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1章
幼馴染が先生のことを警戒しています。
しおりを挟むあの後、授業の内容などは一切耳入ってこずに気が付けばすべての授業が終わり残すはHRのみになっていました。
雲母ちゃんは「どこに行ってたの?」と心配してくれましたけど、雄くんから口パクで「内緒にして」と釘を刺されたため話すことができなくなりました。
そんなわけでどうすればいいのか。私の中でもやもやが溜まっているとクラスメイトが話しかけてきました。
「ちょっと、優奈さん。そろそろ紹介してくれてもいいじゃない?」
「へっ? なにを?」
5人ほど私の席を囲み、なんのことかわからない私は素で返します。
「なにをって、妹さんのことです」
「ああ、雄くんですか」
「それそれ。あなたたち姉妹ですよね? どうしてそんな呼び方をしているのですか?」
「あー、えっと」
どうやらクラスメイトは雄くんが転校してきたからずっと気になっていたみたく帰る前に聞いておきたかったみたいですね。
どうしてその呼び方をしているのか。確か設定は……。
「妹とは小さいころからおままごとをしていてそれが定着してるんです。長年会ってなかったですから」
「姉妹なのに……珍しいですわね」
「それは……」
やばいです。昼休みに即席で考えた設定なのであまり追及されるとボロが出てしまいます。
うまいことできないかと雄くんの方視線を向けるとHRが始まるチャイムが鳴り響きました。
「あ、チャイムですわね。それでは……」
取り囲んでいたクラスメイトはチャイムの音を聞くとすぐに席に戻って一安心です。
だけど、おかしいですね。
普段ならHRはチャイムが鳴る前に担任の教師が準備しているはずです。
ですが、今日はまだいません。なにかあったのでしょうか?
「優奈ちゃん。大丈夫だった?」
「はい。って、雄くんは早く席に戻らないと……」
すぐに戻れると確認しているのか私の前にまで歩いてきました。
(席に座っている生徒から注目を浴びるからあまりこういうことはしてほしくないのですが――)
そう思い、注意しようとした矢先、教室の扉が開かれました。
しかし、入ってきたのは予想外の人物でした。
「はーい。みんな席についてください。HRを始めるよ」
「「っ!!?」」
「「「「きゃーーーー!!」」」」
にこやかにまるでイケメンアイドルのように笑みを浮かべて教壇に着いたのは三国先生です。
クラスの女子全員が活気づいて、三国先生を迎える中で私と雄くんは驚きの表情を隠せません。
「今日から学校の都合で僕がこのクラスを請け負うことになった。よろしくね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだい。優奈さん? ああ、それと雄さんは席に座ってください」
「え、あ、その……どうして三国先生が」
私を守るように手を広げる雄くんは警戒して動きません。
怖くなった私は雄くんの腰に手を当てながら質問しました。
だけど、その返答は思わぬところから帰ってきました。
「ちょっと優奈さん。忘れましたか? 先週、前の明智先生が出産の都合でこれから学校をお休みするって言っていたじゃないですか」
「あっ」
そうクラスメイトに言われて思い出しました。
4月、新学期始まってすぐなのにそういうこともあるんだなとぼんやりと聞き流していたこと。
その後に雄くんと出会い、わたわたしていたのですっかり抜け落ちていました。
「それぐらいは覚えておかないと。それよりも優奈さんはどうして三国先生様に……」
「まあまあ、それぐらいに。連絡はなかったのは確定してなかったからでね。悪いと思っているよ」
私を追撃しようとするクラスメイトを三国先生がフォローしてくれます。
「それと僕が優奈さんを下の名前で呼ぶのは妹さんと混同しないためだ。他の子も呼んでいいなら呼ぶけど……」
「「「是非!!」」」
「はは、これは大変そうだなぁ」
この光景だけ見ればただ生徒に人気の先生です。
ですが、私はもう身をもって知ってしまいました。
あの甘いマスクの下にはどんな化け物を狩っているのかを……。
「さて、覚えるのはまた今度として雄さん? 座ってもらえないとHRを始めらないです」
「………………」
「そうですよ……ひっ!」
敵意むき出しの目に注意しようとしていた子が悲鳴をあげました。
私を守ろうとしてくれるのはうれしいです。ですが――――これ以上は雄くんはまずいことになってしまいます。
正確にはクラスで浮いてしまいます。それはできたら避けたいです。
せっかく同じクラスになっているんだから、せっかくもう一度、一緒のクラスなんだから……。
その時でした。雄くんの前に雲母ちゃんが向かってきました。
「ちょっと、雄? 男嫌いなのは知っているけどそれぐらいにしなさい」
「…………」
クラス全体に聞こえるような、それでいて大声じゃない程度に抑えてくれています。
これは――!!
「みんなごめんねー? 雄はあることがあって男が嫌いなの。だから今日のことはちょっと大目に見てほしいな!」
その言葉に、クラス全体がざわつきます。
今の雄くんの見た目は女性です。だからこそ、男が嫌いというワードは意味深にとらえることができて……。
「ほら、雄も座りなよ。周りのことは任せて」
後半は私たちに聞こえるようにだけ教えてくれます。
そのことに納得したのか――いえ、あの目は全くですね。
ただ、敵意むき出しの目の状態でも隣に座ってくれるぐらいには落ち着いてくれました。
私と雲母ちゃんはほっと一息をつきます。
「はい、それでは遅くなりましたがHRを始めます」
三国先生は全員が座ったのを確認すると何事もなかったようにHRを始めました。
その間、雄くんはずっと三国先生のことをにらみつけて警戒を解かなかったです……。
HR終了後。話題は雄くんのことから三国先生に移り変わりました。
いち早く、雄くんと共に学校を出ようと帰宅準備していると先に帰宅準備を終えた優奈ちゃんが私の机にカバンを置きました。
「ちょっとあなたたち何をやっているのよ」
カバンの陰に隠れて私たちはひっそりと話し合います。
「それは……」
「雄の反応。尋常じゃないわよ?」
「うっ……」
「あの反応、あれはまるで――」
「雲母ちゃん!」
それ以上は口に出してはいけないと雲母ちゃんの口に私の手を当てて塞ぎます。
しかし、すっと避けられて私は机にもたれこみます。
「はあ、まあいいわ。ある程度は私がフォローするけど気を付けなさいよ?」
察してくれたのか。それ以上、何も聞くことなく雲母ちゃんは先に用事があるからと言って教室を出ました。
私も忠告通りに気を付けて、雄くんと共に帰ろうと声をかける前にあることに気付きました。
「あれ? そういえば雄くんはどこに行ったのでしょうか?」
「えっ?」
そうです。隣にいるはずの雄くんはすでにどっかに行ってしまってました。
1人で帰るわけにはいかず、だけど教室にいるには肩身が狭かった私は荷物を持ったまま警戒しながら雄くんを探すために校舎を歩きます。
雲母ちゃんは用事がある上に雄くんからは何の連絡もないため探した方がいいと言われました。
グラウンドには体育系の部活をする生徒の声が聞こえて、校舎には人がまばらになっています。
ふと、金曜日の夜のことを思い出します。
あの日、私は1人で帰って危ない目に遭いました。
そのおかげで雄くんとも出会えたのですが、あんな幸運が二度も続くわけがありません。
もしかしたら教室にいるかもと思って通った道を振り返った視界の隅に雄くんの姿が映し出されます。
「あっ、雄くんっ!?」
安心して声をかける前に私は雄くんと一緒にいる人の姿を見て声を押し殺しました。
雄くんと2人きりで歩いていたのは三国先生。
しかも、2人で紙束をもってどことなく仲良しな雰囲気が漂っているような気がします。
「ありがとう。雄さん。女性にこんなことを頼むなんて悪いね」
「いいえ、早く用事を終わらせたいので……」
「そうかい。入ってくれ」
何の会話をしているのか聞き取れませんでしたが入っていったのが保険準備室です。
まさか、とは思いますが雄くんが……と考えましたがそんなわけはありません。
だって、あれほどの敵意むき出しで、命を懸けて守ってくれた雄くんが三国先生と仲良くなるわけがありません。
(……でも、万が一が……)
疑いだしたらもう止まりませんでした。
私は忍び足で保険準備室のドアから中の様子を覗くことにしました。
「三国先生。そろそろ……いいですか?」
「おや、もう少し頼みたいんだけど……」
紅茶を淹れようとした三国先生の後ろから雄くんが襲い掛かりました。
三国先生の後頭部めがけて大きく回し蹴りが命中します。
「いや、これ以上は優奈ちゃんを待たせたくない」
「そっか。なら仕方ない」
平然と三国先生は答えてます。よく見ると右腕が見え隠れしてガードしたみたいです。
そこから流れるように雄くんは肘鉄、裏拳などの接近戦を仕掛けます。
だけど、そのすべてを三国先生は片手で防いでいます。
「その殺気。ますます好みだよ」
「黙れ」
雄くんがバックステップで距離をとり、胸元から精霊石を取り出します。
「安心してくれ。僕は4カ月は絶対に優奈さんに手を出さないよ」
「それが過ぎたら手を出すんだろう?」
「さあ? 僕の気分次第さ」
両者、見つめ合う中で時間だけが過ぎて――――。
「三国先生……優奈ちゃんに手を出せば僕は絶対にあなたを許さない」
「……素晴らしい。ますます君に興味がわくよ。先に竜騎士にあってなかったら君をターゲットにしていたね」
雄くんが精霊石を胸の中へとしまい込みました。
こっちに向かって歩いてきます。
(あっ! やばい!)
なんだかいけないものを見てしまった気がした私は急いでその場から離れて教室に急ぎます。
教室にたどり着くと全員帰ったのか誰もいませんでした。
自分の席に戻り、ゆっくりと呼吸を整えて雄くんを待ちます。
数分もしないうちに雄くんが現れました。
「あ、優奈ちゃん! 待たせてごめんね!?」
「ど、どこに行っていったんですか?」
「あー、野暮用があってね。そう、転校届けに不備があったんだ!」
いつもと変わらない口調で雄くんはしゃべってくれます。
だけど――――。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもないです……」
私はその先を知っていて、それが嘘だとわかっています。
雄くんが私のために動いてくれるのかわかります……だけど、なんだか不気味に思えてしまうのは私がおかしいのでしょうか?
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