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藤堂家

藤堂(とうどう) 詩衣里(しえり) 身長169㎝ B79 W54 H76 Cカップ ②

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 映像はそこでプツリッと途切れている。
 私は今、どんな顔をしているのだろう。
 
「お嬢様。念のために言っておきますがお嬢様の責任ではありません。あれは私が堕落した結果、サキュバスより淫名を頂いたまでです」
「あの洗濯物の数は……」
「あれは夜中。お嬢様の部屋に忍び込んで変えていました。安心してください。まだ、なにもしてませんから」

 「まだ」その言葉引っかかる。
 恐らく、私も同じ道を歩んでしまうことになるのだろう。
 現状、私にはあの催眠術を解く術と快楽から逃れる方法は知らない。
 ちらりと美羽の足元を見る。
 そこには首輪とリードが転がっている。
 何も繋がれていないそれが意味することは一つ。私が犬になるのね。

「さて、お嬢様。今の映像を見てわかるように次が自分の番という自覚はありますか?」
「そうねぇ。わかっているけど正直に言うと逃げ出したいわ」
「逃げてもいいですよ? すぐに捕まえてワンワンと躾てあげます」
「…………いや、逃げないわ」

 私はちゃんと考えて答えた。
 その言葉に美羽は少し驚いたように見えた。だって、さっきまで発情していた顔が消えていたもの。

「どうしてですか? 私を巻き込んだ罪悪感からですか?」
(なんだ。引きずっているのはあなたの方じゃない)

 美羽がうつむいて聞いてきた。その姿から分かるように美羽は責任感の強い子だった。
 サキュバスに寝返っているけどその根本は変わることがないみたいね。少しだけ安心したわ。
 私は席を立って、美羽の傍に近寄って抱きしめてあげた。

「……美羽。違うわ。この状況を作り上げたのは私であって私に逃げる資格なんかないのよ」
「違いますよ……私が、落ちなければ」
「あんなのは無理よ。人外の力を使われたのにあれだけ抵抗したあなたはすごいわ」
「お嬢様……」
「そして、もう一つだけ理由があるの。私、あなたになら何されてもいいわ」
「えっ?」

 私の胸にうずくまっていた美羽が顔をあげる。
 その目の端にはわずかだけど泣いたような跡が残っている。
 ああ、うん。やっぱりこの子はかわいい。少しだけどムラッと来るものがある。
 私は言葉を続けた。

「私はサキュバスに犯されるのを受け入れることができるわ。すでにあなたを犠牲しているんですもの。大事なものなんてないわ」
「違います! 私は―――」
「否定しないで。私の一番の宝物。それはあなたなの……だから、たとえどんな形になっても私はあなたの味方をするって決めていたわ」

 この言葉に嘘はない。
 幼いころから一緒に育ち、ワガママを聞いて、ずっと一緒に暮らしてくれた。
 家族と意見が違った時も、家を出ていくときも当然のように一緒についてきてくれた美羽が私は大事だった。
 今でもそう、美羽は傍にいてくれる。それがどんな形でさえ、私はそれを受け入れるって決めている。

「だからそんな顔しないで。美羽、あなたは好きにできるんだから……いい?」
「はい……わか、り、ました。お嬢様……やらせていただきます」
「えぇ、お願いするわ」

 突き放して美羽は部屋に向かう。
 私は無言でその部屋に向かった。

「ここで……サキュバス様の儀式を行います」
「私の部屋でやるのね。いいわよ、始めましょうか」

 私は覚悟を決めた。



「それじゃあ、まずは服の上からやらせてもらいますよ」

 美羽はそういってどこから水鉄砲を取り出す。
 タプンッと音を聞こえ、中身は満タン。準備万端といった感じみたいね。
 
「どこからがいいですか? あっ、私としたことがうっかりしてました。お嬢様ってどこが弱いんですか?」

 私の周りをくるくると子犬のように回る。
 にやにやと笑うその顔はいたずらっ子そのもので、懐かしいと私は思った。
 本来の美羽の性格はこういういたずら好きで、よく私と一緒に色んなことをした記憶がよみがえる。
 食べ物にタバスコを混ぜたり、洗濯物の山に隠れて大人を驚かしたりと楽しかった思い出があるわ。 

(思えば、学校に通い始めてからだったわね。美羽がそういうことをしなくなったの)

