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連載
ウェブ版 鍛冶見習い97・『霧の森』のダンジョン
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前回のあらすじ・テリテおばさんになついた虎が仲間になった
「うーん、まあ、当たり」
「信じられないっ。
ただでさえ、この霧でドレスが濡れて気持ち悪いったらないのに!
ノアに抱えられてばっかだから、リボンだってしわくちゃだし!
着替えもないような場所で、濡れた草の上で寝ろっての!?」
「そういう問題じゃないよ、ユーリ。
魔物の領域で野宿。
ベテランの冒険者だって、寝ずの番を置いて、いつ襲撃があるかとびくびくしながら夜を明かすんだ。
このメンバーでなんて……」
カウラが周りを見回す。
確かに、テリテおばさんとブルさんはともかく、ご隠居や満月先生、リリィに寝ずの番とか出来るとは思えない。
まして、ユーリとカウラが今乗っている虎の魔獣は、さっき手なずけたばかりで、テイムもしていない。
テリテおばさんに確認したところ、テリテおばさんにはテイマースキルはないそうだ。
つまり、この虎は、裏切ろうと思えばいつでも裏切れる。
まあ、テリテおばさんを裏切るなんてまね、そうそう思いつきもしないだろうけど……
「だったら、オイラの知り合いんとこに泊めてもらうしかないなぁ。
一応、雨露はしのげるし?
魔物の領域の魔獣も来ないし」
「ホントっ?」
ぱぁっと華やぐような笑顔になったユーリと対照的に、カウラが懐疑的な目を向ける。
「それ、人間?
魔物の領域に住んでるってことだよね、その人」
カウラのスルドイ指摘に、オイラはぽりぽりと頬をかく。
「うーん、まあ、魔物かな?」
「やっぱり!」
ジト目を向けられて苦笑する。
だいぶカウラも、オイラの行動パターンが分かってきたようだ。
「それに関しては心配ないよ。
アタシがテントも持ってきてるし、何よりうちにはこいつがいる」
テリテおばさんがマリル兄ちゃんの頭をガシガシとなでる。
よせよ母ちゃん、とか言いつつも、マリル兄ちゃんもなんだか嬉しそうだ。
「『無限の荒野』に縄張りを主張するにゃあ、まだ力不足だが、『霧の森』辺りならマリルのマーキングでも充分だ。
立派に魔獣のいないキャンプ地を作ってくれるよ」
「マーキング?」
「狼のおしっこには、獣除けの効果があるんだって」
「……おしっこ」
カウラがなんだか複雑な表情をする。
つまりは、マリル兄ちゃんのおしっこに囲まれて寝るわけで……
オイラはちっちゃい頃から一緒だからいいけど、カウラはホントはお姫様だし。
深く考えないほうがいいと思う。
「へぇ、テリテさんの金魚のフンかと思ってたけど、役に立つじゃん!」
「金魚のフンて」
文句を言いつつも、マリル兄ちゃんがユーリに褒められて顔を赤くしている。
そういえば、ユーリが男だって言い忘れてた。
見た目だけでいえば、金髪碧眼、白磁の肌の完璧な美少女だ。
オイラが抱えてるときにはそんなに意識してなかったみたいだけど、こうやって虎にまたがっていると、その神様に愛されたような美貌がひときわ際立つ。
金髪碧眼に、金糸でふちどられた赤いドレスの美少女。
白金の髪に金の瞳の、白い騎士服の美少年。
一緒に乗っているリリィでさえ、美しい双子を祝福しに現れた天使のようだ。
それが巨大な虎に乗って現れたら……神々しさすら感じる。
まあ、オイラは中身を知ってるから、アレだけど。
ユーリとカウラの性別に関しては、秘密にしとく必要はなくなったそうだから、マリル兄ちゃんに言ってもいいんだけど……お風呂とかでばれたら面白そうだから、あえて黙ってる方向で。
「そんなわけで、今日はダンジョンの近くまで行ってキャンプかな。
なんだかんだあって、みんな疲れてるだろうし。
『霧の森』のダンジョンは、別名『暗闇のダンジョン』っていって、あんまり視界がきかないから」
「ええっ、またぁ?」
ユーリが嫌そうな声をあげるものの、ここのダンジョンは結構有名どころなせいか、満月先生にもご隠居にも驚きは少ない。
『暗闇のダンジョン』とは言っても、暗くなるのは地下五階以降で、それまでは草原や森のような地形になってるんだけど……
ちなみにダンジョンは、土の妖精が作っていて地面の中にある、とはいっても、全てが洞窟形態と言うわけじゃない。
なにがどうなってるのかは分からないけれど、地下だというのに森だったり草原だったり、砂漠だったりすることもある。
太陽は見えないけれど、光もあるし、夜もくる。
「ところで、マリル兄ちゃんて、ダンジョンの中でも縄張り主張できたりする?」
「おう、周りの魔獣が、俺より弱きゃな」
「なら、ダンジョンに入ってからキャンプのほうがいいかな?
