異世界ハーレムの作り方は

岡春レイティ

文字の大きさ
上 下
2 / 9
果物屋の看板娘・ユーザーに寄り添う

CASE1:ナンシー/忙しい方には

しおりを挟む
 夕方、店を閉めてナンシーとテーブルを囲む。

「さて、今日も1日お疲れ様。では振り返りをしようか」

「はい!   はい!   はい!」

 仕事終わりなのにナンシーは元気いっぱいに挙手している。汗で額に前髪が張り付いている。一生懸命頑張った証だ、なんとも微笑ましい。自分の中に父性の芽生えを感じる。

「はいナンシーくん、どうぞ!」

「今日は売り上げが昨日までの2倍になりました!   すごいすごい!!」

 報告しながらぴょんぴょん跳ねている。その度に黒髪がふわふわと動き、爽やかでほんのり甘い香りがふわっと広がる。

「早速効果が現れたようだな。なによりだ」

「でもでも、ただ切っただけなのにどうしてこんなに売り上げが伸びたんですか?   価格が上がったから、むしろ売れ行きは下がるんじゃないかなーって、実はこっそり心配してました」

「素直でよろしい。その理由はひとつ、朝に来る地元住民は、果物を買っているわけじゃなかったからだ」

 ナンシーの頭上にはてなマークが浮かんでいる。焦らしても仕方ない。続けよう。

「みんなは『朝ごはん』、もっと言うなら『さっと食べられて、用意が楽で、家族に手抜きだと思われない朝ごはん』を買いに来ていたんだ。ナンシー、いつも朝に買いに来るのはお母さんたちだろ?」

「はい!   みんな忙しそうに来て、ささーっと買って帰っちゃいます!  あ、そっか!」

「そう、みんな時間がないんだよ。でも、適当な朝ごはんだと家族に申し訳ないし、かといってあまり手の込んだものを作る時間もないんだ」

「なるほど!    だからちょっと高くなっても、カットしたフルーツを買ってくれたんですね!」

「そういうことだ。つまり、顧客がその商品を【いつ・どこで・なんのために】使うのかを考え、それに合ったものを用意することが重要なんだ」

「そういうことだったんですね……!   うちの商品は良いものだけど……」

「そう、あと一歩足りなかったんだ。ここまで来れたのは、もちろんこの品質の良さがあってこそ、だがな」

 そう言ってさっき買った売れ残りのリンゴをかじる。うん、うまい。

 ナンシーはキラキラした顔で俺を見つめている。尊敬の眼差しだ。クリクリした瞳が可愛らしい。尊敬ほど気持ちの良いものはないな。

「よし、明日からはカットした果物に楊枝をつけよう。ここいらの家族の平均は6人だから、6個つけておいてくれ」

 はーい、とナンシーは笑顔で返事をする。

「さて、俺は行くところがあるから、先に失礼するよ。おやすみナンシー」

「おやすみなさい!   クラーク様!」

 さて、まだまだここからが正念場だ。俺はそのまま町外れへと向かった。


◇◆◇◆◇◆◇


 次の日も売り上げは順調に伸び、当初の2.5倍まで伸ばすことができた。だが、一つの方法では近いうちに頭打ちが来る。次の手を考えなければ。

 営業中の店に視察に来た。今日とナンシーは愛想よく声かけをしている。相変わらず昼の売り上げは停滞したままだ。旅人はお店を素通りしている。よし、次に手を入れるべき場所は決まった。

 ◇◆◇◆◇◆◇

「ナンシー、今日もお疲れ様。外から見ていたが、こちらまで元気になるような接客だったな。えらいぞ!」

「ありがとうございます!」

 子犬のように喜ぶナンシー。良い子に育ってくれてパパは嬉しいよ。

「売り上げも順調に推移しているが、喜ぶのはまだ早い」

「お昼の売り上げ……ですね」

「そうだ。住民の数よりも旅人の方がはるかに多い。にも関わらず売り上げは10分の1以下だ。これはやはりよろしくない。それとナンシー、ひとつ確認したい。このお店で一番売れない商品はなんだ?」

「売れない商品は、そうですね、このラージアップル・ベンディですかね。味は悪くないんですけど、パサパサしてるからあまり好まれないようですね。あとすっごい大きいので」

 そう言うとナンシーは赤ん坊の頭くらいあるリンゴを店から運んできた。なるほど、これはそのままだと売れないな。

「よし、次の手は決まったぞナンシー」

「なんですかクラーク様!」

 ナンシーはワクワクした様子で尋ねてきた。

「このリンゴを、この店で1番の売れ行き商品にする!!」

「ええええええええ!!」

 良いリアクションだ。よし、さっそくとりかかろう。おそらく朝までかかると思うが、ナンシーのためだ。頑張ろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 次の日、お昼から軒先に大きな看板を立てた。やはり朝の売り上げは依然として好調だ。ここからが本番だ。

『旅のお供に!   1ヶ月先まで食べられる果物  ラージアップル・ベンディはお一人様一つまで!』

「よし、あとはナンシー、声をかけるときは……」

「はい!   保存が効くので冒険のお供に是非!ですね!」

 ジーンとした。この短い期間に成長している。父としてこんなに嬉しいことはない。

「……その通りだ」

「クラーク様、泣いてるんですか?」

「バカ言え……商売人が泣いて良いのは、ヒットを飛ばした時だけだ!」

「ク、クラーク様……」

 ナンシーも目をウルウルさせている。ノリのいい子だ。

「さぁ!   午後も売って売って売りまくるぞ!」

「はい!」

 さて、どうなるか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...