 今だから思い出せた。多分、美羽の方でも何か心象的変化があったのかもしれない。
 じゃないと説明できないほどピタリッと止まった。
 でも……そのころの私はひどく自分勝手だった。
 一番強く思い出せるのが運動会ね。親が来ない私はいつも美羽と二人で食べて八つ当たりをしたこともある。
 それでも、美羽は一緒にいてくれた。泣き言言わずにただ一緒にいてくれた。
 そこで、私の本当の気持ちに気付いた。

(あっ、私……美羽のことばかり。はぁ、違うわね。美羽が好きだから考えているのね)

 ふとっ視界が戻ると美羽は心配そうに顔を覗かせてくる。
 身長的に美羽が下からなのでその上目遣いはかわいかった。
 手に持っているのが媚薬入りの水鉄砲と首輪だけど、いいと思ってしまう。

「お嬢様? 大丈夫ですか? それとも答えられないですか?」
「いいえ。大丈夫よ。弱いところだったわね。まだ、知らないから教えてもらえるかしら?」
「へっ? あっ、はい……んん?」

 美羽が首をかしげる。
 いじわるだったかしら? それでも、今の言葉に偽りはなかった。
 あの映像を見た影響からか。私の目に映る美羽は、サキュバスに忠誠を誓ったとか私を落とすとか言っているのに……加虐心がそそられる。
 いまいち、そう……キャラがあっていない気がする。

「そ、それでは、触らせてもらいますね」
「いいわよ」

 私はベッドに腰を下ろして、手をあげる。
 美羽は水鉄砲とリードを私の勉強机において、隣に座った。

(……あれ? 使わないのかしら)

 美羽にも何か考えがあるのかもしれない。でも、どう見ても……

「だ、大丈夫。私ならできる。さ、ささ、サキュバス様のテクはあれだけっ―――」

 ブツブツッと独り言をつぶやいている。
 これは私の推測だけど、もしかするとサキュバスの力の本質は愛水にあって人格にはあまり影響がないじゃないかしら?
 催眠も音がないと使えない……結構真理をついているような気がする。
 それでも、黒幕のサキュバスが何をしたいのかわからないし、美羽自身、サキュバスに忠誠を誓っているから手を出すことはできないわね。

「なら、楽しんだ方がいいかもしれないわね」
「お嬢様?」

 そう決めた。私は美羽の顎に手を当てた。
 突然の出来事におろおろ視線を慌ただしく動かしている美羽がかわいい。
 ダメと頭の中で世間体を気にする理性が叫んだ。
 それでも、私はそれでいいと思った。
 世間もサキュバスも知ったことではない。
 私は、私の意思で―――

「「んっ」」

 唇が重なる。
 甘くて体の奥底から幸せが湧き出てくる。
 美羽が朝食で食べていたイチゴジャムのほのかな味に酔いしれる。
 その時、美羽は身じろいで逃げようとしたから腕を回した。
 逃げ場を失った美羽の瞳を見つめて、ドキドキする心臓はさらに加速する。
 そして―――

「美羽、好きよ」
「私もです。お嬢様」

 お互いの気持ちを確かめてもう一度、キスをした。

 

(気持ちは一緒なのね! うれしいわっっ‼)

 私は火照る衝動を抑えずに美羽の衣服に手をかけた。
 首のボタンをはずし、メイドの服がするりと床に落ちる。
 現れるのは淡いピンク色の大人の下着だった。

「どう、ですか?」

 顔を赤らめて聞いてくる破壊力がすごかった。
 もう今からでもめちゃくちゃにしたいと思うけど焦る気持ちを抑える。

「似合っているわよ。いつの間にそんなの勝ったのよ」
「サキュバス様に……意見を聞いてもらいました」

 その時、心の奥底でモヤッと嫌な感情が生じた。
 だから、私は後ろに回り込んで美羽のブラの隙間に手を入れる。
 しっとりと卵肌の美羽は私の指を受け入れてくれる。
 私は壊れ物を扱うように揉んだ。

「あうぅ、そこは恥ずかしいのですが……」
「いいじゃない。揉めば大きくなるって聞くわよ」

 まるで人形のような手がもどかしそうに居場所を求めて口元を隠す。
 ここまでしているのにまだ恥ずかしいみたいね。いじめたくなっちゃうじゃない。
 全体を練り込むようにじっくりと時間をかけて堪能する。
 時折、乳首に手が当たる鑑賞が気持ちよくて指ではじくと美羽はとてもいい反応をする。

