8 / 9
町外れの小説家・メンタル調整術
CASE3:フローラ/町外れの丘
しおりを挟む
作業は想像以上に時間がかかった。特に服が多く、もう着れないであろうサイズの服も次から次へと出てきた。持ってきた大箱もすぐにいっぱいになり、結局、捨てるものは一旦広間に集めることになった。ここまで量が多いとなると、彼を呼ぶしかないな。
「フローラ、俺は一度外す。1時間ほどで戻るから、その間に寝室に手をつけておいてくれ」
「わかりました」
フローラは床にぺたんと座って小物の仕分けをしている。スッと伸びた背筋、背中は簡単に壊れそうなくらい細い。ポニーテールがちょちょこと揺れるたびに見る白い首筋が頼りない。和む後ろ姿だ。
「……早く行ったらどうですか」
また視線に気づかれたようで、横目で睨まれ、低い声で叱られてしまった。ごめんよお姉さん。
◇◆◇◆◇◆◇
フローラの屋敷に戻った時、もう外は真っ暗になっていた。
「……これは?」
屋敷から持ってきた箱を見て、フローラが疑問符を浮かべている。装飾が施された箱は両手でなんとか運べるくらいの大きさだ。
「こいつでゴミを処分する。この量だと捨てるだけでも大変だからな」
そう言って箱を床に置き、手を二回叩く。すると。箱から巨大な蜘蛛のような脚がニョキニョキと生えてきた。フローラが「ひいぃ」と悲鳴を上げている。いつもはクールな女性の取り乱す姿というのはいいものだ。
「オ、オハヨウゴザイマス」
「おはようミック。頼みたいことがあるんだけと、いいかな?」
「ナン、ナリ、ト」
彼はミック。ブラッドフォード家の秘宝の一つだ。条件付きだが、なんでも、いくらでも箱の中に入れることができる。中に入れたものはゆっくりと消化されていく。要は愛嬌のあるすごいゴミ箱だ。
「よし、じゃあこっちの部屋にあるあの山を全部食べてくれ」
「ハァイ」
蜘蛛の足がカサカサとせわしなく動いている。最初はキモいけど、慣れると愛おしく見えてくるんだよな。
「ひっ……ひっ……」
フローラが腰を抜かしている。顔が真っ青だ。先に伝えておくべきだったか。
「大丈夫か?彼はまぁ、すごいゴミ箱みたいなものだから安心してくれ」
「……用が済んだらすぐにどっかにやってくださいね」
フローラに睨まれる。桜色の目が潤んでいる。美しい。
とりあえず不要なものはあらかた片付いた。結局1日使い切ってしまったな。さぁ、振り返りをしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
「さて、フローラ。今日はお疲れ様。よく頑張ったね」
フローラはぐったりしている。体力がないらしく、今にも眠ってしまいそうだ。
「……小説と片付けになんの関係があるんですか……」
「答えよう。まずは結論として、君が小説を書けない原因の一つは『疲れている』からだ。だから最初に疲れる原因である『散らかった部屋』を解決したかったんだ」
「……今日は疲れましたけど、べつにいつもは疲れてません。外に出たり、仕事をしたりしているわけではありませんし。それに、疲れる理由が『散らかった部屋』ってどういうことですか?」
少しだけ自嘲気味にそう答えるフローラ。
「疲れているといったのは身体のことじゃない。君の心、頭の中のことだよ。散らかった部屋を見ると君の頭は『片付けなければ』と思う。だが同時に『今じゃなくてもいい』『後でいい』『別に誰も来ない』とも思う。違うかい?」
眠そうにしていたフローラが驚いたように目を見開く。
「みんなそうなんだ。そうやって頭の中で何度もぐるぐると考えているうちに疲れ切ってしまうんだ。これのおそろしいところは、はっきりと意識していなくても頭はずっと考え続けてしまうという点だ」
フローラは黙って訝しげに聞いている。
