レベル596の鍛冶見習い

寺尾友希(田崎幻望)

文字の大きさ
上 下
131 / 133
番外編5

鍛冶見習い ゼロ 北の街から2

しおりを挟む
前回のあらすじ・ノア達は水竜に会うため北限の街にやって来たが、そこではシーサーペイントが座礁していて……
◇◇◇


「スベェトラーナ様ー! 人間とは話が付きましたかー?」

「おお、みなご苦労! この三人が尽力してくれてな、石頭の町長を難なく説得してくれた!」

「それはそれは、お世話をおかけしました」

 シーサーペイントの周りには、スーナさんの仲間らしい人達が五人いた。
 シーサーペイントの体が乾かないよう、水魔法で水をかけ続けていたらしい。

此方こなたがいくら言っても平行線だったのに、こちらのリリ殿が説得したらたったの三分だったんだ! ……本当に凄いな君たちは」 

「うん、まあ、オイラは何もしてないし、リリィのおかげだよね。それとギルド長さん?」

「いえいえ、私などはほんのオマケで」

 褒められて照れ臭そうに視線をさまよわせたリリィが、ふとシーサーペイントに目を止め、真顔になった。

「あのシーサーペイント達、まだ陸を目指してる?」

「そうなんだ。何か理由があるはずだと、此方こなたはずっと言っていただろう? シーサーペイントは海中ではほぼ無敵だが、ひとたび陸地に上がれば、皮膚は陽光に火傷し、内臓は自重に耐えきれず、誰に攻撃されずともいずれ自滅してしまう。それなのに、この子達は盲目的に陸地を目指している。リリ殿の方法で海中に戻しても、このままでは再び浜に戻ってしまうだろう」

「シーサーペイントと話が通じたらいいんだけど、ちょっと無理だよねぇ」

 いっそシーサーペイントじゃなくて水竜だったら話が出来たところだけど、水竜が人里近くの浜で座礁し暴れたりしたら、もっと大ごとになっていただろう。

「会話するまでは無理だが、此方達は昔からシーサーペイントの研究をしていてな、幾つか分かっていることがある。鯨やシーサーペイント達は、人間には聞こえない低い音でお互いに会話をしているんだ。そのため、その音域を大きく乱すような何かがあると、混乱し、体内のリズムが崩れ、窒素濃度が上昇し――酷いときには神経系にダメージを負うまで至る。ストランディングの4割は、音が原因だと言われているんだ」

「音……音って、風の仲間だよね?」

 リリィに目をやると、コクリと頷いてから翼を広げた。
 すぼめた唇から、鈴がこぼれ落ちるような曲が流れた。
 翼に共鳴し、空気を震わせ、目には見えないはずの風の波が踊るように円を描き広がってゆく。

「ほぅ……美しいな」

 目を細めたスーナさんがうっとりと聞き惚れ、スーナさんの仲間達も目をつむって聞き入った。

「ノア、色々な音域の音を拾ってみたけれど、そこにいるシーサーペイントの声に近いものはなかった」

「そうか、ありがとうリリィ。それじゃ空気じゃないのかもしれない。シーサーペイントは海の中にいるし、水を伝わってくる音なのかも」

「待て少年。異議がある。水を伝わる音ならば、シーサーペイント達が陸を目指しているのは理解不能だ」

「確かに」

 空気でも、水でもない場所を伝わる音。
 となると……

「イキナリ、何を踊り出したんだ、少年?」

「オイラはノアだよ。これはね、友だちに教えてもらったステップで、土の妖精を呼ぶノックなんだって」

 トン、タ、トン、トトトントン、トン、タ、トン、トトトントンと繰り返していると、スーナさんがプハッと笑った。

「空気でも水でもないなら、土というわけか? 確かに土も振動を伝える。目の付け所は良いと思うが、妖精というものは人の前には現われぬものだ。誰に教わったか知らぬが、そんな踊りで妖精がおびき出されたりは……」

