異世界ハーレムの作り方は

岡春レイティ

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鍛冶屋の女主人・一点に特化せよ

CASE2:カーラ/リソースは有限

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 次の日の朝、カーラに簡単に接客のコツを教えてからお客様を待つ。昨日とは打って変わってカーラは緊張した様子だ。まるで発表会を目前に控えた子どものようになっている。

「緊張しているな、大丈夫?」

「べ、べつ……に?何年1人でやってきたと思ってんの!」

 微笑ましい。強がる女性というのも良いものだ。

「今までと違う、新しいことを試すってドキドキするよな。ぎこちないだろうし、失敗することもあるかもしれない」

「……うん、ずっとダラダラやってきたから、なんかちょっとこわいんだ」

 沈んだ表情のカーラ。だからこそ伝わってきた。本気で取り組もうとしていることが。

「大丈夫さ、失敗したら一緒に反省しよう」

「……ありがと」

 カーラがそう答えたと同時に、本日1人目ののお客様が来た。

「い、いらっしゃいませ!」

 カーラの声が裏返った。まったく愛いやつだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「さて、振り返りをしようか」

「うん……」

 店を閉めた。カーラは疲れ切ってぐったりしている。まとめていた赤い髪も、ところどころぴょんぴょんと跳ねている。

「さて、まずは今日もお疲れ様。どうだった?」

「疲れたよ……すごく」

 そう言いながら口元は笑っている。充実した表情だ。彼女は今日一日ですごく成長した。そして彼女自身もその実感があるのだろう。釣られてこっちまで笑ってしまう。

「うむ、頑張った証拠だな。よし、じゃあ数字の確認をしていこう。三つの指標を覚えているかな?」

「うん。来た人数と買った人数と売れた金額でしょ?」

 得意げに答えるカーラ。

「正解。ではまずその三つをそれぞれ確認しよう」

「えっと、来たのは昨日と同じ4組で、そのうち買ったのは3組!売れた額は昨日の……5倍だ!運もあるかも知れないけど、うれしいなぁ」

 言葉の後ろに音符マークがついていそうな報告の仕方で思わず和む。

「しっかり伸びたな。これはひとえにカーラ、君の頑張りあってた。えらいぞ!」

「そ、そうかなぁ~」

 いつもツンツンしている彼女には珍しい、ちょっとだらけた笑顔だ。目尻がぐんぐん下に下がっている。笑うとちょっと幼く見える。

「さて、購買数が伸びた理由と単価が伸びた理由をそれぞれ分析しようか」

 カーラの接客を見て書いたメモをテーブルに広げた。

 項目は三つ
 ・それぞれのお客様の詳細
 ・良かったところ
 ・改善したほうがいいところ

 ダメ出しされると思ったのか、カーラが萎縮して小さくなっている。こういう話はどうしても不出来な点に意識が向きがちになるからな。無理もない。

「今日は最後の1組を除いて女性のいる冒険者のチーム。うち2組の女性は冒険初心者で、親御さんが心配してもたせた武器が大きすぎて困っているということだったな」

「うん。女の子なのに背中に背負う武器なんて使えないよ。だから私が作ったダガーとレイピアをオススメしたの」

「うむ、お客様もその提案に乗ってくれていたな。ちゃんと相手を見て、それにあった提案ができていたと思う。まずはそれが良かった点だ。えらいぞ!」

「ま、まぁね!」

 カーラは胸を張る。

「ただ、同時にちょっと残念だったのが、こうだろうと決めつけてしまったところだ。仮説を立てるのはいいが、同時に、別の可能性はないかと疑うようにしてほしい。現に、今日も大振りの剣を買っていった女性がいただろ?」

「たしかに、そうかも……ごめん、反省するねっ」

「いや、新しいやり方にした初日なのによくやってるよ。……それに、なんなら、別に今のままでもいい」

 今のままでもいい、という言葉にカーラはキョトンとした顔をする。意味を測りかねているようだ。

「もし必要だと思うのなら変えればいいし、そうじゃないなら今のままでもいい。選ぶのは自分だ」

「えー……難しいよ……」

 甘えるような声だ。だんだんと思春期の娘のように見えてき……ハッ。危ない。

「何もかも自分次第、ということさ。さて、今日はここまでにしよう。しっかり休んでくれ」

「はーい」

 返事をするとカーラは大きく伸びをした。やはり疲れたのだろう。グッタリしている。

 そうだ、今日の良かったところを一つ伝え忘れていた。だがまぁ、疲れているようだし、明日でいいだろう。

 さて、明日のためにもう一つ仕込みをしておこう。店を後にし、早速準備に向かった。


◇◆◇◆◇◆◇


 朝、鍛冶屋に行くとカーラはもう支度をして待っていた。昨日話した内容の復習も済ませたらしい。うむ、いい子だ。テーブルの用意もしてある。俺も腰掛け、早速始める。

「さて、今日はいよいよお客様を増やす方法についてやっていこう!」

「うん。もっとたくさんの人に私の武器を……あ、先代のもだけど、使ってほしいし」

 買ってほしい、じゃなく、使ってほしい、か。商売において一番大切なものをこの子はちゃんと持っているようだ。売りつけて終わりだと思っている商売人のなんと多いことか。それはさておき。

