ニトナラ《ニート、奈落に挑む》

teikao

文字の大きさ
上 下
36 / 50
第2章 Kingdom of the Demon

第36話 復讐の魔獣

しおりを挟む
【王都グランドリオン 城内】
 アダンルエムの中にも、憎悪に身を焦がす者がいた。憎しみに心を支配された少年の姿は、もはや魔獣そのものだった。
 魔獣となった少年、トームはオスカーやクレア、そしてヴァンスとの思い出を振り返っていた。

 …………

 トームは人間だった頃、貧しい家庭で暮らしていた。王国からの容赦ない搾取に身も心も疲弊し切った両親は、それでもトームを愛し、優しく育ててくれていた。
 ある日、税金を払えなかった両親は、トームの目の前で容赦なく殺された。笑いながら両親を殺す騎士の姿は、悪魔以外の何者でもなかった。
 それからしばらく、ろくな食事も食べていなかったトームの命の炎は、消え掛かっていた。
 ある日そんな彼は運命の出会いを果たした。搾取をする騎士の頭を拳で破壊し、胸にある少女の放つ光線で騎士を貫いたアダン。
 その異形な姿を見た彼は思った。

(なんてカッコいいんだ)

 アダンはトームにとって、正義のヒーローだった。そのままトームは革命軍について行った。まだ子供の彼は、オスカーやクレアに可愛がられ、食事も与えられた。

「小僧、騎士の家に肉があったぞ!俺が焼いてやる!」
「え、いいの?勝手に取って…」
「ははは、いいんだよ!この肉も俺たちから搾取した金で買ったんだ、つまり、これは俺たちの物だろ!?」
「そ…そうなのかな?」
「そうだよ!」

 オスカーが焼いた肉をトームに渡した。

「ほら、食え」

 トームはその時の肉の味と、オスカーの笑顔を一生忘れる事はない。

「うぅ…美味い、美味いよおじさん…」

 トームは泣きながらその肉を食べた。

 クレアも、トームに優しく接してくれた。

「これからは困った事は何でも相談してね」
「ありがとう、クレアおばさん…」

 トームにとって、クレアは第二の母親のような存在であった。

 やがて自分も、みんなの為に力になりたいと、アダンに自らをモンスターにするように頼んだ。

 トームはその後、街で出会ったクールでカッコいいヴァイスと、いつか友達になれる未来を夢見ていた。

…………

 オスカーを殺した女を、ヴァンスを切り裂いた女を、そしてクレアを貫いた男を。
 奴らは必ず自らの手で殺すと誓い、トームは単独で3人を探していた。
 この日もトームは、大好きな人達の仇を討つために、街を散策する…

【王都グランドリオン 西区】
 クロス達は王都に到着した。

「着いたぞ」
「ありがとうございました」
「じゃあな」

 馬車の運転手は帰って行った。クロス達は騎士団とは違い、何日も待機させられるような資金は持ち合わせていない。
 ジャンとエリスは辺りを見回す。

「モンスターばっかじゃねぇか」
「それも死霊モンスター、中には怨霊もいるわ」

 その時、死霊モンスターが迫って来た。

「来るぞ!」

 身構えるクロス達。

「うわ、いきなり何だよ!物騒だなぁ」
「え?」

 死霊モンスターは普通に話しかけてきた。

「あ、君たち他の街の人か?俺らをみて驚くのも無理はないか」

 マリーがモンスターに尋ねる。

「あ…あの、どういうことだすか?」
「あぁ、魔王様が憎き王を倒してくれたんだ。もう横暴な搾取や暴力に怯える必要はないんだ!」
「え、王が倒されたって…フローレンスは!?」

 アニサが取り乱しながら話に入った。

「フローレンス?誰だいそれは…」
「コイツら、王国騎士の仲間なんじゃないのか?」
「あの、私たち旅行に来たのですが、友人と逸れてしまって。その友人の名前がフローレンスなんです」

 エリスは全く動揺する素振りもなく、完璧に嘘をつく。

「そうだったのか、この街は救世主たる魔王様率いる革命軍と、邪悪な王と騎士達による大きな戦いがあったばかりなんだ」
「友達…巻き込まれてなければいいな」
「特徴を教えてくれれば、探すよ?」

 街の人々の半分以上がモンスターだが、人間のままの人達もいる。なんの違和感もなくモンスターに混じってクロス達を心配してくれた。

「赤い髪で、私達と同い年の女の子です」
「そうか…見たか?」
「いや、見かけたら教えるよ」

 クロス達にとって、親切なモンスター達の姿は不思議だった。

「しかしエリス、大したもんだな」
「脳筋くんとは一緒にしないでね」

 エリスの堂々とした立ち振る舞いにより、クロス達は事なきを得た。そんなクロス達に2人の男が近づいて来た。

「おい、お前ら。さっきフローレンスと言ったな?」
「あなた達は?」
「俺はヴィルマ、こっちはガイア。フローレンスとサンライズシティからここに来た騎士だ…ここでは話しづらい、場所を変えよう」

 ヴィルマとガイアに案内され、クロス達5人は一軒の家の中に入った。

「ここは俺の実家だ。オヤジもお袋も見当たらないがな…」

 5人はヴィルマから先日の戦闘について聞いた。この街が魔王の手に落ちた事、フローレンスとは別行動だった事、そして街の人々は自我をもっているが、騎士だった者のほとんどは自我のないモンスターにされた事を。
 この時、ヴィルマ達も知らなかった事だが、アダンが自我を消して彷徨う亡霊に変えたのは、邪悪な騎士のみで、ヴァイスやメイザーのように正しい心を持つものは、敵だろうと分かり合える可能性を信じて自我を残していた。

「クロス君達のレベルではこの街は危険だ。フローレンスを探すなら俺たちも同行する」
「ありがとうございます」

 こうして、クロス達5人に、ヴィルマとガイアが加わり、7人でのフローレンス捜索がはじまった。

【王都グランドリオン 郊外】
 トームは郊外を探していた。そこでメイザーと別れたガンドロフと遭遇した。

「ん?魔獣…!?」
「ミンナノ…カタキ…ボクガ、ウツ!!」
「お前まさか、トーム…なのか?」
「ヴォオオオオオオ!!!」

 トームの姿は完全に魔獣となっていた。彼の頬を濡らすのは、降り注ぐ雨か悲しみの涙か…


※魔獣トーム

しおりを挟む
第3章は4月3日から、平日AM6:00に更新!ご愛読ありがとうございます(^^) これからも誠心誠意、全身全霊で執筆を続けていきます!
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...