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プロローグ
死んだはずの幼馴染が帰ってきた。
しおりを挟む私は聖地虞狼(セイントグロウ)高校に通う2年生の一般人です。
エスカレーター式で親の言いつけを守ったり守らなかったりしている普通の学生です。
成績は中の下あたりで、得意な科目はITです。
最近ではライトノベルにはまり、いつか魔法なんて使ってみたいな……なんて、考えていました。
そう、帰り道で惨劇を目にするまでは……。
深夜12時を過ぎた帰り道。習い事の先生が遅れたり電車が止まらなかったりと不幸が続いてつい近道で農地を抜けます。
月明かりすら無い道は電灯の明かりだよりに 人一人分ぐらい歩ける盛土の上をバランスよく歩いていると――――。
「ああぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひっ!?」
叫び声が聞こえました。
叫び声がする方に振り返るとちょうどそこは曲がり角になっていて電灯の明かりの下には何もありません。
曲がった先が叫び声のする方なのですが……あの叫び声は尋常じゃありませんでした。
「は、早く帰らなきゃ……!!」
誰に言うわけでもないのですが声に出して速足に切り替えます。
その間、ずっとさっきの叫び声のことが気になります。
誰かが襲われている? 単なるいたずら?
もし、誰かが助けを求める声だったら?
次第に歩くスピードが弱まり……思考が一つに統一されます。
「それだったら、助け……ないと!」
そうと決まれば踵(きびす)を返して、走り出します。
スカートの縁(ふち)を手でもって、足に引っかからないようにします。
さっき叫び声がしたところまで戻ると暗闇で何も見えません。
私はポッケからスマホを取り出してライトモードをONにします。
そこに照らし出されたのは――――。
「…………」
「見ましたね?」
「っ!?」
ライトに照らし出されたのは一目見て助からないと思うほどの血を流す人。
そして、その上に座っているのはそれを行ったと思われる殺人鬼でした。
社会人と思える白いスーツを着ている20、30代の殺人鬼は背中に大きな日本刀を背負い、脇差もさしていて現代の侍のような恰好をしています。
一目見て、私はまるで科学者のような人だと印象を覚えましたが……それはマッドサイエンティストのような映画の科学者です。
血まみれの殺人鬼はにやりと笑います。
「見られたからには仕方ない。忘れてもらいますよ」
「あっ、あっ、ああぁぁ」
「怖がることはない。薬を飲むだけです。それだけこのことを忘れられる」
遠目で見て殺人鬼がポケットから取り出したのは青を黄色のカプセル。
死体の上から降りてゆっくりと散歩するかのように歩いてきます。
1歩、2歩、3歩…………やがて、距離がなくなります。
その間、私の体は凍り付いたかのように動けなくなり、寒さに震えるように振動します。
「さぁ、これを……いや、どこかで見たことがあるな。君は……」
「っ!?」
顎を捕まられとあげられて顔を確認されます。
息ができないほどの血の臭いが鼻につき、吐き気がします。
思わず、スマホを落としてしまいました。
「ああ、なるほど。その格好はうちの生徒か……ん? いや待てよ。私がそんなことを覚えていることはないよな……」
ブツブツと何か言っています。その言葉の意味が分かりません。
死にたくない。でも、恐怖が私を動かしてくれません。
じっくりと顔を観察され、殺人鬼は笑顔で答えました。
「そうだ! 思い出した! 今日から賞金首になった暁(あかつき)。そう、暁 優奈(ゆな)じゃないか……はぁ、残念だ。君はついていないね」
「いたっ!」
ブンッと私は死体の傍に放り投げられます。
泥まみれになった私は、口の中まで入った泥を吐き出します。
「さて、お嬢さん。君を殺す理由ができたし死んでもらうよ」
その言葉を聞いて見上げたらすでに殺人鬼は日本刀を抜き放ちます。
内側のポケットに手を突っ込むと中から紫色の宝石を取り出して、握りしめました。
「【ポイズン】。本日二度目だがよろしく頼むよ」
『あいよーっ! 旦那!!』
その言葉は宝石に向かってしゃべり、快活な男のような声が宝石にそれに答えたように聞こえます。
瞬間、日本刀の刃に紫色の衣が纏われます。
禍々しく毒々しい雰囲気を感じ、暗闇の中でもはっきりと見えてしまいます。
「君に……安らかな眠りがあらんことを」
大きく振りかぶった日本刀が私に襲い掛かってきます。
襲い掛かる凶器に一瞬だけ、見惚れて他人事のように思えます。
(そういえば、こういうとき走馬燈を見るんだっけ?)
