妖怪(オレ)の力は??(オレ)のもの。

XX GURIMU

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【赤兎の実力】

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 一閃。空間を切り裂くかの如く。一筋に剣筋が刀をおろか人体までも真っ二つに切り裂く。
 無事に助かったのは半分のみ。銀二の言葉に反応したものと銀二自ら庇った千里のみであった。

「おにいちゃん……おにいちゃんっ!!」
「ぶ、じか……?」
「あ、ああぁぁ…………」
「…………」
 千里の視線は銀二のとある部分に向けられている。
 自身のために走ってくれた足……そのうちの一つは地面に無残にも置き去られている。
 銀二はようやく痛みを実感し始めるが気にしている暇がなかった。

 逃した獲物を狩るために赤い妖怪はもう一度、地面に刀を差しその上に昇る。
 地面に伏している者達を眺めると不満のそうな顔をするがすぐにその表情は変わる。
 退魔師たちは反応できなかったものは死んだ。
 赤刀の猿の圧倒的な力を前に戦意を喪失する者達。
 その中でもたった一人。銀二だけは千里を庇いながら赤い妖怪を睨みつけていた。

「―――っ!」

 ――――。

 にやりっと凍てつく笑みを赤刀の猿は見せつけた。
 焼けつきそうな痛みを忘れるほどの恐怖を銀二は感じていたが、怯むことなく睨みつける。
 数秒の時が流れ―――。

 ―――SSS!!

 しびれを切らした赤刀の猿は跳躍し、銀二に向かってくる。
(あぁ……ちくしょう……)
 銀二は悔しかった。
 例え、少しだけでも妹を……千里を守ることができた。
 それ自体は誇らしいことだ。
 だけど……。
「おにいちゃんに……手を出すなぁぁぁ!!」
 烈火のごとく。千里が炎を纏いし刀で割って入った。
 燃え上がる火の粉を思わせるような太刀筋が赤刀の猿に襲い掛かる。

 ―――SSSs!

 赤刀の猿は初めて、千里の攻撃を自身の刀で受け止めた。
 義兄の体を二度も切り裂かれ、ズタボロの姿を見た千里の怒りは頂点に達していた。
「燃えなさい……朱雀!!」
 何枚もの術符を空中にばらまき、すべてを切り裂いた。
 炎の術符に備えられた力が刀へと宿り、激しく燃え上がる。
 本気になった千里は止められない。

 無数の斬撃と共に炎が飛び散り、赤刀の猿はそれを防ぐ。
「いける……いけるぞっ!」
「やってくれ! 赤兎!!」
 生き残った退魔師たちはこのままいけば勝てると思い始めていた。
 妹への声援が飛び交う中で銀二は持っていた術符を張り付け、止血処理をしてその戦いをもう一度見直す。
(だめだ……あれは、駄目だ)
 一見、攻めている千里が有利に見える。
 だけど、それは相手に有効打を与えていればのことだ。
 何度も妖怪を見てきて、観察してきた銀二には赤型の猿には余裕があるように見える。
 それに比べて千里の様子は―――。
「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 いつ、力尽きて倒れてしまうのではないかと心配してしまうほど顔色は赤く染まっている。
 自分自身の力を制御できず、限界以上の力を引き出していることはずっと一緒にいた銀二にはわかっていた。
(力が……俺にも、力があれば……!!)
 己の無力さに嘆いていた。
 これまで何度も、銀二は同じような光景を見ていた。
 その度に、一歩間違えれば目の前で大切な家族の命がなくなることを考えていた。
 そして、それはまさに現実に起きようとしている。

 ―――SSS!!

「っ!? きゃあぁぁぁぁっ!!」
 一瞬だけ動きが遅れた千里はタワーの壁へと叩きつけられる。
 吹き飛ばされて、ぐったりとして意識を失った。

(奇跡なんて……起きることなんかない)

 千里の命を絶とうと赤刀の猿は追撃を仕掛ける。

 すべては必然。
 弱者は強者に負けるのが世の理。
 ここは強さこそが生死を分ける世界。
 弱者である銀二は強者である千里を守るためには……。

「千里っ!!」

 己の命を楯のするしかない。

「やめろ……千里のこれ以上、手を出すな」

 ―――SS.

 間に割って入った銀二は千里を背に、片足で道を塞いだ。
 猛獣のような眼差しで赤刀の猿を睨みつける。

 まるで時が止まったかと錯覚するほど銀二は長い時間を感じた。
 睨みあい、赤い妖怪が口元を歪めて笑う。

 ―――、SSS……気に入った。
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