ドラゴンと従者は今日も異世界でのんびり過ごす。

XX GURIMU

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マッサージがしたくなった従者

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 私が異世界に迷い込んで半年がたった。
 半年前、成人式の日に私は友達と着物を借りて、試着室から出るとそこはもう店の中ではなかった。
 振り返って何が起きたのか確認しようとする間もなく警備兵に捕まり、拘束された。
 警備兵の姿や街中の人たちの服装を見て、私はライトノベルで憧れていた異世界にたどり着いたのでは? と心の中では少しドキドキしていた。
 でも、現実は過酷で……その後、牢屋に入れられてすぐに裁判となりました。
 壁には数え切れないほどの兵士が整列し、見上げると見た目でわかるぐらいに高貴な見た目な人が三人も私のことをにらみつけています。
 その中の一番派手な人物が一人が私に問いかけます。

『貴様は……この国を亡ぼすものか?』
『えっ?』

 言っている意味が分からなかった。
 右も左もわからないままに異世界に来たのに突然、国を亡ぼすなんて言われても答えようがない。
 私は精一杯、嘘はつかないように首を横に振った。
 だけど、それは意味がなかった。
 私の言葉に信用がないのか意思を握れと命令され、握ろうとすると緑色に輝いて砕け散った。
 目の前で起こったことが理解できずに、私はどうすればいいのかと聞こうと顔をあげたらそこには私を囲むようにして兵士たちが武器を向けていた。

『残念だが……貴様はこの国にいてはならぬ存在だ』

 宣言し、襲い掛かってきたその時だった。
 バタンッ!! と大きな音が鳴り、それまで閉まっていた扉が開かれて誰かが入ってきました。

『なんだ、騒がしいではないか』
『ラック様!!」

 燕尾服を着こなし、おっさんのように頭をかきながらその男は現れた。
 ラックという人物はよほどの発言力があるのか兵士全員が私に攻撃するのをやめている。
 そして、裁判長は言い訳をするように事柄を説明し、ラックは頷いて口を開いた。

『なるほど、言いたいことはわかった。だが、判断が急すぎるな。この件は私が預かるとしよう』
『ラック様! ですが!!』
『くどいぞ。王よ。私が責任を持つと言っているのだ。この意味が分からない訳でもあるまい』
『……わかった。好きにしてください』

 兵士たちが武器をしまい、ようやく一安心。
 私は腰を抜かしてしまい、その場でへたり込みました。

『お嬢さん。私の名前はラック。お名前を教えてくれるかな?』

 笑顔で差し出された手のひらにドキッとしました。
 私はその手を掴んで、名前を言います。

『私は、愛佳。早乙女(さおとめ) 愛佳(あいか)です』
『ふむ。いい名だな。では、アイカ。そろそろティータイムなのだ。お茶でもいかがかな?』

 手を引かれて私はその場から立ち去りました。

 その後、私は紆余曲折がありながらもラックの従者としての立場を獲得して城に住ませてもらっています。
 


「アイカ。これを頼んだ」
「はい。わかりました」

 言われて書類を受け取ります。
 彼はラック。最近になって耳かきの行為に魅了されたドラゴンです。
 ドラゴンの姿は見たことがありませんが、人の姿では学校のクラスで2番目にイケメンぐらい顔つきです。
 しかし、やはり異世界。人の姿をしているとは言えども、髪の色は深紅の髪に黒のエクステを張ったような長い髪が特徴的です。
 執事服である燕尾服を着こなしているのはさすがというほかありません。

「……よし、今日はこれで終わりしておこう」
「はい。お疲れ様です」

 ラックは走らせておいたペンをおいて、背伸びをします。
 イケメンなのに行動一つ一つがどこかおっさんみたいな感じがしているのが不思議です。
 それはラックが長齢であるからでしょうか?
 前に一度、年齢を聞いたことがあります。
 ライトノベルやマンガなどでよくこういうので年齢を聞くととんでもない数が返ってくる……というのが定番なので身構えていたのですが少し違いました。
 彼はこう言い放ちました。

『そうだな。数えたことがないが……この星が生まれたよりも先に私は生まれていた』

 正直、予想外でした。私はてっきり100歳や1000歳などの言葉が返ってくると思い込んでました。
 まさか、今の私たちが立っている大地よりも昔に生まれているなんて答えが返ってくるなんて想像していませんでした。
 若々しい外見はただの見せかけで本来なら私は敬語で話さなければならない存在でした。
 そんなラックをどうして事務的な敬語のみで、しかも名前を呼び捨てにしているかというと彼の希望です。

『お前はたまたまこの世界に来ただけだ。ラックと呼んでくれ。ああ、でも仕事中は最低限、繕(つくろ)ってほしい。じゃないとほかに示しがつかないからな』

 まだ、社会を経験したことのない私でしたが言っている意味は分かりました。
 だから、私はラックと名前だけは呼び捨てにして敬語を使うように心がけています。
 まだまだ未熟ですが異世界で就職することできました。