「人間の頭はたくさんのことを同時に考えることが苦手だ。常に『片付けなきゃ』と考えている君の頭は、小説を考えるという高度な仕事をするだけの余裕がなかったんだよ。だからまず部屋を片付けたんだ」
「そう……だったんですね」
まだ疑っているようだが、少しは納得してくれたようだ。この子は極めて重大な『勘違い』をしているが、それを正すのは時間がかかりそうだ。
「これから過ごしているうちに実感するだろう。あと、また散らかりそうになったら誰かを頼るという選択肢も忘れないようにね」
「頼る……」
そう言って不安そうに唇を触るフローラ、桜の花びらのような色をした形のいい唇だ。うん、素晴らしい。おっと、また視線に気づかれてしまったようだ!俺ってやつは全く……自分に嘘をつかないんだからっ。
「今日はこのくらいにしておこう。明日はちょっと外に出るから、動きやすい服装で待っていてくれ」
「えっ……外って……」
またフローラは不安そうな顔だ。あまり知り合いのいない街だ。無理もない。
「別に街に行くわけじゃないよ。まぁ楽しみにしておいてくれ。じゃあまた明日」
「はい……」
そう言って屋敷を後にした。さて、明日はやることが多い。さっそく準備に取り掛かろう。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日、良い天気だ。フローラはいつもよりシンプルなスカートルックに動きやすそうなブーツを履いて待っていた。
動きやすいように長い青みがかった銀の髪を二つ結びにし、さらに三つ編みにしている。髪型のせいか、いつもより幼く見える。いやむしろ、年相応なのだろうか。それにしても、普段運動しない子のこういう格好はグッとくるな!
「おはよう。ではさっそく向かおうか!」
「向かうって、どこへ?」
もう昼前だが、フローラは気怠げな様子だ。まぁ朝型と夜型は遺伝子レベルで分かれているから、どちらがいいというわけではないが。
「近くの丘だ。行こう!」
「朝からテンション高いですね……」
「美人と一緒だからな!」
そう言って早速出発する。フローラは顔色一つ変えず、はいはい……と流しながらついてきた。
◇◆◇◆◇◆◇
15分ほど歩いただろうか。中間地点の林に着いた。あたりは背の高い木に覆われ、木の表面には鮮やかな緑色の苔に覆われ、その根元にはチョロチョロと小さな川が流れている。林の中は外より何度か気温が低く、汗ばんだ肌に気持ちがいい。
後ろを見ると、フローラはゼエゼエと肩で呼吸をしているようだ。真っ白な顔が紅潮し、汗だくで足取りもよたよたと頼りない。予想よりもはるかに体力がなかったようだ。
「すまん、歩くのが早かったな。一旦休憩にしよう」
「は……はい……」
そう言い終わらないうちに、地べたにへたり込んだ。俺も手頃な岩を見つけて腰掛ける。
「はいこれ」
そう言って水筒を差し出す。俺はいつも持ち歩いているが、フローラにも持ってくるように言っておけばよかった。差し出した水筒を一瞥するフローラ。
「け……結構……です……」
「倒れるぞ。飲んでおきなさい」
ラチがあかないので、半ば押し付けるように渡した。フローラは目の焦点が合っておらず、さっきから細い肩をせわしなく上下させている。運動不足は深刻なようだ。
無理やり渡された水筒を見つめて悩んでいる様子のフローラだったが、ようやくチビチビと飲み始めてくれた。水筒を両手で握る姿が愛らしい。白い首がコクコクと動いている。
「……見ないでください」
また引かれてしまったようだ。だが時を戻せるとしても、俺はまた見つめるだろう。何も後悔はない。
「そういえば、昨日はよく眠れたか?」
「まぁ疲れてましたから、目を閉じたらすぐ朝でした」