「さて、まずは質問だ。昨日、いや今までここにきたお客様は、どうしてここに来れたと思う?」

「……足が、ついてるから……?」

 自信はないが、もしかしたらチャンスがあるんじゃないかと思っているような言い方でカーラは答えた。なるほど、問題の出し方が悪かったな。

「……それはそれで正解さ。でも、いずれは『這ってでも来たい店』と言ってもらえるようになるといいな!」

「うん。私、頑張るよ!」

 カーラのキラキラとした青い目を向けられる。研磨されたサファイアのような純真な輝きの前には、真実なんて些細なものだと思い知った。

「ああ、一緒に頑張ろう!」

 会話はズレたまま終わった。まぁいっか!


 ◇◆◇◆◇◆◇


「まずは、お店を知ってもらうことから始めないとね。街を通る旅人に『青い瞳の見目麗しい美女が経営している鍛冶屋を知っていますか』とアンケートを取ったものがこちらです。どんっ」

「なんで敬語……えっすごい量。これどうやって集めたの?」

「宿屋を経営している知り合いに配ってもらったのと、昨日自分で集めんだ。まずは足を動かさなければ」

 街頭アンケートは楽しい。あの顧客像がだんだんと見えてくる快感はたまらない。というか、質問内容には突っ込まないんだな。自分の美しさを自覚している女性か、それはそれで蠱惑的でいいものだ。

「き、昨日って、言ってよ一緒に行ったのに~」

「疲れてるみたいだったからね。まぁまぁ些細な事で怒りなさんな。続けるぞ」

「も~……」

「アンケートの結果は……

 ・知らない 95%
 ・知っている 1%
 ・知らなかったが、今からすぐにでも行きたい 4%

 という結果になった」

 数字がショックだったのか、少し悔しそうだ。陶器のようなツルツルの眉間にシワがよっている。

「落ち着け、大体どこでもこんな感じだ!   ましてここは人目につきにくいからな。しょうがないさ」

「はぁ~い……でもでも、それならどうやって知って貰えば……あ!チラシ配りとか?」

「正解!   正解だがもう一歩踏み込みたい。どこで、誰に配るか、だ。チラシもタダじゃないし、なにより君が動いている間はお店が止まってしまうからね。使えるものは限られている。工夫しなければ」

「確かに……ねぇ、それなら仕事が終わってから配ればいいんじゃない?」

 顔を傾けながらそう答えるカーラ。前髪が揺れ、綺麗なおでこが一瞬見える。少女と女性の中間にいるこの年齢特有の、あどけなさと色気のコントラスト。うむ、いいものだ。

「その手もあるが、それは最終手段だ。そしてあまりオススメはしない。無理をして身体を壊しては元も子もないからな」

「まぁ、そうかもだけど……」

「もっとも、いずれ多少無理を押してでもやらなければいけない時は来るだろう。だが今じゃない。もし、このお店を畳んだとしても君の人生は続くんだ。今まで出会った、そしてこれから出会う君の大切な人たちのために、君自身を大切にしなければいけない」

 またキョトンとしていたが、少し経ち、カーラは目を逸らしながら「うん」と小さく答えた。物分かりのいい娘を持って俺は幸せだ。

「話が逸れたな。要は、自分も含めて使えるものは限られているから賢く使おうという事だ!」

「わかった。それで、どこで誰に配るの?」

「宿で旅人、女性がいるチームにだけ配ってもらう。もう話はつけて昨日から配ってもらっているから、安心してくれ」

「え、ほんと!   すごい……でも、どうして宿なの?」

「冒険者は基本チームで動く。チームで動く以上、突発的な予定は組みづらい。もちろん例外もあるが、武器や防具を選ぶのは時間がかかるからな」

 それに女性の一人旅は圧倒的に少ない。あくまで「チームで動いている新米女性冒険者」にターゲットを絞っている。宿の主人への礼はまた用意しておかねば。

「あ!次の日の予定を組む時に考えてもらえるようにって、こと?」

「正解だ!これもやはり、お客様の立場に立って考えることが大切だよ。昨日の君の接客と同じさ」

「なるほど、ね……でもさ」

 カーラはよいしょ、と身体を机に乗り出し、俺のおでこにデコピンをした。唐突な行動に驚く。

「さっきクラークが言ってたことと矛盾してるじゃん。私のためだからって無理しないでよ」

 そう言って微笑んだ。今度は大人びた笑みだ。この二面性、コントラスト、エクセレント。心の中で拍手を送りつつ、「すまない」と謝っておいた。

 さて、昨日のチラシに効果があれば今日は忙しくなるはずだ。おっと、そうこうしているうちにお客様が来たようだ。カーラは一瞬で表情を切り替え、お客様を笑顔で出迎えた。あっという間に頼もしくなったものだ。
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