外よりは湿度も低いと思うし」
濡れた森の中と、乾いた草原。
オイラなら、断然乾いた草原だ。
さらに、ダンジョンは地中なだけあって、一年通してそんなに温度変化はない。
もちろん、マグマとか雪とか、そういうテーマのあるダンジョンは別だけど。
ところで、ダンジョンが、魔物の領域にあんまりない理由だけれど。
ラウルと知り合って、オイラはひとつの仮説を思いついた。
ダンジョンというのは、人間に来てもらってなんぼ。
だから、あえて、人間が行きやすい場所に作っているのではないだろうか?
周りに宿場町なんかできてくれるのは、土の妖精にとっても願ったり叶ったりなはずだ。
その意味でも、ここのダンジョンを作ったダンジョンマスターは、いったい何を考えていたのか……
まあ、だからこそ、野良ダンジョンになってしまっているのかも知れない。
「だ、ダンジョンの中でキャンプ?」
カウラがビックリしているけれど。
ダンジョンは何も日帰りで帰れる場所ばっかりじゃあない。
広いダンジョンともなれば、何週間も潜りっぱなし、というのもザラだ。
ダンジョンは地下にある都合上、所々に小部屋がある。
その中の魔獣を殲滅して、入り口に見張りを置き、キャンプを張るのが冒険者の定石とされる。
ただ、草原や森タイプのダンジョンに小部屋はないから、野宿の方法は魔物の領域に準じる。
マリル兄ちゃんの能力は、それだけでも立派に冒険者向きだ。
とは言っても、本人が強くなければ、宝の持ち腐れなんだけど……
「むしろ、ダンジョンの浅い階層の敵は弱いからね。
外より安全かもよ?」
安心させようとにっこり笑ってみるものの、なぜかユーリにまで白い眼を向けられる。
あれ?
オイラの信用どこいった?
「まあ、『霧の森』の適正レベルは30、ダンジョンの浅いとこも30くらいらしいから。
キャンプを張ったら、ユーリたちも近場で魔獣狩ってみたら?」
おそらく、箱入りのユーリとカウラは、魔獣と戦えはしても、解体なんてできないだろう。
その意味でも、経験値を稼ぐにはダンジョンが向いてると思う。
ダンジョンの魔獣は、ドロップしない限り肉も素材も手に入らないけれど、逆をいえば、ドロップさえしてくれれば、解体しなくても肉が手に入る。
「魔獣との戦闘か……
いいね、久しぶりだ」
「僕に魔獣と戦えって!?」
カウラとユーリの反応は対照的だった。
「えーっと、ユーリって、魔獣と戦ったことないの?」
「僕の才能は、主に魔力探知に使ってるからね。
つまり補助魔法とか魔道具に適性があるんだ。
攻撃魔法なんて野蛮なこと、王族が出来る必要なんてないし」
ツン、と唇を尖らせてそっぽを向く。
ああ、だから転移の魔方陣に興味津々だったのか。
「ってことは、ユーリのレベル40分の経験値ってどこから来たの?」
「経験値を得るのに、魔獣と戦闘する必要なんてないし。
王城の魔力探知で十分だし」
さっきからなんかツンツンしてるけど……なんだか微妙に、そっぽを向いた耳が赤い気がする。
「王城の魔力探知だけでレベル40までいったの?