ふむ、良い傾向だ。だが夜中に一度くらい目が醒めるのがもっとも正常なパターンだ。起きたことを覚えていない可能性も多分にあるがら全く目が覚めないのはよくないし、この様子を見ると、やはり体力をつける必要があるな。
「……それと、朝起きて、片付いた部屋を見渡したら、何故だかスッキリした気分になりました。なんというか、肩の荷が降りたような」
「それは良かった、頑張った甲斐があったな。実際に君の頭から『片付けなければ』という仕事が消えたのだから、その感覚は正しいよ」
「そう、なのかもしれませんね。ま、あなたのおかげと思うと少し癪ですけどね」
昨日は半信半疑だったが、実感が伴った分、今日はリアクションが幾分か素直だ。
さて、フローラの息も整ってきた。そろそろ進むか。進むスピードには気をつけないとな。
◇◆◇◆◇◆◇
目的地に着いた。ひらけた丘、一面に緑。薄く雲がかった空が広がっている。
「わぁ……良い景色。気持ちのいい場所ですね」
「ここからは街が一望できる。人気もないし、俺の秘密の場所なんだ。よくここにきて考え事をするんだ」
ふわりと優しく吹く風がフローラの髪を揺らした。彼女はリラックスした様子だ。しかし、景色に夢中で俺の話は聞いていないようだな。愛いやつめ。
フローラはあっちへこっちへ丘を物珍しそうにウロウロしており、それに合わせて二つ結びにした髪がふわふわと跳ねている。なんだか楽しそうだ。落ち着くまでは放っておこうか。
◇◆◇◆◇◆◇
しばらく草原に生えている花を摘んだり、歴史を感じさせる大木を見上げていたフローラだったが、ハッと我に返ると乱れた前髪を整えながらこちらに歩いてきた。
「……いい場所ですね」
こほん、と咳払いをしてそう呟くフローラ。
「そうだろ? 俺のお気に入りなんだ、ここ。まぁ座ってくれ」
手で促すと、促したところよりもかなり遠くに座られた。警戒心。
「でも、どうしてここに連れてきたんですか?気分転換、ですか? たしかに、悪くない気分ですけど」
「もちろんそれもある。だが、もう少し理論的な部分まで話すため、まずは実感してもらおうと思って連れてきたんだ」
「理論……ですか?」
両手を膝の上に乗せているフローラ、桜色の瞳が早く先を話せと急かしているようだ。
「そう、何故今日君の気分が良くなったのか。それを話していこうと思う。そしてその本質を理解し、意識的に日常に取り入れてもらうことが狙いだ」
「……わかりました。続けてください」
よし、やはり実感があるうちに話すのが一番だな。早速始めよう、日常レベルに落とし込めれば、かなり前進するはずだ。
「フローラ、俺は一度外す。1時間ほどで戻るから、その間に寝室に手をつけておいてくれ」
「わかりました」
フローラは床にぺたんと座って小物の仕分けをしている。スッと伸びた背筋、背中は簡単に壊れそうなくらい細い。ポニーテールがちょちょこと揺れるたびに見る白い首筋が頼りない。和む後ろ姿だ。
「……早く行ったらどうですか」
また視線に気づかれたようで、横目で睨まれ、低い声で叱られてしまった。ごめんよお姉さん。
◇◆◇◆◇◆◇
フローラの屋敷に戻った時、もう外は真っ暗になっていた。
「……これは?」
屋敷から持ってきた箱を見て、フローラが疑問符を浮かべている。装飾が施された箱は両手でなんとか運べるくらいの大きさだ。
「こいつでゴミを処分する。この量だと捨てるだけでも大変だからな」
そう言って箱を床に置き、手を二回叩く。すると。箱から巨大な蜘蛛のような脚がニョキニョキと生えてきた。フローラが「ひいぃ」と悲鳴を上げている。いつもはクールな女性の取り乱す姿というのはいいものだ。
「オ、オハヨウゴザイマス」
「おはようミック。頼みたいことがあるんだけと、いいかな?」
「ナン、ナリ、ト」
彼はミック。ブラッドフォード家の秘宝の一つだ。条件付きだが、なんでも、いくらでも箱の中に入れることができる。中に入れたものはゆっくりと消化されていく。要は愛嬌のあるすごいゴミ箱だ。