スローモーションの中で思い出すのは懐かしい日々。
生まれて親の手の中で生まれた温もり。一緒に公園で遊んだ懐かしい友達。
明日、一緒にタピオカ飲む約束した思い出。そして……死んでしまった許婚との思い出。
幸せでした。幸せでした…………嫌だ。
まだ、親孝行していません。まだ、将来の夢だって叶えてません。
まだ、タピオカの約束を果たしていません。幸せになるって死んだ許婚との約束も果たしていません!
心残りがあります。やりたいことがまだまだあります。
(こんな、こんな理不尽な死に方はいやです!!)
そんなことを思っても襲い掛かる刃は止まりません。
そして、刃は視界から消えて、終わったと思ったその時でした。
「燃え、裂けて、力を貸して! ワイヴァーン!!」
ガキンと何かが私を切り裂くはずの刀を弾きます。
「なにっ!?」
殺人鬼の驚愕の声が聞こえる。
切り裂かれるはずの肩から一瞬だけ火花が舞い散った。
刃物で切り裂かれる痛みはなく、誰かの腕が私の肩に乗っている。
視界の隅に映るそれは赤い……血とは違う深紅の手甲です。手を刃から守るために戦国時代の武士がつけていたもので私は守られた。
「まだ生きてるとは……驚きだよ」
「…………」
振り返ることはできない。誰が助けてくれたのかわからない。
でも、多分だけど……あの、倒れていた人が助けてくれた?
「やっぱり君には光るものがあるね……殺すのはもったいない。やはり、僕のコレクションに」
「逃げるよ!」
「えっ、あっ! はい!」
そのまま右手を掴まれて逃げます。
ボチャボチャと足場の悪くてこけそうになる度に引っ張ってくれます。
その間、殺人鬼は何をしているかというと――。
「いいね。鬼ごっこだ。10秒だけ待ってあげるよ」
その言葉を私たちに聞こえるように言い、数を数え始めました。
そこまでされると察しが悪い私でも今がチャンスだとわかる。
今の内にどこまで逃げ切れるのか勝負だ。
でも、今のままだと農地を抜けることすら――――。
「捕まって!」
「へっ?」
足を止め、突然お姫様抱っこで担がれてしまう。
その際、この人の顔を見ると血まみれですが……どこかで会った気がします。
「しっかり捕まってろ。跳ぶぞ」
「あ、はい……って、きゃぁぁぁ!?」
浮遊感……いえ、自分が跳んでいるという感覚を何十倍にも引き上げた未知の感覚に襲われる。
重力に逆らい、地面と別れた私たちはビル3階分ぐらい跳躍しています。
「くっ、くくっ、ははははっはははっ!! これはいい! 君のことは覚えたよ。竜騎士(ドラグーン)!!」
殺人鬼は1人、逃げられたという事実を笑っています。
先ほどまでの科学者の顔はなく、そこには新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりの笑顔で刀をしまいます。
どんどん殺人鬼の姿は小さくなり、私たちは私の知らない都内の公園に降り立ちました。
「逃げ、切れたな」
「は、はい。ありがとうございます」
下ろされてベンチに座らされます。
頭をなでられ、肩、腕、腰、足をまんべんなく触られると竜騎士(ドラグーン)と呼ばれた人は安堵(あんど)のため息をつきました。
そこで気づきました。この人……紅に染まる髪や燃え盛るような赤い目、姿形はだいぶ違うけど誰か、何か引っかかるものを感じます。
「無事で、よかった」
「ありがとう、ございます。あの、あなたは?」
助けられて、こんなことを聞く資格はないかもしれません。
だけど、どうしても私は気になります。
「僕は……三日月(みかづき) 雄二(ゆうじ)。優奈ちゃん、守りに来たよ」
月明かりが彼の顔を照らし出されたその顔は……かつて幼い頃に死んでしまった許婚にそっくりでした。
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