『よぉ、ノア坊!』

「あ、リール! 久しぶりーっ」

 ひょこり、と地面から顔を出した土の妖精ノッカーに、スーナさんが思わずずっこける。

「な、なななな」

『なんだよ、こんなとこまで来てたのかよ! あんときゃ随分世話になったなぁ』

 以前、友だちのノッカー、ラウルに頼まれて、蜂の獣人に襲われたダンジョンを防衛したことがある。その時、蜂の獣人達も住処すみかが欲しいだけだと分かって和解したわけなんだけれど、今まで別の蜂の獣人達に襲われて滅んだと思われていたダンジョンでも、ノッカー達は生き残っているんじゃないか、話し合いで解放させられるんじゃないかという話になった。
 その、解放されたノッカーの第一号が、このリール達だ。
 仮死状態になっていたおかげで年も取らず、捕まっていた間に蜂の獣人達は世代交代をして、蜜蝋で固めたノッカー達を代々神の使者として崇めていたので、なんだか毒気をぬかれたようですんなりと和解した。
 
「あのさ、久しぶりに会ったのに突然悪いんだけど、最近、土の中で重低音っていうか、低くて響く音ってしてない?」

『ああ、もちろんしてるぜ。やっかましいよな。ほら、あれだ、人間が言う――そう、『夕闇谷』って元魔物の領域で、人間達がでっかい魔道具で穴ぁ掘ってんだよ』
 
 あっさりと答えたリールに、オイラ達は顔を見合わせた。
 驚いているオイラ達の中、一人だけギルド長がそっと視線をずらした。

「モントロス?」

「わ、私は何も知らないでゲスよ」

「そんな口調じゃなかっただろう、ギルド長! 何か知っているなら素直に白状したほうが身のためだぞ」

 ギルド長の目線が左に流れ、リリィのジト目に跳ね返されて右に流れ、スーナさんに睨まれて揺れた。

「ほ、本当に私は聞いただけで、何か出来る立場にはないんです、それは分かってください。『夕闇谷』で魔獣大暴走スタンピードが起こって、『夕闇谷』にいた魔獣達が一匹残らずいなくなったという話はご存じで?」

「うん、まぁ」

 リリィとオイラは当事者だったけれど、公には秘密なので中途半端な笑みが浮かぶ。

「元々『夕闇谷』には魔水晶の鉱脈があるという昔話がありまして、魔獣がいなくなった今がチャンスだと、デントコーン王国の、王都一だと評判の魔道具屋に大型魔道具を発注し、先月から掘り始めた、デントコーン王国からも王族が来てかなり大がかりな発掘調査だと――つい昨日、そっち方面から流れてきた冒険者に聞いたところでして、はい」

 オイラとリリィは再び顔を見合わせた。
 それから、こそっと囁きかわす。

「そうだよ、そういえばそもそもそんな話してたよね」

「魔獣がいないなら魔水晶の鉱脈を探そうと、調査団が入って行方不明になったのがきっかけだった」

「スタンピードを『無限の荒野』に引っ張ってって、それ以降は忘れちゃってたけど」

「スタンピードが解決したなら、もう一度調査しないはずがない」

「王都一の魔道具屋って」

「間違いなく、ミミ」

「デントコーン王国から来た王族って」

「多分、カウラ。トンネルの魔道具がどうの、地盤調査がどうのって、ダンジョンのときにノッカーと話してた」
 
 ひそひそと顔を寄せ合って話していると、スーナさんの仲間達に囲まれたギルド長の悲鳴が聞こえた。

「でっ、ですからっ、私は一地方の冒険者ギルドの責任者に過ぎないわけでっ、国の施策に口を出したり、ました他国の大国の王族に意見出来る立場にはないのですっ」

「あー、スーナさんスーナさん」

「何かな少年」

「だからオイラはノアだって。そっちの魔道具とデントコーン王国の王族に関しては、オイラ達のほうでなんとかなるから」

「は?」

 不可解そうに振り向いたスーナさんの前で、リリィに手を向けると。

「デントコーン王国の王都一の魔道具士は、リリの妹」

「はぁ?」

「デントコーン王国から来た第二王子、アリスフォード・カウラ・デントコーンって、オイラの従姉妹」

「はぁあ?」

 スーラさん達の目が点になった。


しおりを挟む
感想 658

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。