「よし、じゃあこっちの部屋にあるあの山を全部食べてくれ」
「ハァイ」
蜘蛛の足がカサカサとせわしなく動いている。最初はキモいけど、慣れると愛おしく見えてくるんだよな。
「ひっ……ひっ……」
フローラが腰を抜かしている。顔が真っ青だ。先に伝えておくべきだったか。
「大丈夫か?彼はまぁ、すごいゴミ箱みたいなものだから安心してくれ」
「……用が済んだらすぐにどっかにやってくださいね」
フローラに睨まれる。桜色の目が潤んでいる。美しい。
とりあえず不要なものはあらかた片付いた。結局1日使い切ってしまったな。さぁ、振り返りをしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
「さて、フローラ。今日はお疲れ様。よく頑張ったね」
フローラはぐったりしている。体力がないらしく、今にも眠ってしまいそうだ。
「……小説と片付けになんの関係があるんですか……」
「答えよう。まずは結論として、君が小説を書けない原因の一つは『疲れている』からだ。だから最初に疲れる原因である『散らかった部屋』を解決したかったんだ」
「……今日は疲れましたけど、べつにいつもは疲れてません。外に出たり、仕事をしたりしているわけではありませんし。それに、疲れる理由が『散らかった部屋』ってどういうことですか?」
少しだけ自嘲気味にそう答えるフローラ。
「疲れているといったのは身体のことじゃない。君の心、頭の中のことだよ。散らかった部屋を見ると君の頭は『片付けなければ』と思う。だが同時に『今じゃなくてもいい』『後でいい』『別に誰も来ない』とも思う。違うかい?」
眠そうにしていたフローラが驚いたように目を見開く。
「みんなそうなんだ。そうやって頭の中で何度もぐるぐると考えているうちに疲れ切ってしまうんだ。これのおそろしいところは、はっきりと意識していなくても頭はずっと考え続けてしまうという点だ」
フローラは黙って訝しげに聞いている。
「人間の頭はたくさんのことを同時に考えることが苦手だ。常に『片付けなきゃ』と考えている君の頭は、小説を考えるという高度な仕事をするだけの余裕がなかったんだよ。だからまず部屋を片付けたんだ」
「そう……だったんですね」
まだ疑っているようだが、少しは納得してくれたようだ。この子は極めて重大な『勘違い』をしているが、それを正すのは時間がかかりそうだ。
「これから過ごしているうちに実感するだろう。あと、また散らかりそうになったら誰かを頼るという選択肢も忘れないようにね」
「頼る……」
そう言って不安そうに唇を触るフローラ、桜の花びらのような色をした形のいい唇だ。うん、素晴らしい。おっと、また視線に気づかれてしまったようだ!俺ってやつは全く……自分に嘘をつかないんだからっ。
「今日はこのくらいにしておこう。明日はちょっと外に出るから、動きやすい服装で待っていてくれ」
「えっ……外って……」
またフローラは不安そうな顔だ。あまり知り合いのいない街だ。無理もない。
「別に街に行くわけじゃないよ。まぁ楽しみにしておいてくれ。じゃあまた明日」
「はい……」
そう言って屋敷を後にした。さて、明日はやることが多い。さっそく準備に取り掛かろう。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日、良い天気だ。フローラはいつもよりシンプルなスカートルックに動きやすそうなブーツを履いて待っていた。
動きやすいように長い青みがかった銀の髪を二つ結びにし、さらに三つ編みにしている。髪型のせいか、いつもより幼く見える。いやむしろ、年相応なのだろうか。それにしても、普段運動しない子のこういう格好はグッとくるな!