「あうぅ……お、お嬢様。そ、ろそろ、お願いしますぅ」

 後ろを振り向いて懇願する美羽は本当に加虐心が膨らんでくる。
 やってはいけないと思いつつも私は意地悪な質問をした。

「なにをしてほしいのよ?」
「そこだけじゃなくて……」
「そこ? どこかしら。言葉にしていってくれないとわからないわ」

 口をへ文字にしながら美羽は快感に耐えているようね。
 ぞくぞくしちゃうじゃない。
 どうやら本当にMの気質があるみたい。
 だんだんと楽しくなってきた。

「ここかしら?」
「えっ、そこは……」
「この奥が性感帯なんでしょう? えいっ」
「あうぅぅぅぅ‼‼」

 おへそより少し下の位置。そこを人差し指でタンタンッとリズムよく叩いた。
 それだけで美羽は絶頂を迎えて、だらしなくなっている。
 
「お、お嬢様……」
「なに?」
「あの、なめてほしいです」
「どこを?」
「私の……オマンコを、お嬢様の口で……」
「仕方ないわねぇ」

 美羽は濡れて使い物にならなくなった下着を脱ぎ捨てる。
 私も一緒に脱ぎ捨てお互い、全裸になり美羽はベッドの頭に腰を掛けた。
 M字で足を開いて、準備はできているみたい。
 普段なら絶対にこんなことはしないのだけど、今の私はこの雰囲気に流された。

「レロッ、んっ、ん」
「ああ、いいです……お嬢様」

 思ったよりも好反応に気分がよくなる。
 泉のように美羽の女性器からは愛液が湧き出てくる。
 けれど、そこでふと一つだけ気になることがあった。

(あれ? 順序おかしくないかしら?)

 性行為のことはよく知らない。
 だけど、私はよく一番気持ちいいところを攻め立てられたらそこに夢中になってしまう。
 私はさっき、美羽の子宮をお腹からノックして刺激を与えた。
 なのに、この程度で美羽は満足なのかしら?

「いいですけど……もっと、奥をお願いします!!」
「んぐっ!?」

 突如、美羽は私の頭を両手で押し付けてる。
 予想だにしなかった展開に混乱し、エッチするどころではなくなった。

「う、ぐっ! み、美羽! やめ、なっ‼」
「あ、ああ! そこです! 気持ちいいですぅ‼」

 美羽は何かのスイッチが入ったように性に貪欲なった。
 私はどうにか息をしようと首を動かして足掻くけど逃げられない。
 意図して動いているわけじゃないが美羽の反応で時折、鼻と口が美羽の股間のわずかな突起に押し付けられる。
 興奮で赤く染まったクリトリスに私は何度も口づけをする。
 病みつきになっているのか絶頂を迎えても美羽は放してくれない。
 
(ど、どうすれば……⁉)
「あっ、すごいです! ものすごいのが!」
(っ! 今ね‼)

 一瞬だけ、ほんの少し力が緩んだ。
 その隙に私は顔をあげて目の前にあるクリトリスを咥えた。
 そして、舌先を精一杯伸ばして前後左右に刺激を与える。

「ひゃぁぁぁぁぁぁっっ‼‼」

 効果は抜群のようだ。
 美羽の顔をみることはできないがビクンビクンと体が痙攣しているのがわかる。
 ようやく緩まった手の力から抜け出して、近くあったタオルで顔をぬぐった。

「ふぅ、危なかったわ」

 視線を下げると痴態をさらしている美羽が寝転がっている。
 その姿に私は不快感を覚えた。

(どうして、この子は気持ちよくなっているのに私は違うのよ)

 不公平だ。サキュバスに忠誠を誓っているのだからこっちを気持ちよくしてほしい。
 私を調教する予定じゃなかったのかしら。
 そう考えると私の中のドス黒いピンクの感情がうごめきだす。
 あることを思い出す。
 私の視線の先には愛液がたっぷりと入った水鉄砲とリードが無造作に置かれてある。
 水鉄砲の色から教師の愛水とは違う。薄い青色が目立った。
 
「いいわよね? ……私がしちゃっても」

 私は気絶する美羽に確認するようにつぶやいた。
 当然、その返事は帰ってこない。
 にやりと顔がゆがむのがわかってしまう。
 水鉄砲を手に取り、美羽の口元に運ぶ。

「はふっ」

 これから何をするのかわかっているのかそれとも寝ぼけているのかはわからないけど美羽は咥えた。
 絵面的にはあまりいい感じはしないけどドキドキする。

(これ飲ませたら私がまたご主人様よね?)

