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番外編1
鍛冶見習い番外編・ひな祭り特別SS
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電子書籍の特別付録として書いていたSSですが、販売延期になって季節に合わなくなったためこちらで公開します。一巻用の付録として書いたものですので、時間軸的には、一巻らへんになります。セバスチャンさんが、エスティの伴侶が見つからない、と苦慮していて、エスティがセバスチャンさんに片想いしていたらへんです。
「ふむ、これはなんじゃ?」
今日は三月四日。
オイラと一緒にテリテおばさんのうちにやって来たエスティが、首をひねった。
エスティの前には、緋毛氈の上に、色とりどりの人形たちが並んでいる。
「これはね、お雛様ってんだよ。
娘の健やかな成長を願って、シャリテが産まれたときに、じーさんばーさんが買ってくれたもんでね。
お雛様ってのは、子どもを守ってくれるとも、身代わりになってくれる、とも言うんだ」
シャリテ姉ちゃんのお雛様は、三段飾りでピンクの桜柄の可愛いものだ。
ぼんぼりも金屛風も、全て桜で統一されている。
テリテおばさんは細かい作業が苦手で、毎年オイラが仕舞う手伝いに呼ばれる。
ちなみに飾ったのもオイラだ。おかげで、三人官女の持ち物から五人囃子の楽器まで、すっかり暗記できてしまった。
え?なんで三段飾りに五人囃子がいるのかって?
「そこの雛飾りがシャリテのものだというのは分かったが……多くはないか?」
エスティが目をやった三段飾りの横には、少し年季の入った五段飾り、さらに隣にはもっと年季の入った七段飾りが並んでいる。
もっと奥には、藤娘や市松人形もあった。
「ああ、あたしもおっかさんも婿取りだったからねぇ。
そのまま捨てられずに毎年飾っているのさ」
テリテおばさんの、雛人形を見る目は優しい。
雛人形を見るたびに、もう亡くなってしまったお母さんやおばあさんを思い出すのだ、と前に言っていた。
大切すぎて触れない。
女の子なら誰しも、ままごと遊びに持ち出してなくしてしまうらしい人形の冠や雛道具がそっくり残っているのも、代々、壊しそうでろくに触れなかったためらしい。
……テリテおばさんの小さいころ。
想像したくないような、想像つくような。
「綺麗なものじゃのぉ。
……そういえば、セバス、我には『お雛様』とやらはないのか?
我も立派な、『女の子』じゃと思うがの」
エスティが後ろに控えていたセバスチャンさんに尋ねると、セバスチャンさんには珍しく、一回固まってから恭しく微笑んだ。
「このような人形ではございませんが。
お嬢さまがお生まれになった折に、お母上が、最高級の鳩の血色の魔水晶でもって、身代わりの形代を作られておりました」
お雛様がない、と言うとエスティが拗ねるだろうと思って、なんとか無難な回答をひねり出した感がある。
うん、ありがとうセバスチャンさん。
怒るより泣くより、拗ねたエスティが一番めんどくさい。
「おお、あれか。我の玉座にある」
「さようでございます」
二人のやり取りに、テリテおばさんがからかうように笑った。
「玉座にあるってことは、ひょっとして飾りっぱなしかい?
いいのかい、お雛様ってのは、仕舞うのが遅くなると、婚期も遅くなるんだよ?」
「「えぇぇぇっ!?」」
その言葉に、お雛様を見ていたエスティとセバスチャンさんが、オイラたちがビックリするような形相で振り返った。
「そっ、そっ、それはまことか!?」
「真実なのでございますかっ、テリテどのっ!?」
物凄い勢いで詰め寄られて、さすがのテリテおばさんもたじたじとなる。
「いっ、いや、昔からそう言われてるってだけで、真実かって言われると、ちょっと……」
「昔から伝わることには、何かしらのいわれがあるものでございます、お嬢さま」
「そうじゃの、セバス」
顔を見合わせて頷くと、二人は凄まじい勢いで外へと飛び出し、走り去って行った。
あー、エスティ、早く結婚出来るといいのにね。
「ふむ、これはなんじゃ?」
今日は三月四日。
オイラと一緒にテリテおばさんのうちにやって来たエスティが、首をひねった。
エスティの前には、緋毛氈の上に、色とりどりの人形たちが並んでいる。
「これはね、お雛様ってんだよ。
娘の健やかな成長を願って、シャリテが産まれたときに、じーさんばーさんが買ってくれたもんでね。
お雛様ってのは、子どもを守ってくれるとも、身代わりになってくれる、とも言うんだ」
シャリテ姉ちゃんのお雛様は、三段飾りでピンクの桜柄の可愛いものだ。
ぼんぼりも金屛風も、全て桜で統一されている。
テリテおばさんは細かい作業が苦手で、毎年オイラが仕舞う手伝いに呼ばれる。
ちなみに飾ったのもオイラだ。おかげで、三人官女の持ち物から五人囃子の楽器まで、すっかり暗記できてしまった。
え?なんで三段飾りに五人囃子がいるのかって?
「そこの雛飾りがシャリテのものだというのは分かったが……多くはないか?」
エスティが目をやった三段飾りの横には、少し年季の入った五段飾り、さらに隣にはもっと年季の入った七段飾りが並んでいる。
もっと奥には、藤娘や市松人形もあった。
「ああ、あたしもおっかさんも婿取りだったからねぇ。
そのまま捨てられずに毎年飾っているのさ」
テリテおばさんの、雛人形を見る目は優しい。
雛人形を見るたびに、もう亡くなってしまったお母さんやおばあさんを思い出すのだ、と前に言っていた。
大切すぎて触れない。
女の子なら誰しも、ままごと遊びに持ち出してなくしてしまうらしい人形の冠や雛道具がそっくり残っているのも、代々、壊しそうでろくに触れなかったためらしい。
……テリテおばさんの小さいころ。
想像したくないような、想像つくような。
「綺麗なものじゃのぉ。
……そういえば、セバス、我には『お雛様』とやらはないのか?
我も立派な、『女の子』じゃと思うがの」
エスティが後ろに控えていたセバスチャンさんに尋ねると、セバスチャンさんには珍しく、一回固まってから恭しく微笑んだ。
「このような人形ではございませんが。
お嬢さまがお生まれになった折に、お母上が、最高級の鳩の血色の魔水晶でもって、身代わりの形代を作られておりました」
お雛様がない、と言うとエスティが拗ねるだろうと思って、なんとか無難な回答をひねり出した感がある。
うん、ありがとうセバスチャンさん。
怒るより泣くより、拗ねたエスティが一番めんどくさい。
「おお、あれか。我の玉座にある」
「さようでございます」
二人のやり取りに、テリテおばさんがからかうように笑った。
「玉座にあるってことは、ひょっとして飾りっぱなしかい?
いいのかい、お雛様ってのは、仕舞うのが遅くなると、婚期も遅くなるんだよ?」
「「えぇぇぇっ!?」」
その言葉に、お雛様を見ていたエスティとセバスチャンさんが、オイラたちがビックリするような形相で振り返った。
「そっ、そっ、それはまことか!?」
「真実なのでございますかっ、テリテどのっ!?」
物凄い勢いで詰め寄られて、さすがのテリテおばさんもたじたじとなる。
「いっ、いや、昔からそう言われてるってだけで、真実かって言われると、ちょっと……」
「昔から伝わることには、何かしらのいわれがあるものでございます、お嬢さま」
「そうじゃの、セバス」
顔を見合わせて頷くと、二人は凄まじい勢いで外へと飛び出し、走り去って行った。
あー、エスティ、早く結婚出来るといいのにね。
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