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第2章 Kingdom of the Demon
第36話 復讐の魔獣
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【王都グランドリオン 城内】
アダンルエムの中にも、憎悪に身を焦がす者がいた。憎しみに心を支配された少年の姿は、もはや魔獣そのものだった。
魔獣となった少年、トームはオスカーやクレア、そしてヴァンスとの思い出を振り返っていた。
…………
トームは人間だった頃、貧しい家庭で暮らしていた。王国からの容赦ない搾取に身も心も疲弊し切った両親は、それでもトームを愛し、優しく育ててくれていた。
ある日、税金を払えなかった両親は、トームの目の前で容赦なく殺された。笑いながら両親を殺す騎士の姿は、悪魔以外の何者でもなかった。
それからしばらく、ろくな食事も食べていなかったトームの命の炎は、消え掛かっていた。
ある日そんな彼は運命の出会いを果たした。搾取をする騎士の頭を拳で破壊し、胸にある少女の放つ光線で騎士を貫いたアダン。
その異形な姿を見た彼は思った。
(なんてカッコいいんだ)
アダンはトームにとって、正義のヒーローだった。そのままトームは革命軍について行った。まだ子供の彼は、オスカーやクレアに可愛がられ、食事も与えられた。
「小僧、騎士の家に肉があったぞ!俺が焼いてやる!」
「え、いいの?勝手に取って…」
「ははは、いいんだよ!この肉も俺たちから搾取した金で買ったんだ、つまり、これは俺たちの物だろ!?」
「そ…そうなのかな?」
「そうだよ!」
オスカーが焼いた肉をトームに渡した。
「ほら、食え」
トームはその時の肉の味と、オスカーの笑顔を一生忘れる事はない。
「うぅ…美味い、美味いよおじさん…」
トームは泣きながらその肉を食べた。
クレアも、トームに優しく接してくれた。
「これからは困った事は何でも相談してね」
「ありがとう、クレアおばさん…」
トームにとって、クレアは第二の母親のような存在であった。
やがて自分も、みんなの為に力になりたいと、アダンに自らをモンスターにするように頼んだ。
トームはその後、街で出会ったクールでカッコいいヴァイスと、いつか友達になれる未来を夢見ていた。
…………
オスカーを殺した女を、ヴァンスを切り裂いた女を、そしてクレアを貫いた男を。
奴らは必ず自らの手で殺すと誓い、トームは単独で3人を探していた。
この日もトームは、大好きな人達の仇を討つために、街を散策する…
【王都グランドリオン 西区】
クロス達は王都に到着した。
「着いたぞ」
「ありがとうございました」
「じゃあな」
馬車の運転手は帰って行った。クロス達は騎士団とは違い、何日も待機させられるような資金は持ち合わせていない。
ジャンとエリスは辺りを見回す。
「モンスターばっかじゃねぇか」
「それも死霊モンスター、中には怨霊もいるわ」
その時、死霊モンスターが迫って来た。
「来るぞ!」
身構えるクロス達。
「うわ、いきなり何だよ!物騒だなぁ」
「え?」
死霊モンスターは普通に話しかけてきた。
「あ、君たち他の街の人か?俺らをみて驚くのも無理はないか」
マリーがモンスターに尋ねる。
「あ…あの、どういうことだすか?」
「あぁ、魔王様が憎き王を倒してくれたんだ。もう横暴な搾取や暴力に怯える必要はないんだ!」
「え、王が倒されたって…フローレンスは!?」
アニサが取り乱しながら話に入った。
「フローレンス?誰だいそれは…」
「コイツら、王国騎士の仲間なんじゃないのか?」
「あの、私たち旅行に来たのですが、友人と逸れてしまって。その友人の名前がフローレンスなんです」
エリスは全く動揺する素振りもなく、完璧に嘘をつく。
「そうだったのか、この街は救世主たる魔王様率いる革命軍と、邪悪な王と騎士達による大きな戦いがあったばかりなんだ」
「友達…巻き込まれてなければいいな」
「特徴を教えてくれれば、探すよ?」
