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マッドサイエンティスト ヒナタ

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 スメラギヒーロー本部は、3人のヒーローが存在する。
 レッド、ブルー、イエローの三色で成り、何百というヒーロー組織の中で、トップクラスの怪人討伐率を誇る。
 レッドは炎の力を。ブルーは水の力を。イエローは雷の力を。ヒーローの力として巧みに使った。
 そんなヒーロー達を支える存在。それが、マッドサイエンティストと呼ばれる科学者だった。
 科学者は、怪人によって家族や友人を奪われた被害者であり、復讐者であった。
 ただひたすらに、禁忌に手を伸ばしては、法律で禁止されている兵器を作り、ヒーローへと提供する。
 光線を放ち、怪人を溶かす小型銃。ボタン一つで外骨格を形成するスーツ。空を飛ぶためのジェットパック(安全性はなし)。
 どれも、人々のためではなく、ただ怪人を倒すためだけに作られたものだ。
 それは人を殺すことなど容易な兵器。彼女はが軍事裁判を何度受けたか数えきれないほどだ。そして、証言は変わらない。
『害虫を駆除するのに、意味なんてないわ』
 彼女の証言はただそれだけだ。
 ただひたすらに、濁った瞳で手元をいじる。
 結果、怪人にしか被害が出ないという極めて緩い条件で、彼女は保釈されあるスメラギ本部で科学リーダーとして就任した。
 そんな科学者を、ヒーロー達と組織の仲間たちは親愛と敬愛……一部、畏怖の念を込めて、こう呼んだ。
『マッドサイエンティスト』と。
 

 最小限の明かりだけの部屋で私は、赤色の液体が入った試験瓶を緑色の瓶にぶち込んだ。
 ぐるぐると色が混ざり合い、白い煙をあげるとピンク色の液体が出来上がった。
 完成した。自分の才能が恐ろしい……!
 
「く、くふふ、くはははは!!」
 
 自分でも下品だと思う、笑いがこみ上げ、声を上げる。
 
「ヒナタさん! 朝ですよ! 起きてください!!」

 時刻は朝7時。私の、マッドサイエンティストの時間が終わった。
 ノック無しで部屋に入ってくると同時に駆け足で、黒のカーテンを思いっきり開けられた。
 
「ふわぁぁぁ~~~……くっ、朝日がまぶしいわ」
「おはようございます!! ヒナタさん!!」
「ああ、えっと……イエロー君。おはよう。早いわね」
「はい!!」
 
 窓を開けると雲一つない青空が広がっていた。
 私は日差しに目を細めながら、イエロー君に促されるままに部屋を追い出された。
 元気いっぱいのクラスで人気者のだった少女だ。
 昨年、中学を卒業したばかりでヒーロー支部では最年少でマスコットのような、今学期から高校生の子だ。
 ずかずかと私の立ち入り禁止の部屋に入ってきては、あの手この手で部屋から追い出そうとする……とても、いい子だ。
 
「これから、朝ごはんですか? 一緒にいいですか?」
「別にいいけど、どうしたの? 食べてこなかったの?」
「えへへ、実は食べそびれちゃって……お母さんがお弁当を用意してくれてるんですけど……」
「あー、なるほど」
 
 イエロー君の言いたいことは分かった。
 なにせ、私もそれが目当てで、生活リズムも夜型から朝方に切り替えたのだから。
 そんなことを考えながら歩いていると、食堂に近づくにつれて、いい匂いがしてきた。

「おはよう。朝ごはん、できてるよ」
 
 食堂のキッチンから、ブルー君が朝ごはんを持って出てきた。
 すらっとスタイルがよく、お姉さんのような女性で、私とほぼ同い年の社会人だ。
 肩まであるポニーテールが揺れている。
 香ばしく焼けたパンの匂いが、私とイエロー君を椅子まで誘導してくれる。
 
「おはようございます! ブルーさん!!」
「おはよう。ブルー君」
 
 私たちはブルー君に挨拶すると同時に、席に着いた。
 コツンコツンッと私にはカフェオレ。イエロー君にはオレンジジュースが入ったコップを近くに置いてくれる。
 そして、片面に茶色のピーナッツバターが塗られたパンと栄養バランスが考えて添えられるサラダが置かれた。
 
「「いただきます」」
「……どうぞ」
 
 パンを口元に運ぶと同時にかぶりつく。
 表面に薄く塗られたピーナッツバターの味と食パンのふんわりと甘い美味しさに生きているって実感が湧いてくる。
 どうやって作っているのかわからないが、このピーナッツバターは自家製らしい。それゆえの美味しさだろうか。口が止まらない。
 
「おいっしぃ~~!」
「言い過ぎ……イエロー、口元についてるよ」
 
 甲斐甲斐しく、ハンカチでイエロー君の頬についたピーナッツバターを拭いてあげている。
 このスメラギヒーロー本部で、私が唯一信用している2人の仲がいいことに私は心が穏やかになる。

(この瞬間だけは……すべてを忘れられるわね)

 怪人のこと。社会のこと。私の視界に移るすべてが敵のように思える。
 でも、この2人は違う。私のヒーローはこの子たちだけだ。 

「……なに? ヒナタさん。変な視線を感じたんだけど」
「いいえ、ご馳走様」

 手早く、食事を終えると食器を台所へと持っていく。
 自分で食べたものは自分で洗う。それがこの寮の掟だ。
 と、言っても私とブルー君しかこの寮には住んでいない。外にも部屋ほど1階2階、空きがあるが入居予定は今のところはない。
 
「……また、徹夜したの? あんまり、無理しないでね」
「ご忠告どうも」
 
 コトッと洗い物をしている横に淹れたてのコーヒーが置かれた。
 食後のコーヒーをいれるのが面倒だから、ブルー君の気遣いには感謝してもし足りないぐらいだ。

 イエロー君が、学校に向かうとブルー君も支度を始めた。
 ブルー君はスーツに着替えると私の用意も一緒に済ませてくれたみたいだ。

「それじゃ、いこっか」
「……ええ、そうね」
 
 今日も憂鬱な一日が始まった。
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