すごいね」
それだけ王城中を覆う魔力探知網は難易度が高いということだ。
普通の人が戦闘なしで、普通の仕事をしていただけでは、生涯にあがるレベルは10未満なんだから。
「だからっ、だからさ……
魔獣が襲ってきたら、ノアが守ってよ」
デレた。
そうか、さっきのツンツンはこれのフラグか。
向こうを向いたままの耳がいっそう赤くなり、まとめあげた金髪のうなじから、臭い立つような色気が香っている。
これだけの美貌、男でもいい、って気にもなるけど……
今までが今までだしなぁ。
「いや、ユーリも戦ってみようよ」
オイラの普通な返しに、思わずユーリが虎の上でずっこけた。
「すごい。
ユーリのこの攻撃を受けて、真顔なんて……」
何やらカウラが感心してるけど。
「おっ、おい、守るなら俺もいるし」
「マリルには、縄張りの維持以上の期待はしてないし」
「ひどっ」
ユーリがすげなくあしらっているけど、縄張りを維持できる、ってことは、周りの魔獣が、マリル兄ちゃんの臭いをかいで逃げ出すレベルってことなんだけどなぁ。
本人がいくら強かろうが、マリル兄ちゃんはマリル兄ちゃんだ。
ヘタレの印象はぬぐえない。
そんなことをやっている内に、時間は過ぎて、夕方近くなったころ、前方にぽっかりと開いた洞窟の入り口が見えてきた。
「見えた、あれが『暗闇のダンジョン』だよ」
ダンジョンの入り口には、金属製の看板がかかっていて、『ダンジョン入り口』と書いてある。
けっこうあちこちのダンジョンで見かけるこの表示、てっきり冒険者ギルドあたりで設置しているものだと思っていたけれど、ひょっとしたら、土の妖精が設置しているのかもしれない。
妖精に文字はない、って話だったけど、人間の協力者もいることだし。
ダンジョンに入ろうとすると、ユーリたちを乗せていた虎の魔獣が尻ごみしだした。
「そーいえば、ダンジョンの魔獣はダンジョンの外に出てこられるみたいだけど、ダンジョンの外の魔獣って、中に入れるの?」
聞いてみるものの、誰も知らないようだ。
考えてみれば、このダンジョンの他は魔物の領域にない。
ダンジョンの外から、他の魔獣が入ってくる機会はないだろう。
「しょうがないねぇ。
あんたはここで帰るかい?」
テリテおばさんにそう言われて、虎は悲しそうにテリテおばさんに体をこすりつける。
本気でテリテおばさんにほれ込んでいるようだ。
まあ、魔獣は本能的に強いものに惹かれるみたいだし。
「じゃあ、オイラとテイマー契約してみる?
テリテおばさんはテイマースキルないんだって。
テイマー契約してれば、たぶん、ダンジョンにも入れるんじゃない?」
オイラの言葉に、虎が物凄い形相で鼻にしわを寄せてオイラにとびかかってきた。
そのまま厚い舌で、オイラの顔をべろんべろんとなめる。
嬉しそうにぐるるると喉を鳴らしていて。
テリテおばさんじゃないならごめんだね、とか言われると思ったら。
この虎は思ったより思い切りがいいらしい。
テリテおばさんと一緒にいるためなら、手段は選ばないようだ。
「じゃあ承認してね」
虎とテイマー契約して、改めて洞窟の入り口をくぐる。
その瞬間、霧の巻いた森だった景色が、一転、夕暮れの草原になる。
そして、その周辺には、幾つものテントが乱立していた。
後書き
牛雑学・牛の粉ミルクは20キロ入り。重い。高い(値段が)。
余談ですが。私の一番好きなキャラはテリテおばさん。え、知ってる?