街の人々の半分以上がモンスターだが、人間のままの人達もいる。なんの違和感もなくモンスターに混じってクロス達を心配してくれた。
「赤い髪で、私達と同い年の女の子です」
「そうか…見たか?」
「いや、見かけたら教えるよ」
クロス達にとって、親切なモンスター達の姿は不思議だった。
「しかしエリス、大したもんだな」
「脳筋くんとは一緒にしないでね」
エリスの堂々とした立ち振る舞いにより、クロス達は事なきを得た。そんなクロス達に2人の男が近づいて来た。
「おい、お前ら。さっきフローレンスと言ったな?」
「あなた達は?」
「俺はヴィルマ、こっちはガイア。フローレンスとサンライズシティからここに来た騎士だ…ここでは話しづらい、場所を変えよう」
ヴィルマとガイアに案内され、クロス達5人は一軒の家の中に入った。
「ここは俺の実家だ。オヤジもお袋も見当たらないがな…」
5人はヴィルマから先日の戦闘について聞いた。この街が魔王の手に落ちた事、フローレンスとは別行動だった事、そして街の人々は自我をもっているが、騎士だった者のほとんどは自我のないモンスターにされた事を。
この時、ヴィルマ達も知らなかった事だが、アダンが自我を消して彷徨う亡霊に変えたのは、邪悪な騎士のみで、ヴァイスやメイザーのように正しい心を持つものは、敵だろうと分かり合える可能性を信じて自我を残していた。
「クロス君達のレベルではこの街は危険だ。フローレンスを探すなら俺たちも同行する」
「ありがとうございます」
こうして、クロス達5人に、ヴィルマとガイアが加わり、7人でのフローレンス捜索がはじまった。
【王都グランドリオン 郊外】
トームは郊外を探していた。そこでメイザーと別れたガンドロフと遭遇した。
「ん?魔獣…!?」
「ミンナノ…カタキ…ボクガ、ウツ!!」
「お前まさか、トーム…なのか?」
「ヴォオオオオオオ!!!」
トームの姿は完全に魔獣となっていた。彼の頬を濡らすのは、降り注ぐ雨か悲しみの涙か…
※魔獣トーム
アダンルエムの中にも、憎悪に身を焦がす者がいた。憎しみに心を支配された少年の姿は、もはや魔獣そのものだった。
魔獣となった少年、トームはオスカーやクレア、そしてヴァンスとの思い出を振り返っていた。
…………
トームは人間だった頃、貧しい家庭で暮らしていた。王国からの容赦ない搾取に身も心も疲弊し切った両親は、それでもトームを愛し、優しく育ててくれていた。
ある日、税金を払えなかった両親は、トームの目の前で容赦なく殺された。笑いながら両親を殺す騎士の姿は、悪魔以外の何者でもなかった。
それからしばらく、ろくな食事も食べていなかったトームの命の炎は、消え掛かっていた。
ある日そんな彼は運命の出会いを果たした。搾取をする騎士の頭を拳で破壊し、胸にある少女の放つ光線で騎士を貫いたアダン。
その異形な姿を見た彼は思った。
(なんてカッコいいんだ)
アダンはトームにとって、正義のヒーローだった。そのままトームは革命軍について行った。まだ子供の彼は、オスカーやクレアに可愛がられ、食事も与えられた。
「小僧、騎士の家に肉があったぞ!俺が焼いてやる!」
「え、いいの?勝手に取って…」
「ははは、いいんだよ!この肉も俺たちから搾取した金で買ったんだ、つまり、これは俺たちの物だろ!?」
「そ…そうなのかな?」
「そうだよ!」
オスカーが焼いた肉をトームに渡した。
「ほら、食え」
トームはその時の肉の味と、オスカーの笑顔を一生忘れる事はない。
「うぅ…美味い、美味いよおじさん…」
トームは泣きながらその肉を食べた。
クレアも、トームに優しく接してくれた。
「これからは困った事は何でも相談してね」
「ありがとう、クレアおばさん…」
トームにとって、クレアは第二の母親のような存在であった。
やがて自分も、みんなの為に力になりたいと、アダンに自らをモンスターにするように頼んだ。
トームはその後、街で出会ったクールでカッコいいヴァイスと、いつか友達になれる未来を夢見ていた。
…………
オスカーを殺した女を、ヴァンスを切り裂いた女を、そしてクレアを貫いた男を。