 ラックは肩をボキボキと鳴らして書類の山を見てぼやきました。

「ん~、それにしても今日も量が多いな」
「そうですね。日に日に増えてます」
「近々、祭りがあるとはいえ私を頼りにしてもらっては困るのだがな」

 困ったように笑ってラックは言います。
 基本的にラックが仕事をするのは軽い書類ばかりです。
 重要なものは王様と幹部の人たちが取りまとめて仕切るようになっています。
 一度だけ、裁判の受けた時の王様と話す機会があったため、ラックの仕事について気になって聞いてみました。
 
『ラックはそれほど重要ではないのですか?』
『とんでもない。ここ、王国においての守り神様だ。重要ではない訳がない。だが、仕事に関しては我々で対処できるものは対処しなければならない。あの方はいつまでここにおられるかも話してくれないのでね』

 その言葉に少しだけ重みを感じました。
 まるで近い将来、ラックが消えていなくなるかのように聞こえてしまいました。
 私は言葉の審議を確かめることなく、無視することにしています。

「そういえば、アイカ。着物は来てくれないのか?」
「ラック……それはちょっと」

 突然の話題振りにドキリッとします。
 実はあれ以来、着物は箱に詰め込んで大事に取っています。
 レンタルをしているものなので傷をつけることはできない……ですが、正直な話をすると帰ることができないのではないかと思っています。
 ラックにそれとなく聞いてみたら、無理と返答されて以来、私はその言葉を使わなくなりました。
 でも、大丈夫です。日本にいたころよりも充実いていると言えるでしょう。
 こんな素敵な出会いがあったのです。だから……

『愛佳。大丈夫?』
『愛佳~。宿題見せて~』
『起きなさい。遅刻するわよ。えっ? 制服? あんたの部屋になかったかしら?』
『無理はするなよ。あっ、母さん、そろそろ行ってくるよ』

 ふと、友達と両親の顔が思い浮かびます。
 懐かしい。あの頃は異世界に行けたらななんて思っていました。
 まさか現実になるとは……

「アイカ? 大丈夫か?」

 ラックは心配になったのかキスできるほど近くまで迫っていました。
 意外にまつ毛が長いな……と感想を抱きましたけど思わず私は後ろに飛び去って距離を取りました。

「だ、大丈夫です。ええ、ありがとうございます」
「そうか? まあ、何もないならいいが……」

 困った顔をしながらラックはそれ以上、追及しません。
 そこのところが紳士的でラックのいいところだと思います。
 ですが……

「んー、やはり人の体は不便だな」

 肩をゴキゴキと音鳴らして確認しています。
 ……この人は乙女心がわかるのかわからないのかどちらなのでしょうか?
 本当におっさんのような行動をするのはマイナスです。

「はぁ、ラック。いいですよ。そこに寝転んで下さい」

 私はこの間、耳かきに使ったソファを指さします。
 ラックは言葉の意味が分からないのか目を開いたり閉じたり忙しいです。
 
「マッサージをしてあげますよ」
「まっさーじ?」

 ラックはえらく間抜けな声で聞き返しました。
 私は呆れながらも、寝転んだラックの上に跨ります。

「おい、アイカ。なにを――――」
「えいっ」
「っ!?」

 ゴキ、ボギッ、ガギ、ゴキッ

 軽く、本当に肩に手を置いて、軽く力を入れただけでラックの肩からは信じられない音がしました。
 しかも、これ何度も骨が鳴っていますが揉んだ回数は1回です。
 私は固まって動けません。

「…………」
「ふむ……アイカ? どうかしたのか?」
「…………あの、ラック。無事ですか?」
「ん? 何を言っているんだ? これがまっさーじというやつではないのか?」
「いや、その、はい。そうなんですけど……」
「なら、問題ない。耳かきとは違う快感が気持ちがいい。続けてくれないか?」
「わかりました」

 細かいことを考えるのをやめて、私は肩もみを続けます。

 ゴキッゴキゴキッ、ガキッ、ボキッ

 もはや私がラックをいじめているかのように音が鳴り響きますけど、ラックはすごく気持ちよさそうな顔で寝転んでいます。

「それにしても、アイカの能力はすごいものだな」
「そうなんですか?」
「少なくとも同じような能力はないな。類するものだと傷を癒すだが根本は違うと感じているよ」

 続けて「もう少し下を頼む」と言われ、私は揉みこみます。
 ようやく骨のなる音が挟みはじめて凝っている部分が分かりはじめます。
 コブのように違和感のある部分を優しく練り回しながら時折、押し込んだらします。
 
「うぐぐぅ、まずいなぁ。これは寝ることを我慢できそうにーー」
「いいですよ。寝てしまっても」
「しかし、私にも誇りというものがーー」
「そんなことよりも体を大事にしてください」
「そんなことって……女性からするとそういう感覚なのか」

 ラックはそういうと手を上げてマッサージをすることが出来なくなりました。

「ありがとう。もう十分だ」
「えっ? でも」
「いいから、今日もう上がりなさい」
「はあ、わかりました」

 なんだかラックの中の地雷を踏んでしまったのか強引に部屋を追い出されます。
 
 なにが原因だったのか……よくわからないですね。
 

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