「うーん、まあ、当たり」
「信じられないっ。
ただでさえ、この霧でドレスが濡れて気持ち悪いったらないのに!
ノアに抱えられてばっかだから、リボンだってしわくちゃだし!
着替えもないような場所で、濡れた草の上で寝ろっての!?」
「そういう問題じゃないよ、ユーリ。
魔物の領域で野宿。
ベテランの冒険者だって、寝ずの番を置いて、いつ襲撃があるかとびくびくしながら夜を明かすんだ。
このメンバーでなんて……」
カウラが周りを見回す。
確かに、テリテおばさんとブルさんはともかく、ご隠居や満月先生、リリィに寝ずの番とか出来るとは思えない。
まして、ユーリとカウラが今乗っている虎の魔獣は、さっき手なずけたばかりで、テイムもしていない。
テリテおばさんに確認したところ、テリテおばさんにはテイマースキルはないそうだ。
つまり、この虎は、裏切ろうと思えばいつでも裏切れる。
まあ、テリテおばさんを裏切るなんてまね、そうそう思いつきもしないだろうけど……
「だったら、オイラの知り合いんとこに泊めてもらうしかないなぁ。
一応、雨露はしのげるし?
魔物の領域の魔獣も来ないし」
「ホントっ?」
ぱぁっと華やぐような笑顔になったユーリと対照的に、カウラが懐疑的な目を向ける。
「それ、人間?
魔物の領域に住んでるってことだよね、その人」
カウラのスルドイ指摘に、オイラはぽりぽりと頬をかく。
「うーん、まあ、魔物かな?」
「やっぱり!」
ジト目を向けられて苦笑する。
だいぶカウラも、オイラの行動パターンが分かってきたようだ。
「それに関しては心配ないよ。
アタシがテントも持ってきてるし、何よりうちにはこいつがいる」
テリテおばさんがマリル兄ちゃんの頭をガシガシとなでる。
よせよ母ちゃん、とか言いつつも、マリル兄ちゃんもなんだか嬉しそうだ。
「『無限の荒野』に縄張りを主張するにゃあ、まだ力不足だが、『霧の森』辺りならマリルのマーキングでも充分だ。
立派に魔獣のいないキャンプ地を作ってくれるよ」
「マーキング?」
「狼のおしっこには、獣除けの効果があるんだって」
「……おしっこ」
カウラがなんだか複雑な表情をする。
つまりは、マリル兄ちゃんのおしっこに囲まれて寝るわけで……
オイラはちっちゃい頃から一緒だからいいけど、カウラはホントはお姫様だし。
深く考えないほうがいいと思う。
「へぇ、テリテさんの金魚のフンかと思ってたけど、役に立つじゃん!」
「金魚のフンて」
文句を言いつつも、マリル兄ちゃんがユーリに褒められて顔を赤くしている。
そういえば、ユーリが男だって言い忘れてた。
見た目だけでいえば、金髪碧眼、白磁の肌の完璧な美少女だ。
オイラが抱えてるときにはそんなに意識してなかったみたいだけど、こうやって虎にまたがっていると、その神様に愛されたような美貌がひときわ際立つ。
金髪碧眼に、金糸でふちどられた赤いドレスの美少女。
白金の髪に金の瞳の、白い騎士服の美少年。
一緒に乗っているリリィでさえ、美しい双子を祝福しに現れた天使のようだ。
それが巨大な虎に乗って現れたら……神々しさすら感じる。
まあ、オイラは中身を知ってるから、アレだけど。
ユーリとカウラの性別に関しては、秘密にしとく必要はなくなったそうだから、マリル兄ちゃんに言ってもいいんだけど……お風呂とかでばれたら面白そうだから、あえて黙ってる方向で。
「そんなわけで、今日はダンジョンの近くまで行ってキャンプかな。
なんだかんだあって、みんな疲れてるだろうし。
『霧の森』のダンジョンは、別名『暗闇のダンジョン』っていって、あんまり視界がきかないから」
「ええっ、またぁ?」
ユーリが嫌そうな声をあげるものの、ここのダンジョンは結構有名どころなせいか、満月先生にもご隠居にも驚きは少ない。
『暗闇のダンジョン』とは言っても、暗くなるのは地下五階以降で、それまでは草原や森のような地形になってるんだけど……
ちなみにダンジョンは、土の妖精が作っていて地面の中にある、とはいっても、全てが洞窟形態と言うわけじゃない。
なにがどうなってるのかは分からないけれど、地下だというのに森だったり草原だったり、砂漠だったりすることもある。
太陽は見えないけれど、光もあるし、夜もくる。
「ところで、マリル兄ちゃんて、ダンジョンの中でも縄張り主張できたりする?」
「おう、周りの魔獣が、俺より弱きゃな」
「なら、ダンジョンに入ってからキャンプのほうがいいかな?
