異世界ハーレムの作り方は

岡春レイティ

文字の大きさ
上 下
9 / 9
町外れの小説家・メンタル調整術

CASE3:フローラ/マッスルゴー

しおりを挟む
「君は今、いつもよりも気分がいい、奇遇なことに俺もだ。そして今日の俺たちと同じことをすれば誰でも同じようになる」

「それはなんとなくはわかりますけど、そんなに言い切れるものなんですか?」

 そういうフローラは懐疑的な態度ではない。素朴な疑問だろう。

「もちろん、例外がないとは言わない。が、気分が良くなる方が圧倒的大多数だとは言える。今日の行動にはポイントが三つある。

 1、息が切れるほどの運動をした
 2、自然に多く触れた
 3、太陽の光を長く浴びた

 解説していこう」

 フローラは身体をこちらに向き直した。食いついているようだな。

「一つ目の運動について、すごくざっくりいうと、運動すると気分が改善する。逆に運動しなさすぎると気分は落ち込む。これは、人間が狩りをしていた頃の名残だ。人間は250万年ほどは狩りを暮らしていた。その頃の運動量は今の比ではなかった。それが今のように農耕や畜産をし始めたことで、そんなに動かなくても良くなったんだ」

 異世界でも有史以前の歴史は概ね地球と同じことは確認済みだ。まぁ、そこからは魔法のような力を持つ人々が現れたりして随分と違いがあるようだが。

「その頃から考えると、小説家のような生活は夢のまた夢だったろうね」

「実家からの支援があるから、という理由もありますが、ほとんど座りっぱなしですからね」

 すらっと伸びた足を撫でながらそういうフローラ。

「要は人間は進化したが、今の文明の進化についてこれていないんだ。人間は狩りをしていた時代でうまくやっていけるように作られているから、今の生活とはギャップがあるんだね」

「つまり、その頃の生活から離れれば離れるほど気分は落ちこむと?」

 察しがいいな。もっとも、現代の地球ほど乖離は進んでいないからそれほど危ぶむほどでもないのだが、職業柄、フローラは知っておいた方がいいだろう。

「その通りだ。君が小説を書けない、やる気が出ないのはこれも原因の一つだ。そして今日はその乖離の中から、さっき説明した三つのポイントに絞ってアプローチしていったということだ」

「なるほど……。その頃に比べると自然との触れ合いは減りましたし、日を浴びる量も同じですね。まして私はずっと家の中にいますから」

 飲み込みが早い。これなら大丈夫そうだな。

「そう、まぁフローラは仕事柄、という部分が大きいから仕方ないけどな。それにこれから文明が進化していけば乖離はどんどん大きくなるだろう。これはある種避けられないことだ」

「たしかに、そうかもしれませんね」

「だが、嘆くことはない。この三つのポイントを意識した行動を、毎日とは言わない、2、3日に一度はやってくれれば十分だ」

 がっかりした様子だったフローラの顔が明るくなる。が、すぐに少し曇った。

「でも……ここまで来るのは大変です……」

 甘えるな、と言いたいところだが、自分の物差しで測るような物言いは禁物。タブーだ。あくまで寄り添うこと、それがクラーク・ブラッドフォードの流儀だ!

「大丈夫だ。まぁたまには森に出かけたりしてほしいのが本音だがね。朝、目が覚めたらカーテンを開ける。そして少しの間庭を散歩するだけでいいよ。庭だって立派な自然だからね」

「そうなんですね、でも……お庭はあの通りですし、庭師を雇うほどの余裕はその……実家に頼まないと……」

 恥ずかしそうな顔だ。貴族として言いづらかっただろうな、これは配慮が足りなかった。クラークの馬鹿!無神経!近視眼的思想しか持ち得ぬ愚か者が、悔い改めろ心から。

「うちに優秀な庭師がいてね、彼が今後継を育てているのだけど、練習場所を探しているんだ。よかったら使ってやってくれ」

「そっ、そんな……悪いですっ」

「そのかわり、後継くんが一人前になったら雇ってやってくれ。その頃には君も売れっ子作家になっているだろうからね」

「……わかりました。クラーク様のお心遣い、感謝します」

 しおらしくて可愛いなぁ。いつもが冷たいからこそグッとくる。だが、元はと言えば俺の落ち度だ。反省しなくてはな。

「話を戻そう。運動については今から教える運動を一日1分を三回やってほしい」

「1分を三回、たったそれだけでいいんですか……?」

 驚いているようだ。だが、これを見た後には別の驚きが待っているぞ。『たった』なんて2度と言えなくなるだろう。

「ああ……辛いと思うが、ぜひ取り組んでほしい。その運動の名は『バーピージャンプ』だ!見ていろ!!」

 立ち上がり、バーピージャンプを開始する。腕立て伏せをした後すばやく身体をたたみ、思い切りジャンプをする、この動きを繰り返す全身運動だ。米軍でも訓練に取り入れられているめちゃくちゃハードなトレーニング、1分の長さを我々に教えてくれる師のような存在だ。

「えっ……えっ……」

 ふふ、驚いているなフローラ。自分でやるともっとびっくりするぞ!超辛いからなこれ!!

「はぁ……はぁ……こ、これが……バーピージャンプ……だ……」

 35回、まずまずの記録だ。米軍の基準は49回らしいな。勝てねぇわ。

「さぁ……フローラ……次は、きみだ……」

「い、いや……無理です……そんな、そんな激しいの……」

「とりあえず、とりあえずやってみよ?大丈夫、優しくするから」

「嘘です……だってあんなの……私、こわい」

「大丈夫……怖くないよ、クラーク・ブラッドフォードは、怖くないよ……?」

「いや、いやぁあああ!!!」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 人気のない丘でよかった。心からそう思う会話を繰り返した後、なんとかやってくれた。

 結果は1分間に5回。控えめに言ってひどい記録だが、その分伸ばし甲斐があるというものだ。

 フローラは虫の息になっているな。寝転がって空を仰いでいる。とてもお嬢様には見えないポーズだ。それほど余裕がないのだろう。わかる、バーピーはマジで辛いからな。

 だが、運動した後の人の姿は美しい。無論、フローラについてはもともとの美貌はあるが、それとは別、もっと崇高で根元的な美しさを感じる。

 ……少し目的がズレているような気がするが、少し休んだらフローラの屋敷に送って解散にしよう。さすがに今日は色々と詰め込みすぎたし、疲れているだろううからな。

 多少は前進したが、ここからが本番だ。気合いを入れなくては。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...