 かかるだけで女の体を強制的に発情させる愛水。
 飲めばご主人様と慕ってくれる効果をビデオで見た。
 もしかすると色が違うから効果が違うかもしれない。
 でも、それよりも―――美羽をビデオで見たようにめちゃくちゃに犯したいと思った。
 そう気づいた時には引き金を引いていた。

「んっ……ごくんっ」

 この後、美羽は起きたら私がご主人様になる。
 でも、それだけだとあのサキュバスと一緒ね。
 なら―――こうしたらいいわ。

「きゃ、つ、めたい」

 上から引き金を引き続けて愛水を全身にぶっかける。
 これで準備は完了ね。
 
(あとは美羽が起きるのを待つだけ……そうだわ。いいことを考えたわ)

 私はそのプランを実行に移すべく部屋を後にした。



(これで準備完了ね。あとはスイッチを押して……よしっと)

 私は最後の仕上げのボタンを押して美羽の部屋に戻る。
 むあっ、熱帯雨林のような熱気が私の顔を包み込む。
 すんっと匂いを嗅ぐとひどく甘い香りが鼻腔に残った。
 部屋の中の惨状を見て、私は笑った。

「し、詩衣里ご主人様……私の体に何を……」

 ひゃぅぅと声を荒げて、今日で何十回目になるかわからないイキ顔を披露する。
 癖とは生ぬるい、完全に美羽は快楽中毒に夢中に泣ているのがわかる。

「ずっと、ずっと子宮がうずいているんです! あうぅ! ダメ! 我慢できないぃぃ!!」

 美羽は情けなくイク。
 全身が歓喜の震えに、止まることのない指はぐちゃぐちゃと秘部をまさぐり続けている。

「頭が真っ白になるんです! ずっとイクことしか考えが、ご主人様ぁぁぁ!!」
「それは誰なのよ?」
「はいぃ。わたっしのご主人しゃまは……詩衣里しゃまですぅ!!」
「あの映像の教師は?」
「あれも……あれも!!」
「ふぅ~ん、そうなの」

 つまらないわね。どうやら上書きすることはできないみたい。
 愛液を飲ませると意識があろうがなかろうが関係なく、引き金を引いた人物を教師として認識するみたいね。
 でも、おかしいわね。教師の方にはメロメロになっていたのに私に対しての態度は変わっていないわ。
 発情しているのもぶっかけた効果だと思うし、もしかすると色は重要なのかもね。

 私のプライドが震えた。

(美羽は私のものよ。なのに、これだと、二番じゃない)

 恐らく、美羽の中では上下なんてないだろう。
 でも、私は違う。なんでも一番になりたい。
 それがどんなものであっても私は一番なるために手段は択ばない。
 放置されていたリードを掴んで、美羽の首につけた。

「こ、これは……」
「美羽が用意したものでしょ? 怪しいわね。どんな効果があるの?」
「このリードはつけられたメスを絶対服従させ、脳内を書き換えるものです」
「へぇ、思考を書き換える……例えば、どんなかしら?」
「具体的には命令したことをメスは自分で考えたことだと思い、疑うことなく信じ込みます」

 なるほどと私は感心した。もし、一番最初にこれをはめて命令すればその場で美羽の勝利が決まっていた。
 準備万端で行動し、いつもの美羽なら負けていたという事実を認識した。

(血はつながっていないし、年下だからいつも妹のように過ごしていたけど、その実は凄腕のメイドさんなのよね) 

 しかし、今の美羽はサキュバスに翻弄され、私のベッドで痴態を露わにしている。
 ここから先は何をしようと私の勝手だ。だから、美羽に命令する。
 たった一言……「私がサキュバスよ」と言えばいい。
 それだけで美羽の中で私の存在価値は上がる。
 そのままあの学園に向かわずに家に泣きつけば逃げ切れるかもしれない。
 そもそも、学園に用があったのは雑賀(さいか) 茜(あかね)を追手のことだ。
 固執する必要はない。自分の欲望に忠実になっていいのよ。
 だから―――