「おはよう。ではさっそく向かおうか!」
「向かうって、どこへ?」
もう昼前だが、フローラは気怠げな様子だ。まぁ朝型と夜型は遺伝子レベルで分かれているから、どちらがいいというわけではないが。
「近くの丘だ。行こう!」
「朝からテンション高いですね……」
「美人と一緒だからな!」
そう言って早速出発する。フローラは顔色一つ変えず、はいはい……と流しながらついてきた。
◇◆◇◆◇◆◇
15分ほど歩いただろうか。中間地点の林に着いた。あたりは背の高い木に覆われ、木の表面には鮮やかな緑色の苔に覆われ、その根元にはチョロチョロと小さな川が流れている。林の中は外より何度か気温が低く、汗ばんだ肌に気持ちがいい。
後ろを見ると、フローラはゼエゼエと肩で呼吸をしているようだ。真っ白な顔が紅潮し、汗だくで足取りもよたよたと頼りない。予想よりもはるかに体力がなかったようだ。
「すまん、歩くのが早かったな。一旦休憩にしよう」
「は……はい……」
そう言い終わらないうちに、地べたにへたり込んだ。俺も手頃な岩を見つけて腰掛ける。
「はいこれ」
そう言って水筒を差し出す。俺はいつも持ち歩いているが、フローラにも持ってくるように言っておけばよかった。差し出した水筒を一瞥するフローラ。
「け……結構……です……」
「倒れるぞ。飲んでおきなさい」
ラチがあかないので、半ば押し付けるように渡した。フローラは目の焦点が合っておらず、さっきから細い肩をせわしなく上下させている。運動不足は深刻なようだ。
無理やり渡された水筒を見つめて悩んでいる様子のフローラだったが、ようやくチビチビと飲み始めてくれた。水筒を両手で握る姿が愛らしい。白い首がコクコクと動いている。
「……見ないでください」
また引かれてしまったようだ。だが時を戻せるとしても、俺はまた見つめるだろう。何も後悔はない。
「そういえば、昨日はよく眠れたか?」
「まぁ疲れてましたから、目を閉じたらすぐ朝でした」
ふむ、良い傾向だ。だが夜中に一度くらい目が醒めるのがもっとも正常なパターンだ。起きたことを覚えていない可能性も多分にあるがら全く目が覚めないのはよくないし、この様子を見ると、やはり体力をつける必要があるな。
「……それと、朝起きて、片付いた部屋を見渡したら、何故だかスッキリした気分になりました。なんというか、肩の荷が降りたような」
「それは良かった、頑張った甲斐があったな。実際に君の頭から『片付けなければ』という仕事が消えたのだから、その感覚は正しいよ」
「そう、なのかもしれませんね。ま、あなたのおかげと思うと少し癪ですけどね」
昨日は半信半疑だったが、実感が伴った分、今日はリアクションが幾分か素直だ。
さて、フローラの息も整ってきた。そろそろ進むか。進むスピードには気をつけないとな。
◇◆◇◆◇◆◇
目的地に着いた。ひらけた丘、一面に緑。薄く雲がかった空が広がっている。
「わぁ……良い景色。気持ちのいい場所ですね」
「ここからは街が一望できる。人気もないし、俺の秘密の場所なんだ。よくここにきて考え事をするんだ」
ふわりと優しく吹く風がフローラの髪を揺らした。彼女はリラックスした様子だ。しかし、景色に夢中で俺の話は聞いていないようだな。愛いやつめ。
フローラはあっちへこっちへ丘を物珍しそうにウロウロしており、それに合わせて二つ結びにした髪がふわふわと跳ねている。なんだか楽しそうだ。落ち着くまでは放っておこうか。
◇◆◇◆◇◆◇
しばらく草原に生えている花を摘んだり、歴史を感じさせる大木を見上げていたフローラだったが、ハッと我に返ると乱れた前髪を整えながらこちらに歩いてきた。
「……いい場所ですね」
こほん、と咳払いをしてそう呟くフローラ。
「そうだろ? 俺のお気に入りなんだ、ここ。まぁ座ってくれ」
手で促すと、促したところよりもかなり遠くに座られた。警戒心。
「でも、どうしてここに連れてきたんですか?気分転換、ですか? たしかに、悪くない気分ですけど」
「もちろんそれもある。だが、もう少し理論的な部分まで話すため、まずは実感してもらおうと思って連れてきたんだ」
「理論……ですか?」
両手を膝の上に乗せているフローラ、桜色の瞳が早く先を話せと急かしているようだ。
「そう、何故今日君の気分が良くなったのか。それを話していこうと思う。そしてその本質を理解し、意識的に日常に取り入れてもらうことが狙いだ」
「……わかりました。続けてください」
よし、やはり実感があるうちに話すのが一番だな。早速始めよう、日常レベルに落とし込めれば、かなり前進するはずだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる