるかもな」
 少し明るめの感じで返事をしてくれる。
 どうやら、私の気にしすぎ……いや、多分狂信者さんが特殊なだけだろう。
 私は気を取り直して、質問する。
「どうしてギルドに来たんですか?」
「待ち合わせがあってな……マジックアーチャーは来てないか?」
「あ、それならあっちにいますよ」
 先に1人で掲示板を見ていたマジックアーチャーさんを思い出し、手で合図する。
 向こうもこっちに気付き、紙を手に持って歩いてきた。
「おう、ようやく来たか!! って、大丈夫か。お前」
「今日は不調だ……」
 弱弱しい声を出し狂信者さんはマジックアーチャーさんの胸にもたれかかる。
 鉄の胸当てに当たり、痛そうだけどそのまま体を預け、そのままずるずると横に落ちそうになる。マジックアーチャーさ

んは片手で支えて、器用に背中に乗せると狂信者さんは呟いた。
「薬は飲んだから数日で直ると思う……最初は任せた」
「はぁ、了解。あ、セリカさん。俺たちはこのクエストをやるよ」
 狂信者さんを背中に乗せたまま、クエストの用紙を差し出される。
「はい。それでは、『スパイダーフラワー討伐』を受領します。クエスト開始日時は三日後、王都で開始するので移動をお

願いします」
「あいよー。行くぞ。狂信者」
「…………」
 狂信者さんからの返事はなく、どうやら寝てしまったらしい。
 仕方ないな。と言葉を漏らして、ギルドから出ようとするマジックアーチャーさんに私は気になることを聞いた。
「あの、バーサーカーローグさんとアサシンプリンスは一緒じゃないんですか?」
「ん? そうだな。今回はあの2人は用事があるからな」
「そうですか。わかりました」
 4人パーティーを組んでいて、別々でクエストを受けることは珍しいことだけどそれぞれに理由はあるのだろう。
 私は2人の背中を見送って、作業に戻った。


 五日後の夜
 今日は珍しく、酒場に活気はなく、閑散としていた。
 遠くの町からの依頼も多く、こういう日もあるのだろう。
 そんなことを考えているとにぎやかな声が聞こえて、ギルドの扉が開かれた。
「ねぇ、一緒にお茶しようよ」
「甘くておいしいよ?」
「今度、一緒に冒険に生きましょう!!」
「グロロォ、勘弁してくれよ……」
 マジックアーチャーさんの周りに新人冒険者とみられる女の子2人と男の子1人が両脇を固めて、入ってきた。
「あっ、マジックアーチャーさん。お帰りなさい。クエストはどうでしたか?」
「討伐したけど……うん、討伐できたんだけどな」
 ものすごく歯切れの悪い、言い方をする。気になるが、その辺はログブックを見るとして一言、申し上げた。
「女の子2人男の子1人をお持ち帰りしちゃったと」
「待て、それは語弊があるだろ。それに俺はすでに結婚していて……」
 両手を使い、言い訳をするがそれは私に対してすることじゃないんじゃないかな?
「帰ったの。ソラ」
「げっ! レミリ」
 すっとマジックアーチャーさんの後ろから白い短髪の少女が現れた。
 彼女の名前はエルフ族のレミリ。元狂信者さんのパーティーの一員であり、奴隷だった過去もあることを私は知っている


 だが、それよりも重要なことがある。それは、彼女がマジックアーチャーさんのお嫁さんであることだ。
「その女の子は?」
「あ、えっと、そのだな……」
「浮気は許さない……!」
 口数が少ないレミリさんが珍しく怒っている。身の危険を感じたの新人冒険者たちはそっとマジックアーチャーさんから

離れる。
「違う! 違うんだ!! 話を聞いてく」
 小柄なレミリさんに対して勢いよく土下座するも遅く、氷の魔法で一瞬にして氷塊にマジックアーチャーさんは拘束され

、引きずられていった。
 そんな様子をいつの間にか近くいた狂信者さんが他人事のように口を開く。
「あー、連れていかれたな」
「助けないんですか?」
「え、嫌だよ。あんな夫婦げんかの中に入ったらいろんな意味できついぜ」
「それもそうですね」
 私も別に助ける気はしないし、あの夫婦ならば日痴情茶飯事だろうと思い、忘れることにした。
 だけど、ログブックを受けっておらずこれは先に行っておけばよかったなと後悔していると、狂信者さんがそっと私に渡

してきた。
「あ、これ。ログブックな」
「はい。わかりました。あれ、狂信者さんが書いたのですか?」
「いや、マジックアーチャーが書いている。たまたま俺が持っていただけだ」
「そうですか」
「さぁて、今日はゆっくりと寝ますか」
 背伸びしながら、狂信者さんもギルドから出ていく。
 そこには数日前の体調不良はすっかり治ったように見えた。
「さて、それじゃ、ゆっくり読ませてもらいましょう」
 私はわくわくしながらログブックを開いた。
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