「美羽、命令よ。しっかりと聞きなさい」
「はい」

 命令を待つワンコのように顔をあげて期待している。
 美羽の中の私はどんな価値があるのか気になる。でも、それは一番じゃない。
 嫌だ。絶対に嫌だ。サキュバスが美羽を取ったなら……私が取り返せばいいだけじゃない。

「私がサキュバスよ……美羽、いいわね?」
「詩衣里、ご主人様は……サキュバス。はい、わかりました」

 これでいい。これで私が一番になった。
 そう、安心した時だった。美羽の口からとんでもないことが発せられた。

「サキュバス様……それではご覧ください」

 そういって、美羽は腕を上に回して、どこからから取り出したバイブをベッドに上に見せつけるように跨った。

「イ、キますぅぅ!!」

 腰を上下に激しく揺らすその様子に見惚れてしまう。
 顔はのけぞり我慢できなくなっているけどその動きは玄人のように巧みな技を見せつけられた。
 あまりの激しさに吹いた潮が私の顔にかかるけど気にならない。
 ぬぐうことを忘れて、瞬きせずに見つめる。

(ど、どうして体が……)

 サキュバスと呼ばれてから私は一歩も動くことができなくなり、美羽の言葉通りにずっと見ているだけだった。
 美羽に命令を、違う。そこじゃない、この水鉄砲の引き金を引いてからおかしくなった気がする。
 左手に持った水鉄砲の感触はまだ残っている。中身はほとんど空になり、軽くなっている。
 その時、部屋を揺るがすほどの声が鳴り響いた。

「ゴオォォォォン!!」
「……んっ!」
「あら」

 その振動で体の自由が戻った。左右を見渡して動けることを確認した。
 先ほどの轟音はなんだったのか? 動けなかった理由は何だったのか?
 そんな疑問は後にして、美羽に抱き着いた。

「サキュバス様? どうしました」
「ううん。なんでもないわ」

 美羽に抱き着くと安心した。わかっている。あの命令は私を消す行為だった。
 でも、悲しむよりもそれよりも優越感が勝った。
 美羽の中では一番になれたのだ。それだけで十分。
 私は美羽の胸に顔を寄せ、うとうと眠りそうになる。
 このまま寝てしまおう意識を手放そうとした時だった。
 ポチャンとドアの音から水の音が聞こえた。

「あれ? サキュバス様。スライムを作ったのですか?」
「すら、いむ?」
「ええ、私の愛水は温めるとスライムになって女性を襲うのです……あれ? どうしてサキュバス様は……」

 その言葉の意味がその時の私にはわからず、眠った。



 私は幼いころの夢を見た。
 あの頃の私は美羽と一緒に遊ぶだけで幸せだった。
 一番なんて興味はなく、ただ何かを共有するだけで嬉しいを感じていた。
 場面は切り替えられて知らない女性と現在の美羽が抱き合っている。

「美羽は私のものよ」
「お、じょうさま……」

 美羽は泣きそうな顔をしながら一度だけこっちを向いて女性の胸の中へ消えた。
 嫌だ。置いていかないでほしい。
 結婚して男と一緒になるならまだわかる。
 でも、同じ女性にとられるのは我慢できない。
 美羽は私のものだ。
 それは、未来永劫……変わることなんてないのだから。



「あ、あれ……私は……」
「目が覚めたかしら?」
「あなたは……!」
「美羽ったら失敗して。催眠を使ったほうが手っ取り早いと伝えたのに。サキュバス様に忠誠を誓っても変わらなかったみたいね」

 昨日、私たちを淫乱な世界に引き釣り込んだ教師がいた。
 服装は前と同じ、黒服スーツだが眼鏡をかけていない。
 手にはバインダーを持ち、何かを記入している。

(……実験?)