外よりは湿度も低いと思うし」
濡れた森の中と、乾いた草原。
オイラなら、断然乾いた草原だ。
さらに、ダンジョンは地中なだけあって、一年通してそんなに温度変化はない。
もちろん、マグマとか雪とか、そういうテーマのあるダンジョンは別だけど。
ところで、ダンジョンが、魔物の領域にあんまりない理由だけれど。
ラウルと知り合って、オイラはひとつの仮説を思いついた。
ダンジョンというのは、人間に来てもらってなんぼ。
だから、あえて、人間が行きやすい場所に作っているのではないだろうか?
周りに宿場町なんかできてくれるのは、土の妖精にとっても願ったり叶ったりなはずだ。
その意味でも、ここのダンジョンを作ったダンジョンマスターは、いったい何を考えていたのか……
まあ、だからこそ、野良ダンジョンになってしまっているのかも知れない。
「だ、ダンジョンの中でキャンプ?」
カウラがビックリしているけれど。
ダンジョンは何も日帰りで帰れる場所ばっかりじゃあない。
広いダンジョンともなれば、何週間も潜りっぱなし、というのもザラだ。
ダンジョンは地下にある都合上、所々に小部屋がある。
その中の魔獣を殲滅して、入り口に見張りを置き、キャンプを張るのが冒険者の定石とされる。
ただ、草原や森タイプのダンジョンに小部屋はないから、野宿の方法は魔物の領域に準じる。
マリル兄ちゃんの能力は、それだけでも立派に冒険者向きだ。
とは言っても、本人が強くなければ、宝の持ち腐れなんだけど……
「むしろ、ダンジョンの浅い階層の敵は弱いからね。
外より安全かもよ?」
安心させようとにっこり笑ってみるものの、なぜかユーリにまで白い眼を向けられる。
あれ?
オイラの信用どこいった?
「まあ、『霧の森』の適正レベルは30、ダンジョンの浅いとこも30くらいらしいから。
キャンプを張ったら、ユーリたちも近場で魔獣狩ってみたら?」
おそらく、箱入りのユーリとカウラは、魔獣と戦えはしても、解体なんてできないだろう。
その意味でも、経験値を稼ぐにはダンジョンが向いてると思う。
ダンジョンの魔獣は、ドロップしない限り肉も素材も手に入らないけれど、逆をいえば、ドロップさえしてくれれば、解体しなくても肉が手に入る。
「魔獣との戦闘か……
いいね、久しぶりだ」
「僕に魔獣と戦えって!?」
カウラとユーリの反応は対照的だった。
「えーっと、ユーリって、魔獣と戦ったことないの?」
「僕の才能は、主に魔力探知に使ってるからね。
つまり補助魔法とか魔道具に適性があるんだ。
攻撃魔法なんて野蛮なこと、王族が出来る必要なんてないし」
ツン、と唇を尖らせてそっぽを向く。
ああ、だから転移の魔方陣に興味津々だったのか。
「ってことは、ユーリのレベル40分の経験値ってどこから来たの?」
「経験値を得るのに、魔獣と戦闘する必要なんてないし。
王城の魔力探知で十分だし」
さっきからなんかツンツンしてるけど……なんだか微妙に、そっぽを向いた耳が赤い気がする。
「王城の魔力探知だけでレベル40までいったの?