奴らは必ず自らの手で殺すと誓い、トームは単独で3人を探していた。
この日もトームは、大好きな人達の仇を討つために、街を散策する…
【王都グランドリオン 西区】
クロス達は王都に到着した。
「着いたぞ」
「ありがとうございました」
「じゃあな」
馬車の運転手は帰って行った。クロス達は騎士団とは違い、何日も待機させられるような資金は持ち合わせていない。
ジャンとエリスは辺りを見回す。
「モンスターばっかじゃねぇか」
「それも死霊モンスター、中には怨霊もいるわ」
その時、死霊モンスターが迫って来た。
「来るぞ!」
身構えるクロス達。
「うわ、いきなり何だよ!物騒だなぁ」
「え?」
死霊モンスターは普通に話しかけてきた。
「あ、君たち他の街の人か?俺らをみて驚くのも無理はないか」
マリーがモンスターに尋ねる。
「あ…あの、どういうことだすか?」
「あぁ、魔王様が憎き王を倒してくれたんだ。もう横暴な搾取や暴力に怯える必要はないんだ!」
「え、王が倒されたって…フローレンスは!?」
アニサが取り乱しながら話に入った。
「フローレンス?誰だいそれは…」
「コイツら、王国騎士の仲間なんじゃないのか?」
「あの、私たち旅行に来たのですが、友人と逸れてしまって。その友人の名前がフローレンスなんです」
エリスは全く動揺する素振りもなく、完璧に嘘をつく。
「そうだったのか、この街は救世主たる魔王様率いる革命軍と、邪悪な王と騎士達による大きな戦いがあったばかりなんだ」
「友達…巻き込まれてなければいいな」
「特徴を教えてくれれば、探すよ?」
街の人々の半分以上がモンスターだが、人間のままの人達もいる。なんの違和感もなくモンスターに混じってクロス達を心配してくれた。
「赤い髪で、私達と同い年の女の子です」
「そうか…見たか?」
「いや、見かけたら教えるよ」
クロス達にとって、親切なモンスター達の姿は不思議だった。
「しかしエリス、大したもんだな」
「脳筋くんとは一緒にしないでね」
エリスの堂々とした立ち振る舞いにより、クロス達は事なきを得た。そんなクロス達に2人の男が近づいて来た。
「おい、お前ら。さっきフローレンスと言ったな?」
「あなた達は?」
「俺はヴィルマ、こっちはガイア。フローレンスとサンライズシティからここに来た騎士だ…ここでは話しづらい、場所を変えよう」
ヴィルマとガイアに案内され、クロス達5人は一軒の家の中に入った。
「ここは俺の実家だ。オヤジもお袋も見当たらないがな…」
5人はヴィルマから先日の戦闘について聞いた。この街が魔王の手に落ちた事、フローレンスとは別行動だった事、そして街の人々は自我をもっているが、騎士だった者のほとんどは自我のないモンスターにされた事を。
この時、ヴィルマ達も知らなかった事だが、アダンが自我を消して彷徨う亡霊に変えたのは、邪悪な騎士のみで、ヴァイスやメイザーのように正しい心を持つものは、敵だろうと分かり合える可能性を信じて自我を残していた。
「クロス君達のレベルではこの街は危険だ。フローレンスを探すなら俺たちも同行する」
「ありがとうございます」
こうして、クロス達5人に、ヴィルマとガイアが加わり、7人でのフローレンス捜索がはじまった。
【王都グランドリオン 郊外】
トームは郊外を探していた。そこでメイザーと別れたガンドロフと遭遇した。
「ん?魔獣…!?」
「ミンナノ…カタキ…ボクガ、ウツ!!」
「お前まさか、トーム…なのか?」
「ヴォオオオオオオ!!!」
トームの姿は完全に魔獣となっていた。彼の頬を濡らすのは、降り注ぐ雨か悲しみの涙か…
※魔獣トーム
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第3章は4月3日から、平日AM6:00に更新!ご愛読ありがとうございます(^^) これからも誠心誠意、全身全霊で執筆を続けていきます!
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