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果物屋の看板娘・ユーザーに寄り添う
CASE1:ナンシー/忙しい方には
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夕方、店を閉めてナンシーとテーブルを囲む。
「さて、今日も1日お疲れ様。では振り返りをしようか」
「はい! はい! はい!」
仕事終わりなのにナンシーは元気いっぱいに挙手している。汗で額に前髪が張り付いている。一生懸命頑張った証だ、なんとも微笑ましい。自分の中に父性の芽生えを感じる。
「はいナンシーくん、どうぞ!」
「今日は売り上げが昨日までの2倍になりました! すごいすごい!!」
報告しながらぴょんぴょん跳ねている。その度に黒髪がふわふわと動き、爽やかでほんのり甘い香りがふわっと広がる。
「早速効果が現れたようだな。なによりだ」
「でもでも、ただ切っただけなのにどうしてこんなに売り上げが伸びたんですか? 価格が上がったから、むしろ売れ行きは下がるんじゃないかなーって、実はこっそり心配してました」
「素直でよろしい。その理由はひとつ、朝に来る地元住民は、果物を買っているわけじゃなかったからだ」
ナンシーの頭上にはてなマークが浮かんでいる。焦らしても仕方ない。続けよう。
「みんなは『朝ごはん』、もっと言うなら『さっと食べられて、用意が楽で、家族に手抜きだと思われない朝ごはん』を買いに来ていたんだ。ナンシー、いつも朝に買いに来るのはお母さんたちだろ?」
「はい! みんな忙しそうに来て、ささーっと買って帰っちゃいます! あ、そっか!」
「そう、みんな時間がないんだよ。でも、適当な朝ごはんだと家族に申し訳ないし、かといってあまり手の込んだものを作る時間もないんだ」
「なるほど! だからちょっと高くなっても、カットしたフルーツを買ってくれたんですね!」
「そういうことだ。つまり、顧客がその商品を【いつ・どこで・なんのために】使うのかを考え、それに合ったものを用意することが重要なんだ」
「そういうことだったんですね……! うちの商品は良いものだけど……」
「そう、あと一歩足りなかったんだ。ここまで来れたのは、もちろんこの品質の良さがあってこそ、だがな」
そう言ってさっき買った売れ残りのリンゴをかじる。うん、うまい。
ナンシーはキラキラした顔で俺を見つめている。尊敬の眼差しだ。クリクリした瞳が可愛らしい。尊敬ほど気持ちの良いものはないな。
「よし、明日からはカットした果物に楊枝をつけよう。ここいらの家族の平均は6人だから、6個つけておいてくれ」
はーい、とナンシーは笑顔で返事をする。
「さて、俺は行くところがあるから、先に失礼するよ。おやすみナンシー」
「おやすみなさい! クラーク様!」
さて、まだまだここからが正念場だ。俺はそのまま町外れへと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日も売り上げは順調に伸び、当初の2.5倍まで伸ばすことができた。だが、一つの方法では近いうちに頭打ちが来る。次の手を考えなければ。
営業中の店に視察に来た。今日とナンシーは愛想よく声かけをしている。相変わらず昼の売り上げは停滞したままだ。旅人はお店を素通りしている。よし、次に手を入れるべき場所は決まった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ナンシー、今日もお疲れ様。外から見ていたが、こちらまで元気になるような接客だったな。えらいぞ!」
「ありがとうございます!」
子犬のように喜ぶナンシー。良い子に育ってくれてパパは嬉しいよ。
「売り上げも順調に推移しているが、喜ぶのはまだ早い」
「お昼の売り上げ……ですね」
「そうだ。住民の数よりも旅人の方がはるかに多い。にも関わらず売り上げは10分の1以下だ。これはやはりよろしくない。それとナンシー、ひとつ確認したい。このお店で一番売れない商品はなんだ?」
「売れない商品は、そうですね、このラージアップル・ベンディですかね。味は悪くないんですけど、パサパサしてるからあまり好まれないようですね。あとすっごい大きいので」
そう言うとナンシーは赤ん坊の頭くらいあるリンゴを店から運んできた。なるほど、これはそのままだと売れないな。
「よし、次の手は決まったぞナンシー」
「なんですかクラーク様!」
ナンシーはワクワクした様子で尋ねてきた。
「このリンゴを、この店で1番の売れ行き商品にする!!」
「ええええええええ!!」
良いリアクションだ。よし、さっそくとりかかろう。おそらく朝までかかると思うが、ナンシーのためだ。頑張ろう。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日、お昼から軒先に大きな看板を立てた。やはり朝の売り上げは依然として好調だ。ここからが本番だ。
『旅のお供に! 1ヶ月先まで食べられる果物 ラージアップル・ベンディはお一人様一つまで!』
「よし、あとはナンシー、声をかけるときは……」
「はい! 保存が効くので冒険のお供に是非!ですね!」
ジーンとした。この短い期間に成長している。父としてこんなに嬉しいことはない。
「……その通りだ」
「クラーク様、泣いてるんですか?」
「バカ言え……商売人が泣いて良いのは、ヒットを飛ばした時だけだ!」
「ク、クラーク様……」