すごいね」
それだけ王城中を覆う魔力探知網は難易度が高いということだ。
普通の人が戦闘なしで、普通の仕事をしていただけでは、生涯にあがるレベルは10未満なんだから。
「だからっ、だからさ……
魔獣が襲ってきたら、ノアが守ってよ」
デレた。
そうか、さっきのツンツンはこれのフラグか。
向こうを向いたままの耳がいっそう赤くなり、まとめあげた金髪のうなじから、臭い立つような色気が香っている。
これだけの美貌、男でもいい、って気にもなるけど……
今までが今までだしなぁ。
「いや、ユーリも戦ってみようよ」
オイラの普通な返しに、思わずユーリが虎の上でずっこけた。
「すごい。
ユーリのこの攻撃を受けて、真顔なんて……」
何やらカウラが感心してるけど。
「おっ、おい、守るなら俺もいるし」
「マリルには、縄張りの維持以上の期待はしてないし」
「ひどっ」
ユーリがすげなくあしらっているけど、縄張りを維持できる、ってことは、周りの魔獣が、マリル兄ちゃんの臭いをかいで逃げ出すレベルってことなんだけどなぁ。
本人がいくら強かろうが、マリル兄ちゃんはマリル兄ちゃんだ。
ヘタレの印象はぬぐえない。
そんなことをやっている内に、時間は過ぎて、夕方近くなったころ、前方にぽっかりと開いた洞窟の入り口が見えてきた。
「見えた、あれが『暗闇のダンジョン』だよ」
ダンジョンの入り口には、金属製の看板がかかっていて、『ダンジョン入り口』と書いてある。
けっこうあちこちのダンジョンで見かけるこの表示、てっきり冒険者ギルドあたりで設置しているものだと思っていたけれど、ひょっとしたら、土の妖精が設置しているのかもしれない。
妖精に文字はない、って話だったけど、人間の協力者もいることだし。
ダンジョンに入ろうとすると、ユーリたちを乗せていた虎の魔獣が尻ごみしだした。
「そーいえば、ダンジョンの魔獣はダンジョンの外に出てこられるみたいだけど、ダンジョンの外の魔獣って、中に入れるの?」
聞いてみるものの、誰も知らないようだ。
考えてみれば、このダンジョンの他は魔物の領域にない。
ダンジョンの外から、他の魔獣が入ってくる機会はないだろう。
「しょうがないねぇ。
あんたはここで帰るかい?」
テリテおばさんにそう言われて、虎は悲しそうにテリテおばさんに体をこすりつける。
本気でテリテおばさんにほれ込んでいるようだ。
まあ、魔獣は本能的に強いものに惹かれるみたいだし。
「じゃあ、オイラとテイマー契約してみる?
テリテおばさんはテイマースキルないんだって。
テイマー契約してれば、たぶん、ダンジョンにも入れるんじゃない?」
オイラの言葉に、虎が物凄い形相で鼻にしわを寄せてオイラにとびかかってきた。
そのまま厚い舌で、オイラの顔をべろんべろんとなめる。
嬉しそうにぐるるると喉を鳴らしていて。
テリテおばさんじゃないならごめんだね、とか言われると思ったら。
この虎は思ったより思い切りがいいらしい。
テリテおばさんと一緒にいるためなら、手段は選ばないようだ。
「じゃあ承認してね」
虎とテイマー契約して、改めて洞窟の入り口をくぐる。
その瞬間、霧の巻いた森だった景色が、一転、夕暮れの草原になる。
そして、その周辺には、幾つものテントが乱立していた。
後書き
牛雑学・牛の粉ミルクは20キロ入り。重い。高い(値段が)。
余談ですが。私の一番好きなキャラはテリテおばさん。え、知ってる?
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四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
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