 その文字だけがかすかに見えた。
 
「さて、詩衣里さん。いえ、詩衣里。ここがどこだかわかるかしら?」
「……あのビデオの場所」
「ええ、そうよ。美羽をサキュバス様のメスにした場所よ。ここまで言えばわかるわよね?」

 黙って考える。
 いや、考える必要なんてなかった。答えはただ一つね。

「私もサキュバスのメスにするのかしら?」
「はい。正解よ。本来の美羽の予定なら100点よ」
「本来の?」
「残念ながら予定が狂ってしまって……美羽がここにいない事に気付かない?」

 そう言われて、はっとする。
 回りを見渡すと美羽の姿はない。

「こっちよ。しっかりと目に焼き付けなさい」

 教師は部屋の隅に置かれたテレビをリモコンで操作した。
 電源が入れられたテレビに映像が映る。

「っ―――!! っ!? んあぁぁぁぁぁぁ!!」

 薄水色の半透明のドロドロしたプールに浸かる美羽が映し出された。
 その液体は意思を持っているかのように美羽の体を弄び、慰めている。
 あまりの非現実的な光景に絶句する。

「あれはスライム。青色の愛水の特性の一つね。あなた……聞いた話によると美羽の愛水をお風呂で温めたらしいわね」
「まさか……あれなの?」
「ご名答。温めてしまうと青色の愛水は意思をもって女性の体を襲い、サキュバス様への忠誠を誓おうとするのよね」
「それじゃあ、美羽があんな目に遭っているのは」
「あなたの責任よ。あれだけ肥大化すると10人は襲う。美羽は10人分の快楽が襲っているみたいなものね」
「そんな……」

 目の前が真っ暗になりそうだった。
 私があとでお風呂に入ったときに愛水で洗いあえば気持ちいいなんて短絡的に考えなければよかった。

(……ダメ。弱気になったら、今でもできることがあるわ)

 私は覚悟を決める。
 いや、覚悟というのはおこがましいかもしれない。
 ただ私は自分の失態を尻拭いをするだけなのだから。

「私を―――あそこに連れて行きなさい」

 美羽だけがこんな目に遭っているのはおかしい。
 私も同じ罰を受けなければいけない。
 そう思って教師に伝えた。
 けれど―――そう簡単に話が進むわけがなかった。

「ダメよ。どうしてあなたをこっちに連れてきたと思っているのよ。美羽がわざわざ連れてきたのよ?」
「わかっているわよ。だから、私は―――」
「いいえ、わかってないわ。私たちサキュバス様に忠誠を誓っているメスはサキュバス様の加護があるのよ」
「サキュバスの加護?」
「ええ、愛水を作れたり、どれだけ絶頂しても飽きたりしないわ。でもね、それだけじゃないの」

 教師は実験と書かれた用紙を見せつけた。
 私はその項目を読んで、驚く。

「不老……不死?」
「ええ、そうよ。サキュバス様に忠誠を誓うとこの用紙に書かれた内容すべてが自分のものになるの」
「で、でも、それがどうして美羽が犠牲になるのはつながらないわ」
「いいえ、繋がるわ。不眠不休でHなことをしてみなさい。普通は死ぬわよ」
「待って、それじゃあ美羽は……」
「少なくともスライムが消えるのは1年以上かかるからそれまではあそこのプールで隔離ね。それどころか10人分あるから10年以上かしら?」
「う、嘘よ……」

 衝撃の事実に気が失いそうになる。


「ど、どうすればいいのよ……」
「ねぇ、あなた……スパイにならないかしら?」
「スパイ?」

 唐突な提案に聞き返す。
 意味が全く分からなかった。

「えぇ、残念ながらこの世にはサキュバス様を狙う不届き者がいるの。そういう輩は邪魔なのよね。ある程度は目星がつけられているだけど警戒されているからうまく捕まえられなくて……そこでスパイの出番よ。その他大勢と一緒に催眠にかかってもらい邪魔者を誘導してちょうだい。そうすればあとはこっちがうまくやるわ」」

 なるほど理に適っていると思った。

「一人につき美羽のプールに5人。サキュバスに忠誠を誓った子を入れてあげる。そうすれば、すぐに再会できるわよ?」

 これを受けなければ10年は美羽に会うことができない。
 スパイになって催眠にかかるだけですぐに再開できる可能性がある。
 天秤にかけるまでもなかった。

「わかったわ。その話を受けるわ」
「そう、ありがとう。じゃ、これからは協力関係ね。念のため、スパイは直接的過ぎるから催眠の時にあるワードを付け足すから聞き逃したらダメよ?」
「どんな言葉にするのよ」
「そうねぇ、『メスネコ』でいいかしら。邪魔者は『メスイヌ』って呼ぶから。覚えたわね」

 私はしっかりと頷き、返した。

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