ナンシーも目をウルウルさせている。ノリのいい子だ。
「さぁ! 午後も売って売って売りまくるぞ!」
「はい!」
さて、どうなるか。
「さて、今日も1日お疲れ様。では振り返りをしようか」
「はい! はい! はい!」
仕事終わりなのにナンシーは元気いっぱいに挙手している。汗で額に前髪が張り付いている。一生懸命頑張った証だ、なんとも微笑ましい。自分の中に父性の芽生えを感じる。
「はいナンシーくん、どうぞ!」
「今日は売り上げが昨日までの2倍になりました! すごいすごい!!」
報告しながらぴょんぴょん跳ねている。その度に黒髪がふわふわと動き、爽やかでほんのり甘い香りがふわっと広がる。
「早速効果が現れたようだな。なによりだ」
「でもでも、ただ切っただけなのにどうしてこんなに売り上げが伸びたんですか? 価格が上がったから、むしろ売れ行きは下がるんじゃないかなーって、実はこっそり心配してました」
「素直でよろしい。その理由はひとつ、朝に来る地元住民は、果物を買っているわけじゃなかったからだ」
ナンシーの頭上にはてなマークが浮かんでいる。焦らしても仕方ない。続けよう。
「みんなは『朝ごはん』、もっと言うなら『さっと食べられて、用意が楽で、家族に手抜きだと思われない朝ごはん』を買いに来ていたんだ。ナンシー、いつも朝に買いに来るのはお母さんたちだろ?」
「はい! みんな忙しそうに来て、ささーっと買って帰っちゃいます! あ、そっか!」
「そう、みんな時間がないんだよ。でも、適当な朝ごはんだと家族に申し訳ないし、かといってあまり手の込んだものを作る時間もないんだ」
「なるほど! だからちょっと高くなっても、カットしたフルーツを買ってくれたんですね!」
「そういうことだ。つまり、顧客がその商品を【いつ・どこで・なんのために】使うのかを考え、それに合ったものを用意することが重要なんだ」
「そういうことだったんですね……! うちの商品は良いものだけど……」
「そう、あと一歩足りなかったんだ。ここまで来れたのは、もちろんこの品質の良さがあってこそ、だがな」
そう言ってさっき買った売れ残りのリンゴをかじる。うん、うまい。
ナンシーはキラキラした顔で俺を見つめている。尊敬の眼差しだ。クリクリした瞳が可愛らしい。尊敬ほど気持ちの良いものはないな。
「よし、明日からはカットした果物に楊枝をつけよう。ここいらの家族の平均は6人だから、6個つけておいてくれ」
はーい、とナンシーは笑顔で返事をする。
「さて、俺は行くところがあるから、先に失礼するよ。おやすみナンシー」
「おやすみなさい! クラーク様!」
さて、まだまだここからが正念場だ。俺はそのまま町外れへと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日も売り上げは順調に伸び、当初の2.5倍まで伸ばすことができた。だが、一つの方法では近いうちに頭打ちが来る。次の手を考えなければ。
営業中の店に視察に来た。今日とナンシーは愛想よく声かけをしている。相変わらず昼の売り上げは停滞したままだ。旅人はお店を素通りしている。よし、次に手を入れるべき場所は決まった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ナンシー、今日もお疲れ様。外から見ていたが、こちらまで元気になるような接客だったな。えらいぞ!」
「ありがとうございます!」
子犬のように喜ぶナンシー。良い子に育ってくれてパパは嬉しいよ。
「売り上げも順調に推移しているが、喜ぶのはまだ早い」
「お昼の売り上げ……ですね」
「そうだ。住民の数よりも旅人の方がはるかに多い。にも関わらず売り上げは10分の1以下だ。これはやはりよろしくない。それとナンシー、ひとつ確認したい。このお店で一番売れない商品はなんだ?」
「売れない商品は、そうですね、このラージアップル・ベンディですかね。味は悪くないんですけど、パサパサしてるからあまり好まれないようですね。あとすっごい大きいので」
そう言うとナンシーは赤ん坊の頭くらいあるリンゴを店から運んできた。なるほど、これはそのままだと売れないな。
「よし、次の手は決まったぞナンシー」
「なんですかクラーク様!」
ナンシーはワクワクした様子で尋ねてきた。
「このリンゴを、この店で1番の売れ行き商品にする!!」
「ええええええええ!!」
良いリアクションだ。よし、さっそくとりかかろう。おそらく朝までかかると思うが、ナンシーのためだ。頑張ろう。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日、お昼から軒先に大きな看板を立てた。やはり朝の売り上げは依然として好調だ。ここからが本番だ。
『旅のお供に! 1ヶ月先まで食べられる果物 ラージアップル・ベンディはお一人様一つまで!』
「よし、あとはナンシー、声をかけるときは……」
「はい! 保存が効くので冒険のお供に是非!ですね!」
ジーンとした。この短い期間に成長している。父としてこんなに嬉しいことはない。
「……その通りだ」
「クラーク様、泣いてるんですか?」
「バカ言え……商売人が泣いて良いのは、ヒットを飛ばした時だけだ!」
「ク、クラーク様……」
ナンシーも目をウルウルさせている。ノリのいい子だ。
「さぁ! 午後も売って売って売りまくるぞ!」
「はい!」
さて、どうなるか。
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