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【弱者として】
しおりを挟むタワー中には頂上へ続く階段があり、それを守る守護者たち妖怪が存在する。
「お~お~、出たぜ出たぜ」
「こんくらいなら金稼ぎにじゃ楽すぎるぜっ!!」
ノロノロと歩行速度が遅い巨大な緑色の亀の集団を見て、退魔師たちは軽口をたたいた。
【緑】のタワーには速度の遅い亀の妖怪が存在するのが普通であった。
大型犬ほどまで大きく育った体躯に秘められた一撃をくらえばただでは済まない。
妖力を手に入れた怪物となった動物。それを教会は妖怪と呼んだ。
勉は自分より幼い20前半の青年たちがこのままでは危ない目になるのを見越して警告した。
「気を付けたまえ。火力がバカにできない」
「あいあい。おっさんたちは下がってなよっ!」
「いくぜっ!」
2人の青年は前に駆け出した。
【青】と【赤】色に煌めいた刀身を一振り。
その一撃で、亀の妖怪たちは切り裂かれて消滅した。
「この程度の白さだと楽勝だな」
タワーの色は基本3色によって決まっている。
【赤】【青】【緑】の三食が基本となり。そのこに陰影が追加される。
より白くあれば、その中の妖怪は弱く。
より黒くあれば、その中の妖怪は強い。
鮮やかさによりその妖怪たちの強さは異なり、黒くなるほど強くなる傾向であった。
そして、中から登場するのはほとんどの場合で、色の相手。つまりは【緑】だと亀が現れる。
その鈍重な妖を退魔師たちは切り裂き道を切り開いた。
「うらっ!」
「どらぁっ!」
「でりゃぁっ!!」
退魔師たちの猛攻で亀の妖怪の数はどんどん減っていく。
その中でも一番多く妖怪を狩ったのは千里だった。
妖怪へと彼女が走り去った後は残火だけが残っている。
(うん。この程度なら問題ないね)
戦闘中にも関わらず、千里は背後を気にした。
正確にはもっと後ろ、術師たちが多くいる後方の兄を心配していた。
この調子なら義兄も怪我の心配はないかなって安心したその時だった。
「ぐああっ!!」
「銀二さんっ!」
「っ!?」
後方で義兄の名前を呼ぶ桃華の声を聴き、振り返る。
(お兄ちゃんっ!?)
千里は駆け出す。
「ごめん、ちょっと行ってくるっ!」
「あ?」
「ちっ、いつものお守りだよ」
「あ~、行ってこい行ってこい。なんなら、分け前が減るから帰っていいぞ~」
ギャハハハッと大声で退魔剣士たち笑い出した。
その姿に勉は頭を抱え、視線で千里に行きなさいと伝えた。
千里は頷き、下唇を噛んで義兄がいるところに向かった。
「……すみません」
「あまり無茶はしちゃダメですよ」
たどり着くとそこでは頭から血を流すも愛想笑いを浮かべている銀二が、桃華に治療を受けているところだった。
万が一に備えて千里は刀を抜いたまま周囲を警戒して、事情を聞く。
「なにがあったの?」
「えっと、その……」
何か言い難そうに桃華は視線を泳がせる。
その視線の先には3体の亀の妖怪の残骸が重なっている。
「俺が前に出過ぎただけだ。気にするな」
「……っ!!」
その言葉に千里は頭に血が上った。
一歩間違えれば死と隣り合わせの妖怪退治。
出過ぎただけという言葉で終わらせてほしくない思いから感情をそのまま口にした。
「……バッカじゃないのっ! お兄ちゃんはいっつもそう! 絶対に、絶対に今回の奴を祓ったら、祈祷師なんて職業辞めさせるんだからっ!!」
「……それは困る」
「なんでよっ! 弱いくせに……弱いくせに出しゃばらないでよっ!」
その言葉に銀二の顔が固まった。瞳孔が開き、驚きを隠せていない。
「―――っ」
「あっ!」
言ってしまった。この言葉だけはずっと言わないでおこうと胸の心の奥にしまった言葉。
千里はつい、口が滑り言ってしまった。
「ご、ごめっ……っ! 今のは……」
「……そうだな。俺は弱いよな」
銀二は千里に顔を向けずに……独り言のように銀二は呟く。
まるで自分自身に言